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・碇レンver
・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。
・本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします
CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)
です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。
長閑だ。
ぽかぽかと暖かい陽光。微かな風に揺れる稲穂。
遠くから届く家畜の鳴き声。賑わう声は小さな商店街のものか。
「いい、天気だなあ」
「いい、天気ですねぇ」
気持ちよく背伸びしながらルークがぼんやりと呟けば、傍らからやはりぼんやりとレンが答える。レンの言葉がまたもや敬語に戻っているが、とりあえず人前で平伏したりなければ許容範囲と思うことにする。元々丁寧な物言いをするレンに無理に粗雑に喋れというのが無茶だ。一般人に扮するなら丁寧すぎるがそこはそれ。お忍び中のお嬢様とでも勝手に推測されるだろう。まさか王族や公爵令嬢だと考える者まではいないだろうから構わない。
「なあ、今日はこの村に泊まるんだよな?宿は---」
「ちょっと!!勝手に行動しないで!!」
ほのぼのとした村の雰囲気に癒されながら歩いていたルークが、レンに顔を向けた途端罵声が飛んできた。不本意な旅の連れ、ティアだ。
「貴方達!いい加減にして頂戴!
勝手に出歩くなと何回言わせれば気が済むの!」
「うっせーなぁ。俺達は元々一緒に行動する必要もなければする気もねぇよ。
お前が勝手に着いてきてるだけだろーが。ほっとけよ」
タタル渓谷からこの村に着くまでに繰り返されたやり取りも既に二桁を超えている。ルークの声に熱はない。既に無駄だと諦めているがとりあえず言ってみた感がありありだ。だがティアの方は全く勢いが殺がれていない。寧ろどんどんテンションがあがって、そろそろ頭から湯気でも出しそうだ。
「貴方達みたいな世間知らずが二人で何が出来るって言うの!
我侭ばかり言わないで!私には貴方達を送り届ける義務があるのよ!」
「でも、ティアさんだって二人も面倒見るのは大変でしょう?
私たちも子供ではないですし、家に帰るくらいできますよ?」
そっとレンも口を挟む。レンにとって、こういうタイプとの会話は慣れている。”過去”の世界では家族として暮らしていた二人の女性ににているなあ、と思ってしまえば怒りも沸かない。こういう人は、こういう言い方しか出来ないのだと思って聞き流すだけだ。決定的に違うのはこの世界の法制度を理解していなかったティアの自覚のなさだが、そこはもう諦める。帰国したらキラ兄さんやシュザンヌ様と相談してから決めれば良いかと思って一時放置だ。
「(ミサトさんやアスカが怒ってるときと同じようなものだよね。
とりあえず刺激せずに大人しくしてればそのうち自然に落ち着くでしょ。)
無理なさらずに、私達のことは気にしなくても良いですよ?」
そっと笑う。アスカには弱弱しいと言われ、ミサトさんには頼りないと苦笑された控えめな笑み。しかし、ティアには少し効き目があったらしい。やはり、女になったから表情も多少違うのだろうか。微かに赤い頬に疑問を感じたが、まだ怒りが冷めていないのだろうと納得する。・・・可愛いもの好きなティアが、レンの幼げな笑みに絆されているのだとは思わない。
「・・・(この子は年上年上年上。一つでも年上よ!)
乱暴に怒鳴ったのは謝るわ。けど、貴方達だけじゃ危ないでしょう?
きちんと送っていくから、うろうろするのはやめて頂戴」
自己紹介で、16歳のティアよりも、17歳のレンの方が年上だと知った瞬間の衝撃から未だに立ち直っていないティアである。確かにレンはヒールを履かないならティアよりも2・3cm背が高い様だったが、全体的に華奢で、何よりも表情の一つ一つが幼いので勝手に年下だと思っていたのだ。年上だと知っている今でも気を抜くとうっかり子供扱いしたくなる。流石にそれは、と思って気を取り直す。
(いくら小さな子供みたいで可愛いと思っても我慢よ、ティア!)
