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*本編前の過去編
*レンがアカデミー配属されて、ナルトが暗部入りした後(レン13歳、ナルト8歳の晩秋位)
*ちょっとナルト→レン要素があります。
3.マグカップは冷めている
ナルトは不思議に思っていることがある。
ナルトにとって初めての友人である年上の少女の事だ。
二年前の春、ひょんなことから知り合った彼女は、里の外れの古い屋敷に一人で住んでいる。詳しく聞いた事はないが、何やら血族との間に悶着があったらしくほぼ絶縁状態で下忍時代からそこで暮らしていたらしい。まあナルトもヒトの事は言えないが、其々言いにくい事情を抱えた人間など珍しくもない。特に此処は忍の里だ。任務私情関係なく秘密ごとなど沢山あるだろう。だから込み入った事情を根掘り葉掘り聞きだすつもりはなかった。必要になったらきっと自分から話してくれるだろう、と楽観していた事もある。あれ程里人を嫌悪していた自分が、その里人の一人である彼女を信用している事実に驚くが、不快ではない。
そこまで考えて、一人でくすりと笑う。
「ナルト?どうかした?」
その声に気づいたレンが振り返る。手には暖かいココアが入ったマグカップが二つ。ナルトが甘いものが好きだと知ったレンが、友人からの土産だがと誘ってくれたのだ。そんな他愛ない誘いの言葉が何より嬉しいのだとナルトはにこりと笑った。
「なんでもないってば!」
”表”用の子どもっぽい口調で返してみる。レンは、いつも彼女と話す時と違う言葉遣いに少しだけ目を見張って、直ぐに破顔した。面白そうに笑いながらナルトの顔を覗き込む。
「それが、”普段”の喋り方?可愛いね」
「そうかってばよ?」
「うん。変わった口調だけど、自分で考えたの?」
「あはは!内緒だってば」
「そっか。残念」
「へへ」
話しながら手際よく用意される菓子に目を輝かせるナルトに、微笑ましげな視線を向けるレン。動作も殊更幼げにしてみせると更に視線が和らいだ。どうやらレンは小さい子どもが好きらしい。以前見かけたアカデミー勤務中の彼女からそうだろうとは思ったが案の定だ。想像通りの反応にこっそり笑いをかみ殺す。
「ふふ。口調が変わると印象も変わるねー。うん可愛いよ?」
思わず、というように頭を撫でられる。そこまでされて、少しだけ面白くなくなってきたナルト。確かにレンが喜ぶかもと思ってやってみたが、ここまであからさまに嬉しそうにされると、いつもは可愛くないのかよ、と言いたくなる。無意識に口を尖らせてしまう。
「レン姉ちゃんも、こっちの方が好きかってば?」
”表”用の仮面を被ったまま、聞いてみる。言った瞬間、しまったと思ったが、答えは気になったのでレンを見上げて反応を待つ。
「ええ?」
ナルトの突然の質問に本気で驚いたらしいレンが、眼を丸くして此方を見ている。
レンが答えるまでの間を誤魔化すかのようにカップを口に近づける。言ってしまってから、我ながら何言ってんだと自分に突っ込む。まるで、”表”向けの自分に嫉妬してるみたいじゃないか。
「そんなことないよ?いつものナルト君も可愛いよ?」
「っぶ!」
だが返った答と、本気できょとんとした様子のレンの表情に、口に含んだココアを吹いてしまった。
「げっほ、ごほ!」
「ちょ、大丈夫?!やだ、火傷はしてない?あ、タオル!!」
慌ててナルトを水道に引っ張り、蛇口をひねるレン。両手を流水に当てさせ、舌を火傷しただろうと口の中に氷の欠片を放り込まれる。慌てながらも鮮やかな手つきに抵抗の糸口も見出せないナルト。タオルを求めて走り去るレンを制止しようにも咽こんでしまって言葉にならない。必死に喉を宥めながら、顔が赤くなるのが抑えられない。
「はい!タオル!どうしたの、まだ痛い?」
手にタオルを握り締めて戻ってきたレンから隠すように顔を伏せる。
「ごめんね、そんなにココア熱かったかな。ごめんね、」
だが誤解は解いておかねばならない。本気で落ち込むレンを放置しては何処までも後ろ向きに沈みこんでしまう。この二年の付き合いで彼女の性質をほぼ看破しているナルト。数秒前の己の動揺を無理矢理抑えて冷静に言葉をかけた。
