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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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この作品は、エヴァ×アビス基本+seed(キラ・ラクス・クルーゼ・カナード他)、ぼかろ(カイト・ミク・メイコ)設定がクロスする混沌クロス作品です。

・碇レンver

・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
 特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。

本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします



CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)

です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。



 











 

のどかな村に昇り始めた太陽の光が差し込む。
農村の朝は早い。すでに起きて活動し始める人々の気配が賑々しい。勿論不快なものではない。
活気に満ちた人々の働く気配は、こちらも元気を分けてもらえたような気持ちになる。
思わず浮かんだ笑みを隠さずに窓から外を眺める。



(こうしてみると本当に良い村だなあ。)



ルークが寝入ってからこっそり起きて不寝番をしていたレンだ。
まさか他に護衛のいない状態で、正体を隠していてもマルクトの軍人までいる場所でのうのうと眠るつもりは無かった。ルークが気にするので一度寝た振りで誤魔化したのだ。いつもレンの方が起床が早いと知っているはずなので、大丈夫だろう。とりあえずもう少ししたらルークを起こして、今日の道程を確認しておこうと地図を眺める。その視界に緑色の影が入った。



(・・・・?あれ?)



見間違いかと目を凝らす。



(あれって、・・・・?)



間違いない、あれは



(導師?あっちは確か森の方角じゃ?
 守護役も兵士も一緒にいないみたいだけど・・・・)



逡巡する。レンが第一に考えるべきなのはルークの安全だ。だが、世界の象徴と崇められる導師が危険な場所に赴くかもしれない可能性に気づきながら見過ごすのも問題だ。何よりも、年下の少年が危ないかもしれないと思えば捨て置くのは気が咎めて仕方ない。かと言って、寝ているルークを置いて他の人間を呼びにいけるわけもない。どうしようと悩むレンの背後で気配が動いた。

 
 

「・・・・はよ。」


「ルーク様。おはようございます。お体の調子はいかがでしょうか?」


「ん、平気だよ。ありがとな」


「勿体無いお言葉です、・・・あの、ルーク様」

 


振り返ったレンがルークの服を調えながら挨拶する。昨日辻馬車の御者から購入しておいた旅人用の服である。手持ちのアクセサリーを、乗車代金と荷物に交換したのだ。内の一着を手渡して朝のお茶を用意しながら、身支度を整えるルークに相談する。



「実は今外に導師のお姿を見かけたのですが、森のほうにお一人で向かったようで・・・」


「一人?守護役や兵士、は・・・・いねぇよな、昨日の様子じゃ。」


「はい・・・」



深々と溜息を吐くルーク。仕方なさそうに肩を竦めた。

 


「あ~~~っっとに、世話がやけんなぁ。仕方ねぇ、か。レン。」


「はい。」


「導師のことを追いかけようぜ。放っとくわけにもいかねぇだろ。
 ・・・あまり心配はない気がするが。」


「はい。・・・導師はご自分の身を守る術はお持ちだと思いますけど・・」


「ま、取り越し苦労ならそれで良い。朝の散歩だとでも思っとこうぜ。」


「そうですね。」

 


苦笑しつつ提案するルークに、レンも笑って答える。確かに昨日の導師の様子なら、そこらの賊程度を返り討ちする位できそうだ。



「では、参りましょう。」


「・・言葉遣い!」


「はい!・・えっと、いきましょう?」



そこでルークの指摘が入る。ついうっかり従者としての口調に戻っていたレンがぎこちなく言い直す。



「じゃ、行くか」



苦笑したルークが剣を差しながらドアを開ける。慌てて追いかけるレン。

・・・隣部屋のティアは、未だに眠ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





足早に歩く二人の視界に、やがて天を突くかのような巨木を取り囲む豊かな森が現れる。
村の北に位置するチーグルの森だ。ローレライ教団の聖獣と崇められている獣が生息するためそう呼ばれる。
葉を茂らせた木々が隙間無く密生しながら、差し込む陽光が木陰を美しく彩って暗い雰囲気はない。魔物が出ないならば散策に最適な環境だと思いながらルークの横を歩くレン。前に出ようとして再び怒られたため仕方なく妥協する。



(魔物がでたら譜術で直ぐに片をつければ大丈夫。)



気合を入れて周囲を窺うレンの思考を正確に読み取ったルークの微妙な表情には気づかない。



(つくづく、隠し事ができねぇ奴だな・・・・素直なのはいい事だけどよ。
 てか、自分も公爵家のお嬢様だっていう自覚をいい加減持てって。)

 


取りあえずは気の済むまでやらせるか、と諦めるルーク。昨晩飛ばしておいた鳩がカイトとキラに知らせを届けるのを心待ちにする。さっさと追いついてもらわねば、レンの負担が洒落にならない。幾ら彼女が強くても、連日不寝番を務めての旅を続けるのは無理がある。既にエンゲーブまでの道で二日、昨夜で三日目だ。鍛えている人間でも後数日徹夜を重ねれば過労で倒れかねない。

 
 

(一応仮眠は取ったようだが・・・・カイト、キラ、早く来い)