「・・・(こいつ・・・どうせまたレンの表情が子供みたいで可愛いとか思ってんだろ。
よくあきねーなぁ。いや、レンは確かにちょっと幼い外見だけどよ。可愛いのも事実だが。)
わーったよ。まずは宿をとるか。その後散歩に出るくらいはかまわねぇな?」
「それならいいわ。宿はあっちにあったから・・」
ティアを落ち着かせたレンの笑顔に感嘆の視線を、何やら悶絶しているティアには呆れた視線を向けてから提案してみる。どうあっても離れないなら、ある程度で折り合いをつけなければ延々と続いてしまう。
内心の呟きが、キラに劣らずの兄馬鹿発言であることには気づいていないルーク。
カイトが加われば兄馬鹿トリオの完成だとダアトに潜伏中の悪友が日々零している事実は知らない。
そのルークの乱暴な言い方に我に返ったティアが眉を寄せつつ承諾する。
三人は連れ立って宿に向かって歩き始めた。
(つーかそろそろカイトがこっちに向かい始めてても良いんじゃねぇかな。
・・・キラとどっちが先に迎えに来るか賭けるか。)
「・・・ルーク様?」
「何どうしたのさ」
ルークに頼まれたお使いを遂行中のカイトが、ふと顔を上げた。向かい合っていた少年が怪訝な表情でカイトに聞く。真面目な青年が話しの途中で視線をそらすなど珍しいため心配も含まれている。
「あ、いえ、失礼しました。気のせいだと思います。」
「そ?・・まあ良いや。で、こっちの書類がご所望のユリアシティの状況。こっちはモースの裏帳簿最新版。で、こっちが・・・」
積み上げられる書類。ダアトでスパイをしている目の前の少年が日々集めたダアトの裏情報の山である。
「相変わらずすごいですねぇ。
でも余り無理しないでくださいね。ルーク様やキラ様やレン様が心配します。」
「はっルークやキラがしてるのは僕の心配じゃなくて、失敗した後の尻拭いだろ?」
憎まれ口を叩くが頬が赤い。本心からルークたちがそんなことを思うと考えているのではなく、単に照れくさくて言ってみただけなのが丸わかりだ。カイトの視線が微笑ましげに細められて、少年もそれを悟る。悔しげに舌打ちして会話を戻す。
「大体僕がそんなへまをするとでも?
そういう心配はもう一人のほうに必要なんじゃないの。」
「ああ、あの人は腹芸が苦手ですもんねぇ。
でもあれで僕らの中では最年長者の一人ですから、大丈夫じゃないかなあ。
亀の甲より年の功、ってやつでしょう。」
「ああ、まあね。意外と本心が読めないのは確かだよ。・・・シュザンヌ様に張れるかも」
「実は凄いですよね、あの人。キラ様だってシュザンヌ様の迫力に負けることがあるのに」
「いや、キラはキラで無敵じゃない?・・・唯一の弱点を除けば。」
「弱点ですねぇ。」
「(アンタやルークもだけどね。)・・・その弱点が、ある意味一番最強でよかったね」
「そのとおりですね。彼女に勝てる人間は余りいませんから。自覚はしてないでしょうけど」
「まあ、ね」
・・・
「・・・?何か騒がしくないですか?
「そうだね、ちょっと見てくる。アンタは誰にも見つからないでよ。」
「ええ、お願いします。」
・・・
「ちょっと!導師が行方不明だって!!」
「は?!なんでそんなことに?」
「いや僕もあの導師を誘拐できる強者が存在するとは・・・とりあえず様子見てから帰る?」
「そうですね、ルーク様もそれをお望みだと思います。」
・・・
「・・・!!ルークとレンが誘拐された!!」
「な?!ど、ど、どう、どういうことですか?!」
「詳しくは知らないよ!!
けど、ファブレに襲撃かけたアホと接触したときに起きた擬似超振動で行方が知れないって、」
「襲撃?!一体誰が何のために・・・」
「その襲撃犯なんだけど・・・ヴァンの妹らしい。」
「グランツ謡将の?!まさ兄妹喧嘩ってわけじゃ、」
「そのまさかだよ!
