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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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これは以前書いていたメイン連載のエヴァンゲリオン逆行連載です。
逆行女体化シンジのお話でした。

なかなか続きが書き出せないうちに時間だけが空きまして、もう最後まで書ききる自信がなくなってしまったので封印してたんですが、実は思い入れが一番強いものなので、ちょっと載せてみようかな~と思って蔵出ししました・・・・


現行強シンジ×逆行女体化シンジです。
スパシンです。

*ネルフメンバー・ゼーレには優しくないです。チルドレンにも一部優しくない時があります。最終的には子供達は和解させる予定でしたが。

 

 

 

「・・・・・・かえりたい・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 


赤い世界でただ独つカタチを残している少年の生命が終わろうとしていた。

 

 


「・・・それは、駄目。・・・・死なないで、・・・・碇君」

 


少年の死を看過できない者がいた。
原始の海に覆われたこの世界を包み込む、最期にして最初の女神。
全ての生命の母神たるリリスと、その欠片を命の核として生きてその心を育て、再びリリスへと還った少女。
綾波レイは少年を助けることを望んだ。


 

 


未熟な人類の心を個と個の境界を消し去ることで相互に欠けた部分を補い、共通の意識を持った完成された第18使徒として生まれ変わらせる、人類補完計画。その儀式の傍らで生命の実であるS2機関を完備した量産型エヴァンゲリオンに自ら溶け込み融合して補完計画の過程を経験することで、一人のまま完成したヒトとして生まれ変わり、その他の人類を従えて己を神として崇めさせ永世帝国を創り上げることを目的としたゼーレの計画は、サードインパクトの余波に耐え切れずゼーレの面々も全ての人類と共に赤い海へと溶けたことで頓挫した。
 

そして残されたのは、サードインパクト発動の鍵として利用されたエヴァンゲリオン初号機と共に居た為に個体としての意識を保ち、補完の外へと逃れることが出来た少年--碇シンジ。リリスと同化し、生命が原始の海へと還った世界を包みこみ、遥かな未来生まれるであろう新たな生命を守る母神として存在する綾波レイ。人間
のみならず、あらゆる生物--獣や昆虫、植物、微生物など--までが一つに同化してしまったために人間としての自覚すら保つこと適わず、意識そのものが消え去ってただ生命の終着した姿の一つとして存在する赤い海。


その三つのみだった。

 

 


そしてただ独りで赤い世界へ取り残されたシンジは孤独に耐え切れず、ただ虚ろになってゆく心のままに、静かに衰弱していき、とうとう永遠の眠りにつこうとしていた。その様子を遠く、赤い世界の外から見つめていたレイは焦った。彼女は母神として世界を守る役目故、個として彼に関わることは出来ない。しかしこのまま手を拱いていては彼が死んでしまう。補完の外に存在する状態で死んだ者は原始の海へ還る事は出来ず、そのまま魂まで消滅してしまう。・・・・・それは到底耐えることは出来ない。ならばどうすればいいか・・・・・・・・・。



彼女は悩んだ。
どうすれば彼を助けることが出来るのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 



いよいよもってシンジの限界が近づいた時彼女は決断した。

リリスと同化した時私は綾波レイとしての肉体ごと同化した。
リリスとの同化したことで新しい世界の母神として生まれ変わった今、人間としての体を切り離しても問題はない。綾波レイとしての肉体は人間のものであるが、リリスの欠片を核として生まれた魂を受け入れていたために他の使徒ほど強力ではなくとも、多少の事では損なわれることが無い程度に丈夫なものだ。ならば、この肉体と彼の魂を融合させれば、彼は助かる。そしてこの世界では彼は生きることが出来ないならば、生きることが出来る世界へと送ればいい。

 

この世界は既にセカンドインパクトからサードインパクトへの過程によって全生命が滅亡するという結果が刻まれてしまった。サードインパクトによってあらゆる時間軸から切り離され固定されたため、再び生命が原始の海から生まれるまでの期間は過去未来といった今へ至るための連続した事象の全てが抹消された状態になっている。つまりここからシンジを未だ平和であった過去の世界へ送ることも、再びこの世界に生命が生まれて文明が復活しているだろう未来へ送り出すことも出来ないのだ。レイもそのことは母神となった時に意識に刷り込まれた世界の理やリリスの見てきた世界の歴史と共に存在に刻まれたため理解している。その打開策として、レイはこの世界からリンクを繋げる事が可能な世界を幾つか選び、その中で常識や知識に余りずれが無い世界を選択。その結果、この世界と似た歴史を綴っている世界。つまりこの世界の並行世界へと彼を送り出すことにしたのだ。

 

 

そうして、孤独と絶望から死ぬはずだった少年は、違う世界へと旅立っていった。
ただこの世界で傷つけられ続けた彼が今度こそ幸せになれることを願いながら、女神は赤い世界へと意識を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----雨が降っている。


薄暗い夕刻。冷たい雨の中小学生くらいの少年が俯きながら歩いている。
人気のない土手に差し掛かった時、少年が何かを見つけたのか顔を上げて一点を凝視している。
その視線の先には乗り捨てられた古びた自転車。


少年の脳裏に思い起こされるのは居候先の伯父の家での夕食時従兄弟がはしゃぎながら自転車を強請っていた光景。そのときの疎外感と羨望。

 

-----雨が降っている。


暗い道を古びた自転車を引いて歩く少年。
そこに照らされる懐中電灯の光と居丈高に呼び止める警官の声。

 

-----雨が降っている。


狭い交番の中。軋んだ椅子の音と何かを書き取るペンの音。
事務的で投げやりな疑惑に満ちた警官の質問。
返す答え。



「保護者の名前は?」

「・・・・・碇ゲンドウ」



微かな期待。・・・・・・・そして落胆。



「どうしてこんなことをしたの!?
 自転車を買うくらいのお金はお父さんにもらっているのよ」


事情を聞くこともなく決め付けられる。信じようとする人は一人もいない状況。



-------雨が降っている。



学校の帰り道。
繰り返される同級生の罵倒といじめ。
通行人の冷たい視線。
級友達に殴られても蹴られても、物を壊されても見て見ぬ振りをして突き放す教師。
影で囁かれる会話。



