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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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これは以前書いていたメイン連載のエヴァンゲリオン逆行連載です。
逆行女体化シンジのお話でした。

なかなか続きが書き出せないうちに時間だけが空きまして、もう最後まで書ききる自信がなくなってしまったので封印してたんですが、実は思い入れが一番強いものなので、ちょっと載せてみようかな~と思って蔵出ししました・・・・


現行強シンジ×逆行女体化シンジです。
スパシンです。

*ネルフメンバー・ゼーレには優しくないです。チルドレンにも一部優しくない時があります。最終的には子供達は和解させる予定でしたが。

 



 


明るく陽の光が差し込むマンションの一室。
装飾が無い、シンプルな内装。クリーム色の壁紙と明るい色目のフローリング。
大きくとられた窓には薄く淡いオレンジのカーテンが掛かり、空気の入れ替えのためか少しだけ空けられた隙間からさわやかな風を入れる。広く清潔な台所からは香ばしい香りが広がり、リズミカルな包丁の音が響いて、聞くものの食欲を刺激する。そんな平和な家庭の朝の風景そのものの住宅の奥の寝室では、一人の少年が、白い包帯も痛々しく、深い眠りについていた。

 

 

 


-------- 良い匂いがする。 お腹空いたな・・・
     昨日の片づけで遅くに寝たし、アオイさんには悪いけどもう少し寝てられるか?
     なんか身体が動かないし・・そんなに疲れたのかな。 確か昨日は ---- !!


がばっ


「------- っ!!!~~~~~~っ」

 



夢現に寝る前のことを考えようとして、何があったかを思い出したシンジは反射的に飛び起きる。
が、銃で撃たれた傷が少し眠っただけで治るわけも無く、乱暴に動いたせいで激しい痛みに襲われ、声にならない悲鳴をあげる。


しばらくの間、無言で呻いていたシンジだが、何とか苦痛を噛殺すと、改めて現状を把握しようと周りを観察する。昨夜の襲撃の時にあの男達に撃たれた傷はきちんと手当てがなされ、寝ていたベッドも清潔な寝心地の良いものだ。室内の様子もシンプルで必要最低限のものしかないが、配色のセンスが良いのか温もりを感じさせるものである。

 
 

「ここは・・・・? 知らない天井だな。」


ぽつり、と呟く。



言葉遣いが僅かに荒いが、これがシンジの素である。
施設の職員の面々の前で丁寧な口調だったのは彼らに対して、敬意を払っていたためだ。それに、施設では幼い子供の相手をすることもあるのだ。うかつに乱暴な言葉を使うことなど出来ない。そのために、『美月園』に居る間はなるべく丁寧な言い回しをするように意識していたのである。
 


観察した範囲では、とりあえず自分は誰かに助けられ保護されているようだ。
最も自分を油断させるための芝居かも知れないが、なんとなくそういった悪意は感じられない、ように思う。


では、誰が、何のためにここまで・・・・・

 

 


コンコン

 

思考を巡らせようとした時、ドアをノックする音が響く。
思わず肩を揺らして目の前のドアを見つめると、少し間を空けて細くドアが開かれる。



その隙間からおずおずと顔を覗かせたのは、黒髪の少女。
あの襲撃の最中、為す術なく倒れた自分が死を覚悟した時に、男達を文字通り瞬殺しシンジのことを助けた少女が立っていた。

 


闇に溶ける様な黒ずくめの上下とは違う。白いシャツに赤いキュロット、淡いブルーのエプロンといった出で立ちだが、間違いなく彼女だ。表情も闇の中でシンジが見惚れた、泣き顔とも笑顔ともともつかぬ曖昧な、光の加減でその色を変える宝石のように、見方しだいで印象を変える不思議な美しさを湛えた硬質の表情ではない。


けれどあの時と同じように、どこか怯えているような弱弱しい感情を覗かせながら、
それでも喜びが込められた、柔らかな微笑を浮かべて、明るい声で話しかけた。

 



「あ、起き上がれたのね!よかったぁ。 あれから貴方は三日も寝ていたの。
 でも急に動き回るのはまだ無理だと思うよ? 朝食は此処に運ぶから --- 」


「----- 聞きたいことがある 」

 


意識して冷淡な声音を作り彼女の言葉を遮る。
その冷たい声に顔を俯かせて緊張する少女。
僅かに震えた細い肩が痛々しく映ったが、努めて硬質の視線を保ち相手を見つめる。

 


「あんたは、あの襲撃者について何か知っているか?・・・・それとあんたは何者だ?」

 


とりあえず第一に知らなければならない事を、ストレートに質問する。
答えが聞けたところで、真実である保障は無いが、とりあえずの判断材料にはなる。
そう考えて、顔を俯かせて動かない少女を見据えるシンジ。



殊更冷淡に接しているシンジだが、実際には彼の中に彼女に対する悪い感情は無い。むしろ好意を持っていると言っても良い。だが敵か味方かも判らない相手なのだ。自分の敵を倒してくれたからといって安易に気を抜くことは出来ない。しかも相手は自分を遥かに凌駕する戦闘能力の持ち主なのだ。緊張するなという方が無理である。



シンジは既に、あの襲撃は何らかの目的があって行われた物である、と確信していた。
確かにセカンドインパクトによって悪化した治安の中で、あらゆる凶悪犯罪が激増し、毎日のように何処かの家が強盗や殺人の被害者となる日常である。だが、あの襲撃は明らかに訓練を積んだプロの戦闘集団による物だ。つまり何者かが何らかの目的を持って『美月園』を襲撃するように画策したということである。 ならばまずは敵の狙いが何であるかを知らなければ、これから何をするにしても ( 身を守る為にも、復讐、をするとしても ) 動きようがない。 そのために、取り合えず目の前の人物の知る事を出来うる限り聞きだし、今後の方針を定めねばならない。

