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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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*本編前の過去編

*碇レンと二人の幼馴染(うちはイタチと惣流アスカ(♂))でスリーマンセル時代の日常風景
*シリアスほのぼの半々位

*三人とも自分の家に対して辛口です。
*時々木の葉にも辛辣です。

*レン達が中忍昇格試験を受ける直前の話
*イタチから見た碇親子と、レンが抱える葛藤と臆病さゆえの卑屈な結論について

*幼馴染sはお互いが好きだし大事ですけど、この時期はまだまだ上手くかみ合ってなくてすれ違ってました、と、そういう話(主にレンの卑屈さと臆病さの所為ですが)



 


御題配布サイト「age」(管理人吟さま) http://pick.xxxxxxxx.jp/からお借りした

「さるしばい家族の10題」 より、「いくつになっても駄目な人」



 


 




食い下がって見送りを申し出たは良いが、その後の会話の切欠がつかめず引きつる笑みを維持するのに精一杯なレンを、一瞬だけみやったゲンドウが口を開いた。

 
 

「・・・・・・髪が、伸びたな。」


「、え、あ、はい!」

 


緊張に身体を強張らせていたレンが、一瞬詰まってから、嬉しそうに華やいだ声で相槌を打った。父が、自分の変化について言及したのだ。些細な内容であってもやはり嬉しさを抑えきれずに笑みが深まる。折角の機会なのだから何か会話を、と焦燥すら感じていた内心が、現金なほどに浮き立った。

そういえば、”過去”で見かけた”父さん”と綾波との会話も、言葉が弾んでいた印象はないし、ネルフ内で副指令やなんかと歩く姿を見かけた範囲でも常に言葉少なに肯く程度の返答しかしていなかったようだから、これがゲンドウなりの会話なのだ、と必死に己を納得させていたのだが。

そうやって半ば無理矢理自分を誤魔化していたレンにとって、今のゲンドウの言葉は予想以上に嬉しかった。微かに頬を赤らめて肩にかかるくらいに伸びた髪に手をやろうとするレン。だが、そんな愛らしい少女の仕草は、次に落された父の言葉に凍りついた。

 


「身だしなみも整えられないほどに忙しかったのか。」
 

「え、」


「仮にも忍の端くれが、ずるずると髪を伸ばしっぱなしにするとはな。」


「あ、の、父上?」


「冬月に言っておく。」

 



愕然と顔を上げたレンを見下ろすゲンドウの視線は、伸びかけた髪を見ている。
確かにレンは未だに少女らしい装いに慣れていないため、他の少女達の様に華やかに髪を結ったりはしていない。だが、毎朝きちんと櫛で梳かして整えているし、毛先が乱れない程度に切りそろえたり位の手入れはしている。決してだらしなく伸ばしっぱなしにしているわけではない。なのに、ゲンドウはまるで忌々しい、とでも言うように伸びた髪を見やって理容師の手配をすると言いのこして歩みを再開する。

 
 

「(みっともなかった、かな。私には長い髪なんか似合わないから、中途半端な長さだとだらしなく見えた、とか?)」

 



父の背中を見ながらレンは混乱する。
ゲンドウがそんな事を言い出したのは何故なのかと、必死に理由を探そうとした。


もう碇レンとして生きた年数は二桁になろうとしているのに、未だに自分が女である実感が薄いという自覚があった。例えば、”シンジ”の時は無造作にもっても負担など感じなかった重量のある荷物がレンの腕には酷く重く感じるとか、アカデミー時代は目線が同じだった幼馴染と視線を合わせるには顔を上に向けなければならなくなっていることとかに一々ショックを受けてしまうとか、そんな事が多々あった。冷静に考えれば、女と男では肉体的な成長速度が違ってくるのが自然なことなのだから、と理解できる。それでも今の自分は”女”の体なのだと実感するのは難しくて。
未だにアスカ達と一緒に修行しても細いまま筋肉がつかない腕に苛苛したり、同じ量の訓練をしているのに体力差の違いから二人よりも早く息が上がってしまうとかそういう事が積み重なっていく度に、今の身体を疎ましく思ってしまう。ならばこの身体をもっと鍛えて二人のレベルに追いつかせればいいのだと限界を無視して無茶な修行を重ねて過労寸前で体調を崩しかけたのは一度や二度ではない。