どうやら兄の企み気づいた妹が無謀な行動に出たらしいけど・・・」
「キムラスカは?」
「相変わらずさ!王や大臣がダアトを刺激できるわけがない。
ヴァンを捕らえてしまいましたが穏便に済ますつもりですって知らせをよこした。
・・・・キラやシュザンヌ様が激怒してる様子が目に浮かぶよ!!」
「・・・・一応表向きは冷静に対処なさっていると思いますけど・・
・・影で何を始めてるか・・!!」
「んなことより!!アンタ早く二人を迎えにいきなよ!
その資料は途中で合流するキラに渡せばいいでしょ」
「そう、ですね。多分もう捜索隊を指揮してバチカルを出てるはずですから、」
「超振動の収束地点はマルクトのタタル渓谷だよ!!
アイツに観測させたから間違いない!!」
「ありがとうがざいます!!」
・・・・
「・・・あれは気のせいじゃなかったのか!マスター、今行きますからね!!」
「・・・・?なあ、あそこが宿で良いんだよな?」
「そうね、看板があるから間違いないわ。随分人が多いようだけど。」
「何かあったんでしょうか?」
宿の前に人だかりが出来ている。入り口前に陣取って何やら物騒な雰囲気だ。なるべく帰国までのあいだを穏便にすごしたいルークとしては関わりたくない空気だった。ティアもあえて首を突っ込もうとは思わなかったらしいことに安堵して踵を返す。
「しかたねぇな。あれを掻き分けて宿に入るのも面倒だ。ちょっと時間を置くか」
「そうしましょうか。貴方達はどうするの?」
「お散歩してきてもいいですか?
初めて来た場所だから、少し見て回りたいんだけど・・」
ルークの言葉に肩を竦めながら同意するティア。どうしてもルークの乱暴な口調が気に入らないらしく、わざとレンの方に視線を合わせている。ルークもティアと目を合わせたいと思っていないので好きにさせる。レンは、ぎすぎすした二人に少し気まずげに返した。その言葉には快く同意する二人。だが一緒に過ごしたい相手ではないので、互いに譲歩案を出す。
「ならレンは俺と散歩するか。さっきは途中で切り上げたからな」
「・・・(ルークと過ごすくらいなら)なら、私は少し買い物してくるわ。
この先必要な装備も補充しなければならないし」
「日が落ちきる前に此処に集合で良いですか?」
「わかったわ、それじゃ」
返事をしてさっさと去ってゆくティア。その後ろを眺めながらルークが呟いた。
「・・レン。お前凄いよ。よくあの女相手に穏やかに話せんな。
俺には無理だ。此処が公式の場ならともかく。」
「いえ、なんというか思ったことをそのまま口に出しちゃうタイプの女の人には慣れてるんです。
ちょっと感情的になると理不尽なことを言っちゃうみたいですけど、根は悪くないんですよ。」
「つってもあいつ、犯罪者だぜ?」
「そうなんですよねぇ。・・・そこがちょっとどうかと思うんですけど・
・・対等な立場で平和な状況なら問題ないんですけどねぇ。」
「だよなぁ。・・・まあ今更だな。
それより散歩に行くか。折角だからエンゲーブの農業を視察しようぜ。」
「そうですね。あ、先日開発を始めた栽培促進用の譜業なんですけど、」
「ああ、ベルケンドから研究者を斡旋したやつか」
「はい。あの研究の試作品が完成しまして、いま試験期間中なんです。」