 


そんな心配を含んだ視線には気づかないレンが振り返った。



「ルーク様、見つけました。前方30メートル、導師イオンです。
 ・・・失礼いたしますルーク様!・・・タービュランス!」



導師イオンの前に立ちはだかる影に気づいた瞬間放たれる譜術。
完璧に制御された中級譜術が、魔物だけを消し去る。
識別はしたが念のために、と余波すら導師に届かないようにと計算して展開される竜巻。
それに、イオンが僅かな感嘆を浮かべてこちらを振り返った。


 

「あなた方は、昨日の・・・」


「お怪我はありませんか?導師イオン」



イオンの前にたどり着くと、レンが恭しく膝を着く。ルークも倣いながら気配だけでイオンの様子を窺った。変装している今二人はただの旅人だ。導師の前で許可無く顔を上げることなど許されない。昨夜は気づかぬ振りで誤魔化したが、改めて会ってしまったなら礼儀は払わなければならない。

その姿を見下ろしたイオンがにこやかに口を開いた。



「顔を上げてください。発言も許可します。」



「「はい、ありがとうございます」」


「ええと、・・そういえばお名前を伺ってもよろしいでしょうか?
 僕はローレライ教団で導師を務めています。イオンです。」



昨夜同様の穏やかな仮面の笑顔。優しい口調で話すイオンの瞳が鋭く光る。




「はい、私はルース。こちらはレインと申します。」


「仲がよろしいですね。ご兄弟ですか?」


「はい。・・?ええと」




ルークが答える。それに微笑みながらレインに手を差し伸べるイオン。どうやら助け起こそうとしてくれているらしいが、手を取って良いものかと迷うレンがルークに視線で助けを求める。




「導師様のお手を煩わせるなど恐れ多い。どうぞ御気になさらず。」


「そう、ですか?ではとりあえず立ってください。
 そのままでは膝が汚れてしまいます。」


「は、はい!ありがとうございます」

 



許しに従って立ち上がる。レンが慌てて礼を述べる。イオンは苦笑しながら手を引っ込めて話を続けた。




「ああ、その口調もどうか・・普通に話しませんか。
 此処は公式の場ではないですし、袖振りあうも多生の縁と言うでしょう?」


「ですが・・」


「ね?」




辞退しようとするルークの言葉に被さるように導師が押す。その類の笑顔に馴染み深い二人は反射的に返事を返した。




「「はい、ではお言葉に甘えて・・」」


(つーか、この笑い方、キラや母上と同類か・・・)


(兄さんやシュザンヌ様が、時々する表情に似てるなぁ・・
 二人に会ったら気が合うんじゃないかな?)




熟練度は身内二人が上だが、同類の匂いを嗅ぎ取って疲れているルーク。
完全に味方ならともかく、判断の出来ないうちに接したいタイプではない。
レンのほうは些か呑気だ。大好きな二人との共通点を見つけて少し気を緩める。

 



「ああ、それよりも、危ないところを助けていただきありがとうございます。
 妹さんはお強いんですね」


「いえ!勿体無いおことばで---」


「普通に、ね?」




にっこり、と笑みが強まった。
なんで皆同じ反応なんだろう、と思いながらぎこちなく口調を砕けさせる。




「いえ、どういたしまして・・・?(で、いいのかな?)」


「ふふ、お可愛らしいですね。さぞお兄様も心配でしょう?」


「わかってくれますか。」

 



少しであっても気を緩めた所為で感情が駄々漏れなレン。それを見たイオンが本物の苦笑でルークに会話を振った。これには心から同意するルーク。公式モードにならないときのレンの無防備さに胃を痛めつつ溜息。

 

 

(・・・・キラ。もうちょっとレンに危機感持たせとこうぜ。)

 



過保護人員その2である自覚はないルークが親友に語りかけた。

 



(まあ、良い。俺たちが守れば。)

 



やっぱり過保護な一言で思考を締めてイオンに向き直るルーク。
声音を改める。

 



「それよりも導師が一人でこのような場所にいらっしゃるのは危険では?」


「ええ、実は個人的に気になることがありまして。
 ・・そうだ!もしよろしければ付き合っていただけませんか?
 貴方も腕がたちそうですし、勿論護衛の報酬はお支払いします。」


「いえ、お付き合いするのは構いませんが、私達のような見ず知らずの人間を護衛に据えるのは・・」

 



イオンが心配で追いかけはしたが、ルークのこともこれ以上危険な場所に置きたくないレンが控えめに異議を唱える。といってもあくまで一般人が導師の意見を正面から拒絶は出来ない。遠まわしに気が進まないことを訴えてみる。それに気づかぬ振りでイオンが答える。ルークが僅かに目を細めた。




「それが、最近エンゲーブの方を悩ませている食料の盗難事件の犯人が、この森にいる様で。」


「では、尚更マルクト軍の方に知らせるべきでは?」


「その犯人が、教団の聖獣とされるチーグルなんです。なので、出来れば僕がまず事情を聞きに行こうと思いまして。」
 

「ですが、」


「どうか、お願いできませんか。」



「・・・・わかりました。お付き合いしましょう」


「ルー、、ス?!」


「レイン。」



必死に言い募るレンの言葉を交すイオン。段々と焦り始めた時ルークが言葉を挟んだ。
慌てて本名を呼びそうになって口を押さえるレンにルークが小声で囁く。

 