「あの子の父親は---」
「やっぱり妻殺しの男の息子だから--」
「関わりあわないほうが---」
「-----------。」
「----------------」



・・・



------雨が降っている。



「もうシンジ君も一人部屋が欲しいだろう。だから庭に作ってあげたんだよ。」

「--はい伯父さん。ありがとうございます。うれしいです。」



隔離された部屋。
母屋へ行く必要がないように備え付けられた台所やトイレと風呂。
顔を合わせずに出入りできる裏門に面したドア。
手渡される食費込みの小遣い。

 


「---何時まであの子を預からなきゃいけないの!?父親は一度も連絡すら取らないで!!」
「そういうな。養育費は十分に貰っているだろう。」

「あんな暗い子顔を合わせるのも嫌よ。何を考えているのかも分からない。
 何を言ってもへらへらと笑って---薄気味悪い!!」

「だから外に部屋を作っただろう。食費も渡しているから世話も要らないし。」

「そこにいると思うだけで気分が悪いのよ!!
 ご近所の人達にもいろいろ言われるし----あの子の父親のことで-----。」

「それはそうだが---------」

 


子供が寝静まった時刻に繰り返される伯父夫婦の会話。
厄介者として忌避される自覚。


-----------誰も味方が存在しない現実。

 



-----雨が降っている。

 


放課後校舎の影で振るわれる暴力。
繰り返される陰湿な嫌がらせ。



「お前なんか生まれてこなきゃよかったんだよ!!!!」

 


殴られたまま横たわって眺めていた空から冷たい雨が降り出した。
濡れるままにぼんやりと灰色の空を眺める。

 

「誰もいない・・・・・・」


「味方なんかいない・・・・皆僕を傷つける・・・・・」

 
 

校舎の中に人気がなくなって、見回りの用務員の足音が聞こえ始める頃。
ようやく体を起こすとのろのろとした足取りで家へ向かう。


頭の中で繰り返すのは日常的に行われる公然としたいじめ。
疎外され忌避される伯父宅での生活。
冷然とした周囲の大人たち。
与えられる冷たい視線と無視される傷と痛み。
そして孤独。

 


「誰も僕を守ってくれない。」


・・・・・自転車の盗難を疑われて交番に呼び出された伯母の言葉。


「近づくのは嫌がるくせに完全に離れようとすれば引きずり出されてまた傷つけられる。」


・・・・・何かと理由をつけては自分を殴る級友達の顔。


「何もしていないのに疑われる」


・・・・・捨てられていた自転車を引いていただけなのに居丈高に問いただして交番へ引きずっていった警官の顔。


「僕は独りだ・・・」


・・・・いじめを見て見ぬ振りをする教師。連絡すらしてくれず手紙の返事も無い自分の父親。自分を疎んじる伯父夫婦。

・・・・・・・・・そして物心がつく頃から自分の研究に耽溺し、その実験の果てに消えた母親。

 


とぼとぼと帰宅するシンジ。
ふらつきながらも何時も通りに伯父宅の裏門へと通じる裏山の麓の暗い道を歩いている。歩きながら、今までのこと、自分を捨ててただ一度も省みる事の無い父親、冷たい視線と罵倒や暴力しかくれない教師や級友達、多額の養育費の為だけに自分を飼い殺しながら疎んじる心を隠そうともしない伯父夫妻とその子供。


自分を取り巻く環境とそこに存在する人々のことを思い返すたびに我慢していた不満や不信が高まっていき、抑圧されていた憤りがついに噴出し、シンジは切れた。

 


 

「・・・・・・・・・なら、一人で生きてやる。
 父さんは僕を捨てた。母さんはいない。誰も僕を必要としない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 なら僕も皆要らない!!僕は僕の為に生きる!
 自分の居場所は自分の力で手に入れてやる!!」

 

 


冷たい雨の中。独りきりだった少年は周りへの期待を捨てた。
求めても拒絶されるなら求めることを止めればいい、と今の自分の周囲に存在する全てを切り捨てたのだ。
一人で生きることを決め、誰に守られずとも生き抜く力を得るために、自分を傷つける存在である父親の援助や伯父の最低限の保護を利用してでも、いつか独立する日に備えることを決意した。



そして少年---シンジはこの牢獄に等しい環境を抜け出す時のために力をつけ始めたのだ。

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 


3年後。シンジが12歳の八月。


3年前の決意を実現するためにシンジはまず最低限己の体を護ることが出来るよう鍛え始めた。最低限といっても護身術などといった大人しいものではなく、実戦に使用可能な戦闘技術を身につけるためのものである。 セカンドインパクトの余波が沈静し平和な生活が保障されているのは治安維持に経費や人員を割くことが可能な大都市やその近郊のみで、少し郊外へ足を踏み入れるだけでその状況は一変する。 不良の溜まり場になっている程度なら可愛い物で暴力団やマフィア、武器売買商人、人身売買を目的として獲物を狙っているごろつき達や隙あらば食料や財産を奪おうと画策している強盗団といったもの達が溢れかえった無法地帯が散在している。 シンジの第一の目的は父や伯父の造った囲いから抜け出すことである。そのためにはまず義務教育である中学を卒業して仕事を見つけることであるが、良くも悪くもセカンドインパクトの騒乱による人口激減によって極端な能力主義となった昨今の社会のなかでも、中卒の子供がどれ程の能力を身につけたとしてもよほど抜きん出たものでもない限り、治安の良し悪しに拘る余裕があるとは思えない。もちろんよりよい就職先を得るために必要と思われる技能を身に着ける努力は続けるが、期限は中学卒業までの6年間である。可能性はあるかもしれないが楽観は出来ない。ならばどのような環境であろうと生き抜けるだけの能力を身に着けるしかない。