「へえ、流石だな。じゃあもうすぐか」
「そうですね。あれが完成すれば国内の食料の自給率が少なくとも三割は上げられます。全土に広める時間が必要なのでとりあえずですが。」
「全国配備が完了したら六割は確実だろ。」
「どうしてもキムラスカでは栽培できない種類もあるので、まずはその位で妥協するべきかと」
「さいしょから欲張って頓挫したら目も当てられないし、良いと思うぜ?」
「ありがとう御座います。後日報告書は提出しますね。」
「ああ、待ってる。」
ゆっくり歩きながら共通の話題を繋ぐ。キラの領地で開発している農作物栽培促進用の譜業は、食糧の自給が困難なキムラスカにとっては重要な一大事業だ。合わせて痩せた土地そのものを豊かに生まれ変わらせるための研究も行っている。預言どおりに政を行うことこそ最も正しいと信じきっている国王と側近以外の、真っ当な貴族達からも高く評価されている政策だ。それが、キラとルークの連名で作られたもので実際に研究者を取り仕切っているのがレンであることも一部以外には広く知られた事実であった。
「・・・・で、そろそろ人影もなくなってきたことだし、話を聞こうか」
遠くではあるがまばらに見えていた村人から見えにくい木陰に立ち止まるルーク。今までは堂々とはできずとも、万が一聞かれても誤魔化せる程度の内容だったが、此処からは完全に内密の話になる。声を潜めてレンを見据える。向かい合うレンの表情も改まったものになる。
「はい、実はあの日ご報告申し上げるつもりだったのですが、
・・・マルクトから和平の使者がキムラスカに向かっています。」
「和平だと?この時期にか。」
「はい、その事についての問題はとりあえず置きまして、兄と相談したのですが」
「聞こう」
「・・・・和平の条件にはどうやらアクゼリュスの救援が盛り込まれているようなのです。」
「鉱山の町・・・都合が良いな、キムラスカにとっては。」
「はい。陛下たちは和平を受けるでしょう。」
「まあな。・・・どーしようもねぇ」
空を睨むルークから忌々しげな舌打ちが漏れる。
再びレンを見つめる視線は真面目でありながら優しい瞳に戻っていたが。
「・・・で?キラはどうすると?」
「計画を変更してしまわないか、と」
「どのように」
「和平の使者殿のお人柄に寄りますが、・・・マルクトとの共闘。」
レンの言葉に真剣に考え込むルーク。あらゆる可能性を試算する。
「・・・・・成功すれば、計画は最終段階まで一気に片付くな。」
「はい」
「二人の案か」
「・・・はい、情報を受けてから兄と共に愚考いたしました。」
「いいだろう」
「では、」
「俺も乗るよ、その計画に。」
「はい!」
柔らかく笑んで口調を戻すルークに、嬉しげに笑うレン。
明るい未来は近いと、二人で明るく笑いあった。
・・・・・なのに、
「ローズさん!食料泥棒を捕まえたぜ!」
「こいつが最近の盗難の犯人に違いねぇぜ!!」
「違うって言ってるでしょう?!私はちゃんとお金を払ったわ!!」
「うるせぇ!!俺達の話を立ち聞きしてたじゃねぇか!情報を得るつもりだったんだろ!!」
「宿に入れなくて困ってただけよ!!」
(ルーク様、あの、)
(・・・なあ、レン。・・・俺ら、呪われんじゃねぇか?)