「導師はどうあっても俺らに付き合わせたいらしい。
 此処で無理に断って拗れても面倒だ。大丈夫だからとりあえず行ってみようぜ。」


「・・・わかりました。」




しぶしぶ了承する。
確かに導師が一人で行ってしまって何かあったら取り返しが付かない。
優先順位がルークに傾いているだけで心配なのも本当なのだ。




「では、私が前に、 「俺が前を歩くのでレインは導師をお守りしてくれ」 ルース!」




レンを遮って言うルークを見るが強い視線で制される。
・・・三人しかいないならどちらも危険度は変わらない。
先程同様敵を譜術で倒せば二人を守ることも可能か、と考えて口をつぐんだ。




「わかり、いえ、わかったわ。じゃあ、お願いね?」


「ああ、任せとけ」


「ふふふ」




微笑ましげに笑ったイオンに気まずげな顔をしたレン。
そのまま進み始めるイオンに従って歩き出す。


つくづく前途多難であった。

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからイオンの歩調に合わせて歩いた三人は、森の中心に聳える巨木にたどり着いた。途中にエンゲーブ産の印である焼印が刻まれたりんごが落ちていたのだ。それを辿ってたどり着いたのが此処だった。一際豊かな自然の気配に囲まれた大きな木。

 
 

---ソイルの木。



---・・ン・・・・・の・・・

 


確かセントビナーにも同じ大木が在ると聞いたことがある。以前読んだ本の知識を探ったレンの脳裏に、ふっと何かが浮かびかける。だがそれが形になる前にイオンとルークの声がレンの思考を打ち切った。

 



「この洞の中にいるようですね。」


「ああ、どうします?入ってみますか」


「ええ、勿論です。・・・レイン?どうかしましたか。」


「いえ・・・・いえ、済みません。なんでもないです。
 凄く、大きな木だなぁ、と思いまして。」


「そう、ですか?・・では、行きましょう」


「はい、導師後ろを離れないようお願いします。」


「はい、気をつけてくださいね」

 



心配そうなルークの視線が向くが、レンは笑って首を振った。イオンの言葉に笑みで答える。レインの歯切れの悪い言葉に首を傾げるが、まずはチーグルだと思ったらしいイオン。疑問の表情を改めてルークに向き直った。ルークもイオンを無視できずに、仕方なく洞に身を屈める。


二人にぼんやりと続きながらレンはもう一度遥かな樹上を見上げる。

 



----こ・木の浄・・用を高・て・・・・すれば、・・・グに、・・
---・・ら、・・・・計画は、・・・・


---・・ア!・・・とう!これ・・・

 



「レイン?」


「あ、すみません!直ぐに行きます」




今度こそ前方に集中してレンが追う。


浮かびかけた何人もの会話が立ち消える。
とても懐かしい、と感じたレンの感情も。
そう考えた事さえ一瞬で霧散する。


そして、葉擦れの音だけが残された。

 




ソイルの木は、変わらずにそこにある。

遥か遠い、とても遠い昔から、ずっとずっと、その場所に。
















 


イオンを後ろに庇いながら洞に入ったルークは、一瞬で後悔した。

目に痛いパステルカラーが視界を埋める。
甲高い声が幾重にも木霊して耳がおかしくなりそうだ。


チーグルの群れである。
大木の外見から想像したとおりに広い洞の中に、隙間無く身を寄せ合った小動物が僅かの停滞も無く延々と鳴き続ける。単体ならば可愛いと思えなくもないころころと丸い生き物が、右に左に蠢いている様は鬱陶しいの一言に尽きた。


 

(・・・・うぜぇ。)



たとえ教団では聖獣と呼ばれようと、ルークにとっては只の動物である。何の衒いも無く内心で吐き捨てたルークが、イオンに場を譲る。とてもチーグルと進んで関わる気にはなれない。そんなルークに笑顔で礼を述べたイオンが話し始めた。


 

「失礼、僕はローレライ教団で導師を務めていますイオンと申します。
 こちらに一族の長はいらっしゃいますか」


「ユリア・ジュエに縁の者か?」



返された言葉に人間三人の視線が集まる。そこに大きなリングを抱えたチーグルが鎮座している。この群れの長らしい。

 


「喋った?」


「ユリアとの契約で与えられたリングの力だ。」



思わず呟いたレンにチーグルが答えた。

 


(契約?違う、あれは・・・・)

 


何やら会話を始めるイオンとチーグルの長。それを聴覚から感知しながら、レンはこめかみを押さえる。キィンと甲高い耳鳴りが響いて耳の奥が酷く揺れる。頭痛を堪えるレンの脳裏に、反射的な不快感が巡った。



(それは、契約なんかじゃなくて、あの、人が、)


