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・碇レンver
・本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします
CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)
です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。
今の時代に生きる人々の大多数が忘れてしまった本来の大地の一角で、複雑な譜業と譜陣に守られて眠り続ける少女がいた。漆黒の髪をゆらゆらと流れ出る記憶粒子に照らされて眠る少女は、その身に無理やり与えられた力を利用されるために人口の大地を支える柱に繋がれて、二千年眠り続けた。譜術によって遅らせている体感時間の調整の為に数百年に数回ぼんやりと現に意識を引き上げる他は、ずっとずっと眠り続けた。それを見護るのは、過ぎてしまった過去の世界で人の子と交わした契約に縛られて地殻に封じられた七番目の神様がひとりだけ。彼は、その少女が本来ならこの世界の人間ではないことを知っていた。少女がどこか遠い世界から流されてきた異端の存在であることを知っていた。その身に、強大な力を秘めた異分子であることを。
・・・それでも良いと思っていたのだ。少女が空間の狭間からこの世界に堕ちた時に流れ込んだ嘆きの深さに、ただ生きることだけを望んだ思いの強さに。ほんの少しの同情と、気まぐれの慈悲を起こして、この世界に少女の存在が馴染むことを許した。だが、ただそれだけだった。
少女が初めてこの世界で目覚めた時に目にした戦場に恐怖して暴走させたその力で周囲の敵を一掃したのを感知しても何もしなかったし、少女が焦燥と恐怖から迷走するのを知っても何も感じなかった。自分はもともとそういう存在だった。世界の一部にたまたま同じ属性の力が集い感情を備えた意識が生まれた。それが自分だ。人間達が、精霊とか、神とか、意識集合体、と呼んだもの。ただ世界の変遷を眺めやり、流動する己の属性の力を調整するのが役割の、星の歴史の傍観者。
自分にとっては人間も魔物も植物も、どれも同等の存在だった。
大地に生きて刹那の命を燃やし、星に歴史を刻むもの。
それぞれの勢力争いの結果がどうなって、どの種族が勝利しても自分から見れば繰り返される星の歴史の一場面でしかなかった。星の上に生命がうまれ、種族が増えて、いずれかの種が知能を育て文明を築き、成長し続け、衰退を始め、いずれ滅んで、また再び只の星に戻る。何度も何度も繰り返される死滅と再生。星とはそういうものなのだ。そして自分も、星の一部の属性に偶然宿った一つの意識でしかない。
だがそれが、ほんの少し変化した。
きっかけは、一人の少女の慟哭だった。
その時、世界の覇権は人間と呼ばれる種族が握っていた。その人間が同じ種族でありながらそれぞれに勢力を作り、お互いに競い合って戦いを繰り返していた時代だった。彼らが生きる場所は全てが戦場となり、血に染まらぬ大地など僅かも存在しなかった。戦う術を持つ者はただ目の前の敵を屠り続けて大地を血で汚し続けた。力なきものは嘆きと憎悪と諦めのなかで次々と死んでゆく。いずれも過去の歴史で呆れるほど繰り返された争いだった。また一つの種族が滅ぶのだろうと無関心に見下ろしていた自分の意識に、ほんの少し触れてきた魂の奏でる響きがあった。それは、幼い人の子どもが奏でる美しい歌だった。
興味を惹かれて目を向けた先に、血にまみれた人の集落の中心で一心に歌い続ける人の子どもがいた。その歌は、人が譜歌と呼んでいたものだった。世界を覆う力を利用して目的を叶える為の手段として人間が開発した技術の一つ。その中で旋律と言の葉で目的に適った属性を引きよせ望みの現象を引き起こすというものだった。子どもが歌っているのは、自分の属性を利用する種類のもので、それは確か生き物にとって癒しの力を発揮するものだ。だがそれは生きているものにしか効果がなかったと記憶している。歌い続ける子どもの周りには既に事切れた死体しか存在しない。何をしているのだろう、と純粋に不思議に思った。
