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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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*本編前の過去編

*碇レンと二人の幼馴染(うちはイタチと惣流アスカ(♂))でスリーマンセル時代の日常風景
*シリアスほのぼの半々位

*三人とも自分の家に対して辛口です。
*時々木の葉にも辛辣です。

*レン達が中忍昇格試験を受ける直前の話
*イタチから見た碇親子と、レンが抱える葛藤と臆病さゆえの卑屈な結論について

*幼馴染sはお互いが好きだし大事ですけど、この時期はまだまだ上手くかみ合ってなくてすれ違ってました、と、そういう話(主にレンの卑屈さと臆病さの所為ですが)



 


御題配布サイト「age」(管理人吟さま) http://pick.xxxxxxxx.jp/からお借りした

「さるしばい家族の10題」 より、「いくつになっても駄目な人」







 







 



「・・・・・つーかよ。」


「・・・・言わないで。」

 


アスカの呆れきった眼差しに耐え切れず、レンは顔を俯かせ掛けるが、濡れタオルで僅かに影を作るだけで堪える。



「・・・・まだ、痛むか?」


「え、や!もう平気、です」

 



そこで横からイタチに気遣われて、慌てて答える。が、その拍子にずれたタオルから赤いままの額が見えてしまっては説得力が無い。

 


「鈍臭い奴だとは思ってたが、正直此処までだとは思ってなかったぜ・・・・」



「・・・・うっさいな。」



「アスカ」



「んだよ、イタチもそう思うだろうが?」



「・・・・レン、そろそろタオルを変えるか」



「・・・・(イタチまで否定しないし)・・ありがと」

 



些細な切欠を見つけてはレンをからかう事に余念のないアスカすら、声に力が無い。本気で呆れているのだと、その口調から知れてレンの反論も微かな呟きにしかならない。イタチはそんなアスカを窘めようとするが、反対に尋ねたアスカの言葉への否定は出てこない。益々レンは口ごもる。

 

「オレもよ、任務中は兎も角、プライベートでまで煩く言うつもりはねぇよ。けどな、お前仮にも忍びだろうが。
 

 ・・・・任務や修行でなら兎も角よ、」


「・・・わかってるから言わないで。」


「・・・・・日常生活で満身創痍っつーのはなんなんだよ!?」


「言うなって言ってるでしょ?!」

 


だがしかし、心から呆れています、と言わんばかりのアスカの溜息交じりの言葉にしつこく追求されて、レンもとうとう逆切れする。羞恥に頬が真っ赤なまま、眉を吊り上げてアスカに反論する。

 


「これが言わずに居られるかってーんだよ!お前、本っ気でどうにかしろよそれ!」


「~~~~~っ、!」

 


びしり、と赤い額に指を突きつけられて、レンは何事か言おうとするが言葉にならない声を洩らす。それでも何とか反論しようとするが、アスカは容赦なくレンの”不注意”の数々を列挙し始めた。

 


「何処の世界に、よそ見してた所為で真正面に建ってる電柱に正面衝突する間抜けな忍が存在するんだ?!アホか?!アホだろ?! もういっそ、笑いを取るためにわざとやったって言えよ!」


「~~~~うっさい!ちょっとした不注意での事故を、そこまで言う事ないでしょ?!」


「”ちょっとした不注意”がテメーは多すぎるっつってんだ!
 昨日は買い物中に高い棚から調味料の瓶とろうとして手ぇ滑らせて顔面キャッチ!
 一昨日は引き出しあけたまま床に落ちたペンを拾おうとして開けっ放しの引き出しに額を強打!
 先一昨日には掃除中に風呂場で足を滑らせてタオルハンガーで顎を打つ!
 その前の日は、ぬかるんだ地面に足取られて転ぶ!しかも抱えてた洗濯物庇って受身もとらねぇたぁどういう了見だ?!」


「だから!」

 

「落ち着け、二人とも」


 

ヒートアップする二人を見かねたイタチが止める。

 


