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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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この作品は、エヴァ×アビス基本+seed(キラ・ラクス・クルーゼ・カナード他)、ぼかろ(カイト・ミク・メイコ)設定がクロスする混沌クロス作品です。

・碇レンver

・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
 特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。

本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします



CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)

です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。










「どうしたの?
 ・・気分でも悪いのかしら、フレイル!荷物からマントを取ってくれる?
 先生、もう遅いし調査は明日で構いませんね?野営の準備をお願いします。」



「おい、ユリア・・」
 

「ああ、ありがとう。じゃあ、次は水を汲んできてね。早くお願いね。」


「・・・へーへー行ってきますよ」




 

ユリアの問いに答えられず表情を強張らせた自分を心配したのか慌てたように肩に手を添えて顔をのぞき込まれる。返事を返す間もなくてきぱきと後ろの二人に指示を出すユリア。殺気はないが僅かに疑うような視線でこちらをみるフレイルから庇うようにユリアが次の指示をだすと、仕方無い、というように肩をすくめて水筒を持つフレイルが歩き出す。サザンクロスは淡々と野営用のテントを張る場所を物色している。こんな開けた場所なら、敵の視認も容易だろうがこちらの身を隠す場所もない。寝場所を確保するなら多少なりとも木立なり岩陰なりを見つけるべきだ。幸い焦土から外れた部分--視界が広いから360度見渡せる。--約1km位の大人なら歩いて10分もかからない場所に森の端が見えた。フレイルもそちらを目指して歩いて行ったからちょうど良い。ユリアに一言残すと荷物を担いだサザンクロスは離れていった。


 

「では、あちらにでもテントを張りましょうか。きをつけてくださいねユリア」


「お願いします。」



三人のやり取りをただ見届けてしまったことに気づいて、ユリアの袖をそっと引く。気分が悪いわけではないのだから、自分につき合わせるわけにはいかない。

 


「あ、あの!大丈夫ですから、どうぞお二人と一緒に向かわれた方が・・
 こんな所に女性が一人残るのは危ないですから、」


「何をいってるの!貴方も一緒に行くのよ。
 そんなに青い顔をして、平気なわけないでしょう。
 それに一人が危ないのは貴方もよ。
 大丈夫よ!私はこう見えて強いんだから!貴方の事もちゃんと守るわ!」


「え、いえ、あの、・・・」


「さあ、これを着て。こんなに寒いところでそんな恰好でいるなんて。
 女の子なんだから、きをつけないと!
 もう、もっと早く着せてあげればよかったわ、あの二人も男なんだから・・」


 

何やら最後はよく聞き取れなかったが、彼女が自分を年下の少女として心配してくれていることは理解した。確かに身体が再生されたといっても来ていた物まで元に戻るわけがない。辛うじて裸になるのを免れたのは、碇ユイが特別に誂えた専用の防具を着ていたからだ。自分の認識が追い付いていなくても、幼児ではない女が裸体を晒すのは周囲にも迷惑だろう。申し訳なく思いつつもマントは有り難く拝借した。


 

「ええと、あら、それで貴方の事はなんて呼べばいいかしら?」


 

ユリアは、自分がなにか本名を名乗れない理由があると思ったようだ。
名前、ではなく、呼び名、と言い変えられた質問でそれに気づく。

本名を名乗りもせず、戦場で一人で立ち尽くす子供など怪しいの一言に尽きるだろうに、彼女の態度はただ目の前の子どもを気遣う大人のそれだ。彼女の微笑みを向けられると、自分には誰かの優しさを受け取る資格などないという事を忘れてしまいそうになる。足が竦んでしまいそうになるのを無理やり動かしてついて歩きながら、辛うじて浮かべた笑みでユリアに答える。必死に考えて考えて、やっと思いついた名前を名乗った。



(シンジ、は違う。
 娘なら、レイ、かもしれないけど、それは”彼女”の名前だから、それも違う。

 なら、・・・なら、・・・レ、ン、にしようか、な。


 シンジとレイから、一文字ずつ貰って、レン。 
 それなら、今の自分の名前だって言えるかも。
 そうだ、ね。そうしよう。)