だからだろうか。
酷使を続けたせいで血を流す喉を無視して、体力を使い果たして体が地面に倒れても尚、歌を紡ぎ続けた少女に、己の一部を一欠片貸し与えてやったのは。
おとされた力の欠片は、風に舞う花弁のように静かに少女の掌に降り立った。それは少女に優しく触れたと同時に眩い光を発して辺りを照らす。掌に感じたぬくもりと突然視界を覆った光に、思わず歌を止めてしまった少女の目の前で、その欠片は一本のの杖に姿を変えた。柄に埋め込まれた宝玉が美しく輝くその杖は純粋な第七音素の塊だった。第七音素の素養が無いものにも一目でわかってしまだろうと思うほど大きな力を秘めていた。現れた杖を手に持っただけで、傷ついた少女の体を癒すほど、強い力の結晶だった。
突然与えられた恩恵に呆然と座り込む少女に、語りかける意識があった。
人間達が七番目に見つけ出した新しい神様。
破壊と再生、生と死を司る、七つ目の精霊。
ローレライ
傍らを通り過ぎる船に乗る者を美しい歌声で魅了して甘やかな夢を与え、冷たい水の底に船を沈めて無慈悲な死を与えたという岩の上の乙女の名前を冠する第七音素の意識集合体。第1音素から第6音素までのどの属性にも通じ、どの属性にも混じらないこの星の分身のような存在。
それが、突然接触してきたのだ。普通なら混乱して恐慌をきたしてもおかしくはない。
だが、少女はほんの少し自失しただけですぐに立ち直り、ローレライに縋った。
癒されたとはいえ、既に限界を超えた己のことなど意識にも登らせず、ただ周りに
倒れる人々をどうか助けてほしい、と言った。大切な家族や友人たちをどうか救って、と。
その少女の願いに、死んだ者を生き返らせる方法など存在しない、とにべもなく返しながら、ローレライは感情がさんざめくのを感じた。恐らくそれは、面白い、という感情だった。
人間はあらゆる種族の中で、特に傲慢で利己的な性質を持っている生き物だと認識していた。獣たちのように
己を律する術を持たず、生きるに必要な分を越えて無駄に殺生を行い、同種族同士でありながら不必要な争いを繰り返す。知能を発達させて文明を築くのは勝手だが、他の種族への配慮をせずに際限ない領地拡大を行って環境のバランスを壊し続ける。そうやって過去の歴史の中でも一際激しい興亡を繰り返してきたのだ。
だから、この子どもの、己よりも他者を優先する思考に興味を持った。ほんの少し貸し与えた力をどう使うのか見てみようと思っただけだったのに、直向きな少女の想いにもうちょっと関わってみてもいいかもしれない、と思ったのだ。与えた力の使い方を説明して傍観する予定だったのを変更して、少女の言葉に返事を返してやった。そして少女の次の行動を待つ。
この子どもは、一体どうするのだろう?
興味深く自分を観察するローレライの意識を感じながら、少女・・・ユリアは咄嗟に上げかけた否定の言葉を飲み込むために強く唇を噛みしめた。
今のユリアを支配しているのは、喪失の悲しみと、空虚な諦念と、深い後悔と、身を焼き尽くしてしまいそうなほどの激しい怒りの感情だった。
勿論願いをはねのけたローレライへのものではない。
彼の答えはそっけない位無造作なものではあったが、そんな当たり前の事に怒りなど感じない。
音素意識集合体である彼にとって、地上の片隅に生きる人間数人の生死など大した出来事ではないだろう。
人間が普段足元を行きかう蟻になど気を払わないのと同じことだ。彼らから見れば人間なんて地上に生きる種族の一つでしかないのだから、その生死に一々感情を傾ける必要すら感じなくて当然だった。
この怒りは、大切な人を護れなかった自分の無力さに対するものだ。
本当は、皆が助からないことなどとうにわかっていたのだ。
それでも頑なに歌を紡ぎ続けたのは、彼らの死を受け入れたくなかったからだ。
大切な人たちを護る為に手に入れたはずの力が、何の役にも立たなかったなどと信じたくなかったからだ。
護ると誓ったはずの自分が、ひとり生き残ったなどと、信じたくなかったからだ。
何が天才
何が類稀な才能
誰一人、助けることも出来なかったくせに----っ!