「おい!!」



そこで突然正常な五感を取り戻す。ルークが強く腕をつかんでレンの顔を覗き込んでいる。その後ろからイオンとチーグルがこちらを見ていた。突然始まって綺麗に消える頭痛。時折レンを悩ませている持病だ。治まってしまえば違和感も残らないのでレンは大したことがないと思っているが、いつも皆に酷く心配させてしまう。



(また、か。)


「すみません、もう大丈夫です。
 ---会話を中断させてしまって申し訳ございません。」



額に浮かんだ汗を払ってからルークに謝る。次いでイオンと長老にも謝罪した。不可抗力だが失態は失態である。そのレンの言葉に苛立ちを浮かべかけたルークが、次の瞬間には気を取り直したように返した。




(こっちの心配ばかりしてんじゃねぇよ!)
「いや、もう大丈夫か」


「はい」


「気分が悪いならば、外に出て休んでいても、」


「いえ、大丈夫です。お気になさらず。申し訳ございませんでした。」

 


イオンにも笑顔で答えたレンが姿勢を正している。苛立たしいのは事実だが、誰かにぶつける類の物ではない。ルークも表情を繕って再びイオンと長老に向き直る。ルーク自身も時折ある事だが、レンの場合本当に原因不明だというのが自分達の不安を煽るのだ。頭痛に苦しむ彼女の表情は、痛み以上の何かに囚われていて、とてもそのまま放っておけない。



(キラが此処に居ればまだ、・・・早く追いつけキラ。)



イオンらの言葉を聞きながら呟く。とにかく早くレンをキラの傍に戻したいと気が焦る。

 


(だが、まずはこの場の問題から片付けないと、どうにもならん、か・・)

 


忌々しく思いつつもイオンに尋ねる。



「・・・それで、導師はどうなさるおつもりですか。

 幾らチーグルが教団の象徴を担うといっても、今回の問題は全面的にチーグルの過失です。この上なく悪質な。」

 


事情を知ってしまえば誰もが浮かべる当たり前の感想を述べる。


盗難事件の犯人は、やはりチーグル一族であったらしい。
それはそれで問題だが、最悪なのはその原因が、一族の子供がライガ一族の住まう森を誤って燃やしてしまった事だそうだ。当然激怒したライガの女王は新たな住処を探すまでの仮宿と、火事で失われた群れの戦力の代わりに食料の調達を命じた、と。



「それにしても、チーグルとやらは随分と卑劣な種族なのですね。」

 


苛立ちに任せて辛らつに言い切る。イオンの前でこのような振る舞いは本来許されない。
だが、今のルークにそんな配慮をしてやろうという余裕などなかった。

 


「比べ、住処を理不尽に奪われ仲間を殺されたにも関わらず、仮宿の提供と食料調達の手伝い程度で許すとは、ライガの女王とは寛大な方だ。 その寛大な御心に感謝して仲間全員で努力をすれば不可能な条件ではなかった。それを一方的に破棄した貴方方が卑劣でなければ何だというんです。」


「・・な!!だが我々も大人しく食われることを選ぶことは出来ぬ」


「楽な方法を選んだだけでしょう。先程イオン様が仰ったようにこの森はとても豊かだ。
 まさか自分達の食い扶持しか確保できないなんてことはなかったはずです。
 ライガ一族に必要な食料は確かにチーグルの消費量から比べれば大量になるでしょうが、
 それでもこれは犯した罪にたいする罰なのです。多少の苦労は当然だ。」 


 

言葉に詰まる長が逃げ道を探すように目を泳がせる。その狡猾な表情に嫌悪を募らせたルークが言葉を続けた。

 


「当然払うべき対価を渋って他種族から食料を盗難するという手段で余計な被害を広げた。
 その結果、食料を奪われた他種族・・つまり人間からの報復の危険にライガ一族を晒したわけだ。
 もういっそ、全員でライガの女王に身を捧げるべきでは?」


「な!だが・・・!!」

 


往生際が悪い長老から視線を外してイオンを見るルーク。

 


「それで、導師は何をなさるおつもりです。」


「そう、ですね・・・」

 

 

 

「決まっています!!ライガを説得するべきです!!」

 


甲高い声が割り込んだ。

 



「貴方達!!こんな危険な場所に導師をお連れしてどういうつもり!!」

 



ティアだ。詰め寄る彼女にルークがうんざりと返す。

 


「何故此処がわかった?」


「村の人に貴方達が北の森に向かったと聞いて追いかけたのよ!
 そんなことより、導師イオンに対するその態度も何なの?!」


 

ルークの怒りを感じて口を挟めなかったレンが思わず耳を塞ぐほど大きな声で喚くティア。何事か考えていたイオンも眉を潜める。

 


「その導師の言葉を無礼に遮ったお前が言える台詞かよ。
 しかもライガを説得だと?どうやってだ?」


「何をいってるの?当然でしょう。ライガは本来この森の住人じゃないのよ。
 今の状態は本来の食物連鎖に反するわ。ならば出て行ってもらうべきよ。」



イオンが唖然とする。レンも肩を落とす。ルークが答えた。

 


