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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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注記:♀シンジ(=碇レン)in N/A/R/U/T/O のクロス作品です
    スレナル設定でお送りいたしております。

更に注記:このシリーズは、ナルト×碇レン傾向基本のお話です。
       苦手な方はご覧にならぬよう、お願いいたします。




++

 

 

 

 

 

「火影を越す! ンでもって 里の奴ら全員にオレの存在を認めさせてやるんだ!!」

 

 

 

 

 


++

 

 

 


「・・ナルト君は、変わらず強いね・・・。」

 


里の中心から離れた森の中に点在する演習場の片隅で、嬉しそうに微笑んだ少女が眩しげに空を見上げる。木の葉の里で、最も古く優秀な、と謳われる日向一族の証である白い瞳に、穏やかな光を宿した黒髪の少女が、血族特有の透視術で見詰めた光景を胸に抱いて柔らかく笑った。今日、己と同じように新しく下忍候補生として担当上忍との顔合わせを行っている憧れの少年が、眩く気高く笑って言った強い言葉と、その裏側の彼の想いは、弱気な自分を支える導。


「あの時からずっと、ナルト君は私の憧れで、目標なんだよ」


自分自身の無力さを思い知った三つの歳に、心に刻んだ想いがあった。それを昇華するために己に課した決意があった。弱い自分の存在ゆえに、父と従兄弟に強いられた悲しみを二度と繰り返さないために、幼いなりに必死に考え抜いたものだった。初めて会った時に優しく笑ってくれた従兄弟が、怒りと憎しみと、その裏側に隠された捨てきれない優しさとどうしようもない痛みが混じる複雑な感情を、静けさを装った視線に込めて自分を再び見つめた時に、これだけは、と強く心に決めたのだ。望みを叶える為に、必死に道を探っていた時に生まれた五つ下の妹の存在に、さらにはっきりと強まる思いに後押しされて、自分の未来の形を決めた。それ、を選ぶ勇気をくれたのは、暗い暗い闇の中、強い光を纏って笑う彼の強さだ。

そして。

 

「・・・・・・・・・ヒナタ?」

 

かさり、と優しい葉擦れの音と共に聞こえた声に、満面の笑みを浮かべて座っている大樹の上から返事を返すヒナタ。

 

「・・レ・・レンさん!どうしたんですか・・?」

 

笑顔で素早く降り立った自分に、ゆっくりと歩み寄るレン。いつも着ている白衣を脱いで、基本的に飾り気のないシンプルな格好を好むレンにしては珍しく華やかな格好をしている。胸元にレースで縁取りされたノースリーブのカットソーに、淡い赤色で大きく花がプリントされたフレアスカート。白のパンプスに金鎖にピンクの淡水パールがあしらわれた小ぶりのペンダント。耳元には同じくピンクパールのピアスをつけて髪もサイドを軽くピンで抑えた他は後ろに下ろされて艶やかな黒髪がさらさらと風に靡いている。美貌というより可愛らしい印象が強い彼女の繊細な顔立ちがより引き立つよう計算されたコーディーネート。恐らくはアカデミーの同期で、今では表裏共に仲間である勝気な少女がおねだりでもしたのだろう。機会があれば逃すことなく”憧れのお姉さん”であるレンを着飾ろうとするイノのにんまりとした満足気な笑みを思い起こして苦笑する。

静かに傍に来て自分を僅かに見下ろすレンの、澄んだ深紅の瞳が優しく細められる。そっと伸ばされた指先が、樹上から降りた時に乱れた髪をを整えてくれる仕草に、照れて頬を染めたヒナタは憧れを込めた視線でレンを見詰める。その視線の意味を誤解したのか照れくさそうに笑って自身の姿を見下ろすレンが答える。

 

「ああ、これはちょっとイノが勧めてくれたの。今日はもう上がって良いって火影様が言ってくださったから、執務室で会ったイノ達とナルトと一緒に一度私の家に帰ったんだけど・・・」