 

 
 

一方、黒髪の少女-- シオンのほうも逡巡から次の行動を決めかねていた。
自分はシンジに危害を加えるつもりはないし、むしろ護りたい対象の一人である。



確かにこの世界の人間は皆、自分の知るあの世界の人たちとは同姓同名の相似した姿を持つ他人でしかない。 しかし、自分はこの世界でもあの世界と同じように人類を滅ぼす計画を立てる者が居ることを、その計画の為に犠牲になっている人が居ることを知ってしまった。 その中心に据えられようとしている生贄たるチルドレン達。 特に計画の為だけに生み出され、計画の為に育てられ、その計画の為に殺されようとしている、綾波レイと渚カヲル。 そして、かつてのあの世界での”碇シンジ” と同じように捨てられ、心が欠けるように誘導されようとしていた、この世界の碇シンジ。 彼らが、ゼーレやゲンドウの望みの為に、犠牲にされることを看過する
ことだけは出来ない。それは掛け値の無い本心である。
 

にも拘らず、未だカヲルの居る研究所を見つけ出すことが出来ず、ファーストチルドレンとしてネルフで育てられている綾波には現状で直接干渉することは出来ない。そして、ゲンドウがシナリオの遂行の為に、シンジの心の拠り所を消して、彼を欠けた心を持った子供として誘導しなおそうと画策された襲撃計画を阻止することも出来なかった。 

 
 

使徒としての力の覚醒と暴走によってゼーレの研究所を消滅させた後。シオンは生き抜くために必死になって己を鍛えた。完成した使徒でありながら人間としての心を持つシオンの存在が彼らに知られてしまえば、人類補完計画の為に利用しようと追われることは判っていた。 

自分は、リリス=レイの、この世界に生んでくれた両親の、いつも心を支えてくれた優しい姉の、自分の声に応えてくれたこの世界のリリスの、助力と犠牲によって生き延びたのだ。 愚かなる老人達の欲望のための生贄になることも、妻を取り戻すという独り善がりなゲンドウの望みの為に利用されるわけにはいかない。何よりも、この世界をあんな赤い海に変えることなど許せない。 

その決意を拠り所にしてあらゆる技術を磨き、命のやり取りをする戦場で生き抜いてきたのだ。ゼーレの計画を邪魔するために彼らが保有する数多の施設を襲撃し、彼らの行動を阻害する為にゼーレ所有の実行部隊を殲滅してきた。

 
 

自分が奪った人の命は既に数千に達しているだろう。
あの赤い世界を見たくない、という自分の望みの為に、たくさんの人を殺した。


今の自分は、血塗れた、文字通りのバケモノなのだ。


それを自覚していても、レイに、カヲルに、シンジに、憎まれたり嫌悪されることには耐えることは出来ない、と思った。

 
 

バケモノ、と彼らの口から言われたら、きっと、わたしは、こわれて、しまう
それでも、彼らには、真実を伝えなければ、ならない
それと共に、自分が人間ではないことも、今までしてきたことも、はなさなければ、ならないのだ

 

 

 


数秒か数分か。
重苦しい沈黙を、少女の声が破る。

 


「まずは、朝ごはんを食べない? ずっと寝ていて何も食べてないからお腹が空いたでしょう?
 もちろん毒なんか入れてないし、信用できないなら私が先に食べて見せても良いわ。

 ・・・・・・食事が終わったら、話しましょう。
 貴方が知りたいことは全部、教えてあげる。話さなければいけない、こともあるし。 


 ああ、まだ名乗ってもいなかったわね。 私の名前は -- シオン。 赤月シオン、というの。」

 


先程と同じ口調で話す彼女・・シオンを、変わらぬ視線で見つめるシンジ。
しばしシオンの様子を観察していたが、僅かに苦笑を浮かべて大きくため息を吐き出す。
そして彼女の言葉に頷いた。

 


「シオン、ね。 知っている様だが、俺の名前は 碇シンジ だ。
 それで、朝食とやらは何所で食べればいいんだ?」


「え、ええ、ちょっと待ってね!!」

 


シンジの温度の感じられない冷淡な視線と、真実を知った彼が自分にどういう態度を取るのか、という恐怖で緊張していたシオンは、彼が初めて見せた柔らかな表情に思わず顔を赤らめたが、彼の言葉に我に帰ると慌てて朝食の準備に向かう。 シンジは、その慌てたようなシオンの様子に少しだけ首を傾げるが、深く考えることなくこれからのことに意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

食事をのせた木製のワゴンを押して、戻ってきたシオンと共に朝食をとる。
あまり言葉は交わさなかったが、柔らかな雰囲気の中でゆっくりと食事を済ませた二人。
食べ終わった食器を下げにシオンが一度部屋を出ている間に、質問の内容を確認する。


そして紅茶の載った盆をもって帰ってきたシオンと向かい合い、約束通り話を始める。



「まずは、あの男達は何者だ?」


「彼らは、とある強大な組織の戦闘部隊よ。その組織の目的を果たすためにあらゆる暗部の仕事を遂行するのが役目。」



とりあえず、シンジは先程整理した疑問を順番に聞き始める。



「あんたがあそこに現われたのは、奴ら襲撃計画を止めるためか?」


「・・・そうよ。組織の情報を探っていた時に、ある孤児院の襲撃計画の命令書を見つけたの。
 結局間に合わなかったけど・・・・・」

 


