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主人公総受け至上主義サイトです。特にエ/ヴ/ァの・碇・シ・ン・ジ・の女体化verが贔屓されてます。EOE後女体化したシンジが他世界へ渡る設定のクロス作品がメインです。(で、他作品キャラに物凄く愛されてます。)
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この作品は、エヴァ×アビス基本+seed(キラ・ラクス・クルーゼ・カナード他)、ぼかろ(カイト・ミク・メイコ)設定がクロスする混沌クロス作品です。

・碇レンver

・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
 特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。

本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします



CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)

です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。



 

 




  

 


クライン家所有陸上装甲艦エターナルに保護されることになった一行は、今までの旅路が嘘のように順調にセントビナーに到着していた。この町で休養と準備を兼ねて数日滞在してからの出発になる。


ラクスのことは信用できるが、幾らなんでも戦艦でカイツールまで向かうことをルークの権限で許可はできない。
それはマルクト側も承知していたので快く同意してくれた。


が、此処で問題になるのは移動の方法だ。本来なら馬車に乗ってしまえばいいのだが、途中で如何しても徒歩が必要になる。・・・どこぞの失格軍人が壊しっぱなしで放置したローテルロー橋の修復が間に合わなかったのだ。
幾らマルクトの総力を挙げても、この短期間で直しきるのは不可能なため、フーブラス川を渡る前後に馬車を降りなければならない。かといって、川を渡った以降も、イオンとルーク達を徒歩で最後まで歩かせるわけにも行かない。そのため緊急に伝令を飛ばして向こう岸に移動の馬車を用意する時間が必要になったのだ。

加えて、ルークとレンは突然の事故で着の身着のまま飛ばされて旅の荷物など無いに等しいし、元々余り丈夫ではないイオンの回復も必要だ。


ということで、一行はセントビナーにて、一時の休日を過ごすことになったのである。



・・・表向きは。

キムラスカ側の人間にはそういう理由だと説明された。が、此処で再びマルクトとダアト側にとって最悪の事実が発覚したのだ。

 

 


「----どういうことです。ジェイド・カーティス。もう一度、仰い。
 ・・・陛下からお預かりした和平の親書を、どうなさったと?」


「・・・ですから、神託の盾騎士団から親書を守るために、」



おどろおどろしいラクスの詰問に、項垂れながらジェイドが答える。繰り返された尋問に根こそぎ反抗の気力を奪われたジェイドは素直に話はするのだが、その内容は、どれ一つとってもまともな政治感覚を持つ人間にとっては耳を疑いたい代物ばかりであった。


・・・導師イオンをお連れした経緯に始まり、タルタロスでの盗賊を追いかけたこと、エンゲーブでの盗難事件での騒動、チーグルとライガの抗争、誘拐された被害者であるルークとレンを連行した挙句に脅迫、そしてタルタロス襲撃中のジェイドが行った不敬に侮辱に戦闘強要に・・・その他諸々。


常々ジェイドの高慢さには眉を顰めて苦々しい思いを抱いていたラクスであるが、此処まで救いがたい愚か者であるなど考えもよらなかった。尋問に立ち会う書記官の手は震えっぱなしだ。勿論怒り故に、である。・・・之ほどの事実を踏まえた上で、キムラスカに対等の交渉しようなどと言い出せるはずもない。ダアトに対しても同様だ。ダアト側もマルクトに対する借りがある、が未だにマルクトが借りているモノのほうが大きい状態だ。


タルタロス襲撃は恐らく和平反対派の策略だろうが、マルクトには誘拐まがいに導師を連れ出した事実がある。人道的にどうであろうが、世界の象徴である導師の安全と、軍人達の命では、導師の安全に比重が傾いてしまうものなのだ。つまり、襲撃自体の真意がどうだろうと、名目が導師の保護であった以上マルクトに不利である事実は変わらず、加えて道中重ねられ続けたジェイドの不敬に侮辱がある。
・・・どう頑張っても精精不利になり過ぎないように駆け引きを駆使する位しか出来なくなった。それを、導師も承知している。だから、今判明した事態の収拾のため、ととある事実をマルクトに告げることができたのだ。


憎しみと怒りで人を殺せるなら、ジェイドもピオニーも既に数百回死んでいる。



(・・・・陛下、このような愚物に、何を期待していたのですか!!)



ラクスはわなわなと震えながら、必死に理性を保つ。ここで激昂しても事態は改善しないのだから、冷静にならなくてはならない。

 


「・・・・貴方は、選りにもよって、陛下からの親書という国家機密を、他国の、軍人に、預けた、と仰るのですね。」


「ですから、親書を襲撃から守るために、」


「お黙りなさい。・・国家機密でなく通常任務の報告書などであっても、軍務に関する資料を、他国の人間の目に触れさせるなど許される事ではありません。しかも、貴方が預かっていたのは今まで敵対していた国との和平を結ぶための親書です。
・・それを、ダアトの軍人であるアニス・タトリンに預けて、守るため、ですって?己の所属する組織の機密を、他組織の人間に渡しておいて、守る?どんな冗談ですの?

・・・軍人以前に、世間一般の常識を一から学びなおしなさい!!