「・・・・ふふ。 とても、お似合いですよレンさん・・。」

「ありがとう//」


照れたままお礼を言って優しく笑うレンの姿に、彼女と自分が出逢った時を思い出す。

里の外れの森の奥。いつも五人で修行する場所とは反対側の小さな広場で、動かない片腕から滴る赤と、辺りに散らばる刃と肉片と、冷たい殺気を纏った幾つもの黒い影をを思い出す。向けられた冷たい刃と重い殺気に募った恐怖に縛られて、もう終わりかと考えたときの絶望は、愚かな自身を忘れぬための戒めだ。

あの時自分は、酷く焦っていたのだ。ナルトやイノやシカマルやチョウジと、友人となってしばらく後の事だった。同年であるというのに、彼らとの間に広がる絶望的な力量差に憧れと同時に激しい衝撃と焦りを感じて我武者羅に追いつこうと無茶な修行を繰り返していた。四人は、そんな自分に心配そうな瞳を向けながら、ヒナタの思いを汲んでくれたのか口に出しては何も言わずに気が済むまで修行に付き合ってくれた。そうやって、三月ほどたった頃だったろうか。四人が実践的な修行をしてくれるお蔭で、彼らほどではなくてもそこらの上忍程度の実力は手に入れていた。以前から考えれば驚異的なスピードで成長した自分に、僅かながら自信を持ち始めた頃だった。ようやっと周囲を見直しす余裕ができて、ナルト達も始めから強かったわけではない事に気づいたのもその頃だ。けれどまだ捨てきれない焦燥が冷静さを失わせ、生まれ始めた自信と余裕が慢心に繋がった。

だから、突然現われた敵の忍を相手に、愚かにも一人きりで戦闘を開始した。相手の実力を見誤っていた事に気付いた時にはすでに手持ちの武器も無く、片手に致命傷を負っていた。しかもその日は、ナルト達が四人とも任務に出ていて、一人で修行していた事も仇になった。そこはナルト達が使用する演習場で、森一帯に特殊な結界が張られていて外に異変が伝わりにくい場所だった。ナルト達がいないなら、異変に気付くものもなく援軍など現われるはずも無い。つまりは、本当に孤立無援の状態で、助かる可能性など万に一つもないと思っていたのだ。

いよいよ追い詰められて覚悟を決めたその時に、最も大きく心を占めたのは死への恐怖や絶望よりも、諦念混じりの落胆だった。幾ら力を手に入れたといっても、所詮はこんな中途半端に終わる程度の存在だったという事か、と思った自分に苦笑して。今更過ぎる認識に、自身の愚かさを嘲った。折角ナルトが己の素を晒す危険を犯してまで助けてくれた命を、むざむざと捨てるような真似をした事だけが悔やまれる。ナルトが素顔を見せたのならと、自分を信じて正体を明かしてくれた友人達たちにも申し訳なく思いながら、場違いなまでに静かな心で目を閉じた。

--- だが、次の瞬間己の命を奪うはずだった攻撃は、何時までたっても訪れず。突然生まれた静かな気配と、感じたぬくもりに驚いて思わず閉じていた目を開いたヒナタが見たのは、己を取り囲んでいたはずの敵の忍の亡骸を消し去る青白い炎の色と、必死に顔を覗きこむ少女の泣きそうな顔だった。

彼女がアカデミーの医務室に勤務する新任の非常勤の養護教諭である事はすぐに思い出せたけど、何故此処に居るのかは分からずに、何事か問いかける彼女の言葉を半ば聞き流す。その混乱したヒナタの心境を誤解して、慌てた彼女はおろおろと辺りを見回しながら式神らしき伝令鳥を飛ばそうとする。それをみてやっと我に還ったヒナタは、今の自分の立場と状況を思い出して焦って彼女の腕を掴んで止めた。幾ら致命傷を負ったとはいえ、”日向の落ち零れ”であるはずの日向ヒナタが、他里に侵入できるほどの実力を持った忍と対等に戦える程の実力を持っている事を知られるわけにはいかない。しかもそれを知られれば、必然的にナルト達の事もばれる可能性が高くなる。それだけは何としても防がなければならない事態だ。だから、助けてくれた筈の少女を敵でも見るかのように切羽詰った表情で睨みつけて口止めするために口を開いた。


