お待たせいたしました彩姫様。
36363hitリクエストありがとう御座いました!ルクアリ小話で御座います。
ええと、すみません。本気でシリアスになってしまいました。
そしてPTメンバは空気なんですが若干辛口です・・・・。本当にすみません、努力したんですがこればかりは本気でどうにもなりませんでした。
もし気に入らなかったときは、どうぞ遠慮なく申し出ていただければ書き直させていただきます。
一応原作風味のルークとアリエッタです。
では、どうぞ
『箱庭の御伽噺』
昔々、あるところに、可愛らしいお姫様と、王子様が二人で暮らしていました。
「・・・なんで、そんな風に、笑う、ですか」
「嬉しいからだよ。」
柔らかな風が吹く。獣や魔物にしか足を踏み入れることができないような深い森の奥にある小さな広場。大きな木が優しい影を落とす、その場所で穏やかにまどろむのは鮮やかなローズピンクの髪の少女と、朱金の髪の青年だ。
少女の膝に頭を預けて静かな寝息を立てる青年の髪を、少女が優しく梳いている。
無防備に自分に全てを預ける青年が愛しい、とその仕草全てで語る少女がふわりと笑う。
(ここは、静か、です。)
「・・・アリエッタ?」
今まで眠っていた青年が掠れた声で少女を呼んだ。瞼を擦る手をそっと抑えながら、アリエッタが答える。
「起きた、ですか?ルーク」
その口元に浮かぶ笑みに、首を傾げるルークが聞いた。
「なんかあったのか?嬉しそうだ」
純粋な疑問だけを浮かべる無垢な瞳がアリエッタだけを映す。その、至福。
「ルークと一緒に居られて嬉しいだけ、です。」
笑顔で囁かれたルークが、その面にたちまち朱色をのぼらせる。うろうろと視線を彷徨わせつつも小さく答える。
「・・・俺も、アリエッタと一緒に居られて、嬉しい、よ」
「ふふ、」
大好き、です。と吐息に混ぜて囁いて、瞼を伏せるアリエッタ。そんな少女に、ぎこちない手で頬を撫でながら、身を起こしたルークがそっと口付ける。拙くて幼い、子供のキスだ。それでも、二人にとっては何よりも愛しくて大切な行為。アリエッタが微笑む。ルークが真っ赤な頬を隠すように再びアリエッタ膝に顔を伏せた。
そこには、幸せな恋人同士と、森に溶け込む獣の気配しか存在しない。
(ここには、煩わしいものは、何も、ない。
・・・・・皆を嫌う、人間たちも。)
ルークを守るように、静かな手つきで髪を梳くアリエッタが胸の内で呟いた。
(ルークを、傷つける、あいつら、も)
そして、あの時の事を思い出す。
ルークを今度こそ殺そうと、狙ったあのときを。
「覚悟、するです。今日こそ、お前を、殺す、です!」
その日、ルークたちは地図にも載らない様な小さな村に滞在していた。どうやらアルビオールとかいう移動用の譜業の調子が悪かったらしい。パイロットの少女が点検と整備をしたいからと、一時的に降りた場所の近くに偶々あった村に予定外の宿泊を強いられたらしい。予定外であるから特に用事もなく、皆突然の休暇を好きに過ごしていた。其々がばらばらに行動する様子を、偵察を頼んだお友達に聞いたアリエッタは、チャンスだと思った。気を抜いているというなら、無防備に一人になる瞬間もあるだろう。この小さな村の周りは殆どが深い森だ。村の付近だけが開けた丘になっているが、少し歩くだけで容易く身を隠す木立の群れが現れる。ならばお友達
と一緒に影に潜んで、ルークが一人で歩く瞬間を待てば良い。彼らはあまり纏まりがないようだから、簡単に個人行動をとる。いつもなら大きな町でしかそんな姿を見れなくて機会を逃していたが、此処ならば、と思ったのだ。
そして待ち望んだ時はあっさりと訪れた。
どうやら一人で修行でもしようと思ったらしい。呑気に村から続く小道を歩くルークが、森の手前に差し掛かった瞬間、彼の身体を押し倒す。たとえ小柄でもアリエッタは軍人だ。かつて導師守護役を務め、今は六神将と呼ばれる師団長を務める優秀な。剣術が得意といっても、ほんの一年足らずの間に付け焼刃的な実戦を重ねた程度のルークを、取り押さえるくらいのことは簡単なことだった。相手が気を抜いている状態なら尚更に。あっさりと引き倒したルークをうつ伏せに押さえ込んで、首に刃を突き立てる。これで、ママの敵を取れるのだと高揚しか感じなかった。
だから、あの時、ルークと言葉を交わそうと思ったのは、ただの気まぐれでしかなかった。
今まで梃子摺らせた相手の最後の言葉くらい聞いてやっても良いか、と思っただけなのだ。
アリエッタが覗き込んだときの、ルークの本当に嬉しそうな笑顔と、いっそ睦言でも囁くかのような甘い声を聞かなければ、その場で首を掻ききっていたはずだ。
「なんで、そんな、顔を、するですか!
・・・アリエッタに、お前が殺せないとでも思う、ですか!」
「嬉しいからに決まってるだろ?」
ルークの笑顔に馬鹿にされているのか、と思ったアリエッタが怒りに震える声で問いただす。余裕を持っていられるのも今だけだと手に力を込めたアリエッタに返ったルークの声が、本当に幸せそうでなければそこで全てが終わっていたはずだった。
「何を、いうです?お前は、此処で、死ぬですよ?」
「ああ、わかってるよ」
「なら、何故、です?!」
食い下がるアリエッタに、ルークは疑問だけを浮かべる瞳で見返した。その美しい鮮緑には、恐怖も怒りも存在しなかった。まるで無垢な幼子の瞳で、アリエッタに視線を向けるルークの表情は、何を言っているのか分からない、と言っていた。今まさに殺されかけている状況で浮かべるべき表情ではなかった。
「・・だって、アリエッタが憎んでいるのは、チーグルの森で、クイーンと戦った時の俺だろ?」
「・・・当然、です。」
「だから、嬉しいんだよ。」
「どういう、いみですか。」
僅かにアリエッタの力が緩む。それでも抵抗せずに倒れたままのルークが続けた。
「だってさ、もうアリエッタだけなんだぜ。」
その吐息の甘さ。まるでこれこそが至福だとでも言うような。
「もう、”前のルーク”を望んでいるのは、アリエッタだけだ。」
その、言葉の意味を、唐突に悟る。
「七年間、ファブレで育った傲慢で我侭な、アクゼリュスまでの俺は、皆にとって必要ない存在なんだ。
ティアもジェイドもガイもアニスもナタリアも。今の俺には優しいよ。
アッシュだって口は悪いけど気に掛けてくれるようになった。
けどさ、じゃあ、”前のルーク”を、俺はどうしたら良いんだろうな?
そりゃ、アクゼリュスの事は許されない罪だ。
その罰が、俺が変わらなければならない事なんだったら従うべきだろうさ。
皆が”前のルーク”が嫌いだって言うのは仕方ない。
俺だって良い奴だったなんておもわねーもん。」
笑顔のまま続くルークの言葉は、どこまでも空虚だ。
「でも、”前のルーク”だって、俺に違いはないんだぜ?
”前のルーク”が居なければ、今の俺だって存在しないんだ。
なのに皆が”前のルーク”を否定する。居なくなって良かったって喜ぶんだ。
じゃあ、”前のルーク”が居なければ存在しないはずの今の俺はなんだと思う?
