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*『物語前夜』一部目 →(うちはイタチ)→(碇レン)に続きます
*本編前の過去編
*レンと二人の幼馴染
*第一夜に少しだけリンクするレンの過去話
*レン以外のエヴァキャラが性別逆転して登場します
「・・・・・お前は、知ってたのか。」
無言で歩いていたアスカが、ポツリと呟いた。
自分には似つかわしくない、抑揚のない声音で。まるでイタチの口調が移ったようだと考えて、酷く胸が軋んだ。隣で揺れた気配に、レンも同じ事を考えたのだと知れる。直接レンの表情を確かめる事はせず、視線は遠く薄く曇った夜空に投げてレンに訊ねる。だが、レンの応えを待たずに言葉を続けた。
「知って、いたんだな。・・・・イタチが、行ってしまうこと」
沈む感情のままに目線を足元に落としていたレンが、ゆるりと瞬いてアスカに顔を向けた。
その口元に、いつでも湛えられていた優しい微笑みはなかった。ただ笑おうとして失敗した様に微かに歪んだ唇が、吐息の様に言葉を吐いた。
「そう、かな。・・・・そうかも。そうだね。
・・・・多分、イタチはいつか、一人で行っちゃうんじゃないかと、思ってたよ。」
確信のもてないあやふやな口調で呟いて、そこで初めて気づいたようにレンが更に言葉を続けた。音にしてしまってから、納得するように肯いて、唇がゆっくりと笑みを象る。先程よりもマシだったが、それでもいつもの表情には程遠い、寂しさと痛みを誤魔化すような苦い笑みだった。
「きっと、誰にも何にも言わずに、一人だけで全部決めて、
・・・・手が届かないトコまで、行っちゃうんじゃないかと、思ってた。」
言いながら、手のひらを空に翳すレンが、虚空を緩く握り締める。
「・・・私じゃ、・・私達じゃ、届かないところに、・・・いつか、行っちゃうんじゃないかと、」
力なく落とされた拳が、白い軌跡になって、アスカの視界に焼きつく。月も星も見えない暗い闇の中で、レンの腕の白さだけが鮮やかだった。黒髪に隠された目元が、見えない事だけが救いだった。
いつでも優しくアスカを、イタチを、見守っていた深紅の瞳が濡れていたら、決定的な何かが壊れてしまう気がした。だから、暗い色調のなかで、唯一外気に晒されていた腕の白さだけを目で追って、いつの間にか止まっていた歩みを再開させた。
「きっと、ずっと、そう思ってた。」
静かな空気を揺らす事を恐れるように、微かな声で呟いたレンが、アスカを振り返る。視界の端にそれを見ながら一歩先に歩き、レンを追い越す。闇に溶けるような漆黒の髪を見下ろして、上がりそうになった手のひらを握り締めた。きつくきつく、短く整えられた爪が、白い手のひらに赤い筋を刻むほどに、強く。
乱暴にその髪をかき回して、明るく笑って見せる事は出来そうになかった。
いつだって自分たちがそうしてきたように。
落ち込んだレンに他愛ないからかいを投げては沈んだ空気を払うのは自分の役割だったのに。悔しくて血がにじむほどに握り締めた手のひらを、そっと包んで開かせてくれたのは、レンの役割だったのに。言葉少なに確信を突くことで、もやもやと胸を巣食う苛立ちやもどかしさを晴らしてくれるのは、ずっと、イタチの、
「・・・・役目じゃなかったのかよ。バカヤロー」
口の中で吐き捨てる。
様々な感情が激しくうねっては胸の奥を焼いた。呼吸が阻害されるような感覚。震える息を死に物狂いで宥めて、声を平静に保つ。堰を切ってしまえば、只管に全てを傷つけてしまいそうだった。
・・レンを、酷く壊れてしまうまで、傷つけてしまいそうだった。
そこまで、レンに甘える事を、己に許す積りはなかった。けれど。
「お前は、それを受け入れるのか。」
微かに震えた語尾が、アスカの葛藤を示す。レンには気づかれただろう。けど、一度言葉にすれば止まらなかった。これ以上は駄目だと囁く自分をねじ伏せて、拳を振り上げるように語気を強めた。
「どうして、そうやって、イタチを許すんだ。お前は、悔しくねぇのかよ!」
青い瞳をぎらぎらと光らせて、獣のように獰猛に吼える。保とうとした平静さは、言葉の途中で決壊して荒れ狂う感情を吐き出す。自制しようとする理性はもう働かなかった。痛みを堪えるようなレンの表情を、きっと誰より正確に見分けながら、アスカは続けた。最後の一線だけは越えない事だけを己に課して、それでも全てを堪えることは出来なかった。
「アイツは、イタチは、・・・里を、・・・俺達を、捨てたんだぞ!!」
その瞬間、辛うじて浮かべられていた苦笑すら、消えた。
深い深い紅の瞳が、凍りついたように固まる。
守ると決めていた少女を、自分たちを守ってくれていた少女を、己の言葉が傷つけた。その自覚が更に激情を生んで、循環する負の感情が頭の中をぐちゃぐゃにかき回す。どうしようもなくて、ただ自分の為だけに、怒りを吐き出す。
「お前は、そうやって、何でも許すつもりかよ!?
イタチは、俺達を、捨てたんだぞ。わかってるのかよ?!
・・・・俺達は、イタチに、捨てられたんだ!!」
本当は、そうじゃないと分かっていた。
イタチにとって、今の優先順位が自分たちじゃなかっただけで、本当に切り捨てられたわけではないと、分かっていたのだ。ただ、何一つ告げずに一人で行ってしまったイタチへの悔しさと寂しさを、どうにか誤魔化したかっただけだ。分かっていたのに。
「・・・・何でもかんでも笑って受け入れて。そんなの優しさでも何でもねぇよ。
お前のそれは、只の惰性だ。どうでもいいから、何されても受け入れられるんだよ!
・・・・・そんなの、拒絶とどう違うってんだ!」
叫んだ瞬間、鋭く息を飲んだレンが、強く両手を握り締めた。
凍ったままの瞳が軋んで、唇が戦慄いた。そのまま、泣いてしまえ、と思った。
白い頬から色味が抜けて、青くすら見える顔色を見て、そのまま泣いてくれれば、理由が出来るのに、と思った。泣かないならば、怒りでも良かった。激情に任せて酷い事を言ったアスカに、レンが怒ってくれれば良いと思った。そうしてくれるなら、泣くレンを慰めるために、怒るレンを宥めるために、その華奢な身体を、抱きしめる事が出来るのに。何時からか、気安く触れる事が出来なくなった彼女に、躊躇うことなく触れることが、許されるのではないかと、思ったのに。
「・・・そう、そう、っか。そうだね。・・・・ごめんね、アスカ。」
レンは、笑った。
穏やかに、美しく。花が綻ぶように、鮮やかに、優しく。
「そうだ、ね。ごめん、ね」
ふんわりと、静かに。
闇に、溶ける様に、姿を眩ませた。
里で唯一、イタチと並び立つと称されたアスカにすら追いきれぬ滑らかな動きで。
一人残されたアスカは、震える手のひらで顔を覆った。
最後にレンが残した優しい微笑を消してしまいたくて強く瞼を閉じる。
「-------っ!」
いつもいつも、傷ついたアスカを、疲れた心を持て余すイタチを、優しく受け入れて癒してくれた時のままの、レンの笑顔。その笑顔が、これほどにアスカを痛めつけるものだなんて、知らなかった。
知りたく、なかったのに。
もう、戻れないのだと、知った、夜。
全部、自分の弱さの所為だったけれど。
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