「いや、ごめん。ちょっと咽ただけだ。気にするな。お前のせいじゃない」
「でも」
「気、に、す、る、な?」
語調を強めて念押しをする。レンが押されると弱いことも分かっている。こういう場合は無理を通して道理を引っ込ませるのが最善の対処法だ。身内に弱い彼女なら、多少の暴論も通しきってしまえば誤魔化しきれる。
「えと、うん?でもごめ、」
「悪かったな、せっかく淹れてくれたのに」
「や、気にしないで!火傷しなくてよかった」
「ああ、」
最後まで言わせず会話を続ける。そ知らぬ振りで席に戻って残りを飲み始める。レンも吊られるように向かいの椅子に落ち着く。後は他愛ない話題を振ってしまえば話題の摩り替え終了だ。直ぐに忘れるだろう。
「(にしても、いつもの俺も、か、可愛いってなんだよ?!)」
だがナルトの方はココアを吹くなどという失態の原因を忘れられない。表情には出さずに身悶える。我ながらこれほど可愛げとは程遠い子どももいないと思っていたのだが、レンは可愛いと思っていたということだろうか。
別段子ども扱いなどされた事はなく、いつでも彼女はナルトを対等の人間として接してくれる。それが嬉しくて、監視に目を付けられない範囲で足繁く通っていたのだが・・・・
「(なんか、さっきと違う意味で面白くねー)」
胸にうまれたもやもやとしたものを忘れたくて、視線を迷わせる。何か目新しいものはないのかと泳がせた視線に、一つ気になるものが映った。
そういえば、前々から不思議には思っていたのだが。
「なあ、レン」
「なに?」
「あれ、なんでいつも量が多いんだ?」
あれ、と指し示された場所に視線を向けたレンの表情が強張る。しまった、と思ったが口にした言葉は戻せない。撤回するべきか、と迷うナルト。だがレンの言葉の方が早かった。
「ああ、うん。・・・あれね、」
柔らかく細められるレンの眼差しの先には、二つのマグカップ。
先ほど淹れてくれたココアが注がれたままひっそりとシンクの片隅に置かれている。
思い返せば、彼女はいつもお茶や菓子を、二人分にはすこし多い量を用意していた。それも無意識に。いつも淹れ終わってから少しだけ戸惑うようにしてから、二つ新しくカップや皿を取り出してその中に多い分を入れる。そして、ナルトがお代わりを所望するとナルトの分は新しく淹れてくれるのに、自分の分は取り置いた方を持ってくるのだ。最初は単純に分量を間違えたのかと思ったが毎回となると気になる。機会があれば聞いてみようと思ったのだが、聞いてはいけない類の事だったか。
「あれは、うん。今は、・・帰ってこない、かぞく、の分かなぁ」
かぞく、と掠れる様な声で呟いた。その言葉を始めて口にしたかのようなあやふやな口調で、頼りない笑いかたで。それでも視線は酷く愛しげで、大切な宝物を見せる子どものような密やかな誇らしさを湛えていた。同時にとても切なげで、目を伏せたレンの口元が自嘲するような歪みを含んでいたのが気になった。
そして、彼女が二人分を多く用意する癖を見せ始めたのが、本当に最初からではないことも思い出した。その頃に、何かあったのだろうか。
「そうなのか。なら、早く帰ってくるといいな」
だがその全てには触れずに、ナルトは無邪気に笑って見せた。
此処は忍びの里なのだ。レンが家族と呼んだ誰かが帰ってこれない事情など、推測だけなら沢山できる。ならば本人が口にしない以上深入りすべきではない。ただ、レンが、その誰かの帰りを望んでいるのだという事だけは分かった。だから、それだけを口にした。
ナルトの言葉に一つ瞬いたレンが、次の瞬間浮かべた嬉しげな笑みを見て、その顔を見れたなら、それだけで十分だと思った。
視界の端に、湯気の消えて久しい冷たいマグカップが二つ、寂しげに置かれている。
管理:吟
御題配布サイト「age」(管理人吟さま) http://pick.xxxxxxxx.jp/からお借りした
「さるしばい家族の10題」 より、「3:マグカップは冷めている」
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