例えローレライに願ったところで死者は二度と還らない。
奪われてしまった命を、取り戻す術はない。
優しい両親がもう自分に笑いかけてくれることはない。
一緒に育った大切な幼馴染と手を繋ぐこともない。
いつも挨拶を交わした近所のおばさんの美味しいお菓子を食べることもない。
いつも果物をおまけしてくれた八百屋のおじさんが大きな笑い声を響かせることもない。
大好きな従姉の生まれるはずだった赤ちゃんを抱きしめることもない。
色んな話を聞かせてくれたお祖母ちゃんに抱きしめてもらうこともない。
生まれ育った村は壊された。大切な人たちは皆死んでしまった。
何もかも失ってしまった。
何一つ護れなかった。
自分ひとりが生き残った。
・・・今の自分になら、守ることができるのに!
「そう、か。そうよ。今、ならば・・・」
ふと、想い浮かべた言葉に、思考の全てを奪われた。
そう、今の自分の手の中には、ローレライが預けてくれた強大な力の欠片が存在している。
彼にとってそれがただの気まぐれの産物でも構わなかった。
力が、ある。これを、使わせてもらえるならば---?
「・・・ローレライ、お願いが、あるの----------」
何も言わず、ただ無言で杖を握りしめていたユリアが力強く顔を上げた。
その瞳は、先ほどまでの寄る辺ない子どものものではなかった。
強い決意を秘めた真っ直ぐな光が澄んだ瞳を輝かせる。
ほんの数十分の間にこれほどの変化を見せつけた少女への興味が深まる。
だから、ユリアが次に言った言葉にはむしろ喜んで即答した。
その時ローレライを動かしたのは、無邪気な好奇心と純粋な期待だった。
ローレライにとって、ユリアの望みを叶えることはただの興味本位な気まぐれの一つでしかなった。
ローレライは、何一つ理解していなかった。
繰り返される歴史の流れを、少しだけ近づいて眺めてみようか、という程度の認識だった。
・・・その程度の、認識しかなかったのだ。
あの時から二千年の時が流れた。
あの時代に生きた人間達が遺していった幾つかの仕掛けが動く。
”世界”の為に囚われていた少女の心が、仕掛けの一つに導かれて外の世界で目を覚ます。
己と近しい性質を生まれ持った人の子どもが産声を上げた。
地殻の奥から、それらの全てを見続ける神様がひとり。
ただひたすらに、再び選択を迫られる世界の変化を待っていた。
「おはようございます。貴方が、私のマスターですね?」
「うー?だれー?」
歴史ある公爵家の奥深くに隠された一室で、宵藍色の髪と藍色の瞳の青年が身を起こしながら傍らに座りこむ少年に笑いかけた。今まで自分の周りにいた人たちにも向けてもらったことのない純粋な笑みを向けられた朱金の髪の幼い少年はたどたどしい口調で困惑しながら首を傾げる。外見は十歳前後に見えるのに、まるで言葉を覚えたばかりの赤子のような仕草に疑問を抱きながら、寝かされていた箱から立ち上がる青年。
現状を把握しようと辺りを見渡すが、薄暗い部屋にいるのは目の前の幼いマスターだけだ。だったら事情を話せる人間をさがしに行けばいいかとあっさり思考を打ち切って、少年を抱きあげる。・・頭よりも体を先に動かすタイプのようだ。
「申し訳ありません。私の名前は、KAITO・・・カイトといいます。マイ・マスター。
私を作りだした博士から、その記憶を受け継いだ譜業人形。創造主の制約に従って、一定の条件を満たした場面でその記憶と付随する知識を後世の人々に開示するために生み出されました。
マスターを護り、その傍で世界を観察するのが役目です。
・・どうぞよろしくお願いします。」
「おはようございます!マイ・マスター!私はMIKU、初音ミク!