幾ら今の自分の能力不足が腹立たしいといっても、そんな事で周りに負担を掛けたら本末転倒だ。わかっているのに、つい自制が効かずに同じ事を繰り返してしまう。
 

そんな自分を諌めるため、事ある毎に鏡を凝視しては、今の自分は「碇レン」という名前の女なのだと、体が女である以上幼馴染の少年達に追いつくのは簡単には叶わないことなのだと言い聞かせるのが最近の日課だった。無理に追いつこうとしても肉体がついていかずに挫折するだけだ。本気で追いつきたいなら、今の自分の肉体の限界を把握した上で、無理のないペースを掴まなければならないのだと鏡越しの自分に言い聞かせる習慣がついていた。そうして、今の「碇レン」の身体と”過去”の「シンジ」としての記憶を馴染ませようと四苦八苦していた。


だけどそれも中々上手くいかなくて、ならば見た目がもっと女らしい形になれば多少は自制できるのではと思いついた。つい”過去”の感覚で髪を短く切りそろえ、少年みたいな簡素な服を好んで身に着けていたけれど、だから「レン」と「シンジ」の違いが自覚しにくいのかも、と思ったのだ。
 

その時、自室の飾りだなに置いてあった、アスカとイタチが贈ってくれた髪飾りが目に入った。


二人の気持ちは嬉しいし、可愛らしい髪飾りは綺麗で見るのは好きだったが、それを身に着けるのはまだ抵抗があって、ずっと飾り棚に置かれたままになっていたのだ。髪飾りを手にとって、これが似合うような可愛らしい少女の装いをしてみれば、嫌でも自分が女であると実感できるのでは、と思った。だから手始めに、同級生の少女達がしていたように少しずつだが髪の手入れに力をいれてみたのだ。何時も無造作に縛っていた髪を、丁寧に梳り伸びる度に綺麗に整えてやっと肩先につく程度に伸びてきたところだった。

 


「(でもそんな付け焼刃程度じゃ、女の子らしく、なんて無理だった?
  そもそも私にはやっぱり可愛らしい髪型なんか似合わない?
  ・・・長ければ皆可愛いわけでもないけど。綾波は髪が短くても綺麗で可愛かったし。
  自己暗示だけじゃなくて、外見も揃えてみれば自制の切欠に位なるかと思ったんだけど。
  そんな理由だから、女らしさなんて身につかないのかな。だから、只単に伸ばしっぱなしにしてるみたいに見えた?)」

 



そこまで考えるのは卑屈にすぎるだろうか。ゲンドウは単に、昔の癖で娘の世話を焼こうとしただけかもしれないのに。
まだ幼い頃は確かに一月に一度くらいの頻度で理容師を派遣してくれたり、世話役の家人の報告でか背が伸びたりするたびに新しい衣服を手配してくれたりと最低限の世話はしてくれていた。だから、例え会話が続かなくて気詰まりになってしまっても本宅には頻繁に帰宅しているのにレンの住む別宅には滅多に顔を出してくれなくても、娘に対する父親としての情は抱いてくれているのでは、と思っていた。交流がぎこちないのは、レンが”過去”を引きずって一線を引いてしまっている所為だと、ゲンドウの素っ気無さはそういう性分なのだと、誰に対しても態度が変わらないのだから別にレン個人を疎んでいるわけではないと、そう思って居たかった。
 

誰に対しても態度が変わらないという事はつまり、レンも他の人間達と同じ扱いと言う事だとは、思いたくなかった。

 


「え、と」

 