(はは、は)
「なんだい騒がしいねぇ、今マルクトのお偉いさんが来てるんだよ!静かにおし!」
「でもよ、ローズさん」
「そうですね、落ち着いてください皆さん」
収集がつかない村人を、その一言が抑えた。部屋の奥で村の顔役であるローズ婦人に歓待されていたマルクトの軍人だ。明るめの金茶の髪と赤い瞳の男。階級章は大佐だ。何を考えているかわからない薄笑いで村人を宥めにかかる。
「・・失礼、私はマルクト国軍第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です。
あなた方のお名前は?」
胡散臭い笑みで此方を観察するジェイド・カーティス大佐。キムラスカ・マルクト両国で死霊使いと呼ばれ恐れられるマルクトの精鋭だ。槍術と譜術に優れ、一人で一個大隊を壊滅させたこともあるという。マルクト皇帝ピオニー・ウパラ・マルクト9世陛下の幼馴染で身分の差を越えた友情を築いているとか。皇帝の私的な問題を処理する懐刀といわれているとか。とにかく様々な評価を受けている人間である。・・・そして、レプリカを生み出すフォミクリー技術の開発者。その事実を過去の汚点としてレプリカを人間の禁忌であると公言する男。
(よりによって、こいつかよ。)
ルークにとってはこの世で最も関わりたくない人間の一人である。直接相対したこともないのだから先入観から来る理不尽な嫌悪といわれても仕方がないが、レプリカを禁忌であるとか、過去の汚点であるとか公言する男と仲良くしようなどと思うわけがない。
それはレンも同じだ。考えが個人の自由である以上ジェイドにどうこうしろと言うつもりはないが、自分達にも関わってくるなと思う。
((なのに、ここで顔を合わせるかぁ・・・・))
しかし、そんな嫌悪感など微塵も見せずにジェイドに向き合うルークとレン。この程度の演技も出来ずに王宮で生き残れるわけがない。にこやかに自己紹介をする。
「失礼、私の名はレイン。こちらはルース。あちらの女性はティアです。
なにやら誤解されていらっしゃるようですが、私達は泥棒などしていません。」
「ああ、勿論だ。なにせ今日の午前中についた辻馬車でこの村に入ったばかりで、以前から続くという盗難事件に関われるわけがない。」
「当然です!私達は泥棒なんかしてないわ」
やんわりと、だが有無を言わせずに村人達の拘束からティアを解放する。その時、レンの口からでた偽名についてティアに耳打ちすることも忘れない。
折角素性を隠すために変装までしているのに本名を名乗るわけがないのだ。今まで被っていたフードを払ったレンとルークの染められた髪の色と聞こえた名前に、咄嗟に声を上げかけたティアが口元を押さえている。マルクトでルークとレンが名乗る危険性は承知していたらしい。こういうところは敏いのにな、と落としかけた溜息は飲み込んで、レンの言葉の補足をする。
そもそも余所者だから泥棒だろうなどと、とんだ言いがかりである。この村はマルクトが誇る食料の生産地で、此処からキムラスカ、ダアトを含む世界中に作物を輸出して生計を保っているはずだ。つまり買い付けにくる人間こそがこの村の生命線の筈である。にも関わらず、その客人かも知れない外の人間を問答無用で拘束してつるし上げるなどどういうつもりか。
それを遠まわしに告げるルークの言葉が進むにつれ顔色を失くして行く村人達。
自分達が感情的に行った事がどれ程の問題か理解し始めたらしい。
気まずい沈黙が訪れる。
「・・・・成る程、ならば貴方達は泥棒ではないでしょうね。
その辻馬車ならば私も見ました。」
(あの時の声か、そういえば)
(馬車一台を戦艦で追い回してたのがこいつか)
「誤解が解けて何よりですね。では、失礼しても宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。」
「ほら!あんた達!この人たちに謝りな!」
「「す、すまねぇ!!」」
「「悪かった!!」」
声をそろえて頭を下げる村人には呆れた溜息しか出ないが、面倒なので謝罪を受け取る。これが自分の領地の問題なら徹底的に粛清しなければ将来的な問題にも発展しかねないなあ、と思ったレンとルーク。傍らでたたずむだけのジェイドの能力を疑い始める。
(・・・良いのかよ。マルクトの輸出商品の要じゃねぇのかこの村の作物は)
(ここで軍人さんが指導しないで放置するって、・・・どうなの?)