私の生みの親である博士から、その知識と技術を受け継ぎました!マスターを護ることと、博士が設定した条件を満たした場合に受け継いだ情報を後世の人々に提供することが役割の譜業人形です!」
新しく発見された創世歴時代の譜業施設を調査していた技術者達のまえで唐突に開かれたケースの中から、空色の髪と浅葱色の瞳の小柄な少女が飛び出した。軽やかな動作であたりを見回し、ケースを解放した金髪の少女の姿を認めると、可愛らしく笑いながら自己紹介をする少女--ミク。
怒涛の勢いで紡がれたセリフからどうやら創世歴時代の人間が作り上げた譜業人形であることがしれて混乱する周囲を気にも留めずに、マスターと認定した少女に朗らかに笑いかける。突然創世歴時代の遺産である譜業人形のマスターになってしまった少女はおろおろとしながらも勢いに押されるようにミクの手を握ってぎこちなく笑う。それを見て満足したように笑みを深めたミクが元気よく宣言した。
「よろしくお願いします!マイマスター!貴方は私がまもります!」
「そんな顔をしないでください、ラクス。
確かに”彼女”に託された目的も果たせずに、停止してしまうのは情けないですけど・・・大丈夫ですよ。
まだ眠っている私の妹と弟が目覚めれば・・
彼らを起こせるマスターが現れれば、きっと彼らが役目を継いでくれるでしょう。
だけど、ああ、そうですね。 博士の・・”彼女”の言葉を、”あの子”に伝えることができなかったのは心残りかもしれません・・
・・・”彼女”が・・最・・後ま・・気に・して・・のは・・あの子が・目ざめた・・きに・・・・・・・・・・・・・・」
美しい水の都の宮殿の一室で、無残に壊されてしまった人形に縋りついて桃色の髪の少女が泣いていた。
幼い頃に身罷った母が託してくれた、創世歴時代の遺産である彼女の言葉を、一言一句聞き洩らさないようにと口元に耳を近づける。後ろで無機質な眼をむける兵士の存在など意識の外に追い出して最期の言葉を心に刻んだ。
人形といっても、外見も言動もほとんど人間と見分けがつかないほど精巧な譜業人形。彼女は、創世歴時代、国と世界の為に隠されてしまった事実と真実を後世に伝える為に作られたのだと言っていた。ただ護る為に作り上げた技術を国の為に利用され、家族や友人を奪われた女性が、最後に残した願いの結晶。
・・最後まで捨てずに抱き続けた未練のカタチなのだと、言っていた。
屋敷の奥に隠されていた彼女を起こしたのは、今は亡き母だった。体が弱く儚げでありながら誰よりも強い意思を持っていた母は、彼女・・メイコが伝える真実を知って行動を起こした。それは、この国の今の方針とは真逆のもので露見すれば反逆者といわれても仕方ないものだったが、自分は彼女たちの奮闘を誇りに思う。例え、現帝の行為に異を唱えたために壊されてしまったメイコの姿を見ても尚、この意思は揺るがない。
だから、自分が泣くのはこれが最後だ。
彼女たちの意思を継いで目的を果たす為ならば、見せかけだけの恭順くらいいくらでも捧げて見せる。
何も知らない貴族どもや、頑迷な皇帝に見下されるくらいがなんだというのか。
彼女たちの願いを知って何もできないでいることの方が余程屈辱だ。
だから、もう、いい。
変えられないなら壊すだけだ。
今の自分の周囲に頼れる人間がいないなら、頼れる人間を探すだけだ。
国も立場も関係ない。
何をしてもなにを置いても叶えてみせる。
絶対に!