ぐるぐると脳裏を巡る推測に混乱して、次に取るべき反応を掴み損ねた。
ぎこちなく固まった手を中途半端に下ろすレンの表情は、まるで親に置いてきぼりにされた迷子のようだ。背の高いゲンドウの背中を追いかけながら、どう答えるべきか、と必死に視線を巡らせる。そんなレンの焦燥を感じたわけでもあるまいが、ゲンドウがぽつり、と呟いた。

 

 

「中忍試験を受けるそうだな。」
 

「あ、はい!下忍としてすごしてそろそろ三年が過ぎますし、頃合ではないか、と葛城先生が推薦してくださいまして・・」


「冬月に聞いた。任務達成率も高く有望だ、と評価されていると」


「ありがとうございます!」

 



混乱から立ち直れては居ないが、違う話題を提供されて安堵したレンは、ようやく頬の緊張を緩めてゲンドウに返事をした。伝聞口調であっても、好意的な評価を父の口から聞くのは矢張り嬉しかった。

 
 

「必ず受かれ」


「、はい!頑張ります!」

 


無造作に投げられた言葉は、父なりの激励だと信じたレンは、頬を紅潮させて勢い良く返事を返す。

 


「遅いくらいだからな」


「え」


「・・・ユイは今のお前の年には既に中忍になって医療班としての資格も取り終えていた。」

 



だから、ゲンドウが続けて言った言葉の内容を理解するのに、時間がかかった。

 
 


「ユイの期待を裏切るな。お前はユイの子供だろう。」


「は、い。・・頑張り、ます」


「・・・・アカデミーの時のような無様な成績は許さん」


「はい。」

 



天才と称された碇ユイと、鬼才と称されたゲンドウの血を引くサラブレッドとして、確実に名を残せと、碇一族の期待は重い。碇家の者は殆どがユイとゲンドウの信望者だ。碇家は確かに里の旧家で、当主は里の施政を担う重鎮だ。けれど血継限界を伝える一族より優先される事はありえない。どれ程の旧家であっても、血継限界以外の血筋は、里にとって最悪の場合代替が可能な、使い捨て出来る駒でもある。


だから、血継に縁を持たない者たちが、何とか自分たちだけの価値を造り上げようとどの家も必死なのは知っていた。その中で、里の上層部からも注目されるような、目覚しい功績を数多残した碇ユイとゲンドウへと一族の尊崇が集まるのは自然な成り行きだった。その娘であるレンに過剰なほど期待が集まっても仕方ないと理解はできた。
 

・・ただ、ゲンドウの口からは余り聞きたくないなと、思ってしまう。


ゲンドウがユイの名を出す時、・・・出さない時でも、ゲンドウの視線が焦点をあわせるのはユイにだけだと、強く思い知らされるからだ。

 


「(アカデミー三位、は、無様、かぁ。母上の・・・碇ユイの望んだ「「完璧」な理想」を体現できない私は、・・・いらない、か、な。

 エヴァに乗らない”僕”が、必要のない存在だった、みたいに?)」

 


もし、次の中忍試験で落第したら、父上は。

 



「失望させるな」



「はい。わかりました」

 



想像したとおりの冷たい声で念押しされてしまって、もう笑うしかなかった。
「お前には、失望した」と言われた時、”僕”はどんな顔をしたっけか、と考えながら穏やかににっこりと微笑んで父を見上げた。

 

 


「必ず、合格して見せます。」


「ああ」

 


期待に応えられなければ見放されるというのなら、期待に応え続けている内は視界に入れるくらいはしてもらえるという事だ。

未だに上手く話しかけることも出来ない所為で打ち解ける事が出来ていないのだ。ならばせめて、気に留めて貰えるように努力は続けるべきだろうと思った。その関心が、一族に有益な駒に対するものでも、取りあえずは構わないと思った。
 