その瞬間に視界に飛び込んできた金色の少年の表情に、再び声を奪われる。数十人の他里の暗部を相手取っての任務の時さえ息も切らさず全てを終えると聞いた少年が、僅かに肩を上下させてこちらを見詰める。欠片の感情も浮かばぬ静か過ぎる少年の表情に感じた恐怖と緊張感に、思わず傍の少女の服に縋った。それを見て、ちらりと過った少年の感情を読み取る前に、彼は静かに口を開いた。


「何事だ、これは。・・・・ヒナタ?」

「あ、・・あの、その・・・・」


緊張の余り呂律が回らず釈明もできない。それを助けたのは、目の前の少女だった。


「ナルト。・・・あんまり怖い顔をしないの。
 ヒナタちゃんが心配だったなら素直に口にだして言って上げないと。
 こんなに怯えちゃって、可哀想でしょう?」


無表情のナルトが醸し出す威圧感を感じてすら居ないかのように、穏やかな苦笑混じりの声で紡がれた内容に、思わず少女の顔を見上げた。訳が分からずただ二人を見比べるしか出来ないヒナタの前で、二人の会話が続く。

 

「・・・レン。お前はちょっと黙ってろ。
 今オレはヒナタに言わなきゃならない事があるんだよ。」

「あのね、ナルトが言いたい事も多分分かってるけど、
 まずは無事だったことに安心してもいいんじゃないの?」

「あのな・・・」


苦みばしった表情で何事か言おうとするナルトを遮ってレンが続けた。

 

「それに、ヒナタちゃんは、まだ ”アカデミー生” だよ?
 危ないことをしたのは確かに咎めるべきだけど、
 叱るにしてもまずは治療してからでもいいと思うな。・・・ね?」

 

加減はしているとはいえ上忍や暗部ですらも恐怖する、素を曝け出したナルトの威圧に動じることなく反論するレンの姿に驚愕するヒナタ。そんなヒナタをちらりと見てから降参するように両手を挙げて肩をすくめたナルトが答える。

 

「わかったよ。確かにその腕は早く治療を済ませるべきだな。
 あ~、と、レン。お前の家を借りても良いか?
 頼みたい事もあるしな。」

「勿論。・・・・じゃあ、ヒナタちゃんもそれで良い?」


ナルトの言葉ににっこり笑ったレンが、固まったままのヒナタに問いかける。反射的に頷いたヒナタに安心したように息を吐いたレンが、蹲ったままだったヒナタをそうっと抱き上げた。突然の予想外の出来事に思わず声を上げて縋った自分をみたナルトも笑った。

 

「くくっ、お前は相変わらずだな?」

「え?何が?」

「いや、なんでもないさ。・・んじゃ、いくぞ」

 

物心ついた頃には既に日向の後継者としての修行のために、厳しい表情しか見せてくれなくなった両親に抱かれた記憶などなかったヒナタは、感じた優しいぬくもりに混乱したように固まった。そのヒナタの様子にレンとの初対面の時のことを思い出したナルトは、おかしげに肩を揺らして一人ごちる。ナルトの言葉を拾ったレンの、きょとん、とした顔に苦笑して、緩んだ頬を隠すように走り出すナルトの後を慌てて追いかけるレン。そんな二人に混乱を深めたヒナタは固まったままで運ばれた。





 

運ばれたレンの自宅の治療室で傷を診てもらいながら説明された二人の関係に、少しだけ嫉妬したのは内緒の話だ。憧れの存在であるナルトに近しいレンへの嫉妬か、全てを知っても穏やかに受け入れてくれる存在を持つナルトへの嫉妬だったのかは今でも区別がつかない。

けれど確かに二人の間の絆のあり方を羨んだ。その思いを隠し切れずに、自分もその輪の中に入れたら、とじっと見詰めて無言で訴えた自分の行動の子どもっぽさを思い返すと、今でも羞恥で頬が赤くなる。けれど、その視線に気付いたナルトが苦笑を溢して、気付かないままにヒナタの沈んだ気持ちを心配するレンが顔を覗きこんでくれた時に感じた嬉しさは、その羞恥を無理やりねじ伏せてもその記憶を残そうと思えるほどに嬉しいもので。だから、突然黙り込んだ自分を元気付けようと必死なレンの様子と、お見通し、とばかりに頭をぽんぽんと撫でるナルトに、すとん、と落ちた安堵に押されて真直ぐに笑って見せた。その笑みに返された二人の表情も、共に大切に抱えている宝物の一部分。