「イタチも言ってやれよ!この馬鹿に!」


「これから気をつけるってば!アスカしつこい!!」


「いつもいつもそう言ってまっっったく改善されてねぇってーのに、偉そうに言ってんじゃねぇ!!」


「別に偉ぶっては居ないでしょ?!でもあんまり繰り返さなくてもいいでしょっていってるの!!」

 


が、レンもアスカも止まらない。レンに至っては、瞳を深紅に染めてまで興奮している。
レンの瞳の色は普段は赤み掛かった漆黒なのだが、興奮したり本気で怒ったりと、感情が高ぶると赤みが強く浮き上がって深紅に変わるのだ。何もそこまで熱くならずとも、と思うが、まあ、幾ら何でもアスカに言われっぱなしは悔しいのだろう。多分に羞恥も含まれて余計に感情が荒立っているのだろうし、とイタチが嘆息した。


此処までくればどっちも意地を張り合って中々素直にならない。
本気で嫌い合っての喧嘩ではないため、いつもならイタチもあんまり強く制止はしない。ある程度発散させたら、二人が言葉を止められるように切欠を投げるくらいはするが、基本的には放置するのが常である。だが、今日は早めに止めさせたほうが良い、とイタチの勘が訴えている。

 

 

「・・・落ち着けと」


「「レンに(アスカに)言えよ(言ってよ)!!・・・って、何だと(何よ)!!?」」


 

しかし頭に血が上っているレンとアスカは、イタチの気遣い空しく更に熱くなる。
そこでふと疑問に思う。


確かにアスカがレンをからかって怒らせるのは日常茶飯事ともいえるが、レンの反応がやけに激しい気がする。



「(・・・何か、あった、か?)」



それに、任務中以外のレンは確かにのんびりした性質で、少し危なっかしい面もあるといえばある。だが最近のレンは、注意力が散漫に過ぎる。公私はきっちり分けている為任務中にはありえないが、何かに躓いて転ぶとか、手を滑らせてものを落しかけるとかのミスをする事はある。しかしそれも偶にしか・・・・・割と頻繁に、ある。が、此処まで連日怪我を作るような事は、なかった筈だが・・・・・・

 



「(何か悩みでもあって、周りが見えていない、のか?・・・・何か悩み・・・いや、あれは、焦ってる、のか?)」

 


イタチに思いつく理由はその位だが、内容まではわからない。


レンは元々、些細な事にでもぐるぐると深く考え込んでしまう癖がある。
だから少しぼうっとしているとは思っていたが、中忍試験が近づいて緊張でもしているのかと考えていたのだ。レンは体力筋力こそイタチやアスカより劣るが、それを補う為に身に着けた忍術や暗器の技術はずば抜けている。
戦闘能力で劣るという事は決してないし、事実同期の下忍のなかで男女の別なく能力を比較したなら、レンの実力は贔屓目無しにトップレベルだ。中忍や上忍相手にだって、善戦して見せるだけの力は既に持っている。経験や、少女としての肉体的なハンデは如何ともし難いが、今更中忍試験如きに梃子摺ることは無いとイタチは確信していた。だから、レンの性格上自信満々に余裕ぶることは無いと思ったが、悩みすぎて盲目に成る程目前の試験に囚われているなどと、イタチには考えつかなかった。
 

だから、イタチは悩んだ。
少なくとも班行動の最中にそこまでレンの意識を占領するような「何か」は、無い、と思うが・・・。

 


「(それとも、俺たちが気づいてないだけか。)」

 


どうしたものか、と視線を泳がせるイタチ。
嘘が苦手で、隠し事が下手なレンだが、言わない、と決めた事は絶対に口に出さない。
だがこのまま放っておく訳にもいかないだろう。

 


「(実際問題、実害もある事だし・・・今は小さな怪我で済んでいるが、いつか大きな事故に繋がりでもしたら取り返しがつかないしな)」

 


目の前で言い合うレンとアスカを眺めながら思案するイタチ。そこでアスカの言動にも違和感を抱く。素直になれない物言いは何時もの事だが、もしかして先ほどのアスカの過剰なまでの言い様は態とレンを怒らせようとしていたのか?怒らせてレンが口を滑らせるよう誘導したいのだろうか。

