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*『物語前夜』(惣流アスカ)→(うちはイタチ)→で続いた三部目
*本編前の過去編
*レンと二人の幼馴染
*第一夜に少しだけリンクするレンの過去話
*レン以外のエヴァキャラが性別逆転して登場します。
「・・・・イタチ、が?」
最初、なんの冗談だと笑おうとした。呆然と見上げたレンを見下ろす青い瞳が縋るような色を浮かべていなかったら、笑って軽口を返せたはずだ。
「一族を皆殺しにして、里をぬけた。・・・お前は、何も知らなかったんだな?」
いつものアスカからはかけ離れた淡々とした口調は、全てを隠そうとして、反ってその内心を浮き彫りにしていた。
自分は、どんな、顔をしていたんだろう?
「しら、ない。」
「そうか。」
緩慢に持ち上げられたアスカの掌が、綺麗な朱金の髪を掻き揚げる。日の光に照らされてきらきらと輝く絹糸のような髪が、視界の端で踊る。
「多分、俺達も取調べに呼ばれる。」
「そう、だね」
最初に合わさったきり、逸らされたままのアスカの視線の先をレンも追う。自宅の縁側から見える木々の隙間に、鳥が何かを啄ばむのが見えた。指先が冷たくて、両手を合わせる。隣に座り込んで表情を動かさないアスカは、どうだろうと考えて、腕を持ち上げかける。
「・・・俺も、知らなかった。」
ポツリと落とされた声が、場違いなほどに明るかった。空っぽで、冷たい口調で、表情も動かないまま、声音だけが不自然にいつもどおりのアスカの声だった。首が下がって、長い髪が表情を隠す。タイミングを逃した掌を伸ばすことが出来ないまま、レンもいつもの声を保って相槌を打つ。
「そう。」
触れ損ねた掌を、自分は無理矢理にでも握り締めるべきだったのだと、思い返す。
少し前に知り合った小さな男の子が、暗い闇の中でも眩しい金糸を靡かせて目の前に降り立った時、自分はどんな表情を晒していたんだろう。
この子の前で、あまり情けない顔を見せたくは無かった。
どんな理不尽を押し付けられても、強い眼差しを翳らせる事無く前を見据え続けるこの子には、少しでも強い自分を見て欲しいのだ。
けれど。
「・・・私は、また、間違ったんだね。」
あどけない顔で眠るナルトが、布団に寝かしつけた時にいつの間にか握り締めたままの自分の手を見て眉尻を下げて哂った。
火影様に頼んだ修業の成果が実って、秘密裏に暗部に配属が決まったのだと嬉しそうに教えてくれた子ども。
ならお祝いに、とあり合せの材料で申し訳なかったけれど、できる限りのご馳走を作ったら満面の笑みで喜んでくれた。無邪気に笑ってくれるから、つられたレンも一緒にはしゃいでしまった。作った料理を食べて、お腹が一杯になったのか目を擦るのに気づいて送るべきかと迷っているうちに眠ってしまった。心配をかけてはいけないと式神に手紙を預けて布団に運んだナルトの手を布団に入れようとした時に、温もりに擦り寄るように腕を掴まれた。自分よりずっと小さいのに暗部になるだけあって力が強くて転がってしまった自分に抱きつくように寝返りを打つナルトを起こす気にもならずにそのまま横で添い寝する体制で、闇の中に置き去りにして逃げてしまった幼馴染を想った。
「ごめん、アスカ。」
イタチの起こした不祥事は、前代未聞の醜聞として口外禁止が言い渡されている。それでも隠しきれるような事件ではないからほぼ里中が知っている。レンとアスカが、イタチの幼馴染で仲の良い友人として交流を持っていた事も。だから、何か知っていたのではと疑われて取調べを受けるのは最初から分かっていた事だ。事件の内容が内容だから多少厳しい尋問を受けても仕方ない。アスカもそれは大して気にしていなかった。
イタチが、何を思って一族を滅ぼしたのか。本当にイタチがやったのか。
手を下したのがイタチであっても、イタチが考え抜いたのなら、それはイタチにとっては譲れない事だったんだろうとか。
考える事は、幾らでもあった。アスカにとってもレンにとっても、イタチとうちは一族ならば、イタチのほうが大切だった。だから、薄情な様でも、うちは滅亡の事実はどうでも良かったのだ。知りたかったのは、考えたかったのはイタチの事だけだった。イタチも、アスカとレンを少なからず想ってくれていたのだと、今でも信じている。お互いが、特別な位置にお互いを置いていた。・・・三人で交わした約束は、今でも守られたままだ。ならば、イタチの行為は、自分たちにとっては裏切りにはなりえない。イタチは確かに里を裏切ったのかもしれなくても、レンを、アスカを、裏切ったわけではない。たとえ立場が敵対者に変わったとしても、それは裏切りではないのだ。それを今でも、信じているのだ。