目を伏せながらもシンジの質問に答えるシオン。
シンジも奴らのことを思い出すたびに怒りと憎悪で神経が焼き切れそうになるが、とりあえず情報を得ることが先決、と冷静な思考を保つ。しばらく淡々とした質疑応答を続けるシンジとシオン。順調に抱えている疑問を解消していったシンジはさらに質問を重ねる。

 


「その組織が、孤児院を襲撃した理由を知っているか?」

 
 

それを言葉として発すると同時にその場の空気が変わる。
朝、ドアを開けたときからシオンが纏っていた、どこか弱弱しく儚い雰囲気のままであったが、
同時に、襲撃者達を睨み据えていたときのように、強い光を放つ深紅の瞳で真直ぐにシンジを見つめる。

 


「・・・・知っているわ。 でも、それを話すと、知らないほうが良いかもしれないことまで知ることになるわ。
 それでも、貴方は知りたい?  ----- 何もかも失って、後悔しか残らないかも知れない。
 二度と這い上がれないような、深い絶望の中に取り残されるかもしれないわ。


 それでも、貴方は、知りたいの? その覚悟が、あるかしら?  」

 


シンジがいずれチルドレンとしてネルフに呼ばれることは、碇ユイがエヴァンゲリオン初号機に溶けている以上判りきったことである。人類補完計画を潰すためにも、シンジが計画に巻き込まれた時の為にも、エヴァや使徒、ネルフやゼーレの目的を教えておくことは最低限必要なことだと理解していた。シンジ自身も真実を知ることを選ぶだろうと判っていた。それでも、彼に自分のことを知られて、どういう態度をとられるのかという不安と恐怖が、最後の足掻きのように、彼を試すような言葉として現われた。

 
 

数秒、シオンの言葉を吟味するように視線を巡らせるシンジ。
だが、シオンに視線を合わせると、強い決意を秘めた表情で返事を返した。


 

「--- ああ。 俺は知りたい。 例えそれがどんな物であっても、知らなければならない。
 ただ一人生き残った自分が、何も知らずに生きていくことなんて、許すことなど出来ない。」



シンジの強い言葉に、覚悟を決めたシオンは全てを話し始めた。



「そう・・。わかったわ。ならば、全ての真実を伝えましょう--- それは、私の義務でもあるから。」



一瞬だけ瞳を揺らしながらも、静かな声で話すシオンの様子に改めて姿勢を正すシンジ。
そして、シオンの長い話が始まった。

 



この世界に存在する”ヒト”と呼ばれる生命体は全部で18種に分けられること。その18種を総称して”使徒”と呼ばれていること。完成した個体として存在する17種の使徒のこと。人間が”生命の実”と呼ばれるS2機関の代わりに、”知恵の実”と呼ばれる心を手に入れて群体として生きることを選んだ第18使徒リリンであること。セカンドインパクトがアダムと呼称される第一使徒を人工的に制御し、その強大な力を手に入れようとした者達の実験失敗が原因であったこと。そのアダムの暴走によって、休眠していた他の16種の使徒たちが目覚めて活動しようとしていること。今地上で活動しているのは人間だけだが、いずれ完全に覚醒した使徒たちと熾烈な生存競争が始まってしまうこと。 死海文書と呼ばれる古代遺跡から得た知識で、アダムの人工制御は必ず失敗することを確信していながら、使徒を利用した、とある計画の為にセカンドインパクトを黙認した組織のこと。その組織の目的である「人類補完計画」の内容。そのために開発されている使徒のコピーであるエヴァンゲリオン。開発中の事故によりエヴァに取り込まれた碇ユイ。ユイを取り戻すために「人類補完計画」を利用しようとしている碇ゲンドウと冬月コウゾウ。エヴァのパイロットであり、計画を遂行するために利用されるチルドレン達。その中に碇シンジも含まれること。孤独な環境に追い込むことで欠けた心を持つように誘導した筈が、強靭な精神を育ててしまった碇シンジを弱らせるために、拠り所である孤児院を消そうと立てられた襲撃計画。 碇ユイサルベージ失敗によって生まれた、と思われている綾波レイと彼女を利用したゲンドウの補完計画。 本当はレイは第2使徒リリスのダイレクトコピーであるエヴァンゲリオン初号機の自我がサルベージ信号に触発されて新しく産み落としたリリスの分身であり娘であること。確実にゲンドウの計画を成功させるために人形のように育てられている綾波レイ。 ゼーレによって捕獲されている幼体の使徒。その内補完計画の為に人間の遺伝子と融合させ、第1使徒アダムの魂を埋め込んだ第17使徒タブリスである渚カヲル。カヲルに課せられた役割。量産されるエヴァンゲリオンを利用して起こされるサードインパクトとそれによって叶えようとしているゼーレの面々の望み。それが、成功しても失敗しても地上の生物は滅んでしまうこと。



そして、自分が一度滅んでしまった世界で完成した使徒として目覚め、リリスと同化したレイの力で転生したこと。

滅んだ世界がこの世界の並行世界であること。
その世界で自分が補完計画の中心を担ったチルドレンであったこと。
碇ユイとゲンドウの間に生まれた碇シンジ という名の少年として生きていたこと。


この世界の人達はあの世界と同じ歴史と環境のなかで、同じ道を辿っているけれど、シンジとシオンが別の人間であるように、自分にとっては、とてもよく似た別人でしかないこと。それでも、過去の自分と同じ様に、補完計画に利用されようとしているレイとカヲルとシンジの事を助けたいと思ったこと。



碇ユイの従姉妹、蒼山ユリエの娘として転生したこと。
ゼーレとネルフの謀略で潰されてしまった碇一族のこと。
今の赤月という姓は、素性を隠すための偽名であること。
碇の縁者で生きているのは、自分とシンジだけであること。
今の自分は、シンジにとって再従姉妹(はとこ)にあたること。