「あなたは預言が憎いのですか?それとも預言に盲従する人間がにくいのでしょうか」
穏やかな昼下がり、常に優しい笑みを浮かべ周囲に慈愛を振りまく教団の若き最高指導者が、ひっそりと囁いた。無言でつき従う自分の事など忘れたように気ままに木々を愛でていた表情そのままに静かに振り向いた彼は、自分の表情を目にするなり大きく笑って言葉を続けた。
「あはは、冷静沈着な特務師団副団長がそんな顔をするなんて!
ばれてないと思っていたんですか?すぐにわかりましたよ!
貴方の目は、・・・・・・・・昔の僕と同じ色をしていましたからね!」
屈託のない表情で笑いながら、冷酷な光を宿した翡翠の瞳がまっすぐに向けられる。所詮は預言を詠んで盲目な信者どもに傅かれるしか能のない幼い子どもだと思っていたのに。そんな内心すら見透かすように鋭い視線に射抜かれて呼吸が寸の間止まった。常に鋭い光を放つ菫色の瞳が僅かに泳ぐ。取り繕うには遅すぎる時間を置いて、艶やかな黒髪で表情を隠しながら俯いて礼をとる。一介の兵士が組織の最高指導者に対するには正式なものだったが、今はあからさまな誤魔化しにしか見えなかったろう。だがどれ程見透かされていようと、確証がなければどうとでもなる。どうせ教団にとどまり続ける意思もない。この場を凌げればそれでよかった。
「恐れながら申し上げます。
導師は何やら勘違い為されているようですが、心外にございます。
私は心より教団に忠誠を---」
「ああ、いいですよ。そんな上辺の言葉は要りません。
別に貴方をどうこうしようとも思ってませんから安心なさい。
・・・ついでにその言葉遣いもやめてください。貴方には似合いませんよ。」
くつくつと喉の奥で笑いながら見上げる子どもに、常に纏う穏やかな慈愛など欠片も見えない。鋭い視線も皮肉気に釣り上げた口元も始めて目にする類のものだが、成程これが彼の本性か、と納得するだけだ。仮面を被っていたのはお互い様か。いや、相手のほうが何枚も上手であると気づかされて、悔しさよりも興味が勝った。お言葉に甘えて口調を素に戻す。
「どちらも大して変わらないだろう。なぜそんなことを聞きたがる?
預言を至上と掲げる教団の導師さまが、預言を憎む人間の事情なんぞ気にかけるとはな。」
あっさりと仮面を脱いだ自分をおもしろげに見やる導師。話を続ける気なのだろう、傍らの木陰に座り込んで隣を示す。僅かに躊躇ったが今更かと思いなおして乱暴に腰をおろした。この子どもが一体何故こんなことを言い出したのか興味もあった。
「いったでしょう。貴方のその憎しみは過去の自分と同じものだと。
預言に支配されたこの世界で、同志に会えるのは珍しいんですよ。
ちょっと話をしてみたいと思うくらいいいじゃないですか。」
「同じ、ねえ。・・・だった、ということは今は違うのか?」
「そうですね・・・・・貴方は何故預言が憎いのですか?預言を憎んでいるのに教団にいるのは何故です?」
こちらの問いには返さずさらに質問を重ねる。何にこだわっているのかは知らないが、なんとなくはぐらかさずに正直に答えてみた。一度もそらされない翡翠の瞳に射抜かれると、偽りを口にする気にはならなかった。
「俺は、キムラスカの貴族の庶子でな、預言に詠まれなかった子どもを身ごもった母親が、
男に捨てられるのが怖くて、だが愛しい男の子供を殺すのも嫌がって監禁してたのさ。
・・・そんな子どもがどんな目に逢うかしってるか?最低だったぜ?