 


「(・・・この場合は逆効果、じゃないか?)」


 

確かに嘘も隠し事も苦手だが、此処で口を滑らせるくらいなら開き直って黙秘を選ぶんじゃないだろうか。

 


「(それでも聞き出したいなら、身内に甘い性格を利用して罪悪感に訴えるのが一番だが・・)」



もしくは完璧に気づかれないように誘導する、・・・・は無理か。
細かい機微には疎いが、身内の精神状態には勘が良いレンに、誘導を気づかせない、は無理だろう。そもそもレン自身が自覚していない可能性も・・・それはないか。今回は。


 

「(だが、自覚はあっても鬱屈を吐き出す術が無くて苛苛している、可能性はある、か?、ふむ。)」

 


ヒートアップする二人のやり取りをどう治めるかと考えていて思考が内に篭る。


が、近づく気配に気づいて舌打ちをした。
・・・失敗した。無理にでも場を治めて置けばよかった。

 


「何の騒ぎだ」

 


ぴたり、と喧騒が止まる。
2人の子供たちのじゃれあいに水を差したのは、重々しい男の呟きだった。

 


「父上、いらしていたのですか」

 


アスカ相手に食って掛った時の勢いが嘘の様に、静か過ぎる穏やかさでレンが微笑んで声の主に向き直った。アスカは唐突に冷めた空気に当てられて面食らうが、一つ深呼吸して居住まいを正す。イタチは何時もどおりの、年齢不相応な落ち着きすぎた無表情で、レンの父である碇家当主に対して頭を下げて挨拶した。


 

「お邪魔いたしております。」


「・・・うちはのご子息と惣流のご子息か。」


「・・・お邪魔してます」

 


イタチとアスカの一礼に軽く肯いて呟く碇ゲンドウに、レンは必死に浮かべた明るい笑みで挨拶を重ねた。


こちらの世界では同じ敷地内に住んでいるというのに滅多に顔を合わせられない父が、本当に珍しくこの別宅に足を運んだのだ。もしかして何かあったのかとも思ったが、出来るだけにこやかに相対してみる。


母が九尾の襲来時に亡くなってすぐに、この別宅で一人暮らしを命じられたのは、自分を疎んでの事ではないと必死に言い聞かせて表情を明るく保った。碇家秘蔵の薬草園の管理は重要な任務だ。それを任されるのは光栄な事なのだと、意識して呟かなければ父からの悪感情を意識して萎縮してしまう自分の情けなさは無理矢理ねじ伏せて見ない振りをした。

 



「お久しぶりにございます。」


「ああ」


「外に出向かれていると伺っておりましたが、無事の帰還お喜び申し上げます。
 何か、御用でしょうか」

 


緊張しながらも丁寧に頭を下げて父を出迎える。
旧家の当主と嫡子の会話なら最低限守られるべき礼儀として叩き込まれた言葉遣い。”シンジ”の記憶では他人行儀すぎる、と感じてしまうが、レンとしてならこれが普通の会話だった。それでも声音は精一杯明るく、表情も朗らかに保とうと努力する。だが言葉選びを失敗しただろうか。これでは用がなければここには来るなと言っているように聞こえてしまうかもしれない。
礼儀を守ったまま親しみを込めて会話する、という技術が不足している自覚があるレンは、己の一言ごとに墓穴を深める気持ちになった。


そんな必死なレンの葛藤を察した幼馴染二人はひたすら黙して場を見守った。
無機質過ぎる視線でレンを見下ろす碇ゲンドウの態度に思うところがあっても、父親に歩み寄ろうと努力する少女の心情を慮って静かに控えた。

 


「え、と。・・・御入用の薬材がおありでしたらすぐにご用意いたします、が」

 


失敗したかと思いつつ、一度口にした言葉を続けないわけには行かず、父に用向きを尋ねる。これでは只の業務連絡と同じだと自嘲しながらレンは父を見上げた。
 

そのレンの様子を横目で見たイタチとアスカが、微かに眉間に皺を寄せた。
穏やかに父親に相対しながら、こっそりと力を込められた拳が震えているのが見えたからだ。

 



「いらん。今赤木君に用意させている。」

 

 


だが次に落されたゲンドウの言葉に、イタチとアスカの眉がきりきりと吊りあがった。
この別宅で栽培される薬草は確かに碇家秘蔵のもので、所有権は碇家当主のゲンドウにあるのは事実だ。しかし現在の管理人はレンである。なのにそのレンに一言の断りもなく、勝手に部下に採取させているなどと。・・・・どこまで自分の娘を軽んじる積りか!
 