皆は今の俺に優しいけど、それって何でなんだろうな?」
優しいと仲間達が褒めるルークの笑顔が、仮面にしか見えない。
空っぽで冷たい、ただの笑顔という形をとっているだけの無機質な物体だ。
ルークの言葉に、アリエッタは答えられない。
「だから、さ。アリエッタが、”前のルーク”を憎んでくれるのが嬉しいんだよ。
もう、”前のルーク”を優しいと言ってくれたイオンも居ない。
・・・アリエッタだけなんだ。」
ルークの表情は、変わらない。
「だから、その感情が憎しみでも構わないんだ。
アリエッタが殺したがっているのが、”前のルーク”であるのなら、それだけで良いんだよ。」
アリエッタの手から刃が落ちた。
ルークの身体を無理やり起こして、その頭を力いっぱい抱きしめる。
もう、アリエッタにルークを殺すことは、出来なかった。
憎しみはある。母を殺したルークを許せないと心が叫ぶ。
けれど、この無垢な傷ついた幼子を、愛しい、と。守らなければと感じている自分も居るのだ。
だから、
「お前は、アリエッタが、殺す、です。」
「ああ。」
「お前の命は、アリエッタが、貰う、です。」
「勿論だ。」
「・・・・だから、お前の全ては、アリエッタの、もの、です。」
「・・・ああ。」
この傷ついた子供を攫った。
空を飛べるお友達に頼んで、お友達にしかこられない、この深い森の奥に連れてきてもらったのだ。
ルークの仲間達や、他の六神将や、総長も、今のアリエッタにはどうでも良かった。
ただ、ルークと、兄弟と、お友達だけが存在する、この場所で過ごすことが出来れば、それだけでいいのだ。
「ルーク、大好き、です。」
「おれも、アリエッタが、大好きだ。」
穏やかな木陰で、幸せな恋人達が笑う。
美しい箱庭を見守るのは、空と、風と、森の生き物達だけだった。
その場所は、永遠に守られる。
世界が終わる、その瞬間まで幸せだけに包まれる。
二人が静かに眠るまで、変わらずにあるだろう。
お姫様と、王子様は、ずっと幸せに暮らしました。
そんな、お伽話の結末。
この作品は、エヴァ×アビス基本+seed(キラ・ラクス・クルーゼ・カナード他)、ぼかろ(カイト・ミク・メイコ)設定がクロスする混沌クロス作品です。
・碇レンver
・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。
・本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします
CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)
です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。
とある穏やかな夜。
美しい星空の下で、美しい花に囲まれた場所で、三人の男女が向かい合っていた。
一人の男--十代後半位の朱金の髪の青年は・・・・激しい頭痛を堪えつつ、困惑と怒りと呆れを抱えて目の前の二人の女を見比べていた。
十代後半で自分よりも少し年下位の、15・6歳程の少女が二人。
二人の少女は、朱金の髪の青年・・・キムラスカ王国ファブレ公爵家嫡男であるルーク・フォン・ファブレ・・の前で、正反対の態度を見せていた。
一人は恐縮しきって土下座までし、ルークの許しをひたすらにまっている。
一人は呆れ切った眼差しで少女を見下ろしつつ怒りを滲ませてルークを睨んでいる。
その様子を見比べれば見比べるほどに、激しくなる頭痛を抑えきれなくなるルーク。
深いため息をひとつ。思わず口に出して呟いた。
「・・てか、その態度・・・お前ら本来は逆の立場じゃねぇのか?」
ND2018、23day,Rem,Rem Decan
その日、事件は起きた。
ぱちり、と音を立てそうなほど勢い良く瞼が開く。いつもは従者を務める宵闇色の髪の青年が必死に身体を揺すっても枕から離れられない己の寝起きの悪さを知っていたルークは、自分でも不思議に思うほどすっきりと目覚めることができた。我ながら珍しいな、今はカイトが居ない所為かな、と思いつつ身支度を済ませる。本来なら専属のメイドに身の回りの世話を任せるべきだが、ルークはできることは自分でやりたいと”わがまま”を通して基本的な身だしなみ等は己で整える事を許されていた。
といっても公爵家の嫡子たるものの体裁がある。実際がどうであれ王位継承権を持つ上級貴族の人間が、着替えから部屋の片付けなどを自らの手で行っているなどと外部に漏らすことなどあってはならない。だから常ならば従者である青年--数年前偶然が重なって出会った創世暦時代の譜業人形である。---カイトが傍付きとして控えることで形だけは整えていた。譜業人形といっても流石は創世暦時代の技術というべきか、カイトは外見から言動に至るまで、まるきり普通の人間と区別がつかないほど精巧な人形であった。しかもしっかりと自立した精神を持っているのだ。最初は所詮は人形だと見ていた屋敷の面々も、付き合いを深めるうちにカイトを一人の人間と同じだと見るようになった者が殆どだ。未だに偏見を捨てきれない者も若干居るが、あくまで少数になっている。何よりも、当時まだ”マルクトに誘拐された”所為で、”赤ん坊同然になってしまったルーク様”を守り慈しみ育て上げたのはそのカイトなのだ。カイトを人形だと蔑んでいても、カイトがルークに対して抱く忠誠に疑いを差し挟む人間はこの屋敷には存在していなかった。
そのカイトは此処数日間留守にしている。如何しても信頼できる人間にしか頼めない用事があって、仕方なくカイトを使いを頼んだためだ。カイトがいなくても生活的な困難は無い。完全な素をさらけ出すことはできずとも、付き合いの長いメイド達も居る。幼子ではあるまいし一人が寂しいというわけでもない。だがやはり信頼できる人間が居るのと居ないのとでは、精神的な緊張感の度合いが違うということか。
(つっても、初めてってわけでもねぇのに、今日に限って目が覚めたってのは----)
キィン、と甲高い耳鳴りが始まる。
(ってぇ、やっぱりかよ!)
姿勢を保つことも儘ならないほどの激しい頭痛。七年前に”誘拐”されてから不規則に煩わされる持病のようなものだ。”記憶喪失”の原因に関わるのではと何度と無く検査を繰り返したが未だに治療法が見つからい。・・・ことになっている。表向きは。だが今はその理由を知っている。
---我が・・え・。・・・・ク・・・我・・子・・応・・---
(無茶言うな!どうやって応えろってんだよ!!痛ぇ、くそっ!)
数年前にルークの母であるシュザンヌの治療の為にファブレに招かれた青年が推測した事だ。
その時に判明した事実と合わせてほぼ間違いないだろうと断定された。
(ふざけんな!ローレライ!)
すぅっと痛みが引いていく。まるで何事も無かったかのように耳鳴りも消えた。だが痛みにもがいていた数秒の間に疲労した精神を休める為に傍らの椅子に座り込んで眉間にしわを寄せる。
そう、恐らくは、”ルーク”の同位体である、第七音素の意識集合体、ローレライの声だろうと。
(だったら何だって話だがな。日常生活を脅かされる謂れはねぇぞ。あー忌々しい。
・・・被験者は何やってやがんだよ!!)
そして、此処にいるルークが、七年前誘拐された”ルーク”のレプリカであると、教えられたのだ。
それは衝撃の事実であった。
実際シュザンヌは卒倒したし、クリムゾンは厳しい面持ちを崩さずに、その情報を齎した青年---シュザンヌの従兄弟であるハルマ・ヤマト公爵の息子キラに詰め寄って今にも斬り捨てんとばかりの剣幕であった。当時のルークは未だに言葉も覚束ない状態で口を挟むことはできなかったが、傍らのカイトに抱きしめられながら三人の様子を見ていたから覚えている。幼心に、自分がやっぱり”皆の求めるルーク様”ではなかったのだ言うことだけは理解した。納得と、落胆と、どちらが大きかったのかは覚えていないけど、もう自分は”ルーク”にならなくて良いのかな、とだけ考えた。
そんなルークを確かに気遣いながら、キラは説明を続けたのだ。
レプリカとはどういったものか。
その確証となったものは何か。
ルークがレプリカであるのなら、被験者はどうしているのか考える必要があること。
その上で、レプリカルークをどう扱うつもりなのか、と。
一度は気を失いつつも何とか立ち直ったシュザンヌと、狼狽しながら考え込むクリムゾンを見比べるキラの眼差しは、その場で誰よりも力強かった。
ルークを抱きしめてくれているカイトの腕の温もりと同じくらいに、ルークを守ってくれていると感じたのだ。
そしてそれは正しかった。
シュザンヌが、ルークがレプリカであっても、身体を構成するのが第七音素のみであるという点を除けば被験者と全く同じであるというのなら、それは自分が生んだ息子がもう一人増えたのと同じことではないのか、と言った。加えて刷り込みという記憶複写の技術を施されていないレプリカは身体が成長した外見であっても赤子と変わらないなら、その子供はまさしく幼子でしかないのでしょうと言った、ならば、そのこは私が生んだルークの弟のようなものですね、といって笑ったのだ。