----------という結論をだしたシンジはとりあえず書物などから独学で効率が良く成長を阻害しない体の鍛え
方を調べ実践した。次に独学では限界が見えている格闘術を身に着けるために近所で開講していた古武術の道場へ通い始めた。並行して学校に備え付けられているコンピューターで取り合えず基本操作をマスターし、基礎知識を身につけるため勉強に今まで以上に腐心し、伯父に養育費から専用のパソコンを強請り、少しずつ改造を繰り返して情報機器に関して専門家レベルまでその技能を高めた。
 

それまで無気力さから劣等性レベルに落ち込ませていたが、本人にとってどれ程忌まわしい事実であろうと、シンジの両親は東洋の三賢者筆頭と名高い天才科学者碇ユイと、彼女に劣りながらも世界規模の研究所で所長を務める碇ゲンドウである。 つまりその資質だけなら文句なしの一級品なのだ。 その優れた資質を活かすも殺すもシンジ次第。 そして彼が固い決意と共に己を高めることを決めたとき、その才能が鮮やかに開花したのだ。



三年前級友達に殴られるままであった華奢な体は、始めた古武術と知人に教えられている格闘術によって鍛えられ、成長期であることとも相まって見違えるほどに成長していた。未だ成長途上であるためか若干華奢な印象は拭えないが、12歳にして160cmの身長にしなやかに鍛えられた筋肉に覆われた体は、まるで年若い
獣のようで力強く優雅な仕草が美しく、他者の目を惹くものであった。 最も周囲の注目を集めることに嫌悪しているシンジは普段の生活の中では、ことさら目立つことが無いように凡庸に振舞っているため、彼の成長を知っているのは、2年前に知り合ってから交流を続けている児童保護施設『美月園』の園長夫妻を始めとする職員の方々とそこで暮らす15人の子供達だけである。



そして今。八月の夏季休暇中。学校が休みの日をシンジは二年ほど前に課外授業の一環として訪れた施設の手伝いに行くことにあてていた。


セカンドインパクトによって常夏の気候へと変動した日本では最も暑い時期をやり過ごし多少でも活動しやすい時期を待つ、という夏期長期休暇の意味は失われて久しいが、伝統や慣例を重んじる日本人らしいというべきか、多少過去よりも短いとは言え今でも八月中はほとんど学業長期休暇に当てられている。その期間を利用して施設へ赴いているのだ。

 
 

施設へ初めて訪れた課外授業は、セカンドインパクトによってどのような被害を被ったのかを実地で知るという趣旨の元、幾つかのグループに分かれて、インパクト後の暴動によって消滅した第二東京を見学したり(治安が悪いため防弾設備を完備したバスで道を走って見学)、保護者を亡くした子供達が住む施設へボランティアに赴いたり、インパクトの騒乱時に後遺症の残るような怪我をした人たちが加療している病院へボランティアに行くなどの内容で行われた。

 
 

その時シンジが割り当てられたのは伯父宅から自転車で30分ほどにある、15人の子供を預かっている小規模の児童保護施設で、新藤アキラさんとミノリさんというご夫妻が経営している。 新藤アキラさんは元自衛隊武官で戦略自衛隊発足時武術指導の為に赴いたが、その基地周辺で起きた暴動を鎮圧する作戦中に大きな怪我を負い、片手に後遺症を残してしまった事を切欠に退官。インパクトで保護者を亡くしてしまった子供達を護りたいという想いから、僅かながら得られた退職金と無事だった貯蓄を元に施設を設立。同じように退官した元同僚や現役から退いた友人達を誘って共に経営を始めた。

自給自足の生活ながら暖かな、本当の家族のように暮らしている子供達と職員の人達の暖かな陽だまりのような姿に、自分に無いものを持っている彼らへの羨望を感じてボランティア活動の中で少し沈んでいたところ、新藤夫妻に呼び止められ、良かったらこれからも時々手伝ってくれないかと誘われて通うようになった。

 
 

最初は何故誘われたのか理解できずに惰性のように通っていたが、交流を続けるなかで新藤夫妻や職員の方々の自分へも向けられ優しさや温もりに、ささくれていた心が癒されていく自分に気付き、此処に通うことを楽しみに思うようになっていった。 その中で新藤園長に格闘術の稽古をつけてもらったり、園長の知人や友人の
人達に様々な技術を教えてもらったりした。 彼らは現役からは退いているが嘗ては第一線で活躍していた各々の分野でのエキスパートである。最高の教師を得ることが出来たことは目的の為に生きる術を渇望するシンジにとって最たる幸運であった。そして何よりも自分を無邪気に慕ってくれる子供達の姿に、自分のことを必要としてくれる人がいる、という救いを見出していった。 未だ伯父や父、学校の級友達からの冷遇は変わらず、彼らを切り捨てた時に生まれた自分の心を凍らせる氷の塊は胸の中に存在するが、僅かでも救いとなる温もりがあるという事実と必ずあの生ぬるい牢獄から抜け出すという決意が今のシンジを支えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


----- 雨が降っている。


大きな瓦礫の点在する開けた場所に、冷たい雨に濡れながら虚ろな目をして座り込む一人の幼い少女があった。


南極で起きた大災害の余波により生まれた無数の無人島の一つ。 南極の氷の大陸が溶けた為に多くの海岸線を襲った巨大な津波と地軸が歪むほどの衝撃によって派生した大地震が原因で住民が住めなくなったため生まれた地図にも載らなくなった小さな島の奥にそれは在った。 何時の世にも何処の世界にも存在する愚かな権力者の望みと、己の好奇心を満足させるためなら何を犠牲にしても構わない狂科学者達が互いの利益の為に、世間にはけして公表できない研究を行う研究施設の一つ。