まあ、戦場で優秀な軍人が平時の職務では余り能力を発揮できないというのも良くある話だと興味を外す。
「では、失礼、
カチャり、と扉が開く。入ってきたのは緑色の髪の小柄な少年。その顔に見覚えがあったレンとルークが内心で驚く。
「どうやら、食料泥棒の犯人ですが・・・おや、何かありましたか?」
「導師イオン。今までどちらに?」
ジェイドが少年に向き直って尋ねている。穏やかな笑顔で答える少年。間違いなくローレライ教団の最高指導者、導師イオンである。
(行方不明・・て聞いたから誘拐の可能性も考えたんだが、)
(そんな様子はありませんねぇ。随分友好的な感じです)
((・・・表面上は))
慈愛にあふれた穏やかな雰囲気。ジェイドを見上げるイオンの声は柔らかく、大抵の人間は騙されそうだ。だがキラやシュザンヌの完璧な演技を見て育った二人には一目でわかった。あの笑顔は、嘘っぽい。
「気になったので少し調べてみたんです。そしたらこれが食料庫の隅に」
「こいつは・・聖獣チーグルの抜け毛だねぇ」
「ええ、恐らくはチーグルが食料を荒らした犯人でしょう」
そのまま話し込みそうな面々に声をかけるルーク。どうやら村にとっては満足できる答えも見つかったようだし、最後まで付き合う義理はない。さっさと退散しようと、婦人に暇を告げる。ジェイドの視線が追いかけるのも、イオンの意味ありげな視線も無視する。面倒ごとは御免である。
「俺達は失礼する。」
「ええ、問題解決の目処もついたようですし、下がらせていただきますね。」
「あ、」
イオンに何やら良いかけたティアは無理やり引きずって部屋をでた。後ろを気にしているが態々引き返そうとはしないので宿に向かって歩き始める。
「導師イオンが何故ここに・・・」
「そりゃ内密の公務か何かじゃねぇのか?」
「マルクトの大佐殿とも仲か良さそうでしたし。」
「・・・そうね。」
余計なことを耳に入れてティアが暴走すると事態が拗れるので当たり障りのない答を返しておく。三人で宿の入り口を潜る。すると甲高い少女の声が耳に入った。
「連れを見かけませんでしたかぁ?
私よりちょっと背の高い、ぼや~とした男の子なんですけど。」
「いや俺は此処をはなれてたから」
「も~イオン様ったら、どこ行っちゃたのかなぁ」
脱力である。なんで此処まで面倒ごとが目の前に羅列されるのだろうか。取りあえずルークが声をかけた。
「導師イオンならローズ婦人の所に居たぞ。」
「ホントですか?!ありがとうございます♪じゃあ、早く行かないと!」
あっという間にかけてゆく少女。黒髪のツインテールが揺れる。足が速いなとだけ考えて宿の手続きをとった。
ここで、部屋割りに関して少し揉めたがレンが何とか言いくるめて決着をつける。やっと休めると思いながら部屋に入るレンとルーク。男女の同室は問題だと言われたが、お互いに兄妹みたいなものである。今更何が起きるわけでもない。キムラスカの人間に知られさえしなければ良いのだ。
(それに、こんな場所でルーク様をお一人に出来るわけないし)
「?ルーク様?」
「いや、なんでもない」
護衛の必要はないと最初に言われてしまったが、レンが受け入れるわけがない。無言で気合を入れるレンの表情からそれ察したルークが笑う。振り返ったレンに手を振って誤魔化す。頑固なレンがあっさり納得するとは思っていなかったので、最低限に抑えるよう気をつけるだけだ。
それよりも。
「幾つか確認しておこう」
「はい」
この村で見聞きした事実について認識を共有する必要がある。
「導師イオンが居たな。」
「はい。」
「ヴァンがバチカルを離れるはずだったのは、導師が行方不明だったからだ。」
「ですが、あの様子では本人の意思で教団を離れたのでしょう。」
「だな。・・・あの導師の笑顔、気づいたか?」
「・・・恐れながら、あれは、演技、かと」
「あの導師が、誘拐?ありえねぇ」
「シンク君がぼやいてましたものね」
「ディストもだ。」
ダアトに所属している友人二人の名前をあげる。シンクは諸事情でキラとレンが保護した少年で、当時追っていた怪我が治った途端自分も協力するからと飛び出してダアトの参謀総長に納まってしまった。突然姿が見えなくなって慌てて探していたレンとカイトの元に知らせが届いたときは安堵の余り腰を抜かすかと思った。キラとルークは何故か最初から予想していたらしいが。
ディストは、キラがルークの体調管理の為にレプリカ技術に堪能な研究者を集める過程でスカウトしたダアトの師団長である。なんと元マルクトの研究者で、あのジェイドやピオニーの同窓でフォミクリー技術の共同開発者だったという。それが何故ダアトに亡命して師団長に収まっているのか知らないが(これを知っているのはキラとシュザンヌ
と多分シンクだけだ)キラのスカウトを受けて協力者の一人になっている。今はダアト内でヴァンが計画の全貌を探ることとダアトの機密(特に創世暦次代の情報)を手に入れるために潜伏中だ。
「つくづく懐に入れたと信じた人間には詰めが甘いな、あの鬚は。」
「ディストさんが呆れてましたねぇ」
「今の導師がレプリカだって事実をあんなに広めてどうする。
いくら六神将とモースとその側近だけっつっても、ばらしちゃいけない秘密ってのは、
知る人間をなるべく少なくするのが基本だろーが。」
「・・・導師様もただの操り人形ではなく、独自に何か企んでるそうですし・・・どうしましょう?」
「あ~~協力を持ちかけるか?