「お前もチーグルの同類か。加害者に都合の良い理論で被害者を迫害するわけだ。
 ・・・どうりで自分の罪に無自覚だと思ったよ。」



そのルークの言葉に顔を上げたイオンが問おうとするが、ティアの怒号が遮った。

 


「いい加減にして!!私は悪いことなんかしてないわ!!
 あれは個人的な事情があって仕方ないことだったといったでしょう?!
 ライガが此処にいるのが間違いなんだから、出て行くならライガのほうよ!!」


「・・・・・・・・・そうか。で?導師の結論は?」

 


低い声でルークが聞いた。
ティアには視線を向ける価値もないと態度の全てで語る。
流石のレンも、ティアを庇おうとは思わない。

 


「そう、ですね。・・・・交渉はします。」


「ほう?どの様に。」



試すように語尾が上がるルーク。募りに募った教団への不快感で導師に対する不信も跳ね上がる。敬語が形のみになりかかっている。イオンもティアを見て何かを悟ったらしい。そのルークの態度には言及せず答えた。


 

「原因はどうであれ、ライガにこの森に滞在されては各方面への影響が大きます。
 それに、・・・・・チーグルが教団の聖獣である事実は変わりません。」



その言い方に、少し我に返ったルークが態度を戻した。

 


「象徴、ですか。」


「そういうことです」



仮にチーグルの過失を知らしめたとしたら、それは聖獣の権威の失墜を意味する。教団の威信の問題だ。
まあ本来は加害者がチーグルなのだから、それも已む無しと考えることは出来る。だが一度根付いたイメージは消えない。チーグルは聖獣だ。つまり人間にとってチーグルは善なのだ。
幾ら今回の事件でチーグルが全面的に悪くても、人間社会からみればチーグルに害を為す側が悪なのだ。もともとライガは肉食で人間には害獣だと認識されている。エンゲーブの盗難にライガが関わっているとしれたら、無条件でライガは殲滅対象にされるだろう。冷たいようだがそこでライガを残らず滅ぼせるならそれで良い。しかしそれは不可能だ。そうなれば生き残ったライガは教団を敵と認識する。気高いライガが無差別に教団員に襲い掛かるとは思わないが、楽観はできない。教団とライガ一族の闘争などいう事態になったら目も当てられない。


だから、イオンはマルクトに知られる前に、この事件の片をつけたがっている。
そして最も早く収束させる方法は、やはりライガに移住してもらうことなのだ。

 


(ここは、エンゲーブに近すぎる。
 マルクトが事態を知ったら即座に駆除を決定するな。・・・・仕方ねぇ)


「・・・・わかりました。とにかくクイーンの元へ向かいましょう」


「ありがとうございます」



視線で意図を伝え合ったルークとイオンが同じ結論に達する。

教団の威信だけが問題ならルークにとっては感知する義理もない。が、被害者のライガが理不尽に迫害されるのを見過ごしたいとは思わない。要するに利害の一致だ。ルークとイオンが速やかに踵を返す。会話には入れなかったが、理由はなんとなく察したレンも追いかけた。


 

「あ、交渉に必要だからこいつは借りてくぞ。」



何時の間にやら長から抜き取ったリングを掲げたルークが、片手に事件の犯人であるというチーグルを掴んでいる。

 


「みゅ!みゅみゅみゅみゅ!」


「うるせぇよ、とりあえず今回は生き延びられた幸運だけをかみ締めて死ぬほど反省しやがれ!」


「ちょっと!!待ちなさい!」



チーグルに肩入れするティアが何か言いかけるが、それはイオンが笑顔で遮った。

 


「ああ、そうですね。交渉しようにも言葉が通じなければどうにもなりません。
 では、長殿、そういうわけですので。失礼しますね。

 ・・・・・今後、このような不始末をしないよう、肝に銘じて置いてください」




最後の言葉を長達にだけ聞こえるように低く囁くイオン。その響きに何を感じたのか一族総出で小刻みに肯いている。

 


「では、いきましょうか」


「はい!」



ティアだけが元気良く返事した。ルークとレンは目を見交わして苦笑を零す。

 


(やっぱり、キラ達と同類だ)


(キラ兄さんと同じだね。強いなあ)











 

ライガクイーンの寝所への道中、通訳にとつれてきたチーグルの子供---ミュウと名乗った--は何故かルークとレンに懐いた。

乱暴な手段で連れ出したのだから怯えるかと思いきや、ルークの言葉と長の言葉を聞いて何か思うことがあったらしい。全ての原因である火災を起こしたことを後悔していたミュウは、贖罪のための食料調達の方法が根本から間違いだったと知り、その影響でライガ一族がどれほど危険な立場に立たされたのかを理解して、長老達への不信を覚えた、と拙い口調で言った。

それを教えてくれたルークは、一族の者よりも信頼できるからと言ったのだ。
ライガクイーンとの交渉で、必要ならばこの身体を捧げることも辞さないと宣言した。
もしもクイーンに許されることがあるならば、恩返しにルークに忠誠を誓うと言った。
勿論ルークにとって大事な人らしいレンに対しても同様に仕えると言う。