思わず他家の当主に対する礼儀をかなぐり捨てて掴みかかりそうになったアスカの動きを、さりげなくイタチが抑える。そんなやり取りには気づかないレンは静かに父に答える。

 


 

「---そう、でしたか。お手数をお掛けして申し訳、ございません。」


「無駄な手間を省いただけだ。」


「は、い。では父上は、此方に何の、」


「書庫にある資料を取りに来た。」


「左様でしたか」

 



レンが住む別宅に併設された薬草園の管理を任されているといえ、あくまで所有権は碇家のものだ。自分に断りもなく採取をしたと後で聞かされてショックを受けていたのはもう随分昔の事だ。そんな事も数年にわたって何度も繰り返されれば諦念が先立つ。
医療技術の研究保存が本分である碇家では、その技術に使用する薬材や資料は重要な資産のうちなのだ。その管理運用に当主であるゲンドウの意向が反映されるのが当然で、高が管理人の一人であるレンの意思など関係ない。だから、その事に関してはもう気にしない事にして、何とか多少でも普通の会話を、と考えるが帰ってくるのは鬱陶しいといわんばかりの無造作な相槌ばかりで、元々人見知りが激しく卑屈な性質のレンは
上手く会話を発展させることが出来なくて途方にくれる。

 

 

「もう出る。」
 

「あの、ではお見送り、を」


「必要ない」


「いえ、是非」

 

 


けれど、苦手意識が完全に払拭できないからと何時までも尻込みしていては改善など不可能だだからせめて、と考えて見送りを申し出る。案の定切って捨てられたが、ここで諦めては”過去”の二の舞だ、と内心で呟いて何とか自分を奮い立たせて食い下がる。

指先が冷たくなるくらいに拳を握り締めて、必死に微笑を保つレンを、ちらり、とゲンドウが振り返った。



「・・・好きにしろ」


「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 
 

出て行った碇親子を黙って見送っていた少年二人がやっと動いた。
正確には、動こうとして押さえつけられていた一人が、やっと解放された。

 


「・・てめぇ、イタチ。何、しやがんだよ」


「落ち着け、アスカ。」


「ざけんな!あれ聞いて、落ち着いていられるか!」

 


唸るようにはき捨てたアスカに、イタチが深々と溜息を吐いた。
そんな反応に益々気配を尖らせるアスカが激昂する。

 


「落ち着け。お前が抗議したところで何になる。」


「ああ?!お前は何にも感じなかったってのか?!」


「・・・・誰が、そんな事を言った。」

 


だが、イタチの冷え冷えとした声音に、アスカも声を静めた。

 


「なら、何で黙ってたんだよ」


「アスカ、相手は仮にも碇の当主だぞ。高が下忍の子供が、迂闊に口答えなどして良い訳がないだろう?」


「イタチ、」


「それに、ゲンドウ氏に、今更言ったところで無駄だろう。
 ・・・・あれ程他人を拒絶している人間に、誰の言葉が届くというんだ」


「・・・お前、それ、レンに、」


「言えるわけがないだろう。」

 



イタチの言に何事か言おうとして口をつぐんだアスカが、ぼそりと呟いた。
だがイタチはにべもなく言い放つ。薄情なほど明快な口調だったが、眉間に寄った皺がイタチの内心を表す。

 