今まで知らなかったことを知ったからと勝手に嫉妬したり、二人が自分を心配してくれたからと一転して機嫌を直したり。現金で狭量な自身のあからさまな感情には心底呆れたが、無言のままにヒナタを受け入れていることを示してくれた二人の思いに感じた喜びは、その後もずっと自分を支える自信の一部だ。だから、その後にあった出来事は、ほんの少し悲しくて痛かったけれど、今となっては笑って語ることが出来る程度の些事だった。






レンはアカデミーに配属されるだけあって本当に腕のよい医療忍だったが、里随一の洞察眼をもつ日向の白眼を誤魔化しきれるほどの術は不可能だ。どう足掻いても治療の痕跡までは隠し切れない。特にヒナタは”堕ち零れ”といわれつつも当時はまだ後継者としての特訓を受けていた。当然日向の修行には白眼を使用する為必ずばれる。つまりはヒナタの怪我についての、表立って差し支えない言い訳を用意する必要があった。

その為に用意したのは、「血継限界の人間を狙った忍に攫われそうになったヒナタを、任務中に通りかかった暗部の忍が助けた」というものだった。ヒナタを誘拐した雲隠れとの事件ほどでなくとも、忍界大戦・九尾襲来と災難に見舞われ続けた木の葉の里は人手不足のため警備などが手薄に成り勝ちであることは、当時の木の葉の最大の懸念事であった。当時木の葉最強と誉れ高いうちはの精鋭が警備に全力で当たっているとはいえ、埋めきれない穴が存在していることも事実で、貴重な血継限界の一族や秘伝を伝える旧家の人間に対する危険は現実味のある脅威であったのだ。それを踏まえて作り上げた理由も、不本意であろうと受け入れやすいものだった。

事情の説明と保護した少女の護衛として訪れた二人の忍に挟まれて、ヒナタは本家の客間で両親である当主夫妻と対峙していた。怪我を治療した養護教諭--レンと、当事者である暗部の忍--変化したナルトと一緒に、日向に帰ったヒナタを迎えたのは、当主である日向ヒアシの冷たい侮蔑と冷然とした母の眼差しだった。

その反応に少しだけ疼いた心に蓋をして、務めて静かな表情で帰宅の挨拶をするヒナタに浴びせられる冷たい言葉と待遇は、”堕ち零れ”と評されるようになった五歳の時から当たり前に与えられる反応だった。そのことに今更傷つく心など、当の昔に捨て去った。自分の望みのためになら、この程度のことは大した代償ではないと自分自身に言い聞かせ強く唇をかみ締める。


ヒナタには護りたいものがある。

それは、自分を助ける為に窮地に立たされた木の葉と日向を護るため死んでしまった叔父を思って憎しみに囚われた従兄弟の心と、日向の末子として生まれてしまった妹の未来だ。

自分は日向本家の長女として生まれた。血の存続を至上とする日向一族は、その繁栄の為に属する者の心を代償へと差し出した。初代が何を思ったかは推測しか出来ないが、命を縛る呪印などという手段を用いてまで本家と分家の主従を強制するなど、愚劣で醜悪な行為だとしか思えない。そんな強制手段を用いなければ当主として存在できぬほどに弱い立場だったのだろうか。当時の一族がどんな内情を抱えていたかなど知ったことではないが、今尚続けられるそれらの悪習に、従兄弟と妹の未来を殺されるなど絶対に許せなかった。

だから、ヒナタは考えたのだ。

自分は日向本家の後継者として生まれた。その為に従兄弟にはヒナタを護るための呪印が刻まれてしまった。このまま自分が成長していつか当主になったなら、父と双子だった叔父と同じように妹のハナビにも呪印が刻まれてしまうだろう。呪印は本人の意思に関係なくその命を人質に本家を護る事を強制する力だ。・・・・そこまで犠牲を払うほどの価値を自分に見出す事は出来ないし、出来たとしてもやりたくなかった。
 