辛うじて食い物は与えられても地下室に閉じ込められて接する人間も殆どいない。狭い牢獄で自由に動き回れるはずもない。さすがに同情した使用人が言葉を教えてくれなきゃ話せもしなかった。 それでも、”外”の世界に憧れてることもあったんだ。ここから出られれば、こんな目に逢うこともなくなる、と思った。
・・・・実際外に逃げだせた時は喜んだ。すぐに外も大した違いはないと知ったがな。
生まれなかった筈の子供に戸籍なんかない。存在を隠す為に監禁されてた俺に教養なんかある筈もない。力も知識も何もない幼い餓鬼が世間に突然放り出されて生きられる筈なんかなかった。
だが大人しく死にたくなんかなかったからな。生きる為に何でもやった。それでも何度も死にかけた。
ある日とうとう本当に死ぬかと思うような致命傷を負って倒れてた俺を、拾ったやつがいた。 そいつがここの詠士だったのさ。よりにも寄って預言士に助けられるなんて冗談じゃないと思ったんだがな。 酷く人の好い年寄りで、目の前で困っている人間を放っておけないからと次々厄介事に首を突っ込んではいらん苦労を重ねてた。 それを見てて何時の間にか放っておけなくなって・・・・要するに絆されたんだよ。その爺さんにな。
だからそうだな。俺がここにいるのは元はあいつへの恩返しか。だがアイツも年には勝てずに先日逝った。
今も残ってるのはまあ、唯の惰性だ。 次にどこに行くのか決めたら辞めるさ。
だから心配しなくてもいいぜ?そのうち消えるからな。」
こんな話を聞いても安易な同情や憐憫を浮かべない聡明な眼差しも気に入った。だが一体に何をこだわっているのかと思ったのが表情に出たらしい。目ざとく気づいた導師が笑みを苦笑に変えて一瞬遠くを眺めやりながら話始める。
「成程ね。・・・・だったら、僕に協力しませんか?まだ先を決めてないんでしょう?」
「はあ?協力って何のだ?面倒事はごめんだぜ。大体なんで俺なんだ。
アンタならこれから幾らでも忠誠誓ってくれる部下を見つけられるだろ。」
「ふふ、貴方にも悪い話ではないと思いますけど。
・・それに貴方が気に入ったんですよ。預言を憎みながら、直接関係のない人間を巻き込もうとしないその冷静さが特に。 貴方なら、教団を内部から掻き回すことも、前任であるエベノス様や僕を殺すこともできたのにしなかった。
貴方が憎むのは、預言に振り回されて自分を捨てた母親と見向きもしなかった父親だけなのですね。
そういう人間は意外と少ないんですよ。だからです。」
微笑んで言い切った導師からぎこちなく視線をそらす。なんだか面と向かって恥ずかしいことを言われたような・・・。幾つも年下の子どもに、これから先も絶対勝てない予感を抱きながら続きを促した。口では反論してみたが、すでに彼を放っておけなくなっている自分に気づいて憮然としつつ顔を戻す。翡翠と菫色の瞳が向かい合う。幼い導師は、口元に鋭い笑みを閃かせてひっそりと囁いた。
「僕は、預言を絶対だと考える人たちの認識を壊したいんですよ。
預言が生殺与奪の全てを支配する、この世界の常識をね。
・・・・協力してくれるでしょう?カナード」
「それに、君の父君の罪はそれだけではないのだよ。
・・・君の兄が、預言に詠まれなかった為に存在を無かった事にされたことを知っているかね?