両親を殺され、研究所で実験動物として過ごした日々。
繰り返される過酷な実験の中で死んでしまった姉のこと。 
実験によって目覚めてしまった使徒としての力の暴走で研究所を消滅させたこと。

この世界の意思に、異分子として消されそうになった時に、抗うためにこの世界のリリスと同化したこと。
 


赤い世界をもう一度見るのが嫌で、ゼーレの計画を邪魔しようとしたこと。
ゼーレの施設を襲撃し、たくさんの、人を殺したこと。

 


シオンは勢いに任せて補完計画のこともゼーレやネルフのことも、自分のことも、知っていることを全て吐き出した。

ここで話しておかなければ、次の機会があるかどうかもわからない。
何よりもここで引き伸ばしたところで真実を話す勇気が再び湧くとは思えなかった。


シオンはリリス=レイによる転生の経緯を経て精神の強さが補強され、生まれてからの過酷な状況のなかで手に入れた戦闘技術と知識、使徒としての力の覚醒によって肉体的には地上最強の生物の一人である。 しかし、その魂の根本は、とりわけ精神的な痛みに弱く、他人を傷つけることを恐れ、周りの人が傷つくのを怖がる、臆病で優しい子供のままなのだ。 真実を伝えることで憎まれたり嫌悪されたりする可能性が高いと判っていて尚、彼にもう一度話すことなど無理だと思った。 

そうして、恐怖と不安を押さえ込み、ことさら感情を伝えない仮面のような無表情で、それでも視線だけは外さずに真直ぐとシンジを見据えて、淡々と話し続けた。

 

 

 


シンジにとってシオンの話の内容は想像の限界を超えるものばかりであった。
それでも、彼女の様々な感情を押し殺した硬い表情と、強い光を宿す深紅の瞳が、その言葉を信じさせた。

同時に彼女の心を支配する、恐怖と孤独と、その痛みにも気付いてしまった。



人間としての過程を経て生まれながらも、周りの者とは違う生き物であるという孤独
絶望の果てに、手に入れた筈の幸福を再び失ってしまった悲しみ
知ってしまった滅びへ続く未来への確信を見過ごせずに抗うことを選んだが故に重ねられていく新たな罪

強大な力を持つ彼女へ向けられる、畏怖の視線に怯える心
計画の妨害者へと向かう憎悪と怨嗟が齎す重圧


ひとりきりで、生きていかなければならない、寂しさ

 


それは、周囲の全てを拒絶した9歳の幼いシンジが冷たい雨の中、自分は一人で生きるのだ、と決めたときの、どうしようもない孤独と凍りついた心が齎す痛みを思い出させた

 
 

そして多分、よく似た他人であると知っていながらも、大切であったのだろう人と同じ姿の綾波レイと渚カヲルが。異世界で生きていたときの過去のシオンと、同じ姿で、同じ立場に立っている、碇シンジが。いつか向けるかもしれない、畏怖や嫌悪や憎しみの視線を、何よりも恐れているのだと、判ってしまった。



その瞬間、シンジにとって、シオンは華奢で儚い、誰かに護られるべき、一人の少女になった。


人間と同じ姿を持ちながら、強大な力を揮う異種の生き物であるという恐怖も
目の前の美しい少女が異世界で自分と同じ境遇を生きていた少年であったという驚愕も
恐らく地上でトップレベルの実力を誇るであろう戦闘能力を持った相手への緊張も


全てが綺麗に消え去った。ただ湧き上がる衝動のままに、目の前で細い肩を震わせて、硬く強張った顔を俯かせて、与えられるだろう罵倒と向けられる嫌悪の視線に耐えようとしている少女を抱きしめた。

 

 



シオンはシンジの予想外の行動に混乱していた。


異種の生物に対する嫌悪や恐怖の視線を向けられるか
力を持ち、全てを知りながら、ただ事が起きるのを看過した自分への憎しみを向けられるか



覚悟はしても、恐れは隠し切れずに思わずシンジから顔を逸らして、彼の反応を伺っていたら強い力で引き寄せられて彼の腕に抱きしめられていたのだ。姉が死んでしまってから、ずっと一人で生きてきて他人の温もりに触れたことなどなかった彼女は、突然与えられた優しい温もりに戸惑いを隠せない。

だが抱き込まれた胸から聞こえる鼓動の音に、段々と強張っていた体から力を抜いてシンジの胸にもたれかかった。

 

 

 


衝動のままにシオンを抱きしめてしまったシンジも、腕の中で安心したように体を預ける少女の温かさを自覚して激しく狼狽する。シンジにとって美月園の面々を除いた他人は路傍の石と同様の景色の一部か、嫌悪か拒絶の対象でしかなかったのだ。
新藤夫妻を始めとする園の皆と出会って、心を開いた誰かとの交流が与えてくれる温もりを知った。それでも、伯父達や学校で向けられる冷たい視線にさらされての生活は変わることなく。 孤独を知って、欲しいものがあるのなら自分の力で掴み取るしかないのだということを知った幼いシンジが、一人で生き抜くための力を手に入れることを誓った時から、周囲に存在する他人に興味を向ける価値を見出すことが出来なくなった。 ひたすら己を高める為の修練か美月園での生活とで構成されていたシンジにとって、いくら血の繋がりのある、好意的な感情を抱いた相手といっても、ほぼ初対面の少女を抱きしめるなど、晴天の霹靂であった。

 
 

数瞬思考を停止して固まったシンジだが、自分の胸にすっぽりと納まる華奢な少女が、話し終わるまでの間、恐怖と不安を湛えながらも強い光を放つ真直ぐな瞳を向けて、ほんの少しの衝撃で壊れてしまいそうなガラスでできた人形のような無表情で、感情を削ぎ落としたような淡々とした声で語った内容を想いだして、少女を抱きしめる両の腕の力を強めた。
 

そして、胸を満たす温かな優しい感情に促されるまま、穏やかな声で言葉を紡ぐ。

 


「・・ありがとう。 助けてくれて。 本当の事を教えてくれて。
 皆を護ろうとしてくれて、ありがとう。 」


「 ------- いいえっ!! 私は、誰も --- !!」

 


シンジの言葉を聞いたシオンは勢い良く体を起こして、泣きそうに歪めた顔で、激しい口調で言葉を返す。
それを、優しい表情で静かに遮ってシンジは続ける。

 



「襲撃の事を知って必死に向かってきてくれただろう? 本当に俺達を護ろうとしてくれたんだろう?
 先生達の死を本気で悲しんでくれただろう? 