 

「あの、私は、・・私の名前は、レン、です。
 レンと呼んでください。ユリア、さん。」


 

おずおずと名乗る。
まだ馴染まない新しい名前をぎこちなく名乗ると、ユリアが突然しゃがみ込んだ。
驚いてユリアの傍に走り寄る。みれば肩が震えている。何かあったのだろうか。どうしたらいいのか分からずに
そっと背中に触れて呼びかけた。



「あの、ユリア、さん?どうしました?あの・・」



「(~~~~~可愛い可愛い可愛い可愛い!!
 ユリアさん?!・・なんて良い響き!!
 しかも上目づかいに桃色の頬のオプション付き!!
 なんでここにキョウコが居ないのかしら!
 いたらこの気持ちを分かち合えるのに!!)

 
 ・・・・~~~~~ああ、もう我慢できないわ!!
 なにかしらこの可愛い生き物は!!」



「あぇぇぇぇと、あの?!」



顔を覗き込もうとすると再び唐突に起き上がったユリアに力いっぱい抱きしめられた。何やら叫んでいるが意味がわからない。顔は笑っているから気分が悪いわけではないらしい。痛くはないが若い女性に抱きしめられる経験などほぼ皆無の為どうしたらいいのか分からない。そのままの状態で数分が経過する。そろそろ離してくれないかな、と思っているとユリアの後ろから呆れたつぶやきが寄こされた。

 


「遅いと思って心配してれば、まさか年下の女を襲っているとはな・・・」


「あら、フレイル。失礼なこと言わないでちょうだい。
 可愛い生き物を愛でて何が悪いのよ?
 襲うだなんて・・ちょっとしたスキンシップじゃないの。」


「同姓だろうと本人の了承がなけりゃセクハラじゃねぇのかよ?
 ・・そろそろそいつ離してやれば?すげぇ真赤じゃねぇか。」


「えぇ~~~・・もう、わかったわよ。
 うふふ、レンちゃん?後でゆっくりお話しましょうね♪


 あ、それより野営の準備はできたんでしょうね?
 勿論この子も一緒に泊まりますからね。」



「そーいうと思ったよ。」



ユリアが渋々と両手を離す。すると後ろに見えるのはやはりフレイルの呆れた表情だった。二人のテンポの良い会話について行けずに視線を行き来させていると何時の間にやら野営地についていた。ユリアの抱擁で断るタイミングを逃してしまった。今更暇を告げるのもユリアに失礼な気がするが本当に良いのだろうか。あからさまな敵意はないがやはり探る様に見てくるフレイルに視線を送るが一度舌打ちしただけであっさりと踵を返される。

 


「(ええと、・・・良くないよね、やっぱり・・)あの・・ユリアさん、私は・・・」
 

「あら、駄目よ。こんな暗くて寂しいところで別れるなんて!
 大丈夫、貴方のことは私が責任持って護るから安心して!
 明日ちょっと調べることがあるけど、その後どっか安全な所まで送っていくから!
 もし行くところがないなら、私たちと一緒に行けばいいわ!
 あら、なんて良い考えかしら!そうね、そうしましょう!」


「ええ、と、・・・初対面の方にそこまでお世話になるわけには・・
 自分の身は自分で守れますし、・・お忙しそうですし・・・ええと・・」



なんとかやんわりと申し出を辞退する言葉を探すが上手く出てこない。ユリアの純粋な親切を撥ね退けるのは心が痛むが、自分はそんな風に優しくされていい人間ではない。落ちついて思い返せば自分が着ていた防具には国の紋章が刻まれていたはずだ。ならば自分はあの国の兵士だと思われていたんだろう。フレイルの警戒も当然である。軍が引いた戦場で何をするでもなく一人でいる兵士など、逃亡兵か人には言えない所業をしているか、のどちらかくらいだろう。実際には敵国の軍勢ごと焼き殺されたことになっているのだから、もう死亡リストにでも乗っているだろうけど(・・存在がなかった事にされてるかもしれないけど。・・)事情を知らない他人からみれば怪しいの一言に尽きる。自分は今更あの場所に戻る気はないし、ユリア達がもし敵国の人間でも何かをする気もないが、何も話さずそれを察しろというのは無理な相談だ。フレイルが自分を警戒するのが当たり前で、ユリアの態度の方がここの場ではおかしいのだ。・・・なんで疑うことなく優しくしてくれるんだろう?