そのシュザンヌの言葉には安心したように笑い返したキラが優しく頭をなでてくれた時の表情でそれを悟った。
キラはきっと、シュザンヌが拒絶するならば、ルークを保護してくれようとしていたのだろう。だからシュザンヌがルークを受け入れたことに安心したのだ。
同時に、考え込んでいたクリムゾンが、ならばその子供を”ルーク”の影武者にしよう、と言い出した瞬間のキラの殺意すら込めた怒りもはっきり覚えているのだ。
それはどういう意味かと平坦な声で問い返したキラに、クリムゾンは被験者のルークはキムラスカの繁栄の礎になるという預言が詠まれているのだと返した。静かに目を細めて、つまり”ルーク様”の死の預言を回避するために、何も知らない幼い子供を身代わりにするつもりなのですね、と言った声には肌を焼きつくすかと思うほど激しい憎悪が込められていた。先程優しく笑ったシュザンヌにすら非難の眼差しを向けられて尚当たり前のように、国の為に死ぬのは王族としての義務だろう、と言い切った。
その瞬間、シュザンヌとキラとクリムゾンの間には決して超えることの出来ない断裂が生まれたのを理解した。
数秒前の激情を綺麗に収めて、不躾なことを申しました、と頭を下げたキラと、それが王族の役目ならば、と淑やかに控えたシュザンヌの間に交わされた眼差しが同時に自分に向けられたとき、ファブレ家で信じていいのは、この二人とカイトだけなのだと、理解したのだ。
だから、ルークは、”ルーク”の代わりにここに居る。
今、ルークがレプリカであると知っているのは、シュザンヌとクリムゾンと、キラとキラの妹であるレンとカイトと、シュザンヌが厳選した数人のメイドと騎士。後はインゴベルトとその側近数人と、キラが信頼している何人かだけだ。”ルーク”の婚約者であるナタリア王女や、”ルーク”の傍付きであったガイ・セシルにも秘密にしている。これはクリムゾンとインゴベルトの判断で、彼らはルークが”ルーク”の代わりを勤めてくれれば次代の王を失うことなくキムラスカの繁栄が得られると考えたのだ。そのためには、ルークが替え玉であると知られてはならない。特に預言を人々に授けると同時に崇拝するローレライ教団に隠し通すためには、決して秘密が露見することは許さぬ、と命じた。
・・・ルークが実際に預言の為に死んだあと、教団にどう言い繕って本物を表に出すつもりかは知らないが、キラ達の計画のためにもそれは都合が良いから従っているだけだ。ルークも世界中全ての人間に受け入れてもらいたいなどとは思っていない。信じてくれる数人が居ればいいから不満もない。
後日、キラが”記憶喪失”のルークの家庭教師も勤める様になった。
そのキラの教育とカイトの世話を受けてルークは成長したのだ。
時にキラやキラの妹であるレンや、キラの友人との交友を交えて七年を過ごした。
知識と力を蓄えて”以前のルーク”と比べても遜色ないくらいに成長した時、キラとシュザンヌから打ち明けられた計画に協力するために此処にいるのだ。人の死を詠んだ預言にすら盲従して、助かるかも知れない命を無造作に見捨てるようなこの国を変えるために。預言に詠まれたのならば、という理由で誰かの死すら無条件に受け入れる”常識”を壊すための戦いに協力するために此処にいる。
だから、ルークにとってファブレ家は敵地にも等しい場所である。完全に気を抜いていいのはシュザンヌの私室と、キラやレンが訪れている時のこの部屋と、カイトが傍にいる時だけだ。
そんな状況で、時と場合を選ばずに訪れる激しい頭痛は、日常と計画を阻害する最悪の敵に等しい。何せまともに姿勢を保つことも難しい状態でうっかり本性を取り繕う余裕すら失われたらと思うと楽観などできない。頭痛の原因であると目されるローレライに悪態の一つ二つついたところで仕方が無いというものだ。
(あー、くっそ。・・・まあ良い。今更だからな。
それより今日は----)
その瞬間ルークが表情を変える。眉間に刻まれていた皺を消し、自然体でありながら高貴な身分の者特有の威厳を纏う。この部屋に近づく気配を捉えたからだ。殆ど反射的に、完璧でありながら親しみやすい”ルーク様”の仮面を被る。といっても完全な虚実というわけではない。ただ素では多少乱暴に成りがちな口調を改めて、公爵子息としての最低限度の対面を整える程度のことだ。それでも貴族社会に生きる人間には最も効果的な演出になる。同じ内容の言葉を話しても、口調の違いで受ける印象が変わるものだ。権威を重んずる貴族ならば尚更に。だから人前でのルークは殊更に礼儀作法や立ち居振る舞いに気をつける。本当に親しい人間だけが居る場所以外では、自宅でも同様だ。使用人の噂ほど、早く広く広まる情報は存在しないのだから。
これはルークがレプリカであると明かされた時のための予防線だ。
人は異端を嫌悪する。今は幾ら好意的に見てくれている者でも、必ずルークを拒絶するものがでるだろう。だから、今のルークが優秀な公爵子息としての能力を示しておくことが必要なのだ。例え被験者とは違う生まれの生き物であっても、その能力に遜色は無いのだという事実を。生まれ方が違っても、レプリカだって生きている人間なのだという事実を直接知る人間を多く作っておくべきだ。今生まれているレプリカはルーク一人ではない。これからだって生まれてくる可能性がある。そんな時に、ただ異端の生き物だという事実だけで排斥されかねないレプリカを守る手段の一つとして、今のルークの評価を高めておく事が必要なのだ。ルーク一人ならば親しい数人だけが居れば良いと思っても、その数人を見つける前に命の危険に晒されかねない他のレプリカたちの為の予防線。
学業でも剣術でも譜術でも、恐らく被験者よりも優れているという自信がある。これはキラ達も認めるところだ。
ルークに全てを教え込んだキラとシュザンヌの指導の賜物だ。数年前から父を介して政治にも参画している。いくら影武者といっても、ただ屋敷に世話になるのは申し訳ないから仕事を手伝わせてほしいと言いくるめたのだ。シュザンヌとキラの援護もあってかしぶしぶでは有るが公務を任されるようになった。すぐに示されたルークの有能さに、役に立つなら結構だとでもおもったのか今ではそれなりに重要な仕事も回されるようになった。お陰で今の屋敷にも王宮にもルークを”ルーク”と比べるような輩は存在しない。むしろ七年前よりもさらに優秀になったと評判である。キラと連名で行った政策のいくつかのお陰で国民にもルークの名は広まり始めた。いつか被験者を連れ戻して、ルークがレプリカと知れた時に、これらの形に残る功績や評価はその身を守る盾の一つになるだろう。
ただし、一部のものにはそんなルークの本性を隠さなければならない。
どんな些細な疑いもキラ達の計画の妨げになりかねないからだ。
(・・・つっても、ちょっと誤魔化すだけで疑いもしやがらねぇのには拍子抜けしたけどよ)
コンコン
「失礼いたしますルーク様。旦那様と奥様がお呼びです。」
「何?入れ」
内心で呟くのと同時に扉がノックされる。元傍付きであったガイの声だ。ルークの許可を得て入室するガイの顔には爽やかな笑みが浮かんでいる。誘拐から連れ戻された当時のルークにとっては、唯一安心できた表情。だが、今のルークにとっては警戒の対象だ。秘密を隠し通さなければならない一人。ルークの秘密だけではなく、ガイの秘密を知っていることも。
「お早う御座います、ルーク様。」
「ああ、おはようガイ。・・・今は誰もいないから敬語は無しで良いぜ?」
「そう、か?じゃあ、お言葉に甘えて。
・・・だんな様がお呼びだぜ。グランツ謡将がきてるとか。」
「師匠が?今日は稽古の日じゃないけど・・」
「ああ、ダアトでなんかあったらしくて・・なんだ嬉しくないのか?」
「いや、そんなことは無いよ。ありがとう。じゃあ直ぐに支度していくよ。」
「ああ、じゃあ俺は仕事があるから。またな。」
「ああ、後でな」
・・・それでも嫌いきれないのは、刷り込みのようなものだろうか。赤子のルークに優しかった彼の笑顔への親しみと、隠されていたガイの闇への警戒心。当時、屋敷中から蔑視されていたルークを、殆ど一人で世話してくれた彼への想いがある。けれど、キラたちと一緒に戦うと決めた後知ったガイの秘密が、無条件の信頼を抱かせない。だから自然とルークの態度もそっけなくなる。追いかけてくる必死な視線を撥ね退けるための演技。うっかり絆されないための予防線。それでもあきらめないガイの本意はどちら側のためのものか、今は考えたくなかった。
けれど、そろそろ結論をださねばならないだろう。・・今年はもう”ルーク様”に詠まれた預言の年だ。
(ガイには言うか言わないか、俺が決めて良いと言ってくれたけど・・・・
今はヴァンが先か。予定外の訪問。ダアトで問題、ね。
あーあ、じゃあ午前中に母上たちと約束してたお茶会は午後に延期か)
深く溜息をついて窓から外を見る。
七年間、ルークを閉じ込め続けた高い塀が区切っている狭い空を。
「さて、行くか。」
透き通る空の色は、見るものの心情などお構い無しに美しかった。
++
「失礼いたします。おはよう御座います、父上、母上。
お待たせいたしまして申し訳御座いません。」
「まあ、おはようルーク。今日も良く眠れて?