 ・・・・・・・ 自分も大切なものを失くしてしまったのに、皆を死なせない為に戦ってくれていたんだろう?


 たった独りきりだったのに、護ろうとしてくれていたんだろう? 
 話したくないこともあったのに、真実を伝えるために教えてくれたんだろう?


 だから、ありがとう 」





「あ・・・あぁ・・・ ぁぁっ ・・っ・・・・・・ふぇぇぇぇん !!」

 




シンジから贈られた優しい言葉と、柔らかな笑顔。
それを見たシオンはとうとう涙腺が決壊し、大粒の涙を溢して小さな子供の様に泣き始めた。



ただ純粋に、自分達を護ろうと独りで戦ってくれていた少女に感謝を伝えて、向けられるかもしれない拒絶と嫌悪の感情に怯える彼女を安心させたかっただけなのだが、突然大声で泣き始めた少女におろおろとするシンジ。 困惑しきって忙しなく辺りに視線を泳がせていたが、覚悟を決めるようにひとつ密かに深呼吸すると、そっと少女を抱きしめて、優しくその背中を撫で始めた。



優しかった姉が死んで、安らぐ場所も泣く場所すら失った少女が、冷たい孤独の中で、安息を得ることも無く、必死に走り続けてきた分を取り戻そうと、温かい胸の中で泣き続ける。 少女の嗚咽が小さくなって肩の震えが止まり、数年分の涙を流しつくした少女が泣きつかれて眠ってしまっても、シンジは彼女を抱きしめて、優しく優しくその背を擦り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


血の匂いが充満する、薄暗い場所で目を覚ます。

赤い海と白い砂。背後には崩れ落ちた瓦礫の町。ただぼんやりと薄暗い空。
波の音と、自分の呼吸の音しか存在しない、死の世界。
 

それが夢だと知りながら、独りの孤独に打ちのめされる。


レイの、リリスの、姉の、与えてくれた優しい言葉と温もりが、記憶の底で朧に霞み、
赤い世界に独りきりで取り残されたのだという絶望が心を覆う ------

 



甲高い音をたてて砕け散る世界
消える地面から何処までも落ちていく感覚

 


気がつくと目の前には、暖かな家庭の団欒風景

優しく微笑む母親に甘える子供と、幼い少女を抱き上げる父親。
楽しそうに笑いあう二人の少女。


それを、分厚いガラスに遮られた冷たい闇の中で見つめる


滅多に構ってくれなかった両親が、珍しく甘やかしてくれた時の優しい思い出。
いつも優しかった姉が、幼い自分に明るく笑いけてくれる、暖かな記憶。


けれどそれは、今の自分には決して触れられないモノなのだと告げるように、隔たれる距離。

届かないと知りながら、血が滲む程に激しく拳を目前の障壁に叩きつける。



その手から、夥しいほどの血が滴り落ちて足元に溜まり始める

驚いて両の手を見下ろす少女の目に映るのは、傷一つ無い白い手のひらと、その上に溢れる鮮血

呆然とした少女の体に血まみれの亡者の手が絡まり、底なしの血の海に彼女を引きずり込もうとする


迸る絶叫

必死に伸ばされる手が、虚空を掴み


為す術も無く、赤い水の中に沈んでゆく -----------------------------

 

 



と、唐突に全てが消えた。


赤い海も、亡者の腕も、冷たい闇も消え、沈み行こうとした少女の体を抱きとめる優しいぬくもり。
恐怖と絶望に凍えた心を、穏やかに包み込む暖かな光。


そう、これは ----------

 

 

 

 


薄いカーテン越しに差し込む明るい日差しの中で、シオンはぼんやりと目を開く。


赤い血色の夢を見ていた。
刻みつけられた深い孤独と、己の罪に怯える心が見せる夢。



この夢を見た朝は自分の叫びで飛び起きるのが常なのに、穏やかな気分で目が覚めた。
そのことを夢現に微睡む思考の中で、疑問に思いながらも自分を包む心地良いぬくもりがもたらす睡魔に、再び目を閉じようと・・・・・・



して一気にその意識を覚醒させた。目覚めたシオンの目に入ってきたのは、薄いシャツ越しに見える包帯と、血と薬品の混じった匂い。頭上に感じる穏やかな呼吸音と、背中に回されている力強い腕の感触。 そして思い出される昨日のシンジと交わした会話。最後に泣いてしまった自分を優しく抱きしめてくれた彼の腕の中は温かくて----- そこまで思い出したシオンは全身をりんごのように真っ赤にして、慌ててその状態から抜け出そうと身じろぐ。気持ちよさそうに眠っているシンジを起こさないように静かにその腕を抜け出そうとするが、温もりが逃げようとするのが不満なのか、さらに引き寄せられてしまって動くことができない。 無理に腕を解こうとすれば彼の眠りを妨げてしまうし、傷に障るかもしれない。八方塞りの状況で赤い顔のまま固まっているシオン。