貴方の行為は、届け物として預かった品物を、届け先ではない無関係の他人にその品物を渡してしまったのと同じことです。小さな子どものお使いではないのですよ!!仮にも成人して久しい大人の男が、その程度の事も理解出来なかったのですか!!」



「親書を襲撃犯から守るために、他に方法が、」


「・・・もしも、アニスタトリンが、貴方が警戒していた和平反対派に属する人間だったら?もしも、個人的にマルクトに何か怨恨でも抱えている人間だったら?・・・その程度の想像も出来ませんでしたか。」


「アニスは、導師守護役で、」
 

「導師の部下である神託の盾騎士団に襲撃されて、親書を守ろうと考えたのですわよね。・・・導師守護役だから、何ですか?まさか神託の盾騎士団は信用できずとも、守護役ならば信じられると?そもそも、何故そこでダアトの軍人なのです。貴方は直属の部隊を率いていたはずでしょう。親書の所在を一時的に隠したいというのなら、それこそ副官なりに預けて逃がす手もあったのです。・・・何故、アニス・タトリンに持たせる必要があったのか、」
 

「ですが、」


「・・・いい加減になさい。・・・もしも、アニス・タトリンが、和平反対派に通じている人間だったなら、親書をそのまま破棄してしまうだけで目的は叶うのですよ。 ・・・そして実際に、そのアニス・タトリンの行方が、知れない、と。・・・・・・・・ふ、ふふふ」


「行方は、一応わかっていると、」


「ふざけるのもいい加減になさい!!このような常識を疑うような軽薄な手紙のどこに信憑性があるというのです!!」


 

ぼそぼそと答えるジェイドを一喝する。そのラクスの手元には、セントビナーの軍部に預けられていたという、導師守護役からの手紙が握り締められている。駐屯軍のグレン・マクガヴァン将軍から渡されたそれを確認したラクスは、その場で卒倒したくなった。念のために、と導師にも読んでもらったがイオンも顔色を真っ青にして怒りの余り声が震えていた。カナードも同様である。



「親愛なるジェイド大佐へv
 すっごく怖い思いをしたけどなんとか辿りつきました☆
 例のものはちゃんと持ってま~す。誉めて誉めて♪
 だけどこの辺りにも神託の盾騎士団が捜索してて、怖いので念のために先に第二地点へ向かうことにします。


 アニスの大好きな(恥ずかしい~☆告っちゃったようv)ルークさまvはご無事ですか?
 すごーく心配してます。早くルーク様vに逢いたいです☆
 ついでにイオン様の事もよろしく。それではまた☆ 

 アニスより。」



・・・何処の世界に、守るべき主より先に他国の人間の安否を気遣う守護役がいるのだろうか。そもそも主であるイオンを守ることよりも、他国の軍人であるジェイドの指示を優先して離脱した事も信じがたいが、その離脱理由である親書の扱いが軽すぎる。「ちゃんともってるから誉めて」ってなんだ。「怖いから先に行く」ってどういうことだ。やむを得ず主から離れなければならなかったとしても、先ず合流する努力もせずに一人だけ安全圏に逃れようなどと、守護役どころか軍人として失格以前の問題である。ダアトの人間の不始末で危険に巻き込まれたルークを気遣うのはまあ良いとしても、ならばレンの事も一緒に心配しろというのだ。さらには本来の最優先事項であるはずのイオンの安否をついで扱い。

それらが書かれた手紙の、とてもとても軍人が書いたなどとは信じたくない浮ついた文章。事態の重さを全く実感していない無防備な普通の便箋で無造作に預けられていた封筒。・・・・読み終えた瞬間にイオンとカナードが洩らした呪いの言葉に、ラクスも同調してしまった。この手紙が現時点で最悪の事実をラクスたちに知らせたものであることを思えば、呪いどころか手紙の差出人への殺意まで止まらなくなりそうだった。

マルクトからの親書を現在保持しているのがダアトの軍人であることも、その軍人の所在が確認できていないことも、どちらもルークとレンに知られてはならない。

ルークは何処をどうとっても非の打ち所ない完璧な公爵子息だった。王族としての嗜みや判断の力を兼ね備えている優秀な。ラクスが知る限りでも、ヤマト家の子息であるキラ・ヤマト准将と親しく交流を持ち、互いの連名で打ち出したという政策の優れた内容に高い評価が与えられていると聞く。実際にほんの少し言葉を交しただけでもその有能さがよくわかった。ルーク本人はラクス達やイオンに好意をもってくれているようだが、私情をキムラスカの王族としての立場よりも優先するような愚を冒すことはないだろう。

そしてレンの方もルークよりは僅かに未熟かもしれないが、公爵家の娘としての礼儀作法や立場の弁え方を良く理解して実践しようと努力しているのが見て取れた。ジェイド・カーティスに詰問しているときのように少し油断してしまう瞬間もあるようだが、あの程度の失態など失態のうちにも入らない。あれはある意味特別な事態であるためだろう。最初から最後までルークとイオンを立てて控えていた様子といい、公式の場で同じ事をするほどに未熟であるとも思えない。レンも個人としてラクスやアスラン、イオンへの純粋な好意が見て取れたがその感情を理由に、ルークが王族として下した判断に異を唱えることなどありえない。レン本人も聡明な少女だ。国の立場を考えてマルクトやダアトに情けをかけ過ぎることもないだろうし

・・・どう考えても今の事態を知られて尚、和平の申し出に良い答がもらえるとは思えなかった。



つまり、こんな事をキムラスカに知られたら全てが終わりだということだ。マルクトもダアトも必死に隠すしかない。


即アニス・タトリンの行方を捜索させる。
手紙にはカイツールにいると書かれているのでまずはそこを。
信じるには値しないから当然此処から移動可能な範囲全てを。
・・・時間がないというのに!!