その服も良く似合っているわ。やっぱり貴方には白が一番合うわね。」
「ありがとう御座います。ええ、先日母上がくださったものです。」
「うふふ、また新しくデザインを考えたら着て頂戴ね。楽しみだわ。」
にこやかな表情で客室に入るルーク。穏やかな声で両親への挨拶をする。その優雅な仕草を見たシュザンヌが誇らしげに笑ってルークに返事を返す。クリムゾンの物を見るような無機質な視線には気づかぬ振りで、仲の良い母子の会話を交わす。客人として遇されているローレライ教団神託の盾騎士団の首席総長ヴァン・グランツ謡将の視線も態と無視する。ルークが殊更母親想いであることを屋敷に出入りするもので知らぬものはない。母を気遣う余り他人の存在を忘れているのだろうと、屋敷内のものは微笑ましく見守る。公式の場や外の世界で同じ事をしなければちょっとした欠点で片付けてもらえる程度に抑えた、ささやかな嫌がらせである。
「・・・ルーク」
「ああ、大変失礼いたしました。父上。
グランツ謡将、お久しぶりで御座います。ようこそお越しくださいました。」
今気づきました、とばかりに少しだけ申し訳なさそうに眉を寄せて謝罪の言葉と共に挨拶をする。ひっそりとシュザンヌの口元があがったのはルーク以外の誰も気づかない。伏せた顔がにやり、と笑ったルークにも。言葉を額面どおり受け取ったクリムゾンとヴァンが鷹揚に頷いて会話をはじめる。
「まあ、良い。今日はグランツ謡将がわざわざ挨拶に寄ってくださったのだ。
お前も座って話を聞きなさい」
「はい、では失礼いたします。」
礼儀正しく一礼して席につくルーク。その時こっそりとヴァンに子供っぽい笑みを見せておくことも忘れない。礼儀正しい公爵子息が、場を弁えつつも嬉しさを隠せない、といった様子だ。シュザンヌとキラの指導で培った演技力を見破れるような目の良い人間はその場に存在せず、皆が完全に騙される。ほくそえむ母子。道化を演じるファブレ公爵とグランツ謡将。茶番である。
(ちょろいな。)
「ああ、そんなに畏まる必要はないぞ、ルーク。」
(お前はもうちょっと畏まれよ。此処にはキムラスカの王族が三人もいる公爵家だぞ。 キムラスカが預言に傾倒する馬鹿に占められてなきゃ、不敬罪で首切られても文句いえねぇぞその言葉遣い。)
「ありがとう御座います。それで、グランツ謡将、挨拶というのは・・」
「うむ。緊急の任務でバチカルを離れることになってな。
しばらく稽古に来られそうもないから、その挨拶にな」
「ええ!?………緊急の任務とは?……」
「これは内密な話なのだが………導師イオンが行方不明になったと知らせがとどいてな」
「導師が?!では、」
「うむ。明日からその捜索に向かう。いつまでかかるかは今のところわからん」
「………そうなのですか………」
そっと目を伏せるルーク。それを落ち込んでいると解釈したらしいヴァンが笑いながら続けた。
「そんな顔をするな。そう長くもかかるまい」
「………はい」
(・・・・行方不明?何かあったか。カイトがついでに調べてくるとは思うが・・)
そのダアトに向かわせているカイトの帰還を急がせるべきか、と一瞬迷ったため次のヴァンの発言に素で反応してしまった。
「さて、では着替えて外に出なさい。
しばらく来られないからと言って、次に来たときに鈍っていてはいかんからな。
今日はみっちり稽古をつけてやろう」
わざとらしく厳めしい表情を作ったヴァンがソファから立ち上がる。可愛い弟子を見守る頼もしい師匠としての表情。 本来なら此処で嬉しげに笑うべきだが、
「「は?」」
思わず素で声を漏らしてしまった母子。その疑問の表情に首を傾げる壮年の男が二人。・・首を傾げたいのはこっちである。
「・・どうした?ルーク」
「え、いえ。グランツ謡将は、導師が行方知れずになったため、帰還しなければならないのですよね?
なら、私の稽古など瑣末事ではありませんか。一刻も早くお帰りになるべきでは・・」
幸いシュザンヌの声は聞き逃したらしいので、これ幸いと声高にまくし立てる。辛うじて、大好きな師匠との稽古が出来ないのは残念だが、という表情を見せるのを忘れなかった自分を褒めたい位信じ難い発言だった。演技の必要がないなら、自国のtopの危機に何を暢気に構えてやがる、と胸倉を掴みたい。いくらなんでも、お前はもうちょっと本音と建前を使い分けるべきじゃねぇのか、と言いたい。キラ達との計画の一環で知った事実がなければ、ヴァンの発言はどこまでも突っ込みどころが満載すぎる。知っていても満載だが。
(いやいや、軍人の職務をなんだと思ってんだよ。
おれが何も知らなきゃ、導師の地位はそんなに軽い代物なのかって思ってもしかたねぇぞ、その発言)
「何を言う。どうせ船の出る時間までの待ち時間もある。
私が、お前との約束を破るわけないだろう?」
「ルーク、折角のご好意だ。甘えておきなさい。
・・ではよろしくお願いしますグランツ謡将。私は登城の時間ですので失礼します。」
「はい、勿論です、公爵。」
クリムゾンも全く気にしていないらしい事実に、シュザンヌがこっそり眉をしかめている。・・やはりキムラスカの未来は暗い。彼らに国を任せて置けないと日常的に決意を改める事数百回目。むしろ今すぐ蹴落としてやろうか、と愚痴るキラの言葉に全力同意したい。
(キラ~~こいつら駄目だ、本当。
もういっそ預言信者纏めてどっかに監禁しようぜ)
内心で罵倒しつつ表情は完璧なままヴァンに向き直る。これも計画の内、と百回唱えて演技再開。
「ふぅん。・・・じゃあ、師匠!早速はじめても良いですか?」
口調を少し子供っぽくして乱雑さを混ぜるのがポイントである。懐いている師匠に甘えている背伸びした子供の図だ。勿論シュザンヌとキラの・・以下略。そしてあっさり騙されるヴァン。
(こういう面では扱いやすいつーのに、)
曲りなりにもヴァンはレプリカルーク作成に始まる計画の首謀者である。加えて実力と人望と地位だけはあるという厄介ぶり。うっかり気を抜いてしまわないよう気合を入れるルーク。
「そうね、ではルーク。午前中に約束していたお茶は午後にしましょう。
あの子達にも伝えておくわ。気をつけるのですよ」
にこやかに息子を気遣うシュザンヌ。アイコンタクトで励ましあってお互いに別れる。
(キラ、カイト、早く全部終わらせて隠居しようぜ。
早く解放されたいよ、本当に)
・・・・・・・・・・・・・それが、今日の朝の出来事である。
そして、今ルークは此処に居る。
此処---- マルクト帝国領、タタル渓谷の上に。
上を見上げれば満天の星空。穏やかな風は涼しく芳しい花の香りを運ぶ。
ただの星見を兼ねたピクニックならば、どれ程良かっただろうか。
現実逃避をあきらめて、目の前に視線を戻した。
変わらずに土下座の姿勢を崩さない黒髪の少女と、此方をにらむ栗色の髪の少女を。
「あ~~まず、レン。顔を上げろ。発言も許す。これはお前の責任じゃない。」
「恐れながら申し上げます!