 

 


全身を真っ赤に染めて固まっていたシオンは、背に回された腕が小刻みに震えていることに気付く。



---- そういえばいつの間にか寝息も聞こえなくなっていたような・・・・・・



「ふっ ・・・・・・くくくくくっ 。 ~~~ あははっ あ~はっはっはっはっは !!!」



そろりと、顔を出来るだけ見せないように上目遣いでシンジの顔を覗き込もうとすると、限界だったのか盛大に噴出して笑い転げるシンジ。 赤い顔のまま呆然と、シンジの馬鹿笑いを聞いていたシオンは今度は怒りに顔を赤くして彼の頭を叩こうとする。シンジはその攻撃を掴んだ枕でカバーして、笑いをかみ殺しながらシオンに話しかける。

 
 

「おっ、くくっ・・ おはよう。 よ、よく眠れたようだな。 ふっふふ 
 まずは、顔を洗って朝食にしないか?
 ・・・・くくくっ・・・・・・・・・・泣いたまま寝たから目が腫れてるぞ?」


「んなっ! ~~~~~~~っ! 顔洗ってくる!!」



ばたんっ

 



勢い良くベッドを飛び出して、乱暴にドアを閉めたシオンの足音が聞こえなくなっても、しばらく笑い続けていたシンジだが、ふと真面目な表情で静かに呟く。

 
 

「独り、か。 ・・・・・・・・ 単体と群体、シトとヒト、ね。  


 世界を牛耳る秘密結社に、裏で悪事を企む権力者。
 極め付けが、神への道とエヴァンゲリオンに、妻を取り戻すための全人類集団無理心中。
 

 はぁ~~~~~~~  あの親父も、ふざけた事をしてくれる。 」

 


瞳に暗い光を宿らせながら、忌々しそうに呟く。口調は軽く装っているが、内心は憎悪と怒りが渦巻いている。
無論シンジは、くだらない計画の為に孤児院の襲撃を画策したゲンドウも、己の望みの為に周りを巻き込もうとしているゼーレも許すつもりなど毛頭なかった。 

たとえ血縁上の父親であっても当の昔に切り捨てた存在である。シンジにとって、その父が司令を勤めるネルフも、元凶の片割れであるゼーレも存在する価値も無い屑同然のモノでしかない。しかも今回、これほどふざけた事を実行してくれたのだ。 どんな手を使ってでも奴らに地獄を見せてやらなければならない。

 
 

そして、目の前に蘇るのは、深い孤独に打ちのめされた華奢で儚い少女の泣き顔。

自分は人間ではないのだ、と。 自分自身のエゴで、奴らの計画を阻止する為にたくさんの人を殺しておきながら、誰一人助けることもできないのだ、と。凍らせた仮面のような表情で。淡々と告げた、声。 

与えられた温もりに、今までの分を取り返すように大きな声で泣いた少女の涙が。 安心したように身体を預けて、それでも決して自ら縋ろうとはしなかった少女の両腕が。 深淵のような瞳に宿る暗い虚無と激しい慟哭に垣間見えた彼女の闇が。 

シンジの胸を焼き焦がす。 その感情の名を知らないままに、彼女を護る力を欲した。 

 

 

「後悔しか残らないかもしれない・・・・・・か。

 絶望の中に取り残されているのは、 お前の方だろう。」



本人の自覚が無いままに漏らされた、音にならないほどの微かな言葉が、優しく差し込む陽射しに溶けて、静かに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 


「--------- さて、と。 これからの事なんだが。まず、今予定している襲撃の計画はあるか?」


「え。・・・・・・・ あっ、え~と。 し、しばらくは情報収集と下準備に徹しようかと・・・・・・」



突然のシンジの言葉に、狼狽えながらも正直に答える。



朝起きた時に、シンジにからかわれた勢いで部屋を飛び出したシオンだが、あれがシンジの気遣いなのだということは解っていた。昨日の事を気にしないで済むように、わざと軽い雰囲気を作ってくれたのだろう。おかげで、まだ少しだけ顔が熱いような気がしたが、何とか普通の態度で食事を済ませることができた。その後食事が終わったシンジにシャワーを薦める。襲撃の中で倒れてから三日も眠り続け、起きた途端に昨日の会話である。着替えと包帯の交換は欠かさず行っていたが、汗を流してさっぱりしたいだろうと、使い捨ての人工皮膚で傷口を覆って、防水処置を施して準備をする。
 

彼が一人で入浴している間に( 介護しようとしたシオンをシンジが慌てて止めた ) 、食器を片付け、お茶を淹れる準備を整える。シンジが脱いだパジャマや取り替えたシーツやカバーをまとめて洗濯機に放り込みスイッチを入れる。外に干したほうが気持ちが良いが、この部屋はあくまでも隠れ家として利用している住居の一つだ。些細な情報であっても外部に教えるような行動はできない。素晴らしい快晴の空を横目に、残念に思いながら乾燥機のタイマーまでセットして、シンジの着替えを用意に向かう。脱衣所に新しい服を一式と傷の手当て用の薬品を用意する。 ちょうど身体を拭きながら出てきたシンジの治療をして、一息ついたシオンとシンジは、ダイニングのテーブルに座って、窓の外の景色を眺めながら一緒にお茶を飲んでいた。

 
 

ぼんやりと考え事をしていたシオンは、今までの思考を打ち切って、おずおずと彼の表情を伺う。
頭の中を巡っていたのは、これからの予定とシンジへの対応である。

 