そして、その指示を出している時、導師イオンから、アニスにあるとある疑惑が齎された。


・・彼女は、大詠士モースのスパイである可能性がある、と。
つまりタルタロスの情報を洩らした襲撃の共犯者ではないか、と。


いくら導師が誘拐された報復といっても、未だ乗艦した導師を保護する前にタルタロスを攻撃し始めるなど、本来ならばありえない。それは、もしや救出名目で導師を暗殺するつもりであったのでは、というわけだ。そう考えれば親書を預かりながら、勝手に先に進んでいるアニスノ行動にも納得できる。・・・もしや親書を改竄する可能性もあるのでは、と。


(・・・モースを処分する理由付け、でしょうね。暗殺は本当かもしれないけれど)


実際にイザナのレプリカを作って導師を挿げ替える計画はモースとヴァンの発案だ。彼らにとってレプリカなど代えのきく便利な道具である。今の導師であるイオンがおのれ等の目的をかなえる邪魔になると判断すればあっさり暗殺位してのけるだろう。だが、今はまだその判断を下していないはず。幾らなんでも実際に暗殺狙いでつけた監視役であるならば、既にイザナとカナードが処分しているだろう。



(教育にはスパルタですけど、イザナもカナードもイオンを可愛がっている。
 命の危険まであるような囮役にはしないでしょう。


・・・モースの子飼いでスパイは本当。
モースが和平に反対している以上アニスも同じ立場でしょうけど、親書の改竄云々はこじつけですね。そこまでする可能性があったら、イオンがあそこまで落ちついてスパイ疑惑を話せたとも思えないし、・・・・それでもマルクトは協力するしかない)


最後まで撤退を渋り続けたリグレットの様子と途中離脱していたアッシュの行為を思い返せばそう考えるのも自然だというカナードの証言によってマルクト・ダアトの協力が決定された。導師誘拐の救出という理由を提供してしまったマルクトの不手際を見逃す代わりに、ダアトの内紛収拾の協力を、というわけだ。スパイかもしれないアニスの存在を黙っていた導師を責めることも出来ない。なにせ、そのスパイをつれてくることを選んだのは、当のジェイド・カーティスなのだから!!しかもアニス自身も、イオンよりジェイドの指示を優先したという事を
指摘されてしまえば反論の余地はない。最悪、マルクトがモースと結託して導師暗殺を企んだと言われても否定しきるれる材料が少ないのだ。いくらラクスでも逆らえるわけが無かった。



(シナリオはイザナ、かしら。ジェイドの強引な要請についてきたのもその為、ね。)



イザナたちに、ラクス個人が力を貸すことは構わない。しかし、モースを処分した後に混乱するだろうダアトの為に、クライン公爵が無条件で助力することはできない。お互いがそういう立場にいる。だが、モースの排除を実行したら何がしかの後ろ盾は必要だ。その為のイザナのシナリオ。・・・昔ほんの少し成長を促した年下の友人の立派な策謀に喜ぶべきか悔しがるべきかわからない。


 

「・・・どこまでも、厄介ごとを残してくれましたわね、ジェイド・カーティス。
・・・・この場で首を掻き切って差し上げたいのは山々ですが、貴方には利用価値があります。・・・死んだ気になって力を尽くしていただきますからね。覚悟なさい。」


 

最早ジェイドの自己判断能力になど期待する気は微塵もない。処刑してしまいたいのが本音だが、曲りなりにももと天才博士である。これから先起こるかもしれない事態に必要かもしれない為、とりあえず生かすことにしたのだ。勿論キムラスカの意向があれば従うが、差し当たってはアクゼリュスの救援に必要な譜業の開発にでも従事させるつもりのラクス。
 

冷たく言い捨てて牢を出る。

 


「・・・とにかく、アスランにルーク様とレン様の気を逸らしていただいている間に親書をとり戻さなければ。」



すさまじい気迫でエターナル内部を歩く。これから直属の部下を走りまわさなければならない。

 


「本当に、・・・・度し難い愚か者ばかりですこと・・・!!」



うんざりとこれからを思って溜息を吐いた。

どこまでも足を引っ張り続ける最悪の敵が、本来は身内の人間である事実をかみ締めて、女公爵の憂鬱は続行中だ。



「・・・アスランは、役得ですねぇ・・・」



うららかな陽光を浴びて、深い溜息をついた。
可愛らしい親愛と友愛で支えあっていた二人の少年少女を思い出す。傍から二人の会話を聞いているだけでほのぼのと出来た愛らしさ。同い年と聞いたが、ルークはあきらかにレンの事を妹のように扱って大事にしていたし、レンのほうもルークを守ろうと気を張りながらもまるで兄に甘える妹のように心の拠り所を見出していた。

・・その二人と一緒に過ごしているだろうアスランに、明確な嫉妬を覚えてラクスの溜息は深くなる。零れ落ちた独白は、これ以上ないくらいの羨望の響きをおびていた。



「私も、ルーク様とレン様と、一緒にすごして癒されたいですわね・・・」
 

 

 

 

 

 


 








 

 

 

 

「それにしてもここは「花の町」と呼ばれるだけはありますね。
 道端を見渡すだけでも鮮やかな色が溢れて、とても美しい。」



折角滞在するのならと、アスランに誘われて観光中のルークが感嘆の声を上げた。

とにかくお二人には疑われること無く時間を稼げとラクスに命じられての苦肉の策だったのだが上手くいっているようだ。優雅な立ち居振る舞いや聡明な言動と、王族として非の打ち所のないルークも、矢張り17歳の若者だということだろう。本心から楽しそうにアスランの案内に応えを返してくれる。



「ありがとうございます。此処はマルクトでも有数の美しさを誇ると自負しておりますので。そういって頂けると嬉しいです。」

 