あの場に居合わせながらルーク様をお守りすることも出来ず、このような場にお連れしたのは私の失態に御座います!帰国した暁には必ず罪を償わせて頂きますので、どうか道中の護衛の任をご命令ください!!」
額をさらに土にこすり付けてまくし立てるレンに深々と溜息をつく。彼女は自分の失態だといったが、そんなことは全くない。むしろルークがこんな場所にまで飛ばされることになった原因である事件の瞬間に、普通ならば絶対に間に合わないだろう距離を走りこんでルークを庇った彼女の行動は賞賛に値する。何しろファブレの警備が尽く無力化された状態だったのだ。本来ルークを守るべき騎士たちが軒並み攻撃力を奪われたあの時に、ルークを守る行動を起こした彼女が責められるいわれは全くない。レンが来てくれなかったら、あのままルークともう一人の女とだけでこんな場所に放り出されるところだったのだ。むしろルークはレンに感謝しか感じていなかった。
「良いから立て。お前にそんな事をさせたと知られたら、キラに殺される。」
「ルーク様、ですが・・」
「いいから!ほら!」
渋るレンを無理やり立たせる。小うるさいもう一人の気配は完全無視でまずは小声でレンを宥める。
「大体今日のお前はただの客人だろうーが。
しかもあの時は屋敷に向かう馬車に乗ってたところだっただろ。
そんな状態で異変に気づいたのは凄いよ。庇ってくれてありがとな。」
「いえ!もったいないお言葉です!」
「それと、その口調!やめろよ、此処は外だぞ。
しかもマルクトだろ多分。だったら俺は身分を隠す必要がある。
なのにお前がそれじゃあ、すぐにばれる。
・・・・お前は俺の部下じゃなくて、幼馴染の友達だろーが!」
仕方なさそうに言ったルークの言葉にやっと笑うレン。狼狽に潤んでいた深紅の瞳が明るさを取り戻す。擽ったそうに笑うレンに安心したルークも笑う。目の前の黒髪の少女は、ルークの師匠であり、共犯者であり、親友でもあるキラの妹である。といっても、彼女にも複雑な出生などの事情があるらしく、正式なヤマト家の令嬢ではない。その辺りはルークも詳しくは知らない。だが、レンが真面目で心優しい信頼出来る幼馴染の少女である事実は変わらない。彼女とキラが明かしたくないと思っている事実を暴こうなどとも思わない。キラもレンも、自分にとって大切な存在であるという想いに嘘はなく、彼らも自分を大切だと思ってくれていることを知っていれば十分だからだ。必要になったらきっと自分から打ち明けてくれるだろう。
それに、この幼馴染の少女は実年齢七歳のルークよりも妙に幼いところがある。キラの英才教育で外見年齢にも見劣りしない位の実力を持つルークだからこそ、レンのそういう所に庇護欲を刺激される。表向き同い年ではあるがルークにとっては妹のような存在なのだ。自分の今の立場を理解すればこそ、本来ならばレンに護衛を命じるべきかとも思ったが故意に無視する。要はばれなければ良いのである。隠し切れないならば口先で言いくるめるだけだ。とにかく、ルークにレンを危険な目にあわせる気は毛頭なかった。
(大体、レンが傷一つでも負ったりしたら、キラがマジ切れする。
・・・・いや、既に切れてんじゃねぇかな。つーか、ヴァンのこと殺してるかも)
そう、レンは、キラの最愛の妹なのである。その妹至上主義っぷりや王宮や軍部でも知らぬものなど居ないほど。加えてキラが非常勤の教師を務めている士官学校では、キラに加えてレンもアイドルである。キラの補佐として授業に参加しているレンの人気たるや、軍部に限ればバチカル市民の人気を独占するナタリアにも勝る。
直接指導を受けた卒業生のキラへの忠誠の深さは、それこそ国王であるインゴベルトへのものなど比較にもならない程だ。キラに心酔する軍人やレンを溺愛する軍人達を集めれば、一日でバチカルどころかキムラスカ全土を占領できるだろう。そのヤマト兄妹至上の軍人達に今の状況を知られた日には、制止するまもなく暴動でもおきかねない。
(実際にレンに何かあったらキラが止めるわけもねぇしな。
・・・・あ、でもそれはそれで手っ取り早くて良いかもな。)
一瞬甘い誘惑に傾きかけるが、我に返ってレンの説得を続ける。
(あぶねぇ、落ち着け俺。)
ちなみに、そんなキラとレンの親愛と敬愛を受けているルークの人気も二人に劣らずであることに本人だけが気づいていない。現職の若手軍人や学生達の間では、上記三人さえ居ればキムラスカの未来は安泰だというのが定説であった。
「とにかく!お前は色々気にしすぎだ。いいか、これは俺達には不可抗力の事故だった。
お前には何の責任もない。確かに俺に何かあれば問題になりかねないが、だ。」
「はい・・」
「隠せば良いんだよ。大体お前だってキラの妹で公爵家の娘だって事を忘れるな。
俺だけじゃなく、お前の身に何かあれば、それこそ問題になるってことを思い出せ。・・・わかったな?」
「・・・・はい。」
「敬語!」
「は、・・うん。わかり・・いえ、わかった。」
「よし!」
満足そうに笑ったルーク。肩の力を抜いてそっと笑い返すレンの髪を乱暴に撫でる。そこで、今まで存在ごと無視していたもう一人に視線を向けた。同時に表情を改めて前に出ようとするレンを制する。そして感情を込めない声で問いただす。
「で?そこの女。お前には今から聞きたいことがある。
猿轡を外してやるから質問に答えろ。・・・レン、猿轡だけ切れるか?」
レンが近づこうとするのを引き止めて言う。直接手で外すのではなく譜術で切れということだろう。肯いたレンが口の中で詠唱して巻き起こる真空。見事に制御された術が女の口元の布だけを切り落とす。途端に沸き起こる罵声。咄嗟に耳を塞ぐルークとレン。
ぎゃんぎゃんと吼えていた女が咳き込んだ隙に尋問を開始する。
「で、お前の名前は?」
「人に名前を聞くならば、まずは自分から名乗るべきでしょう?!
だいたい、何で私がこんな目にあわなければならないの?!」
後ろでに拘束されたままの女が怒りに震えた声で反論する。
その言い様に揃って顔を顰めるレンとルーク。
・・・この女は何をいっているのだろうか。
「いや、それはお互いに対等の立場で礼儀を払うべき相手との場合だけだろう。
何故、俺達が突然自宅に不法侵入した挙句刃傷沙汰を起こすような襲撃犯に名乗らねばならない。」
「あれは、ヴァンを狙っただけよ!」
「何故?」
「貴方には関係ないわ。個人の事情よ。」
頭が痛い。なんだこの女は。
「・・・・その個人の事情とやらが何かは知らないが、何故私の家でヴァンを狙う。
しかも貴様、騎士やメイドを眠らせたな?歌が聞こえたからあれは譜歌か。 これは不特定多数にむけての傷害行為だぞ。しかもその結果我が家は一時的とはいえ警備が無力化した。それがどういう事か、まさか理解できないわけではあるまいな」
ルークが冷酷な視線で見据えて詰問すると一瞬だけ気まずそうに視線を泳がせた女。だが次の瞬間にはもう気を取り直している。
「・・・巻き込んだのは悪かったと思ってるわ。でも、これは個人の事情で・・・」
「ふざけるのも大概にしろ!!貴様のその服は神託の盾騎士団の軍服だな?
ダアトの軍人が、我が屋敷に襲撃をかけたんだ。これは立派な宣戦布告だな。
帰国しだいダアトに抗議文を送らなければ。」
「な!!ふざけないで!ダアトは関係ないと言ってるでしょう!
あなた戦争を起こしたいの?!これだから傲慢な貴族は・・・!!
私が個人的な事情で、ヴァンを狙っただけよ!!
・・貴方達を連れ出してしまったのは悪いと思ってるわ。
だから責任もって家まで送り届けます。そんなことより、これを早く解いてちょうだい!!!」
うんざりする。何だこの頭のおかしい女は。
本気で言ってるのが手に取るように分かってしまうからこそ、理解不能だった。
キムラスカの公爵家に襲撃した理由が個人の事情?
・・・例え場所が一般市民の家庭であっても、他人が不法に侵入したら三年以下の懲役1万ガルド以下の罰金である。しかも武器まで振り回して家人を危険に晒しておいて謝罪のみで放免される道理がどこの世界に存在すると言うのだ。
警備を無理やり眠らせたのが仕方ないこと?
・・・本人の意思を無視して無理やり眠らせたのだ。これは明らかな傷害罪である。たとえ他人を完全な過失で傷つけても罪に問われるというのに、故意に多数の人間を巻き込んでおいて「悪かった」の一言で済ませるつもりか。
第三位王位継承者であるルークと、公爵家令嬢であるレンを巻き込んでおいて、自宅まで送り届けるだけで許される気で居るなんてどんな神経だ。
・・・これこそ一番信じられない。女が言ったように貴族階級のものは傲慢であると謗られても仕方がない者も大勢居る。例えばただ気に食わない、という理由で使用人の首を落とす侯爵令嬢や、子供が転んだ表紙に蹴飛ばしてしまった小石をぶつけられたからと家族全員を縛り首にする男爵。彼らは貴族であると言うだけの理由で処罰されずに許される。キムラスカにおいて、それほど身分が重視されているからだ。だから階級の最上位である貴族や王族へ危害を加えたものは、過失も故意も関係なく無条件に死罪が決まっている。そんなこと、国など関係なくこの世界に生きている人間ならば知っていて当然の常識である。それを、よりにもよって軍人でありながら認識すらしていないだと?どれだけ無知なのだこの女は。
本当に嫌になってきた、いっそこの場で首を落とすか。擬似超振動の再構成に失敗して死んでましたとでも報告すればいいんじゃないか。と真剣に考え始めたルークの袖をレンが引っぱる。耳元にそっと口を寄せて囁いた。
(あの、ルーク。この人・・・ヴァンの事を狙ってきたのよね?
それってもしかして何か知ってるんじゃ・・)
愚にもつかない雑言を喚く女の処理法で思考を一杯にしていたルークが我に返った。そういえば、言い訳の内容はともかく、理由はそれだ。もしやこの女に情報をはかせれば証拠の一つにでも利用可能だろうか。
(けどなぁ。・・・なあ、レン。こいつを連れてキムラスカに戻りたいか?)
(えぇと・・・)
(すっぱりこの場で始末してかねぇ?