その潔さに感心したルークとレン。とてもあの長老が率いるチーグル一族で育ったとは思えない。イオンも傍らでミュウの言葉を聞いて満足そうに肯く。ティアだけはミュウの外見のみに視線を奪われて欠片も話の内容を聞いていないが、最早誰一人それを指摘しようともしなかった。

 



そしてクイーンの寝所に近づく。
ティア以外の三人と一匹に緊張が走った。・・・周りを囲まれている。
姿は隠されているが、ライガであることは間違いない。ミュウに対する憎しみを漲らせながら、無差別に襲うような真似をしない誇り高さに再び感心する。さすがは森の王者と讃えられる種族である。チーグルなどとは比べ物にならない矜持の高さ。ルークとイオンがちらりと苦笑を交す。レンは油断なく周囲をうかがってルーク達の安全確保にのみ集中する。何も考えずに着いてくるだけのティアはただの付属物扱いである。

 

 

「では、ミュウ。通訳をお願いしますね。
 ・・・・失礼いたします。私はチーグル一族の代理人として参りました、イオンと申します。
 ライガ一族の長殿に聞いていただきたい話があるのです。」


 

そのままミュウが訳す。一瞬間が空いて、奥の影からライガの声が響いた。どうやら入室を許されたらしい。


 

「みゅ!女王さまが、取りあえず入って話してみろといってますの!」


「ありがとうございます。では失礼いたします。」



道中と同じようにまずルークとミュウが、次いでレンとイオンが、最後にティアが続く。・・・本来一番先頭で矢面に立つべき本職軍人の役目を放棄して恥じることのないティアへの期待など微塵も抱かない。せめて後ろからの奇襲にたいする盾に位なれ、というのがルークの意見である。レンも隣のイオンと前のルークを同時に守る事だけに気を割いているので、ティアにまで配慮する余裕はない。曲りなりにも軍人なのだから自衛くらいはしてください、と思ったので否定はしなかった。

 



「・・・初めてお目にかかります。
 私はローレライ教団の導師を務めております、イオンと申します。
 こちらは道中の護衛を勤めてくれたルースとレイン、このチーグルは今回の会談での通訳にとつれてきました。寛大なお心で私どもの申し出を受けて下さり、ありがとうございます。」

 


ティアの存在を故意にスルーして話を進めるイオン。いい性格だ。
イオンの言葉にライガクイーンが一つ吼える。ミュウがすかさず訳した。



「みゅ!私はライガの群れを率いているものだ、丁寧な挨拶には痛み入る。
 何かいいたい事があるのなら聞こう、といってますの!」

 


ルークとレンがひたすら感嘆の目でクイーンの巨体を見上げる。その悠然とした姿といい、聡明な眼差しといい、これこそが正しく王者の貫禄というものか。インゴベルトなどとは比べるのもおこがましい。魔物であることなど評価を下げる材料にもなりはしない。


 

(さすがクイーン。)


(格好いい・・・・)



「はい、では・・・・大変申し上げにくいのですが、ライガ一族の方々にこの森から住居を移していただきたいのです。」

 


恭しい態度ながらイオンがきっぱりと言い切った。それをミュウが伝える。途端クイーンの怒声が響く。当たり前の反応であるからイオンら三人は変わらず礼儀を守って頭を下げる。ティアだけが怯えて武器を構えようとしたのを、近くいたレンが抑えつけた。睨まれるが力を緩めず後ろに押し出す。


 

「お怒りはご尤もです。今度の事件に関して、チーグルに弁解の余地はありません。
 ・・・・ですが、ライガ一族がこの森に滞在するのは、お互いの為にもならないのです。」



低く唸る声で先を促すクイーン。イオンが続ける。

 


「ご存知の事とは思いますが、この森はエンゲーブという人里に近すぎます。
 貴方方に非がなくとも、人間にとってライガは天敵に等しい存在なのです。
 もしも此処に貴方方が滞在を続けると、早晩人間達は排除のための策を実行するでしょう。
 幸いライガ一族の皆様なら居住が可能そうな場所に心当たりがあります。ここから距離がありますが、北にずっといった場所にキノコロードと呼ばれる森です。広大な森林区域には多数の獣達が生息しているでしょうし、何より人間はおいそれと近づける環境ではないため、ライガである貴方方には比較的住みやすいかと。


 ・・・・どうか、住居を移していただけませんか。お願いします。」

 


クイーンが問うようにイオンに視線を合わせた。

 


「私は出来れば貴方方に犠牲になっていただきたくはありません。
 ですが、此処にいらっしゃるのならそれを防ぐ術はないのです。
 どうか、」



重ねて懇願するイオンの真摯な眼差しにクイーンが黙考する。
僅かな逡巡で答が出たらしい。天に向かって一声吼えてから、イオンを見つめる。

 


「みゅ!今回のことは礼儀を尽くそうとしたお前に免じて我らが引こう。
 だがチーグル達を許すわけではない。人間を利用して身を守ろうとしたその卑劣さは侮蔑に値する。
 二度と我が一族の目に触れる場所に出ることは許さぬ。二度目はないと伝えろ、と言ってますの!!