「なあ、何で碇ゲンドウは・・・・レンを、ああ迄疎んじるんだと思う?」


「知らん。」


「何つーかな。・・・昔から思ってたんだけどよ。・・まあ、血縁だろうと反りが合わないってのはあるし、・・夫人が亡くなってからわかり易く心閉ざしてる癖に・・でも、なんか・・・嫌うなら嫌うで、はっきり拒絶してくれりゃ・・・
・・・レンも、何か変に遠慮してるみたいだし・・・なんだ、碇ゲンドウのあれは・・・・」

 


イタチを見据えた儘、アスカはぶつぶつとぼやく。
それはイタチも普段から思っていた事だ。

何というか、ゲンドウはレンを忌避している。
レン自身は頑なに認めたがらないが、傍から見ていると、ゲンドウの真意はあからさまだった。

下忍とはいえ、アスカもイタチも忍としての教育を受けているのだ。他人の感情を推し量る術など、基本技能の一つである。確かに己らよりも遥かに年嵩の、しかも一族率いる当主相手なのだから、完璧に出来ているとまで自惚れる気はないが、・・・それは相手に隠す気があるのなら、だ。碇ゲンドウの行動は赤裸々過ぎて、気づいていないレンのほうが可笑しいのだ。本来は。

 

 
 

「レンの、アレは・・・自縄自縛、だろう。

 信じたくないから、気づかない振りをしている」

 



イタチの言葉に、アスカが一瞬視線を鋭くするが、異論は出ない。同意見なのだ。

 


「・・・言えるか?それ」


「言って良いはずがないだろう。」


「だよなあ・・・レンの焦ってる原因も、アレだと思うか?」

 


アスカの質問に、イタチは簡潔に答えた。
イタチは、碇ゲンドウがレンに心を開く可能性は殆どないだろうな、と考えていた。

レンの努力は認めるし、レンに対するゲンドウの対応に言いたいことは山程あったが、改善の見込みはない、と冷静に判断してしまっていた。イタチの観察眼では見抜けていない要素があるかもしれない。忍びとしても人間としても未だに成長途中で未熟である事は自覚している。純粋に可能性だけなら0ではないかもしれない。

それでも、イタチから見た碇ゲンドウが、レンへの今の対応を変えるとは思えなかった。


碇ゲンドウのあの無機質な目には見覚えがあった。
・・・うちはの血を至上と誇る時の父親の目にとても似ていたからだ。
あれは、只一つの己の真実以外を全て斬り捨てる、狂信者の目だと、イタチは思った。
そんな人間が、今更心変わりなどするわけがないと、そう判断していた。

けれど、レンは0ではないかもしれない可能性に、未だに縋っている。
その理由はわからなくても、本当にそれを望んでいると知っているから、イタチは取るべき行動を決めあぐねていた。

・・・レンのその望みを踏まえた上で、碇ゲンドウがレンを明確には拒絶しないことに気づいていても。

 


「(まるで、飼い殺し、だろう。自分の内に受け入れる気はないと全霊で示しながら、気まぐれにレンに構う。・・・何の、為に、だ・・・?)」



先ほどのアスカの呟きはイタチも考えている事だ。

傍から見ればわかりやすいまでに、ゲンドウは他者を拒絶している。
なのに、レンに時折向けられる柔らかい対応は、レンに希望を錯覚させている。
もしかしたら、父と穏やかな関係を築けるかもしれない、と。

 


「(だが、それは、無い。・・・碇家、の為、か?)」



普通に考えるなら、家を継ぐ子供を御しやすくする為の手管だと判ずるのが正解だろうが、それも違う、とイタチは思う。これは本当に勘でしかないが、多分、ゲンドウにはゲンドウ個人の為の思惑があって、レンを最低限繋ぎとめておく必要があるのだ。



「(こんな推論だけを、レンに聞かせるわけにはいかない。)」



だから、更に続けられたアスカの問いに、明確な返答を返すことは出来なかった。


理詰めで物事を解明するのは、いつでもイタチの役割だった。
殆ど勘と本能で真髄に迫るのがアスカなら、冷静に客観的に情報を解析して真実を見極めるのがイタチのやり方だった。だから、本当に慎重にならざるを得ない時には、最終判断はイタチが下すのが三人で居る時の役目なのだ。
 