そしてルークとアスランの一歩後ろを、護衛の兵士に挟まれるようにして控えめについてくるレンにも話しかける。

 


「レン様はどの様な花がお好きでしょうか?
この町では花の栽培が盛んなのですが、生花は勿論、花を加工した装飾品や化粧品などもあるのですよ。宜しければ、専門の店が連なる通りにご案内いたしますが。」


「ありがとうございます。」



笑顔で返してくれるが、やはりどこまでも遠慮がちなままだ。
あの時の事を気にして緊張しているらしい。アスランもラクスも最初から気にしていないのだが、彼女は本気で反省しているらしく、二度と同じ事をしないように、と厳しすぎるほど自律している。あの失格軍人につめの垢でも煎じて飲ませてやりたい謙虚さだ。しかし、己の立場を弁えて決してルークに負担をかけてはならないと頑張る姿には感心するが、その緊張の度合いが些か痛々しく映った。そんな少女の強張った笑みをみていると、ラクスの指示など関係なく、何とかこの少女に心から笑って欲しい気持ちになるアスラン。


 

「他には、花やハーブを用いた菓子なども多いのですよ。
 この町でしか作られていない種類もございます。」


「では材料となるハーブなどの店も多いのでは?」


「はい、専門店が連なったとおりが二つ先の角を曲がったところにあったはずです。ご覧になりますか?」



何とか少女の気に入りそうなものを、と色々な話題を振ってみる。それに答えたルークもどこか必死に会話を弾ませている。見るからにレンを大事にしているルークだから、落ち込んでいる少女の様子に気をもんでいるのだろう。こういう少年らしい優しさもアスランにはまぶしい限りである。マルクトという不慣れな土地で、決して緊張していないわけではないだろうに、王族としての立場を弁えた振る舞いを自然に行ったうえで、周囲への気遣いも忘れずに国王に告ぐ高い身分の者として下の者たちを守ろうとしている姿は尊敬すら覚えた。

ティア・グランツやジェイド・カーティスから受けた仕打ちを思えば、マルクトやダアトへ含むものがあっても仕方がないというのに、両国の人間を少数の人間の不始末を理由に一括りに拒絶することなく真摯に対応して広い視野で全体を理解しようとしている姿勢にも感心と感謝の念を覚えるアスラン。ルーク個人への好意の度合いが上昇している事を自覚する。他国の王族としてでなく、個人として出会えたなら年下の友人として良い関係が築けたのではとも思う。不遜な言い方だが、それだけ個人的に気に入っているのだ。


 

「レンは確か菓子作りが趣味だったな。
 ハーブの専門店なら興味があるんじゃないか?」
 

「・・はい、では是非見てみたいのですが、よろしいでしょうか?
 そういえば香りの良い花を使った飴菓子を以前見たことがあるのですが、あれもやはりこの町で作られたものでしょうか。 綺麗な白い花を閉じ込めた琥珀色の小さな立方体のお菓子で・・・」


 

レンも、気を使わせていることに気づいているのだろう。緊張したままではあるが、二人の言葉を無碍にはせず、何とか雰囲気を和ませようと努力している。少し不器用な性質なのだろう。社交界などではマイナスかもしれないが、アスランから見れば年若い少女の背伸びした様子が微笑ましく映った。誰かの優しさに甘えるのではなく、何とか周りの気持ちに答えようと努力する姿勢も好ましい。


 

「・・ええ、そうですね。そういう形状の菓子を見たことがあります。
 あれは確かこの先にある店で、店主が自ら作っていると・・・・」


「本当ですか?もう一度食べてみたかったんです。
 お店に寄らせていただいても宜しいでしょうか?」


「へえ、私も是非食べてみたいな。」


「では、こちらです。どうぞ、ルーク様、レン様」

 


先程よりも少しだけ安心したように笑ったレンがアスランを見上げる。
その嬉しそうな少女の声に、意外なほど安堵したアスランの声も常よりも柔らかく弾んだ。
付き合いの長いラクス位しか気づかない程度だが、アスランは確かに浮かれていた。
今現在、マルクトの失態をフォローするために忙殺されているだろうラクスに申し訳なく思いつつも、アスランはいつの間にかルークとレンの案内役を心から楽しんでいる自分に気づく。面映い気分だったが、悪くない。



(すみません、ラクス殿。
 せめてきちんと誤魔化しきる役目は全うしますから)


裏事情はさておき、こちらは何処までも平穏な時間を楽しむ三人。町を彩る花々にも劣らぬほどに華やかな空気を振り撒きながら楽しいひと時を過ごしていた。












 

 


セントビナーの悲喜交々を余所に、カナードは全力でカイツールを目指していた。
勿論アニス・タトリンを捕獲して親書を取り戻すためだ。
 

こういうときにアリエッタのありがたみを痛感する。
イオンと共にエターナルに乗り込む際に、彼女のお友達を返してしまったことが悔やまれた。
一応イザナに知らせは飛ばしたが、アリエッタを向かわせてくれる余裕があるかはわからない。


 

「ってーか、このままじゃマルクトもダアトもやばいんじゃねぇか?
 ・・・キムラスカの弱みっつったって、アッシュなんて知らんとか言われたら終わりだしよ」

 

アッシュの存在がキムラスカへの切り札になり得るのは、キムラスカが血統を重視するからだ。現在生存する直系王族の数が少ない事を考えれば、アッシュを切り捨てることは出来ないだろうという判断の基、カードとして温存しているのである。


 

「・・・けど、あの”ルーク様”が、そんなリスクの高い存在を許容するかね。
 必要なら、被験者だろうと切り捨てる覚悟位してるんじゃねぇか?
 ・・多分レプリカだって事くらい自覚してるっぽいしな」