そう、信じている。
それは、今生で忍になると決めた時に己に課した誓いでもあった。
けれど。
目頭が熱くなって自由なままの掌で覆う。
アスカが何に怒っているのか、分かっていた。
レンに対して問うていたが、あれはアスカの思っていたことでもあったはずだ。
イタチは、いつか行ってしまう、と。
昔は、何も無くても互いの家を行き来していたのに。任務帰りに薬の補充ついでに泊まっていく事も珍しくなかったのに。その為の着替えや私物が置いてあった筈の客間は其々の私室同様だったのに。
「何時の間に、何にもなくなっちゃってたのかな・・・」
いつからか、掃除のたびに、衣服の虫干しの度に、触れる機会の少なくなった二人分の着替え。客間に置いてあった筈のイタチの物が減って、薬の補充に寄ってもまた次の任務や一族に関する実務があると帰ってしまう事が続いて。中忍と暗部なのだから仕方ないと想いつつ、任務の時間のずれから顔を合わせる事も無くなって。
まるで、関係を断ち切ろうとしているみたいだと、思った。
「最初は、恋人でも出来たから誤解を招きたくないんじゃないか、なんてアスカと笑ってたのに」
たまにしか会えなくても、昔みたいに優しい瞳で話しかけてくれるのが嬉しかった。
けど、別れる瞬間に、酷く暗い目をしていなかったか。
表情を変えることがないといっても、もっと柔らかな雰囲気だったはずじゃないのか。
・・気づくべきだったんじゃないか?あれはイタチの精一杯の信号ではなかったか。
問い詰めておくべきだったんじゃないか。否定されても肯定されても、自分から、もっと。
「ごめん」
「う、ん」
はっとして見下ろす。寝返りを打ったナルトの表情を確かめて、起きていないことを確認する。つい考えに没頭してしまったが、煩かっただろうか。だが、心音や呼吸音に耳を澄ませても乱れはない。熟睡している事を確認して、寝返りの拍子に緩んだ掌から自分の手を外して部屋を出た。
そっと廊下を戻りながら、空の掌を緩く握り締める。
無邪気に笑ってくれるナルトの温もりが暖めてくれたのは、手だけではなくて。
「・・・あんな風に言わせちゃうつもりはなかった、なんて、言い訳だよね。」
レンを詰りながら、傷ついた瞳で、アスカが訴えたかったのは。
「無理にでも、手を繋げば良かった、ね」
レンを感情のままに罵りながら、頑なに身体の両脇から動かなかったアスカの腕を、掴めばよかったのだ。
ナルトが、無邪気に笑って抱きついてくれた時に、泣きそうになってしまったのは。
眠った時に無意識にでも手を掴まれた時の温もりに、強張った体が安堵したのは。
「・・・触れておけば、よかった、ね。」
イタチの悩みにも。アスカの慟哭にも。
もっと、まっすぐぶつかるべきだったのだ。
「ごめん、ね。・・・・・逃げないって、決めたはず、なのに、なぁ」
約束は、守られたままだ。
けれど、なのに、それだけに縋った己の弱さが招いた”今”が、
ナルトが、触れてくれていた掌が、熱かった。
その熱が、身体の奥で凍ったものを溶かしてくれる様だった。
ゆるゆるとこみ上げるものを、抑える気にはならなかった。
「ごめん、ね」
約束は、自分の支えだった。それが無ければ、今まで生きる事を選べなかった。
支えだった。けれど、それに縋るしかしなかった己が、ただ、情けなくて悔しくて憎くて。
約束は、守られている。なのに、自分は。
眦が震える。目頭が熱くて、米神が傷んだ。
視界が歪んで、唇が戦慄いた。それでも声をあげる事だけは堪えた。
ナルトの温もりが溶かしてくれたものが、己の痛みを和らげる。
同時に、何処までも自分しか護れない弱さがさらけ出される。
声を、あげない事だけが、最後の意地だった。
涼やかな夜の風に誘われるように庭に降りる。
もう二度と、”彼ら”が踏む事のないだろう、”いつもの”出入り口を通って、ゆっくりと。
ナルトを起こさないように、声は出さずに。気配もなるべく殺して。
庭の隅。いつもイタチが家を訪ねるときに、レンの許可を待っていた場所に蹲って。
”彼ら”に伸ばす勇気のもてなかった情けない掌をきつくきつく握り締めて
空の掌を暖めてくれた熱の名残を逃さぬように、胸に抱いて
静かに、泣いた。
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