それは、父からの誉め言葉に浮れて先走った挙句、レリエルに飲み込まれて死に掛けた馬鹿な子供の思考と全く変わっていないという事には、思い至らなかった。自分を高める努力は素晴らしいが、その方向性にも気を配るべきだという事には気付けなかった。
 

単純な子供は取りあえずの目標を定めて、少しだけ安堵したようににこりと笑う。
まだまだ上手くいかない事だらけで、消えない不安を抱えたままの自分を鼓舞するためにも明るい表情を心がけた。直ぐに萎縮してしまって、父に上手く言葉で感情を伝えられないレンの精一杯の好意の表現の積りだった。それも、ゲンドウが視線を向けてくれない状態ではあまり効果は望めなかったけれど。

 
 

「いってらっしゃいませ」


「・・・ああ」

 



ぴしゃり、と戸が閉まる。
深く頭を下げて見送るレンに、視線一つ向けない。
・・・・・・当然だ、ゲンドウは仕事に必要な資料をとりに来ただけなのだから、急いでいるのだろう。


「いってきます」と返される事もない。
・・・当然だ。此処は薬草園を管理するものが住むための別宅だ。ゲンドウが帰る場所は他にあるのだ。


いつだって声のトーン一つ変わらない。
・・・何時もの事だし、誰に対しても同じ態度だと知っているはずだろう。

 



「(旧家の当主とこどもなら、こんな関係も良くあることだ・・・別に私だけじゃない。)」

 


わかっている。わかっているのに。
笑みを浮かべていた表情が、段々と蔭る。

 


「(こんな、たかが挨拶位で一々落ち込むなんて、本当に我ながら暗いなー)」



何をしても、父が、レンを見ることはない。


そう考えてしまうのは、被害妄想だろうか。

・・・自分が、きちんと父姿を見ていないということだろうか?

 



「(私が見ようとしていないから、見えないのかな。
 努力してる積りで、積りでしか、ないんだろうか。・・・私は矢張り、なにも、変われて居ないままなのか、な)」

 

 


途方にくれた。
どうしたらいいか、本当にわからなかった。


レンは、一人閉められた戸を見つめて立ち尽くした。
手足の先が冷たくて、視線が下を向く。


何を今更、と己を嘲笑する声が脳裏に響く。

 



「(母上の望んだ、立派な忍として大成すれば、見てもらえるだろうか。
  碇家の跡取りとして、完璧に振舞えれば?
  母上の様に、天才、と称賛を得られるような、完璧な功績を残せれば、


  ・・・・見て、もらえるか。認めてもらえ・・・・私は、)」

 


本当に、認めてもらいたいの、だろうか?



「(見て、貰いたいの、は・・・誰に?)」

 


今更、だ。


今の自分は、碇レン、という名の、木の葉の里の下忍で、旧家の一つである碇家の嫡子で、

愚かで卑怯で幼稚な”碇シンジ”は、もう何処にも存在しない。

それでも”碇シンジ”のしたことは、自分の過去でしかない。だから、罪がなかったことにはならない。けれど、その上で、今の自分を、本当に、認めて欲しいのか?認めてもらえれば、

 
 

「(満足、出来るのか。・・・認めてもらえれば?・・・・誰に、誰を。)」

 



殆ど無意識に踵を返す。父を見送ったならば居間に戻らなければ。アスカとイタチが待っている筈だ。この連休中は家に泊り込んで三人で修行する約束だった。里外れの森に隣接するこの家からは、比較的難易度の高い演習場に近いのだ。だから大抵休み前に泊まるのはレンの家が多かった。そうやって殆ど日常の事とはいえ、二人の客人を放って来てしまった、と今更思い返して足が早まりかける。
 

だが、無意識に視線ごと顔が下に向いている事に気づいて歩みが止まった。


今の自分がどれほど情けない表情を晒しているのか、鏡を見る気にもならなかった。
大きく溜息を吐いて、進む方向を変える。

 


「・・・・お茶、淹れてから、戻ろうっと」

 