ヒナタにとって、生まれた人間の心を代償に生き続ける日向一族の存続も、従兄弟から父を奪った木の葉の里も、大して心を割く価値もない存在だった。幼いヒナタが護りたいと、大切だと思えたのは従兄弟と妹の二人だけだった。

だからヒナタは考えた。

このまま自分が後継者として生きたなら、再び悲劇が繰り返されるだけだろう。ならば、妹を後継者にする事で彼女を護り、自分が全てを護る力を持つ事を、ナルトに出逢った初夏の森の光の中で、強く心に決めたのだ。後継者として外されたなら自分に呪印が刻まれる。けれどそれが妹を護るための証であるなら構わなかったし、従兄弟が呪印に縛られて戦う必要が無いように、全ての脅威を消し去る為ならどんな痛みにも耐えられる。自分の存在ゆえに苦しむことになる二人の為にできる事を探していた弱い自分に、諦めない勇気と、生き抜くために戦う強さをくれたのは、日向を狙って現われた他里の忍から護ってくれた金色の少年だった。

その時自分は死んでも構わないと思っていた。自分が本家の後継者である為に憎まれているのなら、死んでしまえば全てが解決するとすら思っていたのだ。その弱さを、蹴り飛ばして笑った金色の残像が今でも瞼の内に蘇る。ヒナタの痛みなど些細なものだと思えるほどに、激しい憎悪と理不尽な害意の中で生きる事を強制された少年の心を知って受けた衝撃が、己の弱さを吹き飛ばす。

・・・自分は何も見ようともせず、ただ逃げていた。本当に護りたいと思うのならば、戦う事を選ぶべきなのだと、その為の強さと力を手に入れるべきなのだと、思い知る。


あの時から、ナルトの存在はヒナタにとっての導の光で、憧れであり、誰より尊敬する目標だった。

その彼と同じ大地にたつ資格が欲しいのだ。己が立てた決意を守って、大事なものを守るために戦う強さを手に入れたときにこそ、その資格が手に入る。そう思ったから、日向を至上とする両親が、期待通りの成長を見せない長女に対する落胆と侮蔑を隠さずぶつけてくる程度の事で傷ついて見せる事はしたくなかった。何時だって毅然とたって前を向くナルトの隣でそんな姿は見せたくなかった。だから、いつも通りにひたすら耐えていたヒナタは、そこで突然聞こえた言葉に己の耳を疑った。

 

[------ いい加減になさっていただけませんか。
 先ほどから聞いておりましたが、それが命に関わる事件に巻き込まれて無事に帰ってきた娘さんに対する態度なんですか?日向といえば里の誇る名門一族。守るべき矜持も対面も一族の方々のプライドもおありのことでしょう。実の親子とはいえ直系のお嬢さんであるヒナタさんに厳しく接するのは仕方がないとは思います。

・・・・ですが、幾らなんでもそこまで言う必要はないんじゃないですか?しかも、無事を確かめるでなく、怪我の程度を聞くでもなく、私たちのような第三者の目前で、お嬢さんを貶めるようなことを口にするなど、無神経にも程があります。思うところがあるにせよ、ヒナタさんはまだ六歳の女の子なんですよ。幼いから甘くしろとは申しませんが、例え成人した大人であっても、こういうときは労わってあげるのが正常な人間としての反応なんじゃないんですか。

大体先ほどからまるでヒナタさんが原因で危険を引き寄せたとでもいうように責めますが、彼女は被害者ですよ。本来責められるべきは、里の警備に穴をあけた我々正規の忍であり、血継限界の血族の危険を承知で碌な防衛策も講じてなかった貴方方日向の方々なんじゃないですか。それを・・・・・」


「碇中忍。」

 

淡々とした口調で捲くし立てたレンの言葉を、隣に座っていた暗部姿のナルトが遮る。静かな表情で瞳だけを苛烈に煌かせたレンの視線をうけたナルトが、有無を言わせず黙らせた。日向の当主として、火影にすら礼を払われ里の忍からは常に畏敬の念を集める日向ヒアシは、遥かに年下の少女に面と向かって批難された驚愕に固まり、婦人はただ眼を見開いて停止し、ヒナタは余りの事態に呼吸すら止めて両隣の二人を見回す。そんな三人に一切構わず、ナルトは変化したため通常よりも低い声で言葉を続けた。