でもなぁ、俺達の計画って最終的に教団の解体だろ?」
「導師は預言を妄信する危険性を常々説いていると・・・」
「だからって自分の組織を終わらせるってのとは別問題だろ。」
「じゃあ、やっぱり様子見、ですか。」
「だな。」
だらけていた身体をそこで起こす。取りあえず現状維持しか出来ない問題は後で良い。
「それよりさ、導師が、マルクトの軍人と一緒に居る理由ってなんだと思う?」
ものすごく嫌な予感に苛まれつつレンに聞く。答えるレンの眉間にも皺がよっている。
「私には、一つしか可能性が思いつかないんですけど・・・・」
「俺もだよ・・・」
「「・・・・和平の仲介?」」
二人で声を揃えて吐き出した。
「まじか?!まじなのか?!
あれがまさか使者本人ってわけじゃねぇだろうな?!」
「もしかしたら、タルタロスに待機してる可能性も・・・」
「あると思うか?!あのジェイドの態度見て?」
「うっ」
イオンがいたあの場ですら余裕綽々、イオンに対しても膝を突くどころか目礼もしなかったジェイド。その彼が、誰かの護衛など務めるだろうか?
「・・ねぇよ。ねぇよな。他に責任者がいんなら、あいつがローズ婦人の所であんな風にのんびり茶を飲んだりしねぇだろ。代理で挨拶しにきてたってんならさっさと戻って報告するのが本当だろ。」
「それに、導師イオンの動向に無関心すぎます。」
「導師に向かって「今までどこに」ってどういうことだよ。
まさか護衛の兵士もつけてねぇのかよ?!」
「守護役らしきあの女の子も・・」
「なんで導師守護役が傍を離れる?!
しかも探してる時の導師の外見の説明もなんだよあれ?」
「どうしましょう?」
「どうするか?」
今最優先で考えるべきなのは、夕方二人で話し合ったばかりの問題についてだ。
「・・あれが使者だっつーなら、無理だろ。」
「そう、ですね。
では取りあえずルクトの国民感情についてとかだけでも探って行きますか?」
「そうすっかぁ。あ~あ、いい案だったんだけどなぁ」
「残念です。」
どう考えても今出せる結論は一つしかなかったが。
「「はぁ・・・・」」
疲れきった二人の溜息だけが響く。
そして夜は更けた。
03 | 2025/04 | 05 |
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書きたい物を書ける時に好きに書き散らしてます。文頭には注意書きをつける積りですので、好きじゃない、と思われた方はこのHPを存在ごとお忘れになってください。(批判とかは本当勘弁してください。図太い割には打たれ弱いので素で泣きます)
二次創作サイト様に限りリンクはフリーです。ご自由にどうぞ。
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また、何か御用が御座いましたらメール代わりにご利用ください。返信は雑記でいたします
現在の拍手お礼:一ページのみ(ティアに厳しい。ちょっと賢く敵には冷酷にもなれるルークが、ティアの襲撃事件について抗議してみた場合:inチーグルの森入り口)