 

その点はイオンと同意見であった。

ルークの言動を見るに、ヴァンが言い聞かせたという”マルクト誘拐説”なんて与太話を信じているとは思い難い。ヴァンのあの詰めの甘さで、あのルークを騙しきれている筈がない。と、言うことはヴァンの企みの一つ二つ調査済みだと考えるべきだろう。・・・アッシュは堂々と教団に存在している。裏など取らずとも、その容姿を確認するだけで事は済む。・・レプリカを知らないということもないだろう。ファブレの領地であるベルケンドにはレプリカの専門研究者だっていた筈だ。ならば、アッシュとルークの関係くらいもうわかっているだろうと思う。

・・・記憶喪失だったのはルークの方だ。
つまりルークがレプリカだと言う事位気づいているだろう。


 

「・・・したら普通に考えて、憎むのはルーク様のほうだと思うんだが
 ・・・なんでアッシュはああ迄こだわるんだ?」

 

ルークの事を考えていて浮かんだ疑問にカナードは首を傾げる。

アッシュは元々死の預言が怖くてヴァンの誘いに乗ったのだ。
身代わりを押し付けれらたレプリカが、被験者を憎むならともかく、何故アッシュが、ルークを憎むようになったのだろう。

 


「・・・そうだよな、・・・ヴァンが何か言い含めた、か?だが、・・・・」

 


詳しく調べたほうが良いかもしれない。


ヴァン自身は死の預言から逃れるためにレプリカを身代わりにしてアッシュを助ける、という甘言で連れてきたのだといっていた。だが、己がレプリカだと自覚していたルークが、アッシュをそのまま放っておいたとも思えない。今ダアトに籍を置かせているという事はアッシュ本人の身を守るために影武者にでもなるつもりなのかもしれないが、それならそれで連絡の一つも取って本人を安心させるための行動くらいしたのではないか?

ルークの気性はとても優しい少年らしいものであるとイオンも言っていた。身分を隠していて拒絶しにくかった
のかもしれないが、チーグルの森でイオンに付き合ったのはイオン自身の安否を気遣ったからであるとわかっていたのだ。それを利用して押し切った自分が言うのもなんだが、私人としてのルークは些かお人よしな性質らしいと苦笑していた。チーグルの愚行には本気で腹を立ててライガを守ることを一番考えていたようだとも言っていた。
 

そんなルークが、本気で被験者を放置していた筈はない。矢張り身代わりにされたことでわだかまりがあったとしても、完全に拒絶仕切るにはルークは優しすぎる。ルーク本人が対応せずとも誰か信用できる人間が手紙の一つも届ければいい話である。ならば、アッシュはルークの事を僅かなりとも知っているはずだ。で、ある以上ヴァンの「レプリカが居場所を奪った云々」説などを未だに信じているわけではないだろう。

だが、実際にアッシュは未だにヴァンの言うままにレプリカを怨んでいるように見えるのだ。
どう考えても、大人しく従っている振りでヴァンのスパイをしている様子もないし、ダアトの内情を探ろうとしているようにも見えない。一先ず預言からの保身のための隠れ蓑にダアトを利用しているにしては行動が派手すぎる。
 

・・・なんで、アッシュはあそこまでルークへの敵意を持つのだろう。



(ヴァンが、ルーク様からの接触を知った上で更に何がしか吹き込むほど奸智に長けていた・・はずはねぇな。あれは本気で気づいてねぇ)



今まで気にしていなかったが、実際にルークに相対した時のアッシュの様子は、おかしい。


 

「レプリカ、が嫌いらしいから、元々好意的ではなかったが、
 ・・・いくらなんでも、殺したがる理由などないはずだろう。」


 

浮かんだ疑問を心に書き留める。とにかく今は親書の確保が最優先だが、放置しておいたら不味い気がするのだ。

 


「・・・虫の知らせ、なんて信じてはないんだがな。・・・・急ぐ必要が、ある、か?」

 


更にスピードを上げる。とにかく一つでも目の前の問題を片付けて落ち着いてしまいたい。

 

「・・・頼むぜホント。さっさと終わらせて楽させてくれ。」

 





 

 

 

 

 

 

 

「綺麗な町、だな」

 

セントビナー駐屯軍を預かるグレン・マクガヴァン将軍が用意してくれた屋敷の窓から、通りを眺めていたガイが呟いた。お茶を淹れていたカイトが明るく答える。テーブルの上で一生懸命クッキーに噛り付いていたミュウもはしゃいで答えた。


 

「そうですね。とても綺麗です。矢張りマルクトの土地は豊かで羨ましいです。
 ・・キムラスカでは余り植物が育ちませんから。」


「綺麗ですのー!僕のいた森もですけど、此処の花も木も元気ですの!」



今、ルークとレンは、アスラン・フリングス侯爵の案内で町を観光中だ。数日間滞在する場所なら、どんなところか見ておくのも必要だろうし、準備が出来るまで屋敷に閉じこもるのも退屈だろうと気を使ってくれたのだ。ルークの迎えとして派遣されたカイトとガイが、主の傍を離れるなど許されないが、フリングス侯爵が自ら案内まで買ってでてくれた外出時に身内の護衛を張り付かせておくのもマルクトへ失礼だろうと待機を命じられてしまった。要するに、マルクトを信用しています、というパフォーマンスだ。まあ、共にレンもいるし、ルーク自身も
剣と譜術に堪能で、大抵の刺客なら撃退できる。本音を言えば離れたくなかったが、外交の駆け引きとして必要だと言い切られてしまえばカイトに拒否権はなかった。仕方がないので、従者であるガイとカイトに与えられた部屋で休憩中だ。
 