「・・・大変失礼致しました。
 日向の御当主に対する無礼、重々お詫び申し上げます。
 申しわけございませんでした。
 碇には後ほど厳重に注意したしますので、どうぞご厚情の程お願いいたします。

 では、お嬢さんは無事に送らせていただきましたし、
 御当主方にも挨拶をさせていただきましたので、
 我々は、そろそろ失礼させて頂きます。」

「あ、ああ。ではお二人とも。
 娘を助けてくれたことには感謝する。ご苦労だった。
 ・・・・失礼する。」


丁寧なナルト(暗部姿)の詫びの言葉に再起動したヒアシが咳払いしつつ応える。高々十代の小娘に一々取り合うのも大人気ないと思ったのか、憮然としつつも礼の言葉を返して静かに退室する。その後ろに従う婦人がなにやらもの言いた気な視線でレンとヒナタを見比べてから無言のまま礼をしてでていった。

後に残されたのは驚愕に固まったヒナタと、無表情を崩さないナルトと、未だに苛立っている様子のレン。お互いに何か言いかけるが、そこが日向本家である事を思い出し、丁重な態度を保ったまま外にでる。見送りの名目で着いてきたヒナタと三人でつれだって広い敷地の境界への私道を歩いた。最初に口を開いたのはナルトだった。

 

「レン」


何時のまにやら結界を張ったナルトが、変化したままで声だけを元に戻して低く呼ばわる。その響きに、びくり、と肩を揺らして一瞬視線を泳がせるレン。ナルトはそんな反応を無視して続ける。そしてレンも真直ぐにナルトを見返して虚勢を張るように姿勢を正した。ヒナタは、初めて見るナルトの様子と、挑むように視線に力を込めるレンの姿に緊張して黙って居るしか出来ない。


「お前は、何を考えているんだ!相手は日向の当主だぞ!
 確かにあの言い方にはオレもむかついたけどな。
 面と向かって口答えなんかして良いわけあるか!!
 後で苦情でも出されたらじっちゃんでも庇うのは難しいんだぞ、
 わかってるのか!!」

「っ、だって!!」

「だってじゃない!!
 そうやって感情のまま突っ走るのはよせと、何回もいっただろうが!!」

「だって、・・・・ヒナタちゃんの事を何にも知らずに、
 ちゃんと見ようともしてないくせにあんな風にいうから!!」

「・・あ?」「・・え。」

 

ナルトの剣幕に、対抗しようと頑張りつつも僅かに腰を引けさせたレンの言葉に、勢いを止めるナルトと、思わず声を上げたヒナタが、呆けた表情でレンを見詰める。


「だって、さっきの言葉は要するに、ヒナタちゃんが弱くて後継者に相応しい実力もないんだから、波風を立てることなくただ邪魔にならないようしろって事でしょ!?
なによ、それ!!たとえ今の時点で多少力が伸びないからってこれから先は分からないし、努力に正しく見合った期待通りの実力を持てなかったら、全部無駄だとでも言いたいの?!

ヒナタちゃんは日向を存続させるための道具じゃないのに! 幾ら一族を守らなきゃならない当主だからって、あんな風に ヒナタちゃんの存在を軽く扱ったりしてゆるされるわけ?!・・・・ヒナタちゃんはヒナタちゃんでしょ?! ちゃんとした一人の人間で、誰かの為に存在する道具でも人形でもない!!

 ・・・・皆おかしいよ!!」


もうここまできたら、とでも思ったのか、勢い良く捲くし立てるレン。

ヒナタへの扱いに対する憤りをぶちまけながら、脳裏に過ったのは月の様な儚い少女の静かな言葉。「わたしには他になにもない」と言い切った彼女が瞳に浮かべた痛切な渇望を、今更深く理解しながら痛む心が、木の葉の里への怒りを煽る。何故こんなにも、人の心が軽んじられるのか分からない。どうして皆一人一人ならば誰かを大切にできるのに、組織として守るものを持った途端に、犠牲にされる存在を当然のように許容されるのか。忍の里である木の葉が力を保つために、血継限界のような力は確かに必要だろう。