けれど、今回ばかりはその役割分担は成り立たないと、アスカもイタチも理解していた。

 



「・・・・直接的な原因が、という意味なら違う、が・・・大元をたどれば、そうだろうな。・・・どうする?」


「それを、お前に聞いてんだよ」

 



イタチに反問されて、髪をかき上げたアスカが嘆息する。

 



「・・・最近のレンの怪我の原因なぁ」

 



アスカの言葉に、イタチが片眉を上げた。

 



「多分、だけど・・・今日、アイツが間抜けにも!電柱に正面衝突なんて忍としてあるまじき事故をおこしたとき、気づいたんだがな。」


「・・・アスカ」


「事実だろうがよ。忍びとしてどころか、一般人でもまともな運動神経持ち合わせた人間ならありえん事故だろうが。 まあ、それは置いておいてだ。・・レンは、なんつーか、基本的に人見知りするよな。」


「ああ」

 


口調は呆れているが、真面目な表情でアスカが言い出す。イタチは静かに相槌を打ちながら、耳を傾けた。

 



「俺たちは兎も角、初対面の人間には確実に気後れしてまともに会話が続けられてねぇ。」


「本人は頑張ろうとはしてるが。」


「わかってんだよ、んなこたぁ。けど、未だに俺やイタチと話してても、迷ったり気弱になると視線外す所か距離まで置こうとする癖が抜けてねぇだろ。」


「・・・まぁな。」


「それが、此処最近、妙に少ないだろ。」


「ああ・・・・そう、かもしれんな」

 


アスカの確信的な問いに、少し考えたイタチが肯く。確かに最近は、会話すると最後まで視線が合ったままではあったなと思う。だが、それはイタチにとっては、ここ数年間では珍しくない状態の為可笑しいとは思って居なかった。

 



「まあ、俺たちの前では昔みてぇにおどおどする事がねぇから、気づかなかったんだけどよ。
 なんつーか、こう、視線を逸らしたら負け、みたいな、意地を感じるというか・・・そんな感じで不自然にぎこちないんだよな。」
 

「そう、かもしれんな」


「・・・・・二週間前に受けた蔵掃除の任務覚えてるか」


「ああ」


「そこで、偶々休憩中らしき使用人連中が雑談っつーか、まあ騒いでる近くを通りかかってな、経緯は略すが、
 有体に言えば、「碇家の跡継ぎは気弱に過ぎて頼りない」ってな話題が出てて」


「おい、アスカ」

 


普段は喜怒哀楽のはっきりしたアスカが、酷く淡々と話す言葉に違和感を抱きながらイタチは聞いていたが、そこで思わず声をあげた。

 


「・・・偶々蔵から屋敷内に運ぶ荷物抱えて通りかかったんだよ、レンも一緒に。」


「聞いたのか。」


「聞こえたんだっつーの。」


「それを気にして?」


「目に見えての切欠はそれ位しかねぇだろ。俺らがわかる範囲では。」

 


億劫そうに肯定したアスカを見返してイタチは黙考する。

 


「・・・・で、今か?」


「だろ。取りあえずわかり易く人見知りから矯正しようとしてんじゃねぇの?
アカデミーで、「人と話す時は、相手の目を見て話しましょう」って言われたことねぇか?」

 


淡々と、疲れきった声音でアスカがイタチの問いに肯いた。

 


「・・「会話中はきちんと相手の目を見て」が礼儀だと、言った教師が居たな。」


「あの単純馬鹿、素直に信じてんじゃねぇ?「他者とのコミュニケーションは先ず基本的なルールを守ることから」、ってな」

 


忍の技術の一環として、人心掌握の方法や虚偽の見抜き方その他諸々、人間の表裏合わせて利用する術まで身に着けておいて何を今更、という感じだが・・・・そこは、レンだ。任務に必要な知識技術を、個人的な目的に流用する、という思考自体がないんだろう。それでどうしたらいいかわからず途方にくれて、アカデミーで聞いた言葉を思い出した、ってところ、か?