ヴァンの野郎はもう襲撃犯の共犯だったとか言って処分すればよくないか)
(で、でも・・・)
ひそひそっと話し合う二人の雰囲気に苛立ちが最高潮に達したらしい。女が座った目でにらみつけて息を吸い込む。力ある言葉が音律を伴って解放される直前、
「っが !っっつは!!」
ルークが投げた布の塊が女の口を塞ぐ。力いっぱい投げたため殆ど殴られたのと変わらないだろう衝撃に悶絶する女。それを見下ろしてルークが思案した。
(・・・・しかたねぇ、か。こいつがダアトの軍服着てなきゃ始末してもどうにでもなったのに)
キムラスカは預言を重視する。預言を授けてくれるローレライ教団も同様に。現に今キムラスカ国王であるインゴベルト6世は、教団の大詠士であるモースを宰相のように重用している。恐らくファブレ家を襲撃した女がダアトの軍人であるという事実だけで女の罪を見逃しかねない。繁栄の礎になるルークに何かあるならともかく、無事生還すれば尚更だ。それに
(もし俺が死んでも、キムラスカにとっちゃ最初の予定通りもう一人の”ルーク”を使えば良いってだけだからな)
「・・・・女、お前の拘束を解いてやる。
襲撃に関しては見ない振りをしてやるからどこへなりと行くが良い」
吐き捨てるように女の縄をナイフで切って手を振った。とにかくこいつと一緒に居なくてすむなら何でも良かった。
だが、ここで大人しく引き下がるようなら最初から公爵家襲撃をしておいて口先の謝罪で許されるなどと言う妄言を喚いたりしない。憎憎しげに立ち上がった女が、嫌そうな顔で言い放った。
「私には貴方達を送り届ける義務があるのよ。我侭を言わないで頂戴。
ほら早速行きましょう。夜の森に留まるなんて危険だわ。」
「「はぁ?」」
「何をしてるの、川沿いに抜ければ人里に着くはずよ。ぐずぐずしないで。
ああ、私の名前はティアよ。・・で、貴方達の名前は?」
((もう本当に、どうしよう))
レンとルークの表情から真意を読み取ることなく勝手に話を進める女--改めティア。
二人を送る義務とやらを果たすために、キムラスカまでついてくる気満々なようだ。・・・・本っ当にめんどくさい。先程は始末を躊躇っていたレンでさえ、此処で決着をつけておくべきかと一瞬考える程に、ティアの態度はありえなかった。
ティアはルークの言葉を何一つ理解していないらしい。ティアの中では、自分が原因で起きた事故が二人を此処まで連れてきたのだから自宅まで帰らせる義務がある、ということになっているらしい。それだけ聞けば責任感が強いとも思えるが、その原因は公爵家への住居侵入罪及び公爵家への家人への傷害罪並びに客人への殺人未遂、極めツケがティアとルークが接触した際に起きた擬似超振動による誘拐罪だ。・・・・どこのテロリストだと問いただしたいほどの犯罪の数々。どれをとっても実刑は確実。さらに被害者が王族ともなれば死刑は免れない。ティア本人のみならず、後は何親等までに責任を問うかという問題である。
ルークとレンは疲れきった溜息を零した。最早一言も話したくない。
彼女は自分からキムラスカに向かうつもりだと言うし、放っておこう。
何を喚いてもあれは只の騒音だ。好きにさせておけば良い。
視線だけでそう話し合うと、黙々と歩き始める二人。
美しい星空と芳しい花の香りだけを慰めに渓谷を後にした。
・・・・・キムラスカは、あらゆる意味で、遠かった。
この話は、所謂仲間厳し目小説です。
ティア・アニス・ガイ・ジェイドに大変厳しい表現を含みます。
加えて六神将全員・ヴァン・モース並びに、キムラスカ王国とマルクト帝国自体への批判的な表現があります。
(でも、アリエッタ・シンク・ディストには後に少し贔屓が入ります)
ルーク至上ですのでルークは保護対象で。一応原作の環境で成長したルークです。
(彼が少し冷静に疑問を疑問として口に出した場合はどうなるかというコンセプトもあります)
で、この話のイオン様は最初は原作どおりですが、途中で真っ黒属性の実力行使も辞さない最強導師様に転身なさいます。
そしてイオン×ルークのCP表現があります。
上記諸々踏まえた上で、そういう捏造改編批判他が嫌な人は今すぐこのサイトの存在自体を忘却してくださるようお願いしたします。
読了後もしも御不快になったとしても文句は受け付けることはできません。
それを念頭に置いた上でそれでも興味がある、という方がいらっしゃいましたら、どうぞご覧下さい。
*すみません、どうやら手違いで以前upしたものが消えていたようなので再upしました。
「頼む導師イオン!この女を引き取ってくれ!!!」
マルクト帝国誇る世界一の食糧生産地であるエンゲーブの村長宅にて、朱金の髪と鮮緑色の瞳の青年が勢いよく頭を下げた。青年の前には困惑した表情の、緑の髪と翡翠の瞳の少年が佇んでいる。初対面の青年に、いきなり土下座せんばかりの勢いで懇願されてどうしたらいいか分からない少年--導師イオンは、心底困った顔で室内を見回す。その先には、イオンと同じように困惑した顔の守護役であるアニス。何を考えているか分からない表情でこちらを傍観するジェイド・カーティスマルクト国軍大佐。直立不動ながらこちらの様子をうかがっている護衛のマルクト軍人達。青年の突然の行動に驚いているらしきローレライ教団の軍服を纏った女性。少年と青年を見比べているエンゲーブ村長を務めるローズ夫人。立ち去るタイミングを逃して対往生している村人数人がそれぞれの表情で、青年の姿を見守っている。
誰にも助け船は期待できないと思ったのか、とりあえず話を聞こうと青年に問いかけるイオン。すると途端に顔を上げた青年が怒涛の勢いでまくし立てた。
「ああ、悪い、俺はルーク・フォン・ファブレっつーんだ。で、こっちの女はティア。
で、ティアはダアトの軍人だって言うんだけどよ、導師ってダアトで一番偉いんだよな?!
つまりダアトに所属してる奴らは皆導師の部下なんだよな?!
だったら、頼む!!この女を引き取ってくれ!!
これ以上こいつと一緒に行動するなんて御免だ!!!!!」
「あ,あの、ルーク?あ、そう呼ばせてもらいますね。僕もイオンで結構ですから。
で、それでですね、その・・・彼女を引き取る、というのは・・・・」
優しげな笑みを心なしか引き攣らせつつも、なんとか詳しい事情を聞こうとするイオン。二年前に被験者イオンが亡くなった後挿げ替えられたレプリカである為にずっと監禁されていて、同年代の友人などアニスしかいなかったイオンは、内心で青年が落ち着いたら少し親しく話でもして見たいと思いつつ先を促す。感情表現が素直で率直な物言いが聊か青年を幼く見せる。真っ直ぐに合わされたルークの鮮緑の瞳に浮かぶのはただ言葉の通りの懇願で、裏表のない正直な人柄を偲ばせた。今までは腹に一物ある様な相手にしか会ったことのなかったイオンにとって、初めて安心して会話ができそうな、しかも同年代の青年である。あわよくば友人になれたら、と考えが浮かんで期待が膨らむ。
そのためにはまずルークを落ちつかせなければならない。引きつりかけた頬を緩ませ、優しい笑みで言葉を待った。心なし声がウキウキしているイオンに気づかない周囲の者達も、とにかくルークの言い分を聞こうと思っているらしく無言で次の言葉を待つ。そもそも一般人である村人や高が護衛のマルクト兵士が、ローレライ教団の最高指導者である導師の言葉を遮るなど、あってはならない不敬であるため口など挟めなくて当然だったが。だがそんな常識を思考の隅にも置かずに思ったまま発言する無礼者が存在した。誰であろう、返品を希望されいる本人のティアである。
「ちょっと、ルーク!あなた何のつもり?!
私を不良品か何かみたいに引き取れですって?!あなたと一緒に行動するのが嫌なのは私もよ!!けど、貴方を家に送る義務が私には・・」
「うっせーよ!一々口はさむなよ!!お前だって一緒にいたくねぇんだから丁度いいじゃねぇか! お前に送ってもらう位なら一人で帰った方が万倍マシだっつーの!」
「な、貴方本当に失礼ね!これだから、」
今までの短い道中で散々浴びせてきた蔑みの視線を向けてルークを見下すティア。
事情が分からないままながら、周囲にいるうち、エンゲーブの村人や護衛の兵士は殆ど恐慌状態といっても過言ではない心理状態だった。皆が皆この事態をどうしたらいいのかと落ち着きなく視線を交わしあっている。深く考えなくても当然だ。
青年は、ルーク・フォン・ファブレとなのったのだ。
赤毛に緑目がキムラスカ王族の証であることは、貴族階級の事情など知ることができない一般階級の子供でもしっている。名を聞く前は、王族の隠された庶子か親族に王族の血縁者でもいる一般市民かと考えていたのだが、かれははっきりファブレと名乗った。つまり彼は、ファブレ公爵子息であり、ナタリア王女の婚約者で、第三位王位継承権を持つキムラスカ王族で、さらには将来ナタリア王女と結婚して王位につく筈の、実質的な隣国の次期国王だということだ。
そんな相手に、見たところ未だなんの階級も得ていないらしきダアトの一兵卒があからさまに見下した発言をしているのである。その場でルークに首をおとされたところで文句など言いようもないほどの不敬であった。
そんな彼らの焦りを余所に口論は続く。
「失礼ってお前にだけは言われたくないね!」
「私のどこが失礼なのよ!」
「どこもかしこも全部だよ!お前が今まで、何時俺の前で礼を守った行動とったよ?! 俺ん家に不法侵入してナイフを振り回すわ、俺を外に連れ出すわ、なんであんなことしたのか聞いても個人の事情だから話せないとか言いやがって。 個人の事情って言い張るんなら他人を巻き込むんじゃねー!! 個人の事情ってことは、お前とヴァン師匠の問題ってことだろ! だったら二人ともダアトの軍人なんだからダアトで話付ければいいじゃねぇか! なんで月に数回、一日に数時間しか家に来てもらえないってのに、お前なんかに稽古を邪魔されなきゃなんねぇんだよ!」
「そ、それはっだから!」
「そもそもお前、なんか変な歌で家の騎士達も眠らせやがっただろ?! なんで家にあんなに一杯騎士がいたと思ってやがんだ! ”せいてき”とか”しかく”とかいう奴らから母上達を護る為にいるんだぞ?! 騎士が寝てる間に母上が襲われたりしてたらどうしてくれんだよ?!