・・・けれど、だからといってその一族に生まれたからというだけで、一族の為の道具にされて良い理由など、絶対に認めることは出来ない。それを、当たり前に甘受する人の言葉など、受け入れられるはずが無かった。

レンの勢いに押されて固まったままの二人は、興奮して肩で息をする彼女を凝視する。

 

「・・・でも、ヒナタちゃんのご両親に、あんな事をいってごめんなさい。
 ヒナタちゃんにとっては大事なご家族だものね。
 勝手に怒ったりして気を悪くさせちゃった、よね?」

 

深呼吸して気分を落ち着けたのか、一転沈んだ様子でヒナタの表情を伺うレンが小さく謝罪の言葉を口にした。確かに日向家当主の言葉に対する怒りはあったが、ああもあからさまに家族を罵られて、ヒナタが良い気分なわけはないだろうと今更思い当たって謝罪する。こんな風に考えなしの言動ばかりをしているからナルトが呆れるのだろうと思うと、落ちた気持ちが更に沈んだ。

呆気に取られていたナルトとヒナタは、完全にしょげかえるレンの姿を見て、同時に脱力して大きな溜息を吐いた。


(レンって)(レンさんって)

「・・・莫迦だな。相変わらず。」

「・・・優しいんですね。」


「・・ぅえ?」


重なった声に顔を見合わせるナルトとヒナタ。互いの感想の食い違いに思わず噴出す。それを、情けない表情で見比べるレンの気の抜けた返事に更に笑って歩き始めた。

 

「ぶっくくくくく・・・。ま、まあいいさ。何とかなるだろ。
(いざとなったら、脅迫でも裏工作でもして、何とかするし。)

 お前は本当に、相変わらず莫迦だよなー。」


「ぅええ?!酷いよナルト!!
 そりゃ、ちょっと考えが足りなかったかな、とは思うけど!!」

 

「ま、まあまあ、レンさん。落ち着いて。
 ・・ありがとうございます。私の為に怒ってくれたんですよね。嬉しかったです。」

「う?え、あ~、いえ、そんな・・・本当にごめんね。
 勝手な事言ってたのは私も同じだよね。」

「いいえ、本当に、嬉しかったですから。ありがとうございます。」


ナルトを追いかけて必死に言い募るレンの顔を覗きこみながら、穏やかな笑みを浮かべて言ったヒナタの言葉に、顔を赤くしてうろたえるレン。それを見て更に笑いながら見守るナルトと、おろおろするレンに笑顔で繰り返すヒナタが続けた。


「ヒナタが言ってるんだから、素直に受け取っとけば?なあ、ヒナタ。」

「うん。・・レンさん、そうしてくれると嬉しいです。
 あと、わたしのことはヒナタで良いですから。ね?」


「ぇえと、うん・・・。ありがとう!ヒナタ!」


眼を泳がせて言葉を探していたレンが、満面の笑みでヒナタに応える。その様子を穏やかに微笑んで見ていたナルトの表情を、レンの肩越しに目撃したヒナタは、内心で深く納得していた。

ヒナタの方を振り向いて、楽しそうに笑ったレンを見詰めるナルトの表情は今まで見たこともないくらい、甘やかで穏やかな優しい顔だったのだ。それを見て、ああ、そうか、と深くうなずく。里ぐるみの迫害にも、押し付けられた重責にも、決して負けずに戦う彼の強さは、この人の存在が理由だったのか。暗く深い闇でさえ、眩い光で切り裂いて真直ぐ進む彼の背中を支えているのは、この優しい人のぬくもりなのか。

そして、ヒナタにナルト側の事情を説明しながら、レンにはまだ何一つ明かしていないヒナタの事情を黙って察して、何も無かったかのように笑って秘密を守ってくれた彼女の思いやりに、両親からの言葉と態度に痛んだ心が穏やかに癒される。何も知らずにいたというのに、ただヒナタの存在が不当に軽んじられたから、と里の名家の当主に向かって真直ぐに憤って見せた彼女の直向な優しさに、中々届かない望みに疲れていた心があたためられる。