 

 

「ええと、・・・それに、」


「・・・・レンちゃんは、私と一緒にいるの、嫌・・・?」

 


しどろもどろで言葉をつづけていたら、ユリアが突然ぼそりと呟いた。あちこちに泳がせていた視線を正面に戻してぎょっとする。華奢な肩をしょんぼりと落として、涙目のユリアが上目づかいでこちらを見ていたのだ。

 


「(えええええ!ど、どうしよう。迷惑がってると思われた?!)
 あ!いえ!そうではなく、あの、私はユリアさん達にとって初対面の怪しい人物なわけですし、あまり信用したりするのは如何なものかと思いまして!! もし、私が夜中に突然襲いかかったりしたら取り返しがつきませんでしょう?!フレイルさんやサザンクロスさんも、ユリアさんを心配なさっている筈ですから、正体不明の人間を傍に置くのはおやめになった方がよろしいかと・・・!」

 
 

焦りに焦って言い募る。ユリアの優しさが嬉しかったのは事実だ。迷惑だなんて思っていないし、彼女と一緒にいるのが嫌なわけではない。けれど今現在自分の置かれている立場が確定しない以上、彼女達に自分の存在が害にしかならないのも事実だ。万が一ユイやゲンドウが自分を探しにきたり(ほぼ確実にこれはない。二人はあの時譜術の範囲に自分が居ることを知っていた。ならば普通に死んでいると思っている筈だ。再生能力はばらしていないのだから。)、自分を疎んで処分しにきたり(死んでると思ってるならこれもない。存在を消す為に遺体を確実に処分する可能性もあるが、今現在無事だったなら遺体も消滅したとでも思っているのだろう。ゲンドウがその手の処理にもたついて遅れたとは思わない。)、敵国の兵士が自分を覚えていて襲ってきたり(一番可能性が高いのはこれか。しかし他の二つも可能性だけなら捨てきれない。どの道他人にとって迷惑極まりない存在だという事実は変わらない)したらユリア達も巻き込んでしまう。
そんな厄介事に巻き込む前に離れなければと思ったのだが、言葉が下手なせいでユリアのことを傷つけたのだろうか。こんな時に過去の引きこもり気質を心底恨む。もっと対人関係のスキルを上げておくべきだった。

 



「あのですね、ですから、私は決して嫌とかではなくてですね、・・ええと~

 (・・・それに、私が一番信じられないのは、私自身だ。
  誰かに優しくされるとあっさりと依存して寄りかかってしまいたくなる弱さが、何よりも信用できない。
  だから、優しくされちゃ、だめだ。・・早く離れなければ。)

 ・・ですから、私は此処でお暇を・・・・マント、ありがとうございまし、 ふきゃあああ!!」

 

「ああああああ~~~!!可愛い可愛い可愛い可愛い!!見なさいよフレイル!
 こ~んなに可愛い子が困ってるのよ?!
 放っておいたりしないわよね?!放っておけないわよね?!

 私がこの子を保護しても構わないわね?!てか保護するわ!!
 はい、決定!!反論は受け付けません!!」

 

 


申し訳なさと己の情けなさにだんだんと視線を下げつつユリアへと話す。目の前で涙目になって落ち込む彼女を見ると意思が挫けそうになる。だから、彼女が唐突に抱きついてきた時、不覚にも悲鳴を上げてしまった。ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめられて息が苦しい。満面の笑みで背後のフレイルへと宣言するユリアへ反論する暇もない。フレイルは何故か気不味そうな視線を泳がせてユリアに頷くと、こちらを何とも言えないような視線で見ている。その中に、猜疑と警戒が薄れているのを認めて首をかしげた。(・・・なんで?ユリアさんの勢いに押されてるのかな?ってそうじゃなく!!)