 
 

外界から隠匿されながらもそこに近づくものを威圧していた強大な研究施設はその施設を取り囲む長大な塀ごと巨大な瓦礫の山と化していた。

 

6・7メートルはあろうかという壁は3重にも渡ってその敷地を取り囲み、その中に秘匿された建物に出入りする全てのものを監視し遮断していたが、今はその威圧は見る影も無く、所々が崩れ、壁としての機能を果たすことなく巨大なクレーターを囲むように存在する瓦礫の一部と化している。 深い深い森の中、樹齢数百年にも及ぼうかという巨大な木々は見るも無残に倒壊し、痛々しく地面を露呈している。  あらゆる自然物と人工物によって外界のものから隠匿されていた巨大な研究施設は、施設を取り囲んでいた壁とその壁に沿うように点在する瓦礫の山を残して消失している。 

そこで働いていた狂科学者達も、施設の監視をしていた警備の者も、実験動物として扱われていた被験者達も、狂科学者達が日夜収集していた全てのデータも、データから生み出された研究成果も、その過程を記録した資料の全ても、尽くが消失し、残されたのは敷地の中心部の巨大なクレーターとその中心で虚ろな視線を薄暗い雨空にむけて座り込んでいる幼い少女。
 

----この世界に生まれて得た名を、蒼山シオン。 

  ここと似て異なる世界から新しき女神の慈悲と、人としての心に残る願いから新しい生を得た彼女の旧き名を、碇シンジ、 という。

 



襤褸布と化した病院の手術着のような服、腕にはめられたのは幅広の腕輪のような手枷と右肩の裏に刻まれたアルファベットと数字。少女--シオンはこの研究施設に被献体としてつれてこられた子供達の一人であった。

 

 

 

 

 


あの全ての生命が赤く溶けた滅びの世界で、独りきりで取り残されたシンジは最初、何故こうなったのかを知るために周囲を歩き回って他に人がいないかを探した。辺りを探し回り、誰もいないことを知ると、赤い海から逃げるように遠くに見える町の残骸へと足を向けた。


その途中にも誰か一人くらいは生きている人は居ないものかと探りながら歩き続けてジオフロントへとたどり着いたが、会うものも生きて動いているものすらなく命の気配の無い道を進み、ネルフ本部までたどり着いた。やはりそこにも人は無く、そこかしこに衣類が落ちて、存在の名残を残すのみ。


ここに至って自分以外に生きている者は存在しないのだという、無意識に目をそらしていたことをようやく認識した。と同時に、逃げるように背を向けた血のように赤い海の正体に気付いてしまったシンジは恐慌状態に陥り、暴れるように周囲のものを破壊しながら泣き喚いた。泣いて泣いて気絶するように眠りについたシンジが再び目覚めた時、眠る前の狂乱が嘘のように静かに起き上がった。そして力の限り暴れて開き直ったのか、どうしてこんな事になったのかを知るためにMAGIを使って調べ始めた。


 ただの中学生でしかなかいシンジが最初から厳重なプロテクトに護られているであろう人類補完計画の情報を引き出すことは出来ない。それを自覚していたシンジはまずMAGIを使いこなす為にリツコの研究室を訪れ、資料を片っ端から読み、コンピュータの基本操作からリツコが管理していた計画のための研究資料などを少しずつ理解し、MAGIの情報を引き出し、とうとう人類補完計画の全容と、その実行の為にネルフやゼーレが行ってきた非道な行為、そして自分達チルドレンの役割を知った。

 

 

再び心を覆う絶望と怒り。
補完計画によって溶け合った海から誰一人帰ってこない現実による寂寥。

 

そして今まで気付かなかった己の変調への恐怖。
 

・・・・・・現状を知ることにのみ意識を向けていたため気付かなかったが、MAGIを一から勉強して使いこなし、情報を引き出して考察し、補完計画の全貌を把握するまでの間どう短く見繕っても数ヶ月から数年かかったはずである。その期間ただの一度も空腹を覚えず睡眠をとった覚えも無いにも関わらず何の不調も無く生存しているという事実。 知ってしまった使徒と人間、エヴァのこと。命の実、S2機関、知恵の実、第18使徒、リリスとアダム、単体と群体、エヴァンゲリオンの存在意義・・・・導き出される結論はシンジを絶望させるに十分なものであった。

 


シンジは補完計画の依り代として世界樹を描くエヴァの中心、リリスのダイレクトコピーである初号機の中にいたのだ。しかもMAGIを調べていてしった事であるが、インパクトの前後彼は初号機に400%シンクロして同化していたのである。 その状態で補完の中心にいた事で赤い海に溶けることなく、インパクトのエネルギーの中にいながらも、かろうじて意識と自我を残すことができたのだ。 そしてリリスと同化したレイと、リリスに融合したアダムの中に還ったカヲルとの会話を経て補完の外にシンジのまま出ることができた。 が、その副産物として400%のシンクロによってほぼ同化していた初号機と融合した状態でシンジのカタチを取り戻し、補完の外へと抜け出たのである。
つまりシンジは初号機をその身に取り込んだ状態なのだ。生命の実であるs2機関を持つ初号機との融合によって完全な使徒となったシンジは空腹を感じることも睡眠をとる必要もなくなったのだ。

 

そしてそれは、シンジがこの他の生命が存在しない赤い世界で永遠を生きていく事になった。ということである。

 


シンジは他に誰もいない世界に取り残された孤独にも、赤い海と赤い空に覆われた死んだ世界にも、何時終わるか判らない永遠の自分の生にも耐えられなかった。 カヲルがATフィールドは全ての生き物が持つ心の壁であると言ったように、命の実を持つ完成された使徒であっても、ATフィールドによって己の存在を固定する。 つまり心の在り様がその存在を確立するのだ。シンジが、s2機関を体内に持つ完成された使徒であろうと、絶望によって死を望んだ心がその魂と体を支配してしまえば、存在を確立するためのATフィールドが揺らぎ、”シンジ” としてのカタチを保てなくなって何れ消滅してしまう。