そこで、突然ガイが、何やら思い悩む様子で呟いたのだ。



「ああ、ファブレの庭は割と豊かなほうだが」


「ああ、ペールさんって凄いですね。
 キムラスカの土地で、あんなに沢山の花を咲かせるなんて」


「そうだ、な」


「どーしたんですの?ガイさん、元気ないですの!」



どこかぼんやりとカイトに答えるガイを、ミュウが見上げる。食べていたクッキーを置いて、ちまちまとテーブルの上を歩み寄ったチーグルの温もりに、やっといま目が覚めたように瞬くガイが部屋を振り返った。


 

「・・・?何かありましたか?」


「いや、すまない。なんでもないよ。・・・・なあ、カイト」



カイトに一度首を振ったが、迷うそぶりで視線を泳がせたガイが、再びカイトに向き直る。



「・・君は、さ。譜業人形、なんだ、よな?」


「?はい。」


「そのマスターって、ルーク、様、だよな?」


「はい」


「君は、マスター、を、どう思う?」



ガイの質問に素直に肯定を返していたカイトが首を傾げた。



「どう、とは?マスターはマスターですよ?
 僕の主で大事な人です。僕は、マスターに仕えられる事を誇りに思います」


 

その答えに、ガイは酷く傷ついたような光を浮かべた。カイトが何か問うより早く言葉を続ける。



「君は、そのマスターって、何を基準に選んだんだ?
 ルーク、様に会う前は、ずっと寝ていたんだろう?」


「はい。僕のマスターになる人だけが、僕を目覚めさせることが出来るんです。
 そして僕を、あの人は起こした。だから、ルーク様が、僕のマスターです。」


「つまり、そこに君の意思は無かったわけだ。」



歪んだ笑いでガイが言った。



「君を作った博士とやら、か?そんな設定をしたのは。
 つまり君は、見ず知らずの人間でも、自分を起こした人間なら必ず仕えなければならなかったわけだ。・・・・嫌じゃないか?そんなの。」


 

ガイの言葉に、カイトは本当に不思議そうな表情で首を傾げる。ガイは、何か勘違いしていないか?



「?いえ、今の僕はマスターがちゃんと好きですよ?
 起こしてくれたから、あの人に仕えることにはなりましたけど。
 今、僕が、ルークさまが好きだと思って、マスターにずっと仕えたいと考えているのは、僕の意思です。」



「・・・それが、作られた感情じゃない証拠は?」



「・・?何故、ですか?」


「だって、普通嫌じゃないか?
 君は元々目覚めたときに傍にいた人間に仕える事になっていたんだろう。だったら、今の君の感情だってマスターを裏切らせないための設定かもしれないじゃないか。・・・そう、考えたことはないのか?」


 

苛苛と髪を掻き揚げながらガイが吐き捨てた。
何に怒っているのか知らないが、流石のカイトもむっとする。

まるでカイトが、ルークの事を好きになることが間違いであるかのような言い方だ。
そんな事はあるはずないのに。



「だから、なんですか?
 たとえ、好き、の切欠が博士の残した僕のプログラムであっても関係ないです。


 僕は、ルークさまが好きです。大事だし、守りたいと思っています。

 今そう考えている事実だけで、マスターに仕える理由なんてほかにいらないじゃないですか。」

 


堂々と胸を張って言い切った。
カイトにとって、それが真実だ。
だから、他の誰かが何を言っても関係ないのだ。


それをじっと暗い目で見返したガイは、乱暴な仕草で顔を背けると、足音を立てて外に出ようとする。カイトの視線が追いかけるのを知ってか、小さく言い残して部屋から去った。



「・・・・・それだけで、すむなら、・・誰も」

 

 



「・・・どうしたんでしょうね?」

「わからないですのー。ガイさん、落ち込んでるみたいでしたの!」



後には、揃って首を傾げるカイトとミュウが残された。



「まあ、良いか。・・それよりマスター早く帰ってこないかなあ。
 レン様も気分転換できて元気になってくれてると良いけど。」


「ですのー!僕もご主人様とレンさんに早く会いたいですの!!」



「「ねーー?」」

 





 

 

 






 

「やっほ、アレックス!おひさ☆」
 

「・・・!なななん、おま、キラ!・・様、行き成り、何故このような、」


ケセドニアの裏路地にて、黒髪に碧色の瞳の青年に、フードを被って顔を隠したキラが朗らかに声をかけた。仕事帰りに疲れきった身体を引きずるように歩いていたアレックスは感じ取れなかった気配が唐突に現れたことに驚愕のあまりどもっている。そんな反応など気にも留めず、キラは話を続ける。



「あ、元気そうだねよかった良かった、
 で、実は折り入って頼みがあるんだよね、急ぎの。もちろん聞いてくれるでしょ?」


「・・・あのな、」



アレックスは辺りを慎重に伺い、今度こそ余人の気配がない事を確認して、キラに顔を寄せると小声で叫ぶ。

 


「キラ!お前な、俺に用があるならいつも通りに連絡すればいいだろう!
 誰が聞いてるかわからないのに、そんな無用心な」


「やだなあ、アレックスってば、僕が、そんなヘマをするとでも?・・・ねえ、アスラン。」


「だからこんなところで呼ぶなと!」


「平気だってば☆・・・で?聞いてくれるの?くれないの?」


「・・・・はぁっ、わかった、話は俺の家でいいな?」


「OK!いやあ、持つべきものは有能な幼馴染だよね!」


「あーはいはい・・・ったく」



諦めたように肩をおとしたアレックスことアスランがキラを従えて踵を返す。
朗らかな笑顔でばしばしと肩を叩くキラの笑顔を間近で見たアスランは、背筋を伝う悪寒に鳥肌を立てながら家路を急いだ。キラの表情は文句の付けようもないほどに、朗らかな笑顔だった。・・・その瞳に浮かぶ青白い炎のような光さえ見なければ。