麗らかな日差しに暖められた廊下を踏んで台所に向かう。
仄かなぬくもりが素足に伝わって、ああいい天気だと思う。

 



「ああ、もう!本当になぁ」

 



自嘲が零れた。声音だけは強気に自分への文句を言って見る。けれど気持ちは沈むばかりで、口角が歪に曲がる。試しに笑おうと努力してみたが、頬が引きつる感触ばかりが強くて、とても上手く笑えているとは思えなかった。こんな顔を二人には見せられない。上手く繕える自信もない。だから、少しでも時間を稼ぎたくて、歩みが遅くなる。気配で台所に向かっている事には気づいているだろうから、取りあえず心配は掛けないだろう。いつでも優しい幼馴染達に、これ以上心労を掛けたくはないのに。早く浮上しなければ気づかれてしまう。
己の情けなさに苛苛して、乱暴に髪をかき上げる。

 



「本当に、どうしようもない、」



「なにがだ?」


「ふぁい?!」

 



ひっそりとはき捨てようとした己への嘲りに、声が被さる。
レンは、思わず間抜けな声を上げて辺りを見回した。

 


「お前何やってんだ。高々玄関までの往復に何分掛けてんだよ。」

 



すると、呆れたように笑うアスカと、無表情ながら柔らかい雰囲気のイタチが、こちらに歩み寄ってくる姿が目に入る。

 



「えと、・・・ごめん、待たせて。ついでにお茶でも淹れに行こうかと思ってさ」

 



慌てて表情を繕って、呟いた。
一瞬なら兎も角、長時間顔を見られて誤魔化しきる自信等ない。
アスカとイタチが、他意なく純粋に、レンを心配してくれているとわかるから尚更、二人に自分の情けない顔を見せるのが嫌なのだ。だから先ほど考えていた言い訳を残して、顔を逸らした。

 
 

「じゃあ、もうちょっと待っててね。直ぐ戻る 「レン」 にぎゃ!」

 



そこで突然、襟首を掴まれて引き戻される。
思わず頓狂な悲鳴を上げて後ろ向きに蹈鞴を踏むレン。

 


「何、行き成り。ってか呼び止めるなら普通に呼んでよ。首絞まるでしょ。」

 


文句を言った自分の口調が普段どおりのものだったことに安堵しながら、後ろのイタチを見上げた。

 


「・・・・・」


「?イタチ?」


「・・・・はぁ。」


「何で溜息。」

 


だが一向に言葉を発さないイタチに怪訝な表情で首を傾げたレンを、じっくりと見定めるように見つめたイタチは、深い溜息を零して眉間に皺を寄せた。益々疑問を深めてみせながら、行き成りばれたかと内心でうろたえるレン。
イタチの後ろに立ったままのアスカの静かな表情も心持威圧感を伴っているような・・

 
 

「(いい加減にしろよ、この馬鹿が!)・・・・ぉ」

 



何時まで経っても自発的にアスカ達に頼ろうとしないレンの後ろ向きッぷりに頻繁に切れているアスカだが、流石に今日この場で怒鳴りつけるのは逆効果だということくらいは悟れる。だから敢えて何時もどおりにからかい口調で話しかけたのだ。が、プライベートでは何処までも隠し事が出来ないレンの、ばればれな演技に反射的に口元が引きつった。

 


「レン」

 
 

が、アスカの怒声が発される前に、イタチが静かにレンを呼ぶ。
起伏のない冷静な声。けれど穏やかな優しさに満ちたイタチの声は、いつだってレンやアスカの心を静めてくれる清涼剤だ。アスカも、イタチが声を割り込ませた事で、一瞬先ほどイタチと決めたばかりの自分の役割を思い出して一つ咳払いした。危うくいつもの様に声を荒げてしまうところだったと、不自然に言葉を飲み込んだアスカに、レンは少し不思議そうな視線を向けたがイタチの言葉に慌てた。