 
 

そしてそれを看過できなかったリリス=レイがシンジを助け、未だ滅びていない他の世界へと転生させたのだ。
レイはシンジの生と幸福を願ってその選択肢を選んだ。

 

 

 

 

 

 


一欠けらの光も存在しない闇の中であるのに冷たさは感じない不思議な場所でシンジは意識を覚醒させた。



「あれ・・・・?生きてる・・・なんで?
 ・・・・僕は・・・・・あの時・・・・・・・・それにここは・・・・・・」

 
 

死のうとして眠りについた自分が再び意識を覚醒させたことを疑問に思い、一人つぶやいていると目の前に淡い光が生まれた。



「・・・・碇君・・」



それはリリスと同化し原始の海の覆われた世界を護り、遠い将来生まれてくる生命を見守る役目をあたえられた筈のレイの姿。



「あ、綾波・・?そんな、皆溶けていなくなったんじゃ・・・・・それに僕は死のうとして・・・・」



以前と変わりない姿で現われたレイに動揺するシンジ。

 


「落ち着いて、碇君。余り時間がないの。まずは話をきいて。」

 


うろたえるシンジにいつもと変わらない抑揚のない口調で話すレイ。
しかしシンジにはレイが何所か焦っているように感じられた。
そのことを聞こうと口を開こうとしたシンジを遮るように話し始めるレイ。

 


「碇君、貴方は完成した第18使徒リリンとして完成した状態で補完の外に逃れたの。その後貴方がどうしたか、そのことは覚えているわね?」


「あ、ああ、うん。それは気付いたよ。なんであんなことになったのか知りたくていろいろ調べたから。その過程も覚えてる。でもどうしてそれを・・・」

 


あの場所に自分一人しか存在しなかったはずだ。だからこそ永遠に続くだろう孤独を恐れて、自身のATフィールドを解いて消滅しようとしていたのだ。なのにここにレイが存在している。

 
 

「そう、そして貴方は他人のいない世界に耐え切れず、自らを消そうとした。」


「そうだよ。・・けどなんで綾波が知ってるの・・?それより生きてたんなら何で今まで・・・・」

 


先程から疑問に思っていたことを訪ねるシンジ。

 


「・・・・・・・私は”綾波レイ”ではないわ。・・・リリスの欠片であった綾波レイと、その母であり存在の主でもあるリリスが同化した存在。 一人目、二人目、三人目・・全てのレイの記憶を持っているし、レイとしての感情も心もここに存在している。 
 

 ・・・・・けれど同時に、この全ての生物の死によって、原始の海へと還ったこの世界を護り、いつか新たに生まれてくるだろう生命の母たるモノ。 人間達がリリスと呼んだ女神の次代目。 新たなる母神としてこの世界を護るモノ。 

・・・・リリス=レイ とでも言うべきかしら?」

 



淡々と衝撃的なことを告げられて固まるシンジ。
レイの姿で、レイの声で、レイの仕草を持つ目の前の存在は、もうレイと同じものではないと言うのだ。いやレイの記憶と感情は覚えているし、同化した結果新しく生まれたのが彼女であるなら、完全に別人というわけではないのだろう。それは本人も言っていた。けれど・・・・・


ぐるぐると思考を空回りさせるシンジに構わず、リリス=レイは話を続ける。

 


「だから、私は”個”として存在するものに直接干渉することは出来ないの。
 これはこの世界を護るモノとしての本能で、”リリス”としての私には逆らうことは出来ないわ。
 けど私は同時に”レイ”でもあるの。そして”レイ”は貴方の消滅を悲しみ、それを覆したいと望んだ。


 ・・・・”リリス”としての私の分身であり娘でもある”レイ”。
 ・・・・そして”リリス=レイ”として存在する今の私にとっての過去の自分でもある”レイ”の願い。

 それを叶えるためにほんの少しだけ世界の目を誤魔化して貴方と話をしているの。時間が無いといったのはそのせいよ。」



「綾波が・・・・?」

 


リリス=レイの言葉に驚いくシンジ。
レイがそこまで自分のことを想ってくれたということを知って驚愕するシンジ。


確かに彼女は周囲にはわかりにい形ではあったが、自分に好意的に接してくれていた。だが自分の死を悲しんでくれただけでなく、それを覆すためにそこまで尽力してくれているのを知って、独りになったと思ったからといって安易に死を選ぼうとした自分を恥じた。そして彼女の厚意を嬉しく思い、羞恥に顔を赤らめたまま久しく浮かべていなかった純粋な笑顔でリリス=レイに感謝と謝罪を伝える。



「あ、ありがとう!・・・・それとごめん。そんな風に僕のことを考えてくれていたのに、安易に死のうとしたりして・・・ずっと僕のことを見ていてくれたのに・・」



「・・いいえ。いいの。仕方が無いことだわ。私はあの赤い世界を外側から見ていただけだもの。
 それに、孤独も絶望も人を簡単に殺すわ。・・あの時の碇君の状況なら決して責められものではなかった。消滅する前に助けることが出来たもの。・・・碇君が生きていてくれるだけで、私は嬉しい。」

 
 

シンジの全開の笑顔を向けられて心持ち顔を赤らめながらも返すレイ。
しばらくお互いに赤い顔で見詰め合っていたが、我に帰ったレイが説明を続ける。

 



「碇君、今の貴方はかろうじて消えていないだけの状態で、こうして話すことが出来るのは、ここが物質世界とは隔たった世界の狭間。 魂が生まれる前に通る場所。死した魂が新しい生を得るために通り抜ける回廊のような場所だからなの。
 