 
 

「で、その「ルール」を遵守しようと躍起になって、前方にすら不注意になってたと」



「どっちにしろ、アホだ。アイツ本気でどうしようもねぇ」

 


呆れきった声と皮肉気な笑みに反して、アスカの青い瞳はどこまでも真摯だった。
どうしたら、レンにとって一番良いのか、と本気で苦悩しているのだとわかる。
イタチも、同じ悩みを抱えているから。

 

 


「・・・・他も、似たような理由、だろうな。苦手部分を克服しようと焦りすぎて、足元が見えてない。」


「しかねぇだろ」


「・・・・言って聞くと、思うか?」

 



イタチは考え込みながらアスカに聞く。
だがアスカは明言を避けて、微妙に話題を変える。

 


「あの馬鹿の、あの盲目っぷりの原因ってなんだかわかるか。」

「・・・レンのあの態度は、・・・最初、からだった、な。」

 


アカデミー入学前に、母達に引き合わされた時には既に、両親へのの不自然な遠慮があった。

碇ユイは優しい微笑を常に浮かべた女性で、レンのことも普通に可愛がっていたように見えたが、レンのほうは甘える事に抵抗があるような態度だった。その時は単に、初対面の子供であるイタチたちの前で恥ずかしがっていたのかと思ったのだが。イタチもアスカも既に、総領息子としての自覚と行動を求められていて、可愛げなど欠片もない子供だった。親に甘えるなどという行為には縁遠い生活を送っていた。だからレンの態度を可笑しいとは思わず、むしろ少しでも甘えたい素振りを見せるほうが未熟の証の様で無意識にレンを自分たちより幼いと断じた記憶がある。見下すわけではないが、対等だとも思って居なかった。
 

その時の自分の驕りを、後々後悔するとも知らず、初対面の時のレンに対する印象はそんなものだったのだ。


その後同級生になったレンは、初対面の印象通りに、人見知りをする気弱な少女でしかなかった。

けれど、レンはいつでも、弱い自分を変えたいと、努力し続ける誠実な人間だった。
臆病で他人を怖がっているくせに、目の前で困っている人間を見捨てられないお人良し。
他者の否定を恐れるくせに、一度決めた自分の意見を簡単に変えたりしない頑固者。
けれど他者の意見を拒絶したりせず、迷いながらも集団の中の多様性を受け入れることのできる柔軟性を身につけようと四苦八苦して。

年齢相応に幼く無意識に他者の善意を根底に信じるような甘い人間だった。
レンの語る理想は綺麗過ぎて、イタチから見れば夢物語の様だった。


けれど、そんな風に人間に綺麗な希望を持っているくせに、きちんと里内の権力抗争や忍の仕事の闇も理解していた。人間は嘘もつくし、自衛の為に他者を傷つけるし、弱くて卑怯で愚かな存在だと、知っていた。他国に比べれば穏やかで優しい気質の木の葉の里も、忍の里相応に暗い闇を抱えた場所だとわかっていた。旧家の人間同士の権力抗争、其々の一族内の骨肉の争い、個々の地位や立場への妄執が高じた策略謀略の数々。


その全てを知った上で、血継限界の一族中でも有力者であるうちはの嫡子であるイタチを特別扱いしなかった。
アスカの事を旧家といっても所詮は血継限界も持たぬ凡人の分際でと理不尽に見下す教師たちの視線を知りながら、アスカがイタチに挑む行為を馬鹿にしたりしなかった。


「天才」などという簡単な言葉で、イタチやアスカを別種の生き物の様に扱って、優れた能力も当然の結果だと過剰な期待を掛ける同級生や教師を尻目に、レンは「二人とも凄く頑張ったんだね」と笑った。実技の授業で対戦した二人が怪我をすれば、優れた試合内容を言及するより先に、「怪我人は大人しく治療をされなさい」と怒った。その後で、監督教師すら感嘆した二人の技能について、「そんなに強くなるまで、皆より沢山修行したんでしょう」と感心して、「でも無理しすぎると後で辛くなるから程ほどに休むんだよ」と心配して見せた。イタチとアスカが優秀な成績を修める事が当然だったアカデミーの空気を知った上で、「二人には敵わない」と悔しがって、「次は私も勝てるように頑張るからね」と挑戦してきた。