その瞬間からヒナタにとって、ナルトとレンは不可欠の存在としてこの心に刻まれた。

この二人が居てくれるなら、大嫌いな日向の家も、どうしても馴染めない木の葉の里も、自分を傷つけるものではなくなる。唯一大事だと思える従兄弟と妹を守るためだけに望んでいた忍の力を、二人の為になら惜しむことなく差し出せる。願いを叶える為の演技に騙されて、自分を冷遇する日向に対する未練も執着も綺麗に消えた。

ただ、大切な者だけを想ってこれからを生きていこうと思った。

彼らが住むこの里を、ついでに守るくらいは構わない。

けれど、天秤に乗せるまでもなく、ただ大事な人だけを守る力を手に入れる。

それが、ヒナタの忍としての根源だった。

 

 


++

 

 


「-- それでね、今日のから明後日まで下忍班の任務の他はお休みをくださるって、火影様とナルトから伝言。
 後、私も一緒にお休みを頂いたから、ヒナタが良ければ家に来ないかな、と思って誘いにきたの。
 イノ達は一度ご家族に言ってからもう一度来るって。 どうかな?」


「・・も、勿論伺います!!
 あ、あの、日向の家のことは心配しないでください。
 一度帰って言伝を残せば問題ないですから。」
 

 

あれから数年、今ではヒナタもナルトと共に影暗部として任務を任されるくらいの実力をつけた。やっぱりナルトとの差は中々縮まらないけれど、イノやシカマルやチョウジとは何とか同じくらいのレベルには届く事ができた。世界に大切なものが従兄弟と妹の二人しかなく、思いは真実でも一方的な好意でしかなかったために孤独な生を生きていた自分にできた大切な仲間の存在が、とてもとても嬉しくて誇らしかった。

だから笑った。
昔の自分が浮かべていた怯えたような曖昧な笑みでなく、
穏やかで暖かな感情が齎す喜びのままに明るく笑った。

余人の居ない場所で交わす、仲間達との会話は本当に楽しくて、
何時でも自然に笑えることが幸せだった。


回想した出会いの記憶に、更に深まる笑みを乗せた弾んだ声音で会話を続けた。あの時からずっと変わらず自分を見守ってくれている、大切な”お姉ちゃん”に微笑んでおねだりをする。自分たちを可愛がってくれているレンが、絶対に断らないことを見越した上で可愛らしく言葉を続けた。


「・・そ、それで、あの・・
 イノちゃん達と一緒に、レンさんのお家にお泊りしてもいいですか・・?
 わ、私も最近レンさんとあまりお話できなかったし・・・
 ご、ご迷惑じゃなければ・・」

「勿論!!お夕飯も家で食べられる?
 今日は卒業のお祝いだものね。
 皆の好きなものをいっぱい作るからね。」


思ったとおりに快諾してくれたレンの笑顔と言葉に、喜んで即答した。冷たく余所余所しい場所でしかない日向の家より、大切な仲間たちとの晩餐を選ぶに決まっている。浮き立った気分のまま、レンの腕を引いて歩き出す。このまま買い物に向かって、ついでに伝言をと届ければいいだろう。それで後は一緒に料理を作って夜は皆でのんびり過ごそう。滅多にない休暇に位、平和な理由で夜更かしをしても許されるだろう。次々に楽しい計画を思い描くヒナタ。その楽しげな様子を見て微笑んだレンも一緒に歩いて商店街に二人で向かう。

人気のない演習場の木立の向こう華やかな笑い声が遠ざかる。
普段は殺伐とした雰囲気を漂わせる森の景色が、そこに居た少女達の空気が移ったように、柔らかで穏やかな春の日差しに草木が映える。可愛らしい鳥の鳴き声に葉擦れの音が重なって、暖かな世界が残された。

それは、強く笑って未来を掴む少女達の姿のように、優しく眩しい光景だった。

 

 

 


++

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ここは女体化シンジ(碇レンorシオン)溺愛サイトです。クロス・逆行・分岐に関わらず、レンorシオンが贔屓・溺愛されてます。(クロス作品では他作品のキャラと恋愛有(むしろメイン))
書きたい物を書ける時に好きに書き散らしてます。文頭には注意書きをつける積りですので、好きじゃない、と思われた方はこのHPを存在ごとお忘れになってください。(批判とかは本当勘弁してください。図太い割には打たれ弱いので素で泣きます)



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