 

(・・・・今度は彼女に何があったんだ。こんな切れた状態のキラを見たのは・・・・まだ俺がバチカルにいた頃、レン嬢に難癖つけて嫌がらせを繰り返してたシラギ家の当主と奥方を社会的に葬った時以来、かな。俺が知ってる範囲では。)



今のキラに逆らうほど無謀にはなれないアスランは、どんな無理難題を押し付けられるのかと胃を痛める。キラは大事な幼馴染だし、アスランと両親の恩人だが、その破天荒ぶりに振り回されるのは勘弁してほしかった。
幼い頃は何から何までアスランが面倒を見ていた甘えたな幼馴染の、何時の間にやら成長しきった腹黒さを思って更に胃痛が加速する。
 

アスランは元はキラ同様にキムラスカの貴族だったのだ。ザラ公爵家といえば、当主であるパトリック・ザラの辣腕ぶりもさることながら公爵夫人レノア・ザラが専門に研究する分野においての功績を讃えられ、王族には及ばずとも名門と謳われる由緒正しい大貴族の一員だった。その一人息子のアスランが、何故アレックスという名で、髪まで染めてケセドニアで傭兵稼業などをしているかといえば、早い話が一家揃って亡命したのである。
 

キムラスカは代々預言を重んじる。預言に従うことこそが世界を繁栄に導くという教団の教えに傾倒し、殊更預言を重用した政治を行ってきた。アスランも当時すでに将来有望な公爵子息として王宮に出入りを許されていたため、城の上層部がどれだけ預言を至上にあつかっていたか知っている。アスランもそれが当然として教育されていたから疑問に思うことも無かった。だが、それが一転する事件があったのだ。


預言は小さな事から大きなことまで多岐に渡る内容だが、一つ絶対のルールがある。人の死に関する内容は授けてはならない、ということだ。アスランも、予め死ぬ未来を知れば人心の安寧に悪影響を及ぼすという教団の言い分に納得していた。・・・実際に、母の死が預言に詠まれるまでは。

死の預言を与えることは確かに禁じられているが、全くそれを知ることができないわけではない。預言を詠むのは人間だ。そういう不吉な預言を知った預言士が経験豊富なものなら兎も角、腹芸の出来ない人間だった場合ある程度推し量ることもできるのだ。だから、アスランも母の預言を呼んだ預言士の様子から不穏な気配を感じ取って詳しく調べた。結果、レノアにその年大きな災いが降りかかり死ぬことになる、という預言を突き止めた。

当然アスランは動揺した。今まで預言に逆らうなど考えたことも無かった。預言はほぼ確定的な未来であると教えられてもきた。だが、母が死ぬとわかっていて何もせずにいることも出来なかった。だからその悩みをキラにだけ打ち明けたのだ。その時のキラの素早い裏工作のお陰でアスラン達は助かった。問題の死の預言に詠まれた災い・・・大規模な水害が起こって、数多の人々が亡くなる、という事故から辛くも逃れたザラ一家はそのまま死んだことにして偽名をつかってケセドニアに亡命することにした。その、災害を、預言によって知りながら、王室の連中が預言に逆らう事を恐れて、被災者を見捨てた事実を知ったためだ。



(預言に詠まれたなら、と事前に備えておけば失うことの無かった命を見捨てる、のが、あの国の正義だ)



キラが、何やら秘密裏の活動をしているということは察していたが、まさか預言から犠牲者を守る、などという大きな活動だとは思っていなかった。キムラスカ国王以下側近の者達に知られたら反逆者として国を追われる危険すらある。だがキラは、本気で預言に盲従する国のやり方に反乱したいらしい。実際にアスラン達と一緒に災害の犠牲になるはずだった被災地の人間を避難させて水害の事前事後の処置をしたのもキラだ。勿論国に怪しまれないように建前を駆使しての活動だったが。・・そのキラの熱意の根源がキラ自身の出生の秘密にあると知っている。

 


(キラはあの頃から確かに預言の絶対性に懐疑的だった。・・・ハルマ様とカリダ様のこともあった後だったし。)



アスランがそれをしった前年に、マルクトとの小競り合いの中でキラの行方が一時的にわからなくなったことがあった。半日もせずに戻ってきたキラが、交戦の混乱で国内に侵入した兵士を追ってはぐれたのだと言ってその兵を始末した報告もしていたから、その時は納得したのだ。何やらこっそりとディアッカに頼みごとしていたのは気になったが、アスランも戦後処理で忙しくて詳しく話を聞く暇が無かったのだ。キラ本人から、後で幼馴染として育った自分達にだけ秘密を打ち明けれらたのはしばらくたってからだった。



(ユーレン・ヒビキ公爵が本当の父親で、ハルマ様達は叔父だったとはな。)



研究者であったユーレンに危機感を感じたヴィア夫人が密かに妹であるカリダに預けていたのだという。ヤマト家本家の当主でありながら跡継ぎのいなかった夫妻は、キラを実子として引き取ったということだった。



(それを知った経緯は話さなかったが、・・・何かあったんだろうな。)