同級生が単純にイタチやアスカのずば抜けた能力を「天才」等と称賛して自分たちとは違う生き物の様に扱う中で、
二人の実力の裏にある努力や葛藤を見て、頑張ったねと笑う子供だった。二人が頑張っているんだから、自分だって頑張れば出来るんだ、と言って我武者羅に追いかけてくる子供だった。


そんな風に、他者の事は前向きに受け止められる癖に、自分自身のことは何処までも卑屈に考える。


イタチやアスカと勝負して負けた時に悔しいと感じる自分を、弱いくせに嫉妬するなんてと恥じる。純粋にイタチとアスカを心配して怪我の治療すれば、後で同級生の少女達から二人に近づくなんてと責められて、自分の態度は図々しかったかと不安がる。少年と少女という生まれ持った肉体的なハンデを、自分の努力が足りないからイタチにもアスカにも追いつけないんだと考えて、倒れるまで修行する。倒れたレンを心配する二人に迷惑掛けてごめんと謝る。イタチを一族の権勢ゆえに特別扱いする教師が、レンに向かって「あまりイタチとアスカを煩わせるな」
と注意すれば勉強の邪魔しないようにするねと言って離れようとすらした。
 

その度に、他人の言葉に振りまわされるなと、自分たちは迷惑だと思ったらその場で口にしていると、レンの事を友人だと思っているのにお前は違うのかと、言葉を尽くして引き止めてきた。

正直過ぎて嘘がつけなくて誠実にあろうと努力しているお人好し。
卑屈で後ろ向きで単純すぎて直ぐに落ち込む。

そんなレンを、イタチもアスカもいつの間にか放っておけなくなっていた。
ふわふわと危なっかしい少女を見守っていなければ心配でたまらなかった。
イタチのこともアスカのことも対等な一人の人間として見て、当たり前に気遣ってくれる彼女の存在は、もう無くてはならないものになっていた。

だから、欝々と後ろ向きに考え込んで、自分自身のことは簡単に否定するレンを、らしくもなく必死に引き止めてきた。イタチやアスカが困っていると躊躇わずに手を差し伸べるのに、自分の困難は隠し通そうとするレンの手を掴んで引っ張り上げるように歩いてきたのだ。


そんな風に少しずつ親交を深めて一緒に生きてきた幼馴染が、昔から不自然に怯えている対象が父親である碇ゲンドウだ。ユイに対するレンの真情はユイ本人が亡くなっているので確かめようがないが、レンが父親に対して何某かの葛藤を抱えた上で歩み寄ろうとする姿をずっとイタチとアスカは見てきた。

同時に、碇ゲンドウが理不尽にレンを冷遇して忌避するくせに、中途半端に温情を見せて飼い殺しにする様も、ずっと見てきたのだ。

 

 

 
「俺ん家や、うちはも面倒な柵抱えてんのは似たようなもんだけどよ。
・・・・別に、レンは家の権勢とかには興味ないよな。単純に父親に好かれたい、ってのとも違う気がするし・・・・」

 


アスカの呟きは今更の認識だが、不思議といえば不思議だ。
家柄にも権力にも固執しないレンが、碇家の嫡子としての評判を気にする理由といえば、後は父に好意的に見られたい、という理由くらいしか思いつかない。しかし、レンの碇ゲンドウへの拘りは、それ、だろうか?確かに父娘としての交流を望み、もう少し歩み寄りたいと思っているのは事実だろうが・・・・・アスカとイタチは揃って嘆息した。

 


「どーすっかなぁ。」

 


面倒そうに、それでもレンへの好意は隠さずに声に滲ませて、アスカが窓の外を眺めて呟く。
他者の心情を慮る、という事の難しさを痛感している少年二人の溜息は深まるばかりだ。

 

「本当に、手のかかる奴だぜ。あの、馬鹿は。」

 
 

それでも、レンとの友情を手放したくないのだと、何回言えば理解するんだろうか。

 


「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 















 

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