勢いに任せて、シンジに全てを話してしまったが、彼と接触するのは、まだ先の予定だったのだ。
ネルフの動向を探ろうとMAGIに侵入した折、偶々見つけた計画に慌てて止めに向って傷ついたシンジを保護したが、これは突発的な事故に等しい。 本当は少しずつ情報をあたえて、彼自身の意思で、ネルフやエヴァに関わるかどうかを決めてもらおうと思っていた。 そして彼が補完計画に関わるのを忌避するのならば、ネルフやゼーレの追っ手から彼を匿い、情報を操作して自分が代わりのチルドレンとして初号機を動かそうと考えていた。ゼーレの研究所から逃げ出した実験体である事を意図的にリークすればそれも可能だと考えたのだ。



今までは、密かに動き回る必要があった為に素性を隠し続けてきたが、使徒大戦が始まってしまえば後はそれもあまり意味が無くなる。 サードインパクトを起こす為の要素--- すなわちエヴァンゲリオンとアダムを消してしまえば、補完計画は頓挫する。 

この世界のリリスはシオンの中に居るのだ。ターミナルドグマに残されて居るのは魂を持たぬ抜け殻である。 リリスから分化して生まれたこの世界のレイに、リリスの力を扱うことは不可能だ。リリスから分化しながらS2機関を持っていないレイは、ほんの少しエヴァに近いだけの人間である。つまり既にゲンドウのシナリオは破綻しているということだ。時期を選ぶ必要はあるが、ゲンドウ達にその事実を明かしてしまえば、レイを利用しなければならない理由が無くなる。 ならば後は、レイ本人にそれを教えて心と感情の育成を促した上で、どうするかを選ばせる。
 

計画のための精神誘導の結果とはいえ、この先もずっとゲンドウがレイを大切にするのならそれも良い、とシオンは考えていた。 レイ自身の身の安全には細心の注意を払うが、本人が何を望むかが大切なのだ。 ゲンドウとの絆を勝手に断ち切って、自分達の陣営に引き込むのでは、ゼーレやネルフのやり方と変わらない。 ゼーレもネルフも最終的にには潰す予定だ。例え途中で補完計画を取りやめたとしても、彼らのしてきた事が赦される理由にはならないのだ。 もしレイがゲンドウと共に在る事を最後まで望むのならば、彼女とも敵対することになる。 彼女に厭われるのも憎まれることも耐え難い苦痛を伴うが、それは自分だけの問題である。 他人に押し付けることは出来ない。

 
 

カヲルについても同様に考えていた。量産型エヴァに使用するダミープラグの材料として彼のクローンたちが蹂躙されることは看過できない為、研究所の探索と襲撃は続けるつもりだ。 しかし、本人が補完計画のことを全てを知った上で死を選ぶのならば、それを受け入れようと思っていた。 もちろん出来うる限り説得はするし、人間として生きることを望むのならばそれを叶える。 
リリスの欠片と融合することで消滅から免れた自分は、使徒としての力と魂を失うことは出来ないが、人間の身体をベースに、アダムとタブリスを融合させて生み出されたカヲルは存在の核が人間のものなのだ。 その証拠に、タブリスとしての力が目覚めていないにも拘らず、既にその自我を確立している。 ならば、タブリス
の力が目覚める第16使徒殲滅以前にその使徒としての力だけを取り除いてしまえば、彼は人間として生きることが出来るのだ。 
 

これは、未だ居場所を特定することは出来ていないカヲルを探す為に情報を漁っていて、チルドレンの公開育成計画に伴って日本に召集されるアスカに代わり、ドイツ支部で予備チルドレンとして選抜される予定だと知った時に考えついた方法である。 出来れば研究所に囚われている彼を助け出したかったが、こうなっては彼が表に出てくるのを待って接触するしかない。 彼が最終的に何を選ぶのかを考えると心が痛むが、現段階でシオンに出来ることなど殆ど無いのだと頭では理解していた。

 
 

襲来する使徒を全て倒した後に、MAGIを支配して全ての情報を公開すればゼーレもネルフも自滅するしかなくなるだろう。 エヴァは最終戦のどさくさに紛れて破壊する。レイやカヲルのデータも消し去り、チルドレンに関する情報を書き換えて真実を隠匿してしまえば彼らがモルモットとして利用されたりする危険は減らせるだろう。 その過程で自分の正体が露見してしまうかもしれないが、計画を潰すことが出来るのならばそれも已む無し、と考えていた。 どの道、いずれ老化が止まって、不老不死の生き物であることを知られる前に、完全に身を隠さなければいけなくなる。 そうなることを思えば、正体が知られることなど大した違いではない、とシオンは思っているのだ。

 
 

そう思考を巡らせていたシオンは、無意識に目を逸らせて考えないようにしていたことがあった。


リリスの分身であるレイや、タブリスの魂とアダムの欠片を持つカヲルならば、永遠を過ごすシオンと共に生きられるかもしれない、という事。 

レイがシオンを受け入れて、”シンジ”が完成したリリンとなった時と同じように、エヴァか使徒のコアからS2機関を取り込んでしまえば、今のシオンと同じモノになるのだ。 カヲルが共に生きることを選んでくれるならば、タブリスの目覚めを促して、心を持ちながらS2機関を内包する完成した使徒となる。
 
その期待がどれ程勝手な物なのかを知りながら、抱いてしまった無自覚の望み。



シオンの孤独の最たる原因は、彼女がこの世界でただ一人、知恵の実と生命の実を併せ持つ、完成した使徒であるという事実だ。 ならば、シオンと同じ存在となったレイやカヲルが居てくれれば、孤独を埋めることが出来るかもしれない、と考えたのだ。



しかし、今のシオンは間違いなくゼーレやネルフの敵なのだ。 そしてレイはネルフに、カヲルはゼーレに属している。 つまり立場上、レイ達とは敵対している。近い将来彼らと出会っても、”シンジ”の時と同じように好意を持ってくれるとは限らない。むしろ憎まれてしまう可能性もある。
 