そして、君も、本来なら存在を詠まれていなかったことを。
なのになぜ、君がそこにいるのか----
君の父親が、その研究対象であった君を残す為に、預言を偽ったからだよ。
本来死産だったはずの君の預言を、買収した預言士に詠ませ、その後で口封じに殺した。
預言に支配されたキムラスカで、預言に詠まれなかった為に死んだ人々の屍が数多埋まるこの国で、なぜ君だけが存在を許されてるんだ。 あの忌々しい研究の為に、沢山の命を喰らって生かされた君が!」
崩れた天井からわずかに差し込む光だけが頼りの廃墟で呆然と座り込む少年と、荒々しく声を荒げる青年が向かい合う。激しい怒りと憎しみに瞳をぎらつかせる青年が、一歩一歩少年に歩み寄りおもむろに手を掲げた。その掌にはっきりと攻撃譜術が展開されるのを見ても抵抗する術も思い出せずに目の前の影を見上げた。
この実父の物である研究室で明かされた数々の事実に思考が麻痺して、指先を動かす気力もなかった。
父が犯した罪の証であると、沢山の犠牲者の命を踏み台に生み出された存在であると、
本来なら許されてはならなかった命なのだと、そう、言った。
目の前の青年は、自分を生かした原因である研究に、その命を蹂躙された被害者なのだと。
だったら復讐する権利があるだろうと、そういった。
「(だったら、僕は、ここで、死ぬのが正しいの・・・?
生きていては、駄目だった・・・?
ぼく、僕は・・・・)」
それを否定する権利が、自分にあるのか、わからなかった。死にたくない、と思ってる。
けれど、それを主張する資格を持っているのかは分からなくて、ただ無意識に後退る。
奇跡的に破壊を免れていた大きな譜業に背を預けて動きを止める。
「(けど、僕は・・!)」
≪やめなさい!≫
答えの出ない迷いに行動を遮られ、避けることも出来ずに攻撃譜術を受けることを覚悟した。
身構えた少年の目前で、間近に迫った膨大な第五音素が、深紅の光にさえぎられて霧散する。
何が起きたのか分からずに視線を彷徨わせた少年の背後から突然強い光が発せられ薄暗い研究室を隅々まで照らし出す。思わず振り返ろうとした少年を、後ろから強く抱きしめるぬくもりが生まれた。それはぼんやりと浮かび上がる幻のように輪郭がはっきりしないけれど、10代の少女の腕のようだった。ふわふわと舞い踊る光を纏って少しずつ形を表していくその腕を辿っていくと、厳しい表情で目の前の青年を睨みつける少女の横顔がある。今まさに殺されかかっていた事も忘れて呆然と見やる少年の視界の隅に、警戒するように僅かに身を引いた青年が見えた。
その彼に、少女は言った。
≪何をしてるの! 父親の罪だっていうなら父親本人に責任を取らせなさいよ!
子供だからってなんで代わりに罰を受けなきゃならないのよ、冗談じゃないわ!
大体、犠牲者が沢山でたような危険な研究の実験に利用されたのは彼も同じじゃないの。
結果的に成功して生き延びられたら、加害者認定されるなんてどんな理屈よ!
彼が望んで巻き込まれたわけでもないのに、復讐の権利ですって?
迷惑な八あたりならどっかの山奥にでも行って岩でも砕いてなさいよ!≫
とんだ暴言である。儚い幻のような存在の癖に嫌に苛烈な台詞がぶつけられる。
頭に直接響くような感覚で伝わる声は、言葉の勢いに相応しく激しい怒りを纏ってまるで炎のようだった。
大人しそうな外見に反して随分と攻撃的である。不可解な登場と外見の儚げな印象を180度裏切るその行動に反論することを忘れたように無言で動きを止めた青年が行動を決めかねている。庇われた少年も、先ほどまでの悲壮感など吹き飛んで、ただ状況を見守るしかできない。
≪何が預言に詠まれなった存在よ。ふざけないで!
生誕が詠まれてないからなんだって言うのよ。
本当は死ぬはずだったのが生きられたんなら、まずはその事を喜べばいいじゃない。
預言で死を確定されるくらいの危機的状況を生き延びられた自分の強運を誇りなさいよ!