「最近疲れているだろう。茶なら俺が淹れるから、先に居間に戻っていろ」


「え、あのそんなことないよ?」



イタチに名前を呼ばれると、自然に肩の力が抜ける。沈んだ内心を隠さなければ、と強張っていたレンの表情がゆるゆると普段どおりの穏やかさを取り戻す。こんな風にいつも頼り切ってしまって申し訳ない、と思うと同時に背中を支えられていると実感できて安心してしまう。

イタチに名前を呼ばれて返事をするたびに、「私」は此処に居るのだと思える。

 


「んな、情けねー面で何言ってんだ。良いからお前少し落ち着いて休めよ。」


「アスカも、どしたの急に。別に平気だってば」

 


くしゃり、と少し乱暴に頭を撫でたアスカが、意地悪く笑いながら言う。
けれどその声はいつでも暖かくて、掌は労わりに満ちていてレンの表情が更に綻んだ。アスカはよくレンをからかったり悪態を吐いたりするけれど、真っ直ぐな青い瞳はいつだって「レン」を見てくれている。だからレンも、構える事無く思ったまま自然な言葉を返す事が出来た。

当たり前の様に、レンの言葉に返答を返してくれるアスカの目を見返すたびに、きちんと「レン」は此処に居るのだと実感できた。

 



「二人とも、何か変だよ?お茶なら直ぐ淹れてくるから。」


「「そりゃ(それは)さっきの今だしな(だからな)それなりに心配してやってんだよ(にもなる)」」

 


二人と話しているうちに自然態に戻れた自分の現金さに呆れるが、それでも心地の良い空気にレンの笑みが深まった。

態と、父上との事を話題から外してくれているのだとわかる。

甘やかされいると感じて嬉しがっている自分を嫌悪する。
父との事を意識から外すだけで心が軽くなる自分の情けなさに苛立ちを覚える。
二人の優しさを手放せない自分が何より醜くて吐き気がする。


それでも、イタチとアスカの気遣いに乗って、普段どおりにじゃれて見せた。

 



「もー、それ言わないでってば!」


「流石に今日のは、俺も驚いたからな」


「イタチまで言うし・・」

 


苦笑するイタチを見上げたレンが笑う。
自然に、楽しげに。

 



「もっと言って置けよイタチ。この馬鹿は、何回言っても直ぐ忘れる鳥頭だからな」


「アスカ!酷いから?!」


「へっ、事実だろー?」

 


傲然と腕を組んで皮肉気に笑うアスカに返したレンの抗議はいつも通りの声音だった。
自然で、楽しげな。

 


「これから気をつけるから!」



「そうしてくれ」


「当然だな」

 


やけくその様に叫んだレンに、したり顔で肯くイタチとアスカ。そして三人で同時に噴出す。



隠す為ではなく、自然に湧き上がる衝動の儘に浮かべた笑みだったから、イタチもアスカも気づかなかった。


レンが、ひっそりと、決めてしまった決意の事は。



二人の優しさが心地良いからこそ、早く離れてしまわなければ、と思う。
強くて綺麗な少年達に、いつまでも自分なんかの面倒を見させるわけにはいかないな、と改めて認識する。

 



「(次の試験で、中忍になったら、班は解散する。・・・・良い機会、でしょう?


  私の甘えを叩き潰すには。)」

 


手離し難いからこそ、早く離れようとする、その決断が逃避であると自覚していた。
それでも、レンはそうするべきだと、その時は本気で考えていたのだ。


レンが、二人を大事だと思い、一緒に居たいと考えているように、イタチとアスカも同じように感じているなどとは思いつきもしなかった。

二人は優しいから、昔から面倒を見させられていた幼馴染を見捨てられないだけだと、本気で信じていた。

けれど幾ら優しくてもいつか本気で見放されてしまう前に離れておこう、と臆病な心で考えた。



そうやって、レンが勝手に決めたタイムリミットまで、後・・・

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















 

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