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これはガンダムseedのサイドス-トリーです。
プラント及びミーア・キャンベルに少し厳しい表現が入ります。
プラント・及びミーアがお好きな方はご覧にならないでください。
アークエンジェルのメインモニターに大きく映し出されるライブ映像。原曲とは似ても似付かぬ程にアレンジされた「静かな夜に」を熱唱する ” プラントのラクス・クライン ” の姿。それにバルトフェルドやマリューを始めAAのクルー達は苦々しさを隠せない。本物のラクスが後ろで一緒に映像を見ているから尚更だ。ラクス本人は穏やかな笑顔で「楽しそうですね」と流していたが、話し合いの為にその場に居合わせたキラは口では呑気そうに会話に参加しながら騒々しい歌声に苛立ちを隠しきれない。
姿形がそっくりだからこそ際立つ差異が目に付いて、どうしようもない違和感が付き纏う。
何故プラントの者達が気付かないか心底不思議でしょうがなかった。
取りあえず偽者の件はプラントの真意が解るまで保留して暫くの間は潜伏生活で情報収集に徹する事を決めて話し合いは終わった。それぞれが分担された仕事の為に解散する。そのざわめきの中でそっと視線を流してラクスの様子を窺うと密やかに眉を顰めるキラ。 いつもと変わりなく凛とした姿のラクスが、ライブ映像を見て一瞬だけ浮かべた瞳の色が気になったのだ。
いくら穏やかな口ぶりで流していたといっても、ラクスが何も感じていないとは思わない。責任感が強く自制に長けた彼女の性を思えば、一人きりで悩むのではと心配だった。 だが、その場で問い質すことは彼女の誇りを傷つける。後ろ髪を引かれながらも後で会いに行こうと決めて早く仕事を終わらせる為に足早に立ち去った。
そして夜、AAの展望室で藍色に染まる外の世界を眺めているラクスの後姿に安堵の息を吐き出して汗を拭うキラ。思っていたより時間を食って遅くなってしまったことに些か焦っていたようだ。いつまでも落ち着きの無い自分に苦笑しながら静かに彼女に歩み寄る。
「ラクス? こんな時間にそんなに薄着で風邪を引くよ。」
驚かさないよう優しい声で言いながら自分の上着をそっと少女の華奢な肩にかけた。気配に聡い彼女にしては珍しく、声をかけられるまで気付かなかったらしい。ラクスは突然の温もりに虚をつかれた様な顔でキラを見上げ、可憐な仕草で小首を傾げる。
「まあ、キラの方こそこんなに遅くまで起きているなんて。
今日もお疲れでしたでしょう?早くお休みになるべきですわ」
「ラクスほどじゃないよ。・・・ちょっと、心配で 」
何気ない言葉で一人にしてくれと訴えられるが、さらりと交わして正直に理由を告げる。直球で来られるとは思わなかったラクスが咄嗟に詰まると、更に穏やかな口調で言葉を続けた。
「ねぇ、ラクス。君は少し一人で頑張りすぎるね。
もうちょっと、周りに頼っても良いんじゃないかな?
・・・・こんな風に一人きりでいると余計につらくなってしまうよ。」
「そんなこと、」
「二年前、AAで、僕の優しさは僕自身のものだ、と言ってくれたのは君だよ。
・・コーディーネーターの同族意識とか、寂しいから同じ立場の人に縋ってるだけじゃないかとか、ただの罪悪感で君にいい顔を見せているんじゃないかと思って悩んでる僕に、そう、言ってくれたろう?
誰にもいえなかったアスランとの関係も、
本当は戦いたくないんだってことを聞いてくれたのも。
僕はね、それが本当に嬉しかったし、本当に救いだったんだ。
・・・だから、今度は僕が君の助けになりたい、って思ったんだよ。
ねぇ、僕は君の支えにはなれるかな?
辛いときには少しだけ弱音を吐いて、寂しいときには傍に居られるような、
そんな風に君の支えになることは、できない?」
優しい微笑を浮かべて囁くように告げるキラの言葉に、ラクスの張り詰めていた心が解ける。
幼い頃から政治家の娘としての振る舞いを要求され、人の上に立つものとして常に己を律することを心掛けてきた。 彼女にとって、精神的な揺らぎを他者に悟られないように己のうちだけで解決することは、無意識に行う程に当たり前の事だった。 ”ラクス・クライン” である限り、それは当然のこととされていたし、それ以外のあり方は許されないことだった。 誰一人ラクスが ” ラクス・クライン” である以上に十代の少女であることを認識する者などなかったのだ。
張り付いたような穏やかな微笑を浮かべていたラクスの瞳が揺れる。
そっと少女を抱きしめながらキラは続けた。
「ねぇラクス。泣きたいときは、泣いても良いよ。
悲しいときに泣いておかないと心がいつか裂けてしまうよ。
君は ” ラクス・クライン ” である前に、” ラクス ” っていう一人の女の子なんだから。」
優しくて暖かな腕の中でラクスが言った。
「・・・・本当に、大したことではありませんのよ」
「うん。」
「ただ、あの歌をあんな風に歌って欲しくはありませんでしたの」
「うん。」
「・・あれは、私が、初めて曲も詞も全て一人でつくったものでした。
・・戦争に怯えて傷ついた人達が、ほんの少しでも安らぐように。
ささくれた人の心が、少しでも穏やかになるように。
一生懸命願いを込めてつくりましたの。」
「うん。」
「私一人が歌ったところで世論を左右できるなどとは思いませんでした。
私の歌が全ての人の心を救うだなんて傲慢な事は考えておりません。
ただ、少しでも傷つけあうだけの世界が優しくなればいいと思って・・・・」
「うん。」
「それを、あんな風に・・・・!!」
「・・・うん。」
そこでラクスの言葉が途切れる。ただ静かに凪いだ声音が掠れて、そっと添えられているだけだった手のひらがきつくキラの服を掴んだ。それでも、声は上げずに静かに涙を流すラクスを強く抱きしめてその背中を優しく撫でたキラが言う。
「ねぇ、ラクス。この戦いが終わったら、また君の歌を聴かせてほしいな。
” ラクス・クライン” の歌じゃなくて、君の歌う優しい歌を。
君の歌はあたたかくて優しくて、まるで春の風みたいに心が軽くなるんだよ。
僕は、そんな君の歌が大好きなんだ。・・・それはAAの皆もカガリも同じだよ。」
すべらかな頬を流れる涙に唇を寄せながらキラが続けた。
「ラクス、僕はそんな優しい歌を歌う、君のことが好きなんだ。
君が傍に居てくれるだけで安らぐし、君の傍に帰るためならどんな戦いにも勝とうと思える。
一緒に居て、ずっと優しい場所を護って生きて生きたいと思えるんだ。
・・・・・ねぇ、好きだよラクス。愛してるって、こういう気持ちを言うのかな。」
「キラ・・・・」
ほんのりと頬を桜色に染めて、ラクスが応えた。
「私も、キラの傍に居たいです。
・・・愛しています。一緒に生きていきましょう?」
「ラクス・・・」
そうして穏やかな夜の中、二つの心が結ばれる。
微かな光に照らされた二人の影がゆっくりと静かに重なってゆく。
それは、未だ戦いが始まったばかりの世界の片隅。ほんの少しだけ許された休息の時間。
辛く険しい未来への道筋を、必ず生きて歩いてゆくための約束と誓いだった。
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