 



「あ、あの!ユリア、さん!私は--- 「レンちゃん!!」 はい!!」

 


必死に声を上げるがユリアに大きく名を呼ばれて背筋を正して返事をしてしまった。
そこで一転、ユリアは優しい笑みと静かな声音で労わる様に言葉を続けた。
まるで傷ついた小さな獣を宥めるような態度で、レンの背中をそうっと撫ぜた。

 


「大丈夫、怖がらないで。・・・私たちは、貴方を傷つけないわ。
 だから、私と一緒に行きましょう?」

 

「っ--!」

 


言葉が出ない。そうだ、自分は怖いのだ。

誰かに優しい言葉を貰うとすぐに縋りついてしまいたくなる弱さも、
そうして縋った相手に捨てられるかもしれないと疑ってしまう弱さも、
その相手が望んだからと善悪の判別も付けずに諾々と従ってさらに罪を重ねた愚かさも。


全てが自業自得だと理解しているのに、相手を恨んでいる自身の醜さも、全てが怖い。
自分を消してしまいたくて堪らない。けれど、”二人”を解放しないうちは死んでしまうわけにはいかない。


・・けれど、もう、他人と関わるのは、怖い。


傷、つきたくない。痛いのは、もう、嫌だ。


怖い。傷つけたく、ない。殺すのは、もう、嫌だ。


戦えない自分に、価値なんかない、のに。


けれど、だから、



 

 

「つーか、そんなちっこい癖に何ができんだよ?
 ガキはガキらしく大人に頼って甘えてればいいんじゃねーの?
 ユリアはしつこいぜ~~?諦めてこいつの抱き枕にでもなってれば?」



「そうですね、大体本当に怪しい人間が、自分は怪しいから疑え、などと自己申告なんかしませんよ。 幼い少女を見捨てたりするのも後味が悪いですし、貴方は私達の自己満足に付き合ったという事で納得してくれませんかね?」
 

 

落ちかけた思考の闇を切り裂いたのは、一番自分を警戒している筈のフレイルと野営の準備で離れていたはずのサザンクロスだった。呆れた口調で敵意なく告げられたフレイルの言葉も、穏やかに笑いながら告げられたサザンクロスの言葉も、どちらもユリアの言葉と同じくらい優しくて、どうしようもなく泣きたくなった。
 

二人とも、自分が国の兵士として戦場に出ていた事に気づいている。サザンクロスに至っては、音なく唇の動きだけで言葉の最後にあの通り名を告げた。レンが、自国の兵士にすら畏怖された人間だと知っているのだ。それでもその笑みは崩れず、ユリアを引き離そうともしない。幼い少女、と称したレンを、本当にその通りに扱っている。本気で、レンがユリアに危害を加えることは無いと信じているようだ。

 



「どうして、・・・」


「あら、目の前にいる泣きそうな女の子を労わるのに、理由なんか必要かしら。
 優しくしたいと思ってはいけないかしら。
 ・・・誰かに優しくされるのに、理由や資格なんか、必要かしら?」


「だって、私は!」


「貴方が、どこの誰でも。例え人殺しでも、敵国の兵士でも、犯罪者として追われていても。


 私が、貴方に、優しくしたいと思ったの。


 大体、ちょっと私が泣いたふりをしただけで慌てて自分も泣きそうになったり、寂れた場所に女性が一人残ったりするのは危ないと心配したりするような子が、 悪い人間なわけないでしょう!今まで何があったかなんてわからないけど、理由もなく貴方が他人を傷つけたりするわけないって事位すぐにわかるわよ!
 

 ・・・ね?だから、私と一緒に行きましょう? 私は、貴方を、絶対に傷つけないわ。」

 
 


その、言葉に、思わずユリアの手を取った。・・とってしまった。
また優しい言葉に縋るのかと自嘲しながら、それでも彼女の掌を撥ね退けることはできなかった。

 

 


 

 

 

 

 


それを、後悔したことなんか、一度もない。
 

彼女と一緒に行くと決めたことを悔やんだことは一度もなかった。
ほんの数年だったけど、彼女の傍に在れた事は自分にとって何よりも幸せだったと断言できた。


 