母上は只でさえ体が弱いのに、この上怪我でもしてたら・・・・!!
母上だけじゃねぇ!メイド達はもちろん戦えないし、ラムダスやペールは爺さんだぞ! それにいくら強くったってヴァン師匠やガイや騎士達だって寝てる時に襲われたりしたら抵抗しようもねぇじゃねぇか!」
「それは悪かったと、謝ったじゃない!」
「謝ってすむか!!家に入ってきた時だってお前許可なんかとってないだろ!! 俺だって母上の部屋を訪ねる時はちゃんとメイドに言って母上の許可貰ってから会いに行くっていうのに、 何で他人のお前が許可も取らずに俺ん家に勝手に入ってこれんだ!!そういうの不法侵入っていうんじゃねぇのか?!
キムラスカじゃ王族や貴族の家に不法侵入した奴らは、軽くて鞭打ち悪くて死刑だって法律があるって聞いたぞ! 家に来てた服屋がメイドと話してた時言ってたからな!つまりお前犯罪者じゃねぇか!!」
「な、な、な、」
「その上”ぎじちょうしんどー”だか何だか知らねぇが、お前のせいでこんなとこまで吹っ飛ばされた俺に、偉そうに説教なんかくれやがって。
ああそうだな俺が屋敷から出たこともない世間知らずだってのも、口が悪いってのも認めるさ!! だがな、それをお前に注意なんかされる筋合いなんかこれっぽっちもねぇんだよ! なんで俺が不法侵入者の襲撃犯なんかに礼儀云々言われなきゃならねぇんだ!!」
話の内容を理解してしまった周囲はすでに顔面蒼白である。多少なりとも世間一般の常識をしっているならこちらが正常な反応だ。今一世情に疎いイオンでさえ、ダアトの軍人であるティアがしでかした事の大きさに気づいてうろたえている。先ほど少し浮上した気分が一気に下がる。青年との交流への期待どころではない。顔色も赤や青を行き来して如実に混乱を表す。その場で卒倒できればどれ程楽かと思いながらも必死で話しを纏めようと努力する。
(それはつまり、あからさまにダアトの軍人であるとわかるティアが、キムラスカのファブレ公爵の屋敷に襲撃した、と。そういうことでしょうか?! で、でも、何か事情があるなら・・・。・・・・!?歌ってことは譜歌でしょうか?!するとティアの譜歌の所為でファブレ公爵家は一時的に無防備状態になったと?!
確かファブレ公爵夫人はインゴベルト陛下の妹君だったと・・・キムラスカでナタリア王女に次ぐ高貴な女性を命の危険に晒したってことでは?! ・・・ダアトの軍人が、ファブレ公爵家へ利敵行為・・いえ、明確な敵対行動をとった・・キムラスカから宣戦布告されてたらどうしたら?! 疑似超振動で飛ばされた?!それは事実上の誘拐?!
誘拐された被害者のルークに対する謝罪と反省どころか、なんでこんなにどうどうとしてるんでしょうか・・・?!)
・・・・いっそ、言葉が理解できないでいればどれ程幸せだろうか。
次々明かされる驚愕の事実にイオンの内心は大変な事になっている。
只でさえ体力に恵まれず線の細い印象が、血の気が下がって青白くなる顔色と相まっていっそう儚げな風情だ。
マルクト軍人達の罪人捕縛の許可を懇願する必死な視線に気づかないジェイドや、呆然と勢いに圧倒されるだけのアニス、ルークに面と向かって罵倒されて尚どれだけの罪を犯したのか気付かず反論しようとするティアの態度こそ異常というべきだ。そんな周囲の状況など視界に入る余裕もないのか激高したルークの弾劾は続く。
「しかもお前、俺を「責任持って家まで送る」っていった先から魔物の前に押し出して、 後衛専門の自分を護れとかいいだしやがったじゃねぇか! 後衛だからなんだっつーんだ!お前軍人なんだろ?!ダアトの軍人ってのは時々稽古をつけてもらってるだけの実戦経験のない 俺に守られなきゃ戦えねぇくらい弱いってのか?!ヴァン先生みたいな軍人になるには今よりもっと沢山修行しなきゃなれない って師匠も言ってたのに、その軍人が俺より弱いってのはどういうことだよ!?それともお前が軍人だってのが嘘なのかよ?!」
「私は情報部だから・・」
「「責任持って家まで送る」ってのもどんな意味だったんだ?!
俺は「送り届ける」ってのは、人とか物を目的地まで安全に辿りつかせるって意味だと思ってたんだがな?!
それともキムラスカの外じゃ言葉の意味が違うのか?!ダアトでは「送り届ける」ってのは、送られる側の人間が、送るっつった方を護る事を言うのかよ?!だったら最初に説明しろよな!!お前俺が七年前にマルクトに誘拐されて言葉を分からないくらいの記憶喪失になったせいで七年分の記憶しかないことも、それから一回も屋敷から出たことない世間知らずだってことも知ってんだろうが!!
お前は情報部の軍人で、俺よりずっと世界を知ってるんだろ!?
そういう風に見下してきやがったもんな!」
「見下すって、あれは貴方が!」
「今俺がこんなところに居るのも全部お前の所為だろ!どの口で戦い方を指導するとか言えんだよ! 飛ばされる前にヴァン師匠に切りかかったときだって、師匠の前にでた俺にもナイフ向けただろ?! あん時”ぎじちょうしんどう”が起きてなきゃ、俺のことも切ってたんじゃねぇのか?! そんな奴をどう信じろってんだ!!」
「あなた、いい加減に・・・・!!」
「待ってください。・・・・・・それは、本当ですか、ルーク。」
それまで、あまりに突っ込み所が多すぎて、どこからどう口を挟んでいいものか分からずに口論を聞くしかなかったイオンが、平坦な声音でルークに問いかけた。満足に反論の言葉も言えずにルークに詰られて我慢が切れたのか、声を張り上げようとしたティアの言葉を遮ったイオンに、そこにいた全員の視線が集まる。
その静かな問いに、周りが見えなくなっていたことに気づいたルークは顔を赤らめながら頷いた。
「お、おう。本当だ。」
「そう、ですか。・・・ティア?」
「は、はい。ルークを巻き込んだのは事実です。ですが!」
「そう、事実なのですね。
つまり、ティアはあろうことかファブレ公爵家に襲撃し、公爵家の警備を無力化し、神託の盾騎士団の主席総長であるヴァンに襲い掛かり、公爵子息であるルークも巻き込んで刃傷沙汰を起こした揚句、 疑似超振動によりルークをマルクトまで誘拐。さらにはキムラスカの王位継承者であり民間人である公爵子息を前衛に立たせ、 今当に不敬を重ね続けている。と、しかも襲撃の際、ルークにまで刃を向けた、ということは、彼に対する殺人未遂も加わりますね。
・・・それらが全て、嘘いつわりのない事実であると。
そういうこと、なのですね?・・・・・・・アニス。」
「は、はい!!」
ルークとティアの肯定をうけて、イオンは深い深いため息をひとつ吐き出すと、貼り付けた能面のような笑みでアニスを呼ぶ。今まで一度も聞いたことのないような温度のない声に、顔を引きつらせつつ返事を返したアニスに、イオンは、はっきりと告げた。
「ティアを捕えなさい。
彼女はダアトで査問にかけて事実を確認した後キムラスカに送ります。
ああ、ジェイド、兵と牢を貸してくれますね?」
「---はい。では、そこのお前!彼女を牢に!譜術士のようですから専用の拘束具を---」
「な、お待ちください!導師イオン!カーティス大佐!」
「黙りなさい。貴方は自分のしでかした事の大きさが本当に理解できていないのですか!」
イオンの命でティアを押さえつけるアニス。イオンが初めてみせる冷酷な怒りの表情に気圧されたのか普段の慇懃無礼な軽口もなく大人しく罪人捕縛の指示を出し始めるジェイド。その様子を威圧たっぷりに見護るイオン。そこまで来てようやく自分がどういう立場に立たされたのか理解したらしいティアが慌てて声を上げた。イオンの笑みの温度が更に低下する。アニスやジェイドは巻き込まれたくない一心で口を閉ざしてひたすら手足だけを動かした。最初からティアを罪人としてしか認識してなかった周囲の人間達は言わずもがなである。
背後に纏うブリザードを無視さえできれば何時もどおりといえる優しげな笑みを浮かべたイオンがティアを見据えて口を開いた。
「何です、罪人を捕縛するのは当然でしょう。