 そして今のままでは貴方は何れ消えてしまうの。 自ら消滅しようとしたときに貴方が持っていたS2機関は力の殆どを失ってしまっていて、存在するための力が足りないのよ。 だからその欠損を補うために私が”レイ”として生きていた時に使っていた身体を貴方に融合させて新しい--そうね。 第19使徒として生まれ変わらせるわ。
 

 一度使徒として覚醒した以上、どれ程欠けた処で不完全な第18使徒である群体としての人間には戻らない。 ただ貴方の自我が存在を維持するための力が消耗するだけなの。 そして自我を保てなくなってしまえば、それはただ強大な力をもって永遠を生き続ける虚ろな生き物になってしまう。
 

 それが私には耐えられない!! 私は貴方に生きていて欲しいの。 消えてしまって欲しくないのよ。


 ・・・・・・・お願い。 しなないで・・!! 」

 



淡々としていた口調を途中から荒げてシンジに訴えたレイは、心の内を吐き出すと顔を覆って泣き出した。
レイの激しい声に、初めて見る泣き顔に数瞬うろたえたシンジは、こっそりと深く息を吸い込むとレイの肩を優しく抱いて静かな声で語りかけた。

 


「綾波・・・・ありがとう。その言葉があれば、きっと僕は大丈夫だ。
 もし新しい世界でたった独りになっても、自分から死を選んだりはしない。
 生き抜く努力を続けると約束するよ。


 ・・・・・・だから、そんな風に泣かないで。 君の笑った顔が、好きなんだ」

 



シンジの手が触れた瞬間身体を固くしたレイは、シンジの強い想いの篭った言葉にだんだんと力を抜いて、シンジの腕にもたれかかった。しばらくの間無言でシンジに抱きついていたが、ひとつ鼻をすすると涙を拭いて毅然と顔を上げて彼の瞳をみつめる。
 

そしていつか月の下で見せた、あの美しい笑顔を浮かべると、シンジの腕から抜け出して、彼に伝えておくべきことを告げる。

 



「碇君。貴方は新しく転生する形で、人間の両親から生まれることになるわ。
 これは生まれるはずだった子供の身代わりとかではなく、きちんと人間が生まれる過程をへて誕生するの。
 貴方の魂と相性のいい女性--多分貴方の母親である碇ユイの近親者の誰か--の卵子の宿ることで、受精確立を100%にするの。 こうすれば、母体に負担がかかることなく自然な形で生まれることができるわ。もちろん100%人間の身体で、人間として生きていける。
 

 ただしこれはあくまで使徒としての力を一時的に封じた状態での擬態に過ぎないの。
 貴方は、リリンの完成体と、使徒の母であるリリスの欠片との融合によって生まれる第19使徒。
 だから、肉体が安定する・・多分第二次成長の終わり位までは普通に年を取れると思うけど、その後老化が停止するわ。 もちろん擬態として外見だけ装うことも不可能ではないけれど、それをずっと続けるのは難しいと思うの。 だから老化が止まるまでの間に身の振り方を考えて置く事。
 

 それと人間として転生させるためにS2機関を休眠状態に固定しては置くけれど、なにか切欠しだいで目覚めるかもしれない。力が目覚めてしまったらあちらの世界の意思に異分子としてはじかれる可能性もあるの。だから、極力気をつけて。力を目覚めさせないようにして。 世界の意思に逆らって異分子と判断されたとき別の世界に飛ばされるくらいならいいけれど、邪魔者として消滅させられる可能性もあるから。
  

 最期に、貴方はあくまでリリスから生まれた使徒としての魂を持っている。
 だから貴方を使徒が存在しない世界へ送ることは出来ないの。
 別の世界では存在の仕方が異質すぎて転生させようとしても異分子として消されてしまうのよ。
 ・・・・・できれば戦いのない平和な世界へと送ってあげたいのだけど、それは無理なの。

 
 もしかしたらまた同じような目にあうかもしれない、貴方の力に気付かれてエヴァに関することに利用されてしまうかもしれない。 その時は、私を恨んでも、憎んでもいいわ。・・・・でも、私が貴方に幸せに生きて欲しい気持ちは本当なの。 だから、その事だけは疑わないで。 信じて欲しいの。 


 ・・・・・・・・・・・・それじゃ、さよなら。 」

 



レイは一気に最後まで説明すると力を解放する。
そして”レイ”の身体を分けるとシンジの魂と重ね合わせて、融合させる。同時に世界と世界を隔てる境界に小さな穴を開けて、シンジを無事に送るための道を作り出してその中に彼を押し込む。


レイの言葉を聞き漏らさないように話の内容に集中していたシンジは咄嗟に言葉を出すことが出来なかったが、そのまま作り出された道が閉じようとしているのをみると、力の限り大きな声で彼女に自分の気持ちを伝えた。

 
 

「綾波!! 僕は君を恨んだりしない!!何があっても君を信じるよ!!

 ・・・・・・・ありがとう!!」

 



シンジが最後に残していった言葉はレイの魂を震わせ、心を歓喜で満たす。
そしてシンジが好きだといった笑顔を浮かべてシンジが通った道の入り口に手を振り、暖かな心を抱いてその意識をリリス=レイとして赤い世界へと戻した。

 

 



 

 

そしてこの似て異なる世界--あの赤い世界の並行世界であるここでシンジは新たなる生命として転生した。
シンジとしての魂と新しい体との齟齬を少なくするためか、この世界の碇ユイの従姉妹である蒼山ユリエ(旧姓碇ユリエ)・リク夫妻の次女として誕生した。



レイがくれたもう一つの贈り物。新しく生まれる赤子の新しい名前。

---- シオン --- 始まりの音と書いて 始音(シオン) 