心に生まれた願いを黙殺した理由はそれだった。

一度でも望んでいる事を自覚してしまえば、訪れる現実に耐えることが出来なくなるかも知れない。 

意識することなくそう結論したシオンは、その考えを心の奥深くに沈めて封印した。

 




そうつらつらと考えて、シンジはこれからどうするつもりなのか、と思考が及んだ瞬間。
計ったように発せられたシンジの言葉に、意味を考える余裕もなく正直に答えを返していた。



彼の態度に自分に対する畏怖や恐怖といった負の感情は見られないし、憎まれてもいないようだ。 
勘違いで無いならば好意を抱いてくれている、とも感じられる。でなければ、あんな風に抱きしめたり笑顔を見せてくれはしないだろう・・・・・・・・・・

 


シンジの真意を探るようにその表情を伺って、彼の次の言葉を待つ。
その怯えた子犬のような態度が可笑しかったのか、軽く苦笑しながら言葉を続けた。

 



「ぶっくくく・・・。 そんなに緊張することは無いだろう?・・・・・ ただ、頼みたいことがあるだけだ。」


「た、頼み?」


「ああ。」

 


苦笑を納めて、真剣な表情でシオンを見詰めるシンジ。
その視線に気圧されながらも、小さな声で聞き返すシオン。
明るい陽射しを押しのけて緊迫した空気が漂う。

 


「その前に改めて確認したいんだが、あんたは補完計画とやらを潰すために、ゼーレやネルフと敵対している、と言ったよな?」


「え、ええ。 そうだけど・・・・」



固い声で訊ねるシンジの様子に不安そうに答えるシオン。
それをあえて無視して続けるシンジ。



「で、その為に奴らの施設や部隊を殲滅して回っている、と。」


「ええ、その通りよ。」



僅かに瞳を揺らして答えるシオン。



「つまり、あんたは世界を牛耳るような権力者が保有する戦闘部隊を相手にしても生き抜ける程の実力を持っている、と」


「まぁ、・・・ そう、言えるかしら?」



シンジの言葉に複雑な思いを抱きながら、曖昧に語尾を濁す。
少女の返答に頷いたシンジは、自分の言葉に不安そうに揺れる深紅の瞳に視線を合わせたまま、決意を秘めた力強い声で告げる。



「シオン。 俺を仲間にしてくれないか?」

「え? 」

 


目を見開いて固まるシオンを見詰めて、続けるシンジ。

 


「まぁ、仲間といっても、今の俺の実力じゃただの足手纏いでしかないことは解ってる。
 だから、奴らと戦えるだけの力を手に入れるために、俺を鍛えてくれないか?


 ・・・くだらん望みのために好き勝手してる奴らをのさばらせて置くなんて虫唾が走る。
 何よりも、奴らは計画のシナリオとやらの為に、俺の大切な人たちを殺した。
 それが、例え血の繋がった父親だろうと許すつもりはない。
 

 ・・・・・俺の望みを叶える為に手伝ってくれないか?もちろん俺も出来る限り協力する。


 シオン、俺を仲間にしてくれ。 一緒に戦って欲しい。  頼む。 」 




「・・・・・なかま? ・・・・・え? 」

 



繰り返し告げられた少年の真摯な言葉を、舌足らずな口調で繰り返すシオン。
瞳が落ちてしまうのではないかと心配するほど、大きく目を見開いて固まっていた少女が揺ら揺らとその目を揺らす。


シンジは静かに立ち上がり、シオンの傍に跪くと、そのまろやかな曲線を描く頬に手を添えて、深紅の瞳を覗き込む。

 



「シオン。 もう独りで戦わなくてもいいんだ。 俺がきっと傍に居るから。・・・ 一緒に生きていこう。 」

 



「一緒・・に?」


「ああ。」




「仲間になってくれるの?」


「ああ。」




「ひとりで、いなくても、いいの?」


「ああ。 ・・・ 誓うよ。 俺はお前を一人にしない。 お前が、望む限り共にいる。


 ・・・・・・・・・・・だから、そんな風に泣くな。  」

 



告げられた言葉を一つ一つ確認するように、たどたどしく繰り返すシオンの言葉に肯くシンジ。
声も無く静かに涙を流す少女の顔を優しく拭い、その頬を両手で包み込んで額を合わせる。


間近に覗き込んだ深紅の瞳に映る自分の顔を見詰めながらシンジが笑った。

 


「あんまり泣くと兎になるぞ?


 ・・・ きっといつかお前を護れるようになるから。 だから、ひとりになろうとするな。・・ずっと一緒にいるよ。 」

 



言葉も無く、首が取れてしまいそうなほどに必死に頷く少女を、優しく抱きしめ誓いの言葉を繰り返す。



永遠を生きるだろう少女にとって、一時の慰めにしかならないことを知りながら、己の心の求めるままに、少女を捕らえるための言葉を放つ。彼女にとって何よりも残酷な仕打ちだと理解しながら、叶わない願いを口にした。

 

 



暖かな腕に抱かれて、欲しかった言葉を貰った少女は、それが一時のものであると知りながら、少年のぬくもりに縋りついた。永遠を生きる自分が、人間である彼と一緒に生きることなど不可能だと分かっていても、束の間の夢を望んだ。
 

血塗れた罪人ごときが、この優しい少年を独占し続けることなど許されないと知っている。それでも、少しだけでいいから、優しい夢を見たいのだ。いつか、この想いだけを抱いて彼の前から消えるから、今だけは許して欲しいと呟いて、彼の背に腕をまわした。

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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