高が罪人如きが許可なく口を開かないでください。
言いたいことがあるのなら査問会議で言いなさい。
どう言い訳したところで極刑は確実でしょうが。
ああ、もちろんダアトが貴方を庇うことはあり得ませんよ。
・・・あなたのお陰でダアトはキムラスカからいつ宣戦布告されても文句の言えない立場に立たされているんです!」
そこまで言われて尚反抗的な眼で睨んでくるティアを見下ろしたイオンは理解した。
この世界には、同じ言語を使いながら、決して言葉の通じない輩が存在することを。
理解と同時に、今まで刷り込みされたとはいえ、まるで本のページに乗っている絵のように実感の薄かった被験者イオンの記憶が怒涛のように脳裏を駆け巡る。そうやって今一度思い起こせば被験者もそんな輩の処分に
苦労していたようだ。そして被験者が行っていた対処法も思い出した。
・・・こういう異種生物は、実力行使で黙らせるに限る。と、いうわけで。
「アカシック・トーメント!」
問答無用で秘奥義を繰り出して罪人を黙らせる。
その顔に浮かぶのは、これまた一度も見せたことがないほど、すがすがしい笑顔だった、とローレライ教団唱師A嬢は後に語った。
そしておもむろに振りかえったイオンは、今度こそ正真正銘優しい笑みで、一連の出来事について行けずに固まっているルークを見上げた。
「ああ、ルーク。本当に申し訳ありませんでした。
罪人はきちんと処分した後キムラスカに護送しますし、勿論弁護なぞ致しません。
どうぞお気の済むように処分なさってください。
御迷惑をおかけしたファブレ公爵並びに王家の方々にも正式に謝罪文を送らせていただきます。
貴方の事もきちんと送って行きます。勿論、今までのように闘ったりする必要はありません。
あなたの身の安全は、僕が保障します。・・・・では、ジェイド。おわかりですね?」
「は、勿論です。ルーク、様、とイオン様はどうぞこちらへ・・」
「あ、え、ま、待って下さいよぉ!イオン様ぁ!」
表情を変えず声音もいつも通りのものではあるが、常時標準装備の慇懃無礼な言葉が一言も出ないあたり、
明らかに動揺しているジェイドが自国の皇帝にすら使ったことがないほど丁重な態度と言葉でイオンとルークを
案内する。確かにティアを引き取れとは言ったが、まさかこんな事態になるとは思っていなかったルークがイオンの顔を伺いながらおずおずとついて行く。そんなルークの年齢より幼い仕草に庇護欲が刺激されたらしいイオンは満面の笑みでルークをエスコートしてゆく。後ろを慌ててついて行くアニスに目もくれずに甲斐甲斐しくルークの世話を焼こうとするローレライ教団最高指導者の姿に先ほどとは違う意味で視線を彷徨わせる周囲の人々。気弱で天然な心優しい少年導師は、この度華麗にクラスチェンジを果たし、魔王属性腹黒最強権力者様に転身なさったご様子。
・・・もう誰にもイオンを止めることは出来ない。
「ええ、ありがとうございますジェイド。アニスも早く行きますよ。
ではルーク、行きましょうか。
大丈夫ですよ。もう何の心配も要りません。全て、僕に任せて下さい。」
「あ、ええと・・・あ、ありがとう?で、でも、あの、ティア、は・・・・?」
「あはは、ルークは本当に優しい方ですね。
先ほども御自分よりも母君や使用人の方々を心配していましたし。
・・・ですが、貴方のその優しさを、あのような罪人にまでくれてやる必要などありませんよ。
さあ、過去の忌まわしい出来事はまとめて忘却してこれからのことを話し合いましょうか。」
声が弾んでいる。周りには花でも飛びそうだ。他の誰に言葉をかける時でもルークから視線が離れない。
その視線も砂糖の様に甘いもので見ているだけで胸やけがしそうだ。どうやらイオンはルークの事が本当に気に入ったらしい。いや最早”愛”の域だろうか、これは。恐らく今ルークに何か粗相でもしでかせば、先ほどのティア同様導師様の秘奥義の錆にされること間違いない。
それを悟ったジェイドやアニスは、最早自分は貝であると自己暗示をかけつつイオンの指示に諾々と従う。何時もの調子でルークを軽んじる言葉を吐いた日には、そこで己の人生が強制的に終了させられる確信に冷や汗が背中を伝う。
・・マルクト帝国皇帝陛下からの親書を預かる和平の使者御一行が、ローレライ教団の導師イオン率いるルークの護衛部隊に生まれ変わった瞬間であった。
で、その後の彼らがどうしたかというと。
「導師イオン、我々と来ていただきましょう。抵抗なさるならば、力づくでも・・・」
「黙りなさい、ラルゴ。貴方は幾ら六神将の一人とは言え、一介の軍人にすぎません。
それが、何の権利があって導師である僕に命令などしているのです!」 とか。
「導師イオン、さあ大人しく・・」
「貴方もですかリグレット。師弟及び同僚共々本気で己の身の程を理解できていないようですね。
良いですか、どんな事情が絡んでいようと、”今”の導師は僕なんですよ。つまり貴方は僕の部下です。
偉そうにふんぞり返って僕に指示などだせる身分かどうか、よくよく考えてからモノを言いなさい!」 とか。
「人を殺すのが恐いなら、剣なんざ捨てちまいな!!」
「ああ、もう、六神将は揃いも揃ってこの世界の常識である身分制度とか各々の職責とかが全く理解できていない人間ばかりですか! 守られて当然の公爵子息であるルークが、戦いを恐れて何が悪いんです!
アッシュ、貴方は訓練を受けた軍人でしょう!貴方はそれが義務ですが、ルークは民間人なんです!」 とか。
「ルーク、あまり我儘言わないで、お前も戦えって。俺一人じゃ前衛が足りないし・・」
「ガイ、貴方はルークの使用人のようですが、何を考えているんです。
貴方の主人が、誘拐された揚句無理やり戦わされたりしたんですよ!
それに対して抗議するならともかく、一緒になって戦えなどと・・! 彼は守られるべき王族でしょう!その彼に剣を持たせて自衛を促すだけでは飽き足らず、自分達のことも護れと?!」とか。
「さて、旅券をどうしましょうか。」
「ちょっと待ちなさいジェイド。まさかこれから和平の親書を届けるという重要任務の為の準備を何一つしてなかったってことですか! 旅券がなければ国境を越えられないことなど子供でもしってる常識でしょう!それとも無許可で国境を無理やり通るつもりだったとでも?!」 とか。
「きゃぁvルーク様ぁv心配してたんですよーv」
「アニス・・ルークを心配したことはまぁいいでしょう。けどね、貴方の役職は僕の守護役ですよ! 職務を果たすつもりがあるなら、上辺でもいいからまず僕の無事を確認しなさい!」 とか。
「おお、ルーク探したぞ。」
「・・・・ティア・グランツといいリグレットといいその他の六神将といい。 ヴァン。 貴方部下や妹の教育に手を抜きすぎじゃないですか? しかも貴方自身も常識を理解しきれてないようですね。
主席総長といえど、高が軍人が王族であるルークを敬称なしで呼び捨てることが許される思うのですか!身の程を知りなさい!」 とか。
「………整備士長はアリエッタたちが預かった、です。
返して欲しくばコーラル城までイオン様と………えっと、ルーク・フォン・ファブレ、が来い………です。
「アリエッタ・・、貴方自分が何をしてるのか分かっていますか?
これはダアトがキムラスカに宣戦布告したと同じ事ですよ!
貴方も、僕の顔に泥を塗る気ですか。知らなかったでは済まされません。
今すぐ貴方のお友達を引かせてキムラスカへ出頭なさい!」 とか。
「ちょっとなにしてるのさ、アリエッタ!あんなトコで待ちぼうけさせるなんて・・」
「丁度いいですシンク。貴方もですよ。
聞けばディストと二人で、ファブレ公爵の私有地であるコーラル城に入り込んで何やらやっていたようですね。
・・・今、此処で、音素に還されたくなかったら、さっさとディストをとっ捕まえて僕の前に連れてきなさい。あくまで抵抗するというなら、貴方の同僚全員揃って反逆者として処分するだけです。・・・何をしているんですか。早くしなさい!僕はもういつ理性が