鼓動という名の美しい音色を響かせて生まれ出でる命。
新しい生を始める者への祝福の名前。


母性を司る女神の優しい願いと希望が込められた名前。それがシンジ=シオンへの二つ目の贈り物。



シンジの魂の欠損を補うために全ての使徒の母である母性を司るリリスの欠片を宿すレイの身体を充てたため、転生するときには女性因子が強まり女性体で生まれ変わることは解っていた。 だから女性としての新しい名前をシンジに贈ったのだ。 シンジの魂を母体へと宿す時にほんの少し意識に干渉してその名を赤子につけるように誘導したのである。

 


 

2001年7月13日 京都 蒼山家
碇ユイ・ゲンドウ夫妻の長子、碇シンジが生まれて一月後のことだった。

 



シオンは新しい人生を精一杯生きるのだという決意をもって、碇家の4つある分家の一つ蒼山家の次女として生まれた。黒く柔らかい髪は艶やかで、絹のようなすべらかな白い肌。小作りの輪郭にバランスよく収まった小さくてピンク色の唇と頬に影を落とす長い睫。すらりとした柳眉の下には少しだけ釣り気味の大きな、深く透き通るような黒曜の瞳。漆黒の瞳は光の加減によって深紅の光を弾く。美しく愛らしい少女であった。



しかし碇本家の跡取りであったユイがゲンドウとの結婚を強行するために出奔し、セカンドインパクト後の世界規模の騒乱が原因で経営する企業の倒産や買収されるなどの、本家分家合わせた騒動の最中であったためか、余裕の無い両親にも、旧い歴史を持つ名家である碇家の矜持を護らんと奔走する家人にも構ってもらえず、二つ上の姉との交流が唯一の暖かい記憶である環境で育った。
 

シンジとしての記憶にある冷たい幼少時代の思い出を払拭できるかも知れないという僅かな期待が破れはしたが、姉であるリナと精神的に支えあう生活が、生まれ変わったのだという実感を与え、他人が存在する世界に生きているのだという幸福が胸を満たしていた。



しかしそのささやかな幸せも長く続かなかった。


2004年人工進化研究所(ゲヒルン)で執り行われたエヴァンゲリオン初号機起動実験で碇ユイが取り込まれたのだ。ユイを失ったゲンドウはあの世界の彼と同じように妄執に取り付かれ、ユイともう一度会うためにゼーレが推奨する人類補完計画を利用しようと画策。その計画の為にシンジを親戚に預け、欠けた心を持つ子供に成長するように誘導した。 
これはシオンの世界でどうだったのか知ることは出来ないが、この世界のゲンドウは、ユイの実家の権力と財力を手に入れるために碇家縁者を様々な策略で謀殺していったのだ。 テロを装って殺された本家の当主や重鎮達。インパクト後の治安悪化から激増した暴徒や強盗を装って繰り返される暗殺。そして騒動のドサクサにまぎれて誘拐された子供達は、補完計画推進の為に必要な研究開発のための研究所へ被研体として連れ去られた。 2006年。碇ユイ死亡から2年後のことであった。

 



この研究所はゼーレが秘匿している施設の一つで、人類補完計画の為に、使徒の人工制御の技術を完成させるための研究を行っていた。これはゼーレによって捕獲済みの幼体の使徒(イロウル・バルディエル・タブリス)を、計画に沿った時期と場所で確実に行動を起こさせるための覚醒信号と行動制御技術を開発していた。 そのために実験体である子供達に採取・培養された使徒細胞(アダムのもの)を埋め込み、細胞を摂取した実験体の身体データ及び変化過程などを観察し、上手く細胞と融合した実験体には投薬による影響や、開発中の覚醒信号を流した時の使徒細胞の活性具合や力の発現の影響を調べていた。



実験動物として集められた子供達の中にシオンとリナの二人も含まれていた。
使徒としての魂を持っていても力が封印されている今シオンはただの5歳の子供である。
赤い世界で情報を得るために習得した情報機器操作能力も現状では何の役にも立たない。
無力さに打ちのめされ、自分を生んでくれた両親を護ることも、優しい姉を助けることもできない絶望と焦燥が心を覆う。

 


日毎に繰り返される過酷な実験に投薬。身体に焼き付けられた実験体の登録ナンバー。逃亡防止用の自爆装置が組み込まれた手枷。心身ともに痛めつけるデータ収集。ただの実験動物として扱う狂科学者たち。無機的な目で自分達を監視する警備員。次々と消えていっては新しく増やされる子供達。何時死ぬかわからない恐怖。

 
 

それでもシオンは生きることを諦めたくはなかった。
この命はレイが己の一部を与えてまで永らえてくれたものなのだ。
簡単に捨てることなど出来ない。

何よりも自身の恐怖と不安を押し隠し何とか自分を励まそうとしてくれる姉を残して逝く事は出来ないと強く思った。

 



しかし現実は残酷だった。

 



連れてこられてちょうど一年後の八月。
日本とあまり変わらない気候なのか一年中蒸し暑い日が続くなか、珍しく冷たい雨が降った日。


姉が、死んだ。

 

毎日毎日与えられる大量の薬物のいずれかによる副作用。
つらい日々の中で唯一の温もりと支えであった姉が投薬中に突然奇声を発して暴れだし、飛び込んできた研究者に押さえ込まれると、糸が切れた操り人形のように唐突に動かなくなった。 暴れる姉を押さえ込んでいた研究者達に、姉の身体は引き摺り出されてゴミのように無造作に壁に開いた暗い穴の中に放り込まれた。 姉に近寄ろうとして、飛び込んできた研究者や警備員達に弾かれて頭を打った衝撃からくる眩暈を堪えて立ち上がろうともがいていた数秒の出来事だった。

 


いつもいつも自分の痛みを隠して優しく微笑んでくれた姉。
夜眠る時優しく抱きしめてくれた姉。
実験中に負った傷を優しく撫でてくれた姉。

 