 ・・・ごめんなさい!女王様!全部ミュウが悪いんですの!!」



クイーンの言葉を伝えたミュウが、必死に身を乗り出して謝罪する。大きな頭を地面につくほど下げて震える身体でいいつのった。その姿を一瞥したクイーンが小さく吼えた。



「みゅ!お気が済むなら、ミュウは食べられても良いですの!
 悪いのはミュウですの!」



どうやら、ならば我らに身を捧げて罪を償うか、と問われたらしい。ミュウが震えたままでもきっぱりと答える。その姿に僅かに目を細めたクイーンが唸る。


 

「ありがとうございます!!このご恩は一生忘れませんですの!!」

 


ミュウの潔さに免じて許すとでも言ったのだろう。クイーンの寛大さもだが、ミュウにも感嘆が集まる。幼いながら、どこまでも男らしい子供である。

 


「ありがとうございます。
 クイーン並びにライガの一族の方々には重ねて御礼とお詫びを申し上げます。」


「「ありがとうございます」」


「・・・」



イオンが再び深く頭を下げる。会談を邪魔しないように控えていたルークとレンも、共に感謝の言葉を捧げた。ティアが不満げな表情で見ているが無視した。とにかくこれで問題解決の目処がついたのだ。三人と一匹は安堵する。

若いライガに指示を与えながら、慎重に卵を抱えるクイーンを心配そうに見守る。そこでルークに耳打ちされたレンがそっと前に出た。



「失礼いたします。恐れながら申し上げます。
 女王陛下、もしよろしければ産後のお体への負担を癒すために譜術を使わせていただきたいのですが。そちらのお子様をお守りするための防護の術も心得ております。どうか、」



控えめに申し出る。卵を産んだばかりの女王が、新しい住居までの旅路を少しでも安全に過ごせるようにと考えたのだ。治癒術を専門に修行と研究をしているレンは、既存の術のほかにオリジナルで開発したものもある。元々はレプリカとしてのハンデを抱えるルーク達を守るためにと考えた結界術の応用だが、クイーンの卵にそれを施せば道中の心配事が減らせるだろう。口を出していいものかと悩むレンに気づいたルークが背中を押してくれたのだ。


 

「・・・・いいだろう、可能ならばたのみたい、といってますの!!」

 


眼差しを和らげたクイーンがレンに向かって巨体を屈めた。顔をほころばせてレンが近寄る。



「はい!ありがとうございます!!では失礼いたし、


 ・・・・!!皆様!!お下がりください!!・・・・グランドダッシャー!!、、っバリアー!」

 



和らいだ雰囲気をぶち壊したのは、背後から放たれた攻撃譜術だ。

いち早く気づいたレンが、ルークとイオンを突き飛ばしクイーンを庇う。即座に攻撃を相殺するための譜術を放った。同レベルの譜術同士を同時にぶつけることで威力を殺しあうという乱暴な手段だが、最も確実に攻撃を防げる。ただし相殺された譜術の余波が広がるのは避けられない。だから同時に結界を張ってルーク達とクイーンを守る。三人を僅かでも離して下がらせたため個別に術を施さなければならず、己を守る余裕を失う。失態に顔を歪めつつレンが衝撃に吹き飛ばさる。背後のクイーンがレンの小さな身体を受け止めた。辛うじて急所は庇いはしたが全身が傷ついたレンに駆け寄るルークとイオン。



「「レイン!!」」


「みゅ!レインさん!」


「な、なにが・・・」

 



クイーンが激情に煌く視線を寝所の入り口に向ける。ルークも怒りを漲らせて剣を構える。イオンがレンを庇うように前に出た。戸惑うだけのティア。ミュウは必死にレンの手をなめる。全員の視線を受けて歩み出たのは青い軍服の男。ジェイド・カーティスだ。

 



「おやおや、わざわざ攻撃に身を晒すとは・・・イオン様、ご無事です・・」


「ジェイド!!」

 


業とらしく肩を竦めたジェイドの言葉を遮ってイオンが叫んだ。その咎めるような響きに眉をしかめたジェイドがイオンを見た。

 


「どうしました、導師イオン。
 私は貴方の身をお守りするために魔物を攻撃しただけです。
 彼女が勝手に前に出たのは本人の落ち度でしょう。」


「貴方は状況が見えていないのですか!!
 クイーンは寛大にも自ら退去してくださるところだったのですよ!!
 それを奇襲など仕掛けた挙句、僕達を守ってくれた女性にその態度!
 レインとクイーンに謝罪なさい!!」


 

叱責されても態度を変えないジェイド。味方識別を施していたのだからイオンらに危険はなかったのだとでも言いたいのだろうか。そういう問題ではないという事に気づきもせず、無言でイオンを見下ろしている。
イオンがますます眉を吊り上げ、ルークが殺気を放つ。ティアは場違いに安堵して二人と二匹に睨まれる。クイーンが気遣わしげにレンを揺らす。直ぐに気がついたレンが顔を上げた。


 

