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注記:♀シンジ(=碇レン)inN/A/R/U/T/Oのクロス作品です
スレナル設定でお送りいたしております。
何処までも美しい青い空を、禍々しい赤が染め上げた。
強大な妖獣の尾の一振りで、沢山の人が殺された。
平和な町が焦土に変わり、骸さえ残されずに焼き尽くされる。
その日、栄華を誇った大陸最強の忍の里が、為す術も無く滅ぼうとしていた。
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戦場から僅かに離れた屋敷の一室。
我が子の誕生の知らせに駆けつけた夫と、薬を使用してまで無理やりに子どもを生む事を強要された妻が向かい合う。本来ならば喜びだけに満たされるはずの場所なのに、新しく生まれたわが子を挟んで対峙する二人の顔は、敵同士のように厳しいものだった。戦場から離されているにも関わらず強い血の匂いに満たされた産室に、若き火影の声が響いた。
「この子は、里の英雄になるんだ。
里の勢力をあげても倒す事の叶わない九尾を唯一征する方法はこれしかない。
他の者には出来ない、僕と、君の血を引くからこそ可能なことだ。---わかってくれ。」
「いいえ、いいえ、私の御子を妖獣への生贄になどさせませぬ!!
その術を行使すれば貴方も息絶えるのでしょう。
その後誰が、化け物の揺り籠となったわが子を抱いてくれるというのですか!!
貴方は人の憎しみと弱さを見くびりすぎ、強さと優しさを過信しすぎています!!」
疲労にやつれて尚美しい女性が、激しい怒りを隠しもせず木の葉の里の新しき里長に食って掛かる。母としての想いのみでその身を支えて抗弁する姿は力強く、里最強の忍である四代目火影ですら気圧された。周囲に控える侍女や護衛の忍になど口を挟めるはずもない。激しく伝わる戦場の気配に焦燥だけが募る。 そこで再び口を開いた里長の声は痛みを堪えるように掠れていたが、それでも決意を翻すものではなく、再度子どもの未来を語る。
「-- この子は里を護って英雄になるんだ。
このままでは里が滅ぶのも時間の問題でしかない。
そうなれば、この子もただ死ぬだけだ。---- わかっているだろう。」
「貴方はっ---!」
怒りを宿した瞳の輝きの強さだけは変わらずに、弱弱しく横たわった妻の体から生気がどんどんと失われていく。最愛の存在がもうすぐ逝ってしまうのがわかっているのに、最後まで一緒に居てやる事もできない。だから、感情を廃した声で事実だけを告げる。
「この子を、 ナルトを、九尾封印の器にする。
僕は、僕の持てる力の全てで、ナルトの命と--- この里を護るよ。
だから ・・・・・」
「--- っ どうあっても聞き届けては下さらないのですね。
ならば私は貴方を、いいえ四代目火影を決して許すことはできません。
愛しいわが子を贄にすると知らされて、笑って頷く母親などおりませぬ。
・・・ですが、私は貴方の妻です。
だから、共に逝きましょう。私を封印の場に連れて行ってくださいな。
死神の腹の中で、共に罰を受けますわ。
もうすぐ命の尽きる私には、それしかできる事がありませぬ。
・・・・・ナルト、貴方を置いて逝く私を、許して欲しいなんて言わないわ。
けれど、どうか生き延びて。幸せになって。 お願いよ--- 」
其処まで言って気を失った妻の顔を撫でながら、四代目火影--カヤクは、へその緒すら繋がったままのわが子を抱いて一瞬だけ瞳を翳らせた。それだけで全ての感情を隠しこむ。
彼女が言った言葉は、全て正鵠を突いていた。 多くの人々を殺した九尾を、里人は決して許すまい。九尾の器となるわが子は、封印が完成した瞬間から冷たい世界に放り出される。三代目にナルトのことを頼んでも、恐らくこの子を護る力には程遠い。 自分が死んだ後にその地位に戻されるだろう彼が、ナルトだけを優先する事は許されないからだ。 どうあがいても、ただ生かす事だけが精一杯になるだろう。 そんな事、本当は最初からわかっているのだ。 全て知ったうえで、ナルトを苦しめる道しか選べぬ無力さを隠すために大儀を振りかざした自分の弱さも。それを最後には受け入れてくれた妻の想いも。
それでも、自分は決定を覆さない。
それを後悔する資格も、すでに持ってはいなかった。
自分は、火影の名を継いだのだ。その瞬間から、彼は何よりも里を生かすことだけを選ばなければならない立場に立っていた。 ・・妻の言葉に揺らいだ心を、周囲に悟らせることは許されない。 ただ、蒼穹のような美しい瞳に固い決意だけを宿して踵を返した。
そして里を襲った大妖は、容易く見えるほど一瞬の間に封印された。
巨大な方陣の上に残されたのは安らかに眠る赤子が一人。
唯一最後を見届ける事を許された老いた火影が、ゆっくりと歩み寄り慎重な手つきで赤子を抱いた。その目に宿る悲痛は誰のためであったのか。手つきだけは慈しみに溢れた優しい仕草で子供をだいて、冷徹な表情で側近を呼び出す。これから自分が告げる言葉で、この子の一生が決められる。その、重みがのしかかって心が揺れた。それでも声に感情が表れる事は無く、朗々とした長の言葉は静まり返った戦場に響いた。
「 封印は成った。四代目が命を賭けて九尾を封じた。
器となったのは、この赤子。 天災とまで称される巨大な妖弧を封じた子どもじゃ。
名は、ナルト。 ・・うずまきナルト。
里を護るために、四代目に----っ、託された、子ども、だ。
この子を、里の為に育てる。身に宿った尾獣の力が、里を護る力になるじゃろう。
この瞬間から、九尾の器に関する一切についての口外を禁じる!!
破ったものは忍・一般人問わずに重罪に問う!!よいな!! 」
抱いた子どもの温もりが、大切な存在の喪失をつきつけた。---- 己が選んだ新しい火影は、もう居ない。あの輝かしい魂を、見ることは二度と叶わない。その傍らに寄り添っていた美しい夫人の姿も。二人が幸福と希望を抱いて、未来を語った柔らかな光景も。
往年の威厳を取り戻して命じた三代目の姿に、呼ばれた忍たちは恭しく跪いて恭順を示す。その瞬間に、木の葉の最高権限は、この老いた火影に返された。その空虚な痛みを悟らせる事無く、集まってきた忍達を見渡した。俯き隠された表情に、同胞を奪われた憎しみが浮かんでいるのを感じても咎める権利は彼に与えられていなかった。奪われた悲しみと、喪失を埋める為の憎悪に染まった人々の姿に、零れそうな溜息を飲み込んで壊された里に向き直る。
幾つかの隠された事実が、絶望と怨嗟に囚われるはずだった里を救った。
喪失が齎す空虚を埋めるための心の澱みはたった一人に向けられる。
それが、わが子を託したカヤクの願いに反していると知っていながら、選んでしまった結論だった。里を護る火影、なら、それを選ぶ事を知っていて愛子を託したカヤクの想いが、自分には痛すぎた。
それでも、己は選んだ。
未来を押し付けられた子どもを代償に、この里は生き延びた。
それだけが、事実だった。
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