たくさん助けられたのに、苦しんでいる姉を抱きしめることも、最後に手を握ってあげることも、

・・・・・・・名前を、呼ぶことさえ、出来なかった。

 


なぜ、自分が生きているのか、わからなく、なりそうだった。

 

 

繰り返される地獄の日々に色あせた記憶の向こうで、綺麗に微笑んでいるレイの涙の残像が
シオンという名に込められた、母たる女神の祝福と優しい祈りが
いつも微笑んでくれていた、姉が残してくれた温もりが


絶望と諦観が齎す虚無の中、自分に、死ぬことを選ばせない

 

姉が死んだ場所で、姉を殺した研究者達の望む実験のために被験者として、生きていた。

 

 

 

 

 

 

2009年 研究所に連れ込まれて3年目。 
 
姉が、死んで、二年目の七月。

”シオン”として生まれた、日。


いつかと同じ冷たい雨が降っていた。

 



その日研究所では、第三次アダム細胞摂取者(シオンたちと同時期に連れてこられた子供達)による使徒細胞活性化実験が行われた。施設設立の第一目的である使徒覚醒信号発生装置の開発が進み、調整のためのデータ収集の為に、アダム細胞を摂取しながら拒否反応を起こすことなく生き残った実験体への反応を調べようというものだった。 ガラス張りの広い部屋に集められる被験者達。不安そうな顔をするもの、諦観から感情を磨耗させたのか凍りついたような無表情のもの、仲の良い友人なのか互いに庇う様に抱き合うもの。

対象となる実験体の中にはシオンの姿もあった。子供達の個々の行動になど気を割く研究者などいるはずも無く。定刻、スケジュール通りに実験が進められる。そして覚醒信号が流されると同時-------

 
 

研究所をすさまじい閃光が襲った。

 


広大な研究施設を蹂躙し、一瞬で巨大なクレーターと点在する瓦礫の山を作り出したのは、体内を炎で焙られるかのような苦しみを少しでも和らげようと己の身体をかき抱く幼い少女。俯き加減の顔を覆う艶やかな黒髪に隠されたその瞳は燃え上がるような深紅。

 
 

シオンが人間として少しでも長く生きていけるようにと掛けられた封印が破られ、
その身に宿る完成したリリスより生まれた第19使徒としての力が暴走したのだ。

 


もし、シオンへのアダム細胞の移植が行われず、覚醒信号の実験だけであったのなら封印が解けることは無かった。もし、シオンを覚醒信号の開発のための被験者にせず、アダム細胞摂取の経過観察実験だけであったなら力が暴走する事態にはならなかったはずである。
 

二つの事態が重なりあった結果、リリス=レイが施した封印が破られ、力の暴走と共に第19使徒として完全な覚醒を果たしてしまったのだ。



そして今彼女を苦しめているのは覚醒でも力の暴走の後遺でもなく、異世界の使徒として力を揮った為に、シオンを排除しようとする世界の干渉に耐えているのだ。もしこのまま力負けしてしまえば危険分子として消滅させられる可能性が高いことに気付いたシオンは持てる力の全てで世界の干渉に抗っていた。



だが所詮はたった一人の存在である。時間をかけたところでいずれ力尽きて負けることは解っていた。しかしこのまま消滅を許容することは出来ない。どうにかして、この世界の意思に、自分の存在を認めさせるしかない。

・・・・考えろ、考えろ、考えろ・・・・・!!

 



シオンは一か八かの賭けに出た。


この世界のリリスを呼び寄せて融合してしまおうとしたのである。


シオンを構成するのは第18使徒リリンであるシンジの魂と完成したリリスから新しく分化したレイの身体だ。異界の存在といってもここは彼の世界と同様の歴史を紡ぎ、同じ様に18種の使徒が構成している世界である。個々人については同姓同名の良く似た他人でしかないが、分化した魂を心として成長させた綾波レイと融合していない今のリリスは、無機的な力の塊に過ぎない。つまりシオンを構成するリリスの力と同質のものなのだ。

そのことを自らを構成するリリスの欠片に刻まれた知識から引き出したシオンは、干渉する力に抗いながらこの世界のリリスに呼びかけ、その魂を引き寄せた。

 
 

遥か海を隔てて遠く離れた孤島の奥から、日本のほぼ真ん中辺り、地下深くに眠る巨大な遺跡の最深部。
「黒き月」と呼ばれる女神の寝所まで、音を伴わぬ声は届いた。

 

その生を望む強い声と、死を拒む必死な想いが、眠る女神を揺り起こし、その身に宿る強大な力を秘めた魂が、世界に抗い、生きることを望む少女の裡へと溶け込んだ。

 

 

シオンは賭けに勝ったのだ。


この世界のリリスの魂を引き寄せ、同化することで、自らの裡にある力の構成を書き換えた。
結果、この世界に存在する資格を世界の意思に認めさせ、その干渉を撥ね退けた。

 



消滅の危機から脱したシオンはしばらくの間冷たい雨に身をさらし、激しい疲労から虚脱した身体が回復するまで、虚ろな視線で空を眺めた。

 



優しい彼女の優しい願い
新しい世界での新しい人生


胸に残る温もりと喪失が齎す寂寥
失ったものと手に入れたもの

 

これからの、こと

 


様々な記憶と感情が目まぐるしく入れ替わり、頭の中を焼き尽くす


そして残ったのは、大切なものを護れなかった自分が、それでも生きている、という現実


この世界も、このまま放っておけばあの赤い世界と同じように滅んでしまうかも知れない、という予測


そして、滅びを食い止めるために、出来ることと、しなければならないこと

 

 



生きている自分が、逃げることは許さない。


赤い世界など創らせない。


この世界のシンジを、レイを、カヲルを、まもる。


絶対に、絶望など、させない。


必ず--------------!!

 

 

 







 

 

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