なんで預言と違うからって責められなきゃならないの、馬鹿馬鹿しい!≫
預言を至上と掲げ、預言に従うことこそが繁栄への手段であると信じるオールドラントの人間には思いもよらない思考過程を展開されてどう反論すればいいのかも分からない。だけど、その乱暴なまでの言葉が少年の心を引き上げた。
少女の主張は強引で無茶苦茶だった。
何も知らない彼女の暴論は、目の前の青年にとってはさぞ業腹な台詞だっただろう。
だけど、何より真っ直ぐに、少年の生を肯定していた。
その言葉は、紛れもなく少年にとっての救済の光だったのだ。
預言を信じることが当たり前のこの世界では、青年の言葉にこそ共感する人間の方が多いのだ。
それでも少年は死にたくないと思ってしまった。”当たり前”の理屈なら、それは紛れもなく罪でしかなく、青年に殺されるのがきっと”正しい”未来だろう。それを理解していても、青年の言葉を認めたくないのだ。
例え”間違い”だったとしても、少年は今まで生きてきた。
この事実を知った友人や両親が、もし青年の言葉を受け入れたとしても、今まで築き上げた過去は少年自身のものだった。生まれてはいけない存在だったという言葉を自分まで肯定したら、その全てが偽りであると自分で認めてしまうということだ。
だから、青年の言葉はどうしても受け入れたくない。
けれど、自分の思いを主張する権利があると言い切る自信もなかった。
どちらも選べない迷う心が体と思考を縛った。
何も出来ず、何を考えても思考はループして答えが出せない。
少しでも身動きすれば、薄暗がりから深淵の底に落ちてしまう気がした。
僅かながら差し込む筈の光が薄くなり、本当の闇が覆い始める。
答えの出せない迷いだけを抱えて、ここで己は消えるのかとぼんやりと予見した。
その、迷いを、少女の言葉が粉砕したのだ。
苛烈で強引な炎のような真っ直ぐな言葉が、少年の生を肯定していた。
少女が必死に抱きしめるその腕のぬくもりが、少年の心を引き上げる為の拠り所となった。
他の誰が青年と同じように自分の存在を否定しても、彼女がくれた言葉があれば、これから先も生きることを選んでいけると思った。
その瞬間に、場の勝敗は決した。
青年を返り討ちにするために譜術を練り上げる少年の瞳に、もう先ほどまでの迷いはなかった。
慌てて展開しなおす青年の反撃は間に合わない。咄嗟に前に出ようとした少女をそっと制した少年の瞳が、恒星のように強く煌めく。向けられる憎悪に心は痛んだけれど、死を受け入れる気持ちは欠片すら消えていた。
父の罪の結果が今の自分の生であるなら、それも全て背負って生きる覚悟を決めた。
憎しみを受けても生きる覚悟と、自分が生きる為奪った他者の命を背負う覚悟も。
そして、もう一つ。
いつか自分が死ぬ時に、後悔せずに己の命を誇れるように、しなければならないと決めたことがある。
後ろを振り返ってもうつむくことなく生き抜くために。
疲れて立ち止まっても、未来を諦めることがないように。
世界を変える為の戦いを、自分の未来の道だと決めた。
だから、
「例え”キラ・ヒビキ”が罪の証で間違った存在でも、”キラ・ヤマト”は生きていくと決めたんです。
・・・だから、貴方の言葉には従えません。
僕は僕の意思でこれからも生きていく。そして、望んだ未来を手に入れる。もう二度と、迷いません!」
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書きたい物を書ける時に好きに書き散らしてます。文頭には注意書きをつける積りですので、好きじゃない、と思われた方はこのHPを存在ごとお忘れになってください。(批判とかは本当勘弁してください。図太い割には打たれ弱いので素で泣きます)
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また、何か御用が御座いましたらメール代わりにご利用ください。返信は雑記でいたします
現在の拍手お礼:一ページのみ(ティアに厳しい。ちょっと賢く敵には冷酷にもなれるルークが、ティアの襲撃事件について抗議してみた場合:inチーグルの森入り口)