その時連れ帰ったのが、妹のレンだ。
当時の騒ぎも思い出して溜息が深くなる。なんでもヒビキ夫人が夫から隠すために里子に出していた娘をキラが偶々発見して連れ帰ったということで、口さがない連中が姦しく噂しまくっていた。幾らヒビキ公爵の子どもでも、どことも知れぬ下層階級育ちの娘などを由緒正しい公爵家に迎えるなど、ヤマトの格も落ちたものだとか。本当にヒビキ夫妻の子である証拠などないのだから、もしや、口に出せない事情の末の隠し子ではないかとか。他にも色々な噂が飛び交った。
 

だが、アスラン達幼馴染として交流のあった面々にとって、レンの出自は大した問題ではなかった。事実噂どおりに庶出の人間でも構わないと思っていた。・・キラが半日姿を消す前に見せていた翳った表情が、レンを連れ帰った時には綺麗に消えて以前以上に力強い光をとり戻していたからだ。いつも明るく笑ってアスラン達の中心であったキラの憂いを取り除いたのが、その子なのだと悟ったから、レンの存在を積極的に肯定すらした。あの生粋の”青き血潮”崇拝主義者であるイザークですら、何も言わなかった。キラに懐いているニコルや、キラを弟扱いしながら密かに尊敬しているディアッカは言わずもがなだ。勿論アスランも、キラを助けたのが他人である悔しさを感じながらも、キラの支えになる存在に安堵していたのだ。



(・・・そのレンに対するキラの執着の深さを知らない人間は、・・今のキムラスカには殆どいないだろうな。隠しているつもりでも、隠しきれていなかった。・・開き直ってからは尚更だ。)


 

考えながら、自室のテーブルにお茶を並べたアスランはキラに向き直る。この時期に突然現れたキラの用件がどんなものか戦々恐々しながら水をむけた。


 

「・・・・で?今度は何があった」


「うん、実はさ、ルーク様とレンが誘拐されて」


「は?!」


「で、その迎えに行く途中なんだけど、・・あ、二人は無事だって連絡が来たから安心していいよ。・・で、その連絡でルークさまから頼まれたことがあってさ。でも僕も早くルーク様とレンに会いたいんだよね。・・・ね、だからさ、アスランにお願いがあるんだ☆」


「・・・・・内容は?」


「うん、ありがとう!そういってくれると思ってたよ!
 ルーク様から頼まれたのは二つなんだけど、一個はもう手配したから、もう一個の方なんだけどさ、・・・君、ちょっとダアトに行って来てくれない?」


「ダアトって、お前確かスパイもぐりこませてなったか?」
 

「ああ、うんそうなんだけど・・・ちょっと外側から調べてみたいんだ。中からじゃ見落としてる物が見えるかもしれないだろ?」


「まあ、多角的な視点で情報を洗うに越したことはないが・・・」


「そういうこと、出来るだけ急いでよろしくね!」


「はいはい、了解。・・・だが、前からお前が言っていたアクゼリュスからの通行可能な経路の手配はまだ良いのか? 一応調査は済んで目星もつけてあるぞ」


 

肩を竦めて了承する。キラがこういう頼みを持ってくる時は、何か重大な理由があるのだ。アスランは協力者といっても、頼まれた情報を探って渡すだけの実行部隊だからわからないことも多いが、不満はない。全てをしっても出来ることと出来ないことがある以上、適材適所で役割を振り分けるのは当然だ。余計なストレスを抱えて己の役目に支障をきたす位なら知らないままでも、完璧に任務を遂行することに集中できたほうが気が楽だった。・・計画の立案遂行者であるキラの負担が心配でもあるが、そちらも今は共犯者として互いに支えあえる
相手もいるようだし。


 

「流石アスラン、仕事が速いね、けど、そっちは余り早く手配始めるのも不味いんだよ。駆け引きにはさ、”知らない”事も必要だからね。」
 

「ま、確かにな」



元公爵子息として王宮で生きていたアスランには良くわかった。時には、既知の情報であっても、その事実を隠したほうが上手くいく事柄もあるのだ。例え相手が察していても、証拠が無ければ偽りも真実のままだ。あまり多用するのも問題だが、必要とあらば用いるべき戦術である。そしてキラがそういうのなら、まだ知っていてはならない秘密に関わるのだろう。だったら先ずは、今回の頼みごとから片付けるのべきだ。


 

「じゃ、早速準備して行くか。お前はこのまま船に乗るんだな?」


「よろしく☆うん、もうそろそろ準備できてるかな、
 ちょっとアスターさんに無理言っちゃったけど」


「・・・そっちも手加減してやれよ?」


「ははは、大丈夫!前に貯めてた貸しを返してもらうだけだから!」


「あーはいはいはい、手抜かりのないことで」


「まね☆・・んじゃ、よろしく!」



そして来訪時同様風のように跡形も無く去っていく。目の前にいたというのに、その動きを追いきれなかったアスランが深く溜息を吐いた。



「・・・・お前も流石だよ、そのレン嬢が関わっている時の素早さは。・・・・血の雨が降らないと良いけどな。」



儚い希望を口にしながら準備を始める。常と同じ明るい笑みで朗らかに話しながら、隠しきれていなかった限界ぎりぎりのキラの糸が切れる前に無事迎えにいく二人に再会できることだけを祈っておいた。



「じゃないと、計画なんか根底から捨て去って原因を全消去とかやりかねないからな。
 ・・・つくづく、レン嬢は偉大だよ。・・・ルークさま、頑張ってくださいね。」



とりわけ、今の時点で一番の被害者になりかねない彼の幸福を重点的に。












 

 

 

 

 

 

 


 
















 



















 

 

 

 

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