だから、この選択も、未来永劫後悔することはないと断言できる。これから先どれ程永い時間を過ごしても、もしも過去を何回繰り返したとしても、彼女の助けになるのならこの選択を選ぶのだとはっきり言える。

 

 

(だから、ねぇ、笑ってほしいな。
 ユリアが笑って未来を生きてくれるなら、私にできることは何でもするから。
 

 だから、どうか幸せになって。


 それが私の望みだから、・・・だから、笑って。)

 

 

 

 

 

(・・・・けど、そうだね。本当はずっと一緒にいたかったよ。
 いつか貴方が寿命を終えてしまうまで、その傍にいたかった。)
  

 

 


ふぅっと意識が浮かび上がる。

とても懐かしい夢を見た。優しい人と一緒に過ごした幸せな時間の夢を。


ぼんやりと視線を泳がせると薄暗い闇の中でキラキラと輝いて流れる粒子状の光が視界を埋めた。複雑な譜業と譜術を込めた譜陣が幾重にも取り囲む場所で目を覚ます。意識が覚めても動かせない身体で、唯一自由な視線を彷徨わせて周りを見渡した。相変わらず瘴気に覆われて薄暗い空の色に、微かな落胆と自然な諦観を同時に浮かべる。
 

大切な人の望みを叶える手伝いがしたくてこの役目を引き受けた。いつ解放されるかも分からないということも、意識だけしか動けないということも分かった上でここにいる。けれど後悔はなかった。あの時、彼女の願いを叶える為には、これが最も確実な方法なのだと理解していた。



自分を優しく慈しんでくれた人。彼女の助けになりたかった。
あたたかい優しさをくれた彼女に笑っていてほしかった。
彼女に幸せに生きていってほしかった。


だから、この役目を引き受けた。彼女を助けられると知って本当に嬉しかったのだ。


・・あんな風に、泣きそうな顔をさせるつもりじゃなかったのに。

 

 


懐かしい記憶を反芻して、同時に浮かんだ彼女の泣き顔に心が痛んだ。

その時、カチリ、と小さな音が鳴った。何かが意識の端に引っ掛かる。

なんだろうと思って思考を向けると、それは自分を大地に繋ぎとめる譜業から漏れ聞こえる音のようだった。
未完成で起動されてしまった外郭大地を保護する為に、吸い上げられる己の力を均等に分散させる為の中継地点の一つ。確か外郭大地の要所要所に刻まれた譜陣と譜業で保護のためのバリアを作り出す、そのエネルギー源に使われているのだったか。外郭大地の要になるのはパッセージリングとセフィロトだが、そこから網の目状に張り巡らされた仕掛けが大地を護ると言っていた。その中で確かイスパニア方面に造られたリングに通じるもの。いやキムラスカ帝国の辺りだったか?今もその国が残っているかは分からないが多分大陸の南側・・東寄りかな?その辺りの譜業から聞こえた気がする。点在する装置は何かに擬態させると聞いたから何も知らない後世の一般人がたまたま近くに集落でも作ったのだろうか。まさか遺跡か何かと勘違いされて発掘されるなどという事はないだろうな、と不安になる。聞こえたのは人の声のようだが。今まで目が覚めていた時間がそれほど長くはないから断言できないが、こんな事は知る限り無かった筈。まさか何か不調でもあるのかと不安になって、ローレライの存在を探そうとする。



そこで突然、意識が引き寄せられた。
まるで激流にのまれるように激しい勢いで引きずられる。地殻に残る身体から、意識だけが遠く離されて行く。せめてもの気晴らしにと、ローレライの助力で意識体を外に遊ばせた事はある。流動する第七音素の流れに意識体を乗せて世界を少しだけ眺めるだけだが、身体から精神だけを遠く離すのは初めてではない。だけど、これはその時とは全く違う感じがした。