「・・・失礼、いたしました。女王陛下、イオン様、ルースも、お怪我は・・?」


「・・!だからお前はまず自分のことを心配しろ!!・・・無理に動くな!」



この期に及んでまず他人の怪我を心配するレンにルークが叫ぶ。取りあえずイオンがいるならジェイドがこれ以上攻撃することはないだろうとレンの傍に駆け寄り、クイーンに感謝の視線を向けてから傷ついた頬を拭った。


 

「どこか酷く傷めたか」


「いえ、かすり傷です。ありがとうございます。
 女王陛下も申しわけございません。」



見上げて微笑むレンの顔に鼻先を摺り寄せるクイーン。滑らかな毛皮の感触に擽ったそうに笑う。それを横目にイオンが厳しくジェイドの名を呼ぶ。仕方なさそうに向き直るジェイド。ルークがレンの前に出たまま睨みつける。



「・・・大変失礼しました。お怪我は?」


「いえ、平気です。御気になさらず」



レンが微笑んで答える。流石に穏やかな心境ではなかったが、表面上は気にしていないように振舞った。取りあえず守るべき三人に怪我がなかったのだからよしとする。ルークの袖を引いて止めながら、クイーンに向き直った。


 

「お待たせいたしました女王陛下。
 では術を行わせていただいてよろしいでしょうか」


 

自分と卵を本気で気遣っているレンの表情を読んだクイーンが再び身を屈めた。ジェイドの存在などないものとして振舞う。結局クイーンには一言もない無礼さは見なかったことにした。口先だけの謝罪など不快なだけだ。


それよりも、魔物である自分に本心から礼を尽くしたイオンとルーク、人を食らうと嫌悪されるライガの子供にまで本気で優しさを向けるレンへの興味が勝った。この三人は信用できる。だから今回のチーグルの罪を許してやろうと思えたのだ。火災の実行犯であるチーグルの子供の潔さにも感心したのも事実だが。


身を包むあたたかな力に心から癒されながらクイーンが満足気に唸った。次いで卵に何やら譜陣を描いた布を巻いているレンの頭に鼻を寄せる。レンがその術の効果を説明するのを聞きながら、今は人間社会で生活する育ての娘を思い出すクイーン。・・・アリエッタは息災だろうか。


 

「・・・ですから、安全な場所に落ち着かれましたら、この布を外してください。もしも必要ならばそのままでも支障はございませんが、女王陛下が直接触れて差し上げたほうが、お子様方もお喜びになるかと愚考いたします。」


 

あくまでライガの卵を守るべき赤子として扱うレン。ルークとイオンが微笑ましげに見守るが、ティアは不満そうだ。ジェイドは既に興味すら無さそうに佇むだけなので放置する。つくづくジェイドがこういう時の対処に不向きであることを再確認しただけだ。まあ、この場合は助かっているので構わない。


 

最後にレンに感謝するようにすり寄ってから、イオンとルークに挨拶するように吼えるクイーン。
その威厳に満ちた後姿が群れを率いて立ち去るのを見送る一同。

 

 




「・・・随分と優しいのね。それとも甘いのかしら。」

 


ずっと存在を無視されていたティアがそこで不満げに吐き捨てる。
ルークもイオンもレンも聞き流す。今更過ぎて注意する気にもならない。しょんぼりと俯いたミュウの頭をこっそりと撫でてやるルーク。ジェイドは変わらず無言で立っている。ティアは誰も反論しないからと更に声高にいい募った。



「ライガが引き返してきて村を襲ったりしたらどうするつもり?
 ライガの幼獣は人間を食べるのよ?」


「心配は無用です。
 人間と違ってライガの女王は約束を破って平然と開き直るような恥知らずではありませんから。
 彼女がはっきりと約束した以上この問題は此処までです。いいですね?」


「ですが、導師イオン!」


「良いですね?」



反論しようとするティアに重ねて念を押すイオン。
自国の最高指導者に対してすらその振る舞い。本気で常識を0から勉強しなおせと思うルーク。口には出さない。面倒だからだ。
 

そこで場違いに穏やかそうな口調でジェイドが口を挟んだ。

 


「では、そろそろ帰りましょう。イオン様、貴方には大事なお役目があるでしょう?」


「そうですね、面倒をかけてすみませんジェイド。ありがとうございます。」



こちらも表面だけは穏やかに返すイオン。ジェイドの態度を矯正するのはとっくに諦めているのだとその表情で知れた。

 


(うわぁ・・・)

(類は友を呼ぶってか?)



「では、ルース、レイン。お二人もありがとうございました。
 よろしければ村まで一緒に帰りましょう。」

「「はい。」」


 

こちらには幾分柔らかく微笑むイオンにレンとルークが返事を返した。多少なりとも危機を潜り抜けた連帯感で繋がる三人。ころころと足元を転がるミュウがそれを見上げて笑った。ティアは再びルークを睨むが無言は保つ。ジェイドが口元にひらめかせた笑みに嫌な予感は感じたが取りあえずエンゲーブへの道を辿った。

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 

 





 

 

 

 

 












 


 

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