視界を流れる景色が変わり続ける。地殻を流れる記憶粒子の光が遠ざかり、本来の大地が遠ざかり、瘴気に覆われた閉じた世界が遠ざかり、外郭大地と呼ばれる人工の地表が近づくまでに数秒もかからなかった。同時に引き離された身体の感覚までが薄く遠くなっていくのを知覚して殆ど恐慌状態に陥る。慌ててローレライを呼ぶが届かない。どうしてこんな事になったのか分からず動揺したまま引きずりだされたのは、やはり自分が繋がれていた譜業の一つのようだった。譜業の中心部に据えられた譜石と周りを半円形に覆う厚いガラスの筒の中に閉じ込められたところで、やっと移動が止まった。焦燥と疑問を抱えてあたりの様子を窺うと、硝子の筒の開いた部分から人影が見える。室内の様子はどこかの研究室のようで、もしやリングの調整の為に自分に確認が必要な事でもあったのかと考えるしかし漏れ聞こえる会話でそれは違うと気づいた。



人影をみて一瞬感じた安堵が、周囲深く聞き取った二人の会話に疑問に変わり、続けられた片方の言葉に怒りに転じる。



詳しい背景は知らないが、二人のうち青年の方の主張はまるで八あたりにしか聞こえない。どうやら激昂している青年が、この譜業に背をつけて硬直している少年の父親の研究実験に利用されて酷い目にあったらしいことは分かった。だが、どんな目にあったにしろ、それをしたのは少年ではない。しかも研究に利用されたのは少年も同じらしい。少年の場合は施された実験が成功して結果的に無事生存できたらしいが、それは少年の所為ではないだろう。確かに青年が加害者である少年の父を憎むのは、普通の感情だろうと思う。最も近しい血縁である少年も憎悪の対象になるのも、共感はしたくないが理解はできる。勝手だとは思うが、人間の感情はそんなものだ。
 

だが、何故、少年が罰を受けるべきだという結論に達するのかが分からない。
父親の罪は父親の罪だろう。少年自身も己の意思で研究に携わったというなら兎も角、ただ被験者として利用されただけである。近親者として共に責任を負うべきだという考えなのかもしれないが、だから青年の復讐を甘んじて受け入れろというのは余りにも理不尽過ぎる。しかも少年の生を否定するもう一つの根拠を聞いた時、怒りは頂点に達した。
 

今ここがどこで、自分の状態がどうなのかなんて思考は全て吹き飛んだ。
ただ、目の前の少年を助けなければと言うことだけに意識が支配された。


瞬間傍らに鎮座する譜石が反応し、譜業のプログラムが起動する。無音に近いため互いにしか意識がいってない二人は気付かない。身体から遥か遠く無理やり引き離されて、希薄になっていた感覚が唐突に戻り始める。怒りに突き動かされたレンは、それを単純に好機ととって、青年が放とうとした譜術を咄嗟に防いだ。少年を守ろうとすることに必死で、感覚が戻り身体が再構成される傍ら、少しずつ不鮮明になっていく部分があることには気付けない。ただ自由に動かない己に苛立ちながら少年を抱きしめる腕に力を込めて、青年を威嚇する。


激昂して青年に叩きつけた言葉が、硬直していた少年を刺激したらしい。今まで酷く虚ろな瞳で死を受け入れようとしていた少年が、突然力を取り戻し目の前の青年を返り討ちにする。少年を庇おうとした自分を後ろ手に制する彼に、先ほどまでの迷いはもう見られない。倒れ伏した青年への苦々しい思いと怒りは消えないが、とりあえず危機的状況は脱したことに安堵する。
 

そこで同じように脱力した少年が振り向いてこちらを見た。少年の菫色の瞳に映った己の姿を認識して、今更この状況への焦燥が蘇る。吹っ切れたように力強く笑って礼を言ってくる少年へと返事を返しながら、不安定な視線でうろうろと辺りを見渡すが現状は変わらない。笑顔が心配と疑問に変わった少年のことを気にかける余裕もなかった。とにかく意識を身体に戻さなければと、譜業の中に戻ってみる。

地殻の奥に埋められたリングの最奥部分からここまで引きずられてきたのだから、そのまま逆行すれば戻れるはずだ。なぜか身体が再構成されているが、これは譜石を作る技術から発展させた音素による物体構築の理論を流用した仮の肉体だろうと辺りをつける。たしか”XXX”が一番得意な分野の技術で-----

 
 

「(え、・・・・)」

 


そこまで考えて思考が停止する。
何とか元に戻ろうとして動かしていた手元も凍りついたように動かない。突然不可解な動きを始めた自分を心配そうにみて声を掛けていた少年の存在すら消えた。・・・・・自分は、誰を呼ぼうとしたのだろう?

 
 

「(綾波、カヲル君、”XXX”、”XXXXX”、・・・なんで、)」

 


「(・・・・”XXX””XXXXX””XXXX””XxXXX”?!うそでしょう?!
  ・・”XXXXXX”!”XXXXX”!”XxXX”!”XXX”!”XX”!!”XXX”!!!?・・・どうして?!)」

 


思い出せない。思い出せない。思い出せない!!


大切な人だったはずだ。
絶対に忘れたくない、忘れられる筈がない大事な。


消える筈だった自分を守ってくれた大切な二人の友人と、
絶望したまま新しい世界で生きることになった自分を救い上げてくれた大切な人たちと。


どちらもかけがえのない、大切な友人だったはずだ。


綾波とカヲル君のことはきちんとわかる。
自分を護ってこの魂の一部に溶け込んでしまった二人のことは覚えている。

・・・そして、二人がもう自分の中から解放されたことも、覚えている。
彼らをいつまでも自分に縛り付けるわけにはいかないからと、”XXX”と”XXXXX"の助力を得て無事にこの世界に転生させたのだ。そこまではっきり理解できるのに、その助けをしてくれた人たちの名前も顔も思い出せない。
 

彼らとの出会いも触れ合った記憶も、交わしあった感情も、何もかもが思い出せない!

 
 

ぼんやりした印象は覚えている。いつ頃出会ったのかもなんとなく覚えている。
だが、彼ら一人一人を思い出そうとすると、途端に記憶が不鮮明になる。
顔も、名前も、はっきりと思い出せない。


彼らがいたから、今の自分が生きているのだと知っているのに。
あの時、彼らに会えたから、生きたいと思う自分を受け入れられたのに。


・・・なのに、なんで分からない?!



「(うそだうそだうそだ。・・そうだ、身体に戻れば、・・・なんで戻らないの?!
  なんで、どうして?!”XXX”! ”XXXXX”??!早く元に戻らなきゃ!!)」

 



焦燥が恐怖に変わり、強張った表情がほとんど泣き顔になる。焦って動かし続けた手が震える。幾ら操作を続けても譜業が起動することはない。形作った肉体が再び音素に溶けることもなく、身体に宿った精神が本体に戻る方法も分からない。唇がわななく。視界がぼやけて座り込んだ膝を濡らした。


・・やっぱり動かない。

どうしようもなくなって動きを止めた。ばたばたとみっともなく涙を落して肩を震わせる。



そこで突然今まで存在を忘れていた少年に抱きしめられた。どう頑張っても元に戻れない事に絶望的な恐怖を感じて、途方に暮れていたため抵抗しようという考えを浮かべる余裕もなかった。少年が優しい仕草で自分の体を譜業の外に下ろすのを感じても再び作業を再開する気力もない。これからどうしたいいのだろうと考えて立ち尽くすレンを、傍らの少年が抱きしめ直す。硬直して身動き一つできない自分に何か感じたのだろうか。強く抱きしめたまま優しく背中を撫でられた。そのぬくもりに、思い出せなくなってしまった大切な人たちの記憶が重なって、更に涙が溢れた。
 


「(どうしよう・・・どうしたらいい?私は、・・・・”XXX”----)」

 

 

 

 


 

 

+++

 

 

 
 


ぼんやりとしていた少女の輪郭が鮮明になるに従って不安定になる彼女の様子に、とうとう少年が行動を起こした。登場の仕方や少女の振るった力が不可解だったこともあり、安堵と感謝の他に僅かな警戒を抱いていたが、彼女の混乱と落胆がそれら全てを吹き飛ばす。少年--キラはとにかく彼女を落ちつかせようとして強く身体を引き寄せる。全身を震わせて必死に譜業を弄る姿も、唇を噛みしめて大粒の涙をこぼす姿も、少女の幼さだけを露呈してキラの庇護欲を刺激した。多少の問題なら片付ける自信も実力もある。キラ自身衝撃の事実を知ったばかりで動揺していたが、それよりも目の前の少女を守らなければ、という思いが凌駕して研究に夢中になっている時以上に冷静に思考が働く。
 

どんな事情があるにせよいつまでもこんな廃墟にいるわけには行かない。
それに曲がりなりにも自分はキムラスカ公爵家の嫡男で、手伝い程度だが軍務にも関わる身である。
不測の事態であるとはいえ、いつまでも帰らずにいていいわけがない。
今回の事で判明した事実が今後の自分にどう影響するかは分からないし、
今後の身の振り方もよく考えなければならない。
何はともあれ先ずは帰ってから相談なり調査なりして考えなければ。
同時に目の前で泣いている少女を放置もできない。


彼女は現れた時の状況といい青年の攻撃を防いだ時の術といい、何が厄介な事情を抱えている可能性はある。オールドラントで絶対と掲げられる預言をあっさり否定してみせた事も合わせると、彼女には関わらないでおくのが自分にとって一番安全だともわかっていた。


けれど、キラは既にこの少女を見捨てる気にはなれなくなっていたし、彼女を手放しがたく思い始めていた。彼女がいなければ、彼女の言葉がなかったら、今ここに立っている自分は存在しなかった。存在を丸ごと否定されて絶望しかけた自分を救い上げてくれたこの少女を、手放そうという考えなど微塵もなかった。


彼女が何やら酷く困っているのは一目瞭然だ。そして自分は彼女に傍にいてほしい。
だったら、自分が今度は彼女を助ければいいのだと思考を完結させて手を伸ばす。
 

一瞬抵抗するかと思った少女は予想に反してあっさりと腕の中に収まった。
連れ帰るのは確定事項とは言え、とりあえず簡単な事情位は聞いて置くべきかと少女の瞳を覗き込んだキラは言葉に詰まる。キラを守ろうとした時の苛烈な光など欠片も見えない。虚ろな瞳に涙を浮かばせて恐怖に震える小さな少女は、酷く頼りなくてまるで帰る家をなくした小さな子どものようだった。思わず強く抱きこんだキラに身体を強張らせた少女は、優しく背中を撫でるぬくもりに気づくと恐る恐る力を抜いた。そして声もなく泣きながら、キラの服を握りしめる。その痛々しい泣き方に、抱きしめるキラの心も締め付けられた。


泣いていた少女がいつの間に疲れて眠ってしまっても、少女の夢を護るように優しく抱きしめて撫で続ける。しばらくそのまま座り込み、薄暗かった周囲が完全な闇に沈んだ頃ようやっとキラ動いた。未だ深い眠りについたままの少女を静かに抱きあげて、しっかりした足取りで出口に向かう。外に出る際、一瞬だけ倒れたままの青年に視線を走らせるが何の感情も浮かべない硬い表情で夜空の下に進み出た。
 

星が瞬く。月の光が薄い、静かな夜だった。



二千年ぶりに空の下で呼吸した少女は、未だ深い眠りの中で、一時の安らぎを享受していた。

 

 



まだこの時は、世界中の誰ひとり少し先の未来で全ての人々が迫られる選択の存在すら知らなかった。


それでも、それぞれの場所で、幾つかの出会いと別れと決意がなされて、少しずつ歯車は動き始めた。



始まりは、そんな日だった。



分岐する未来の、始めの一歩は、そんな静かで穏やかな夜だったのだ。

 


それが、始まり。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとおまけ。

 

 


「とりあえず、この子の戸籍は・・・・僕の妹ってことで良いかな。うん。
 ヒビキ博士の遺品を整理してて存在が知れた実妹ってことにしとこっと。」

 

吹っ切れたキラは、何処までも呑気な口調でつぶやく。
こちらも何処までも平穏に始まった。・・少なくともキラにとっては。

まだ眠っていたレンは知る由もないうちに、新しい関係の出来上がりである。

 

「この子が起きたらびっくりするかな~♪」

 

開き直ったキラに敵うものなど、当時のキムラスカには存在しなかった。
後に親友となる青年曰くの史上最強のシスコン誕生の瞬間であった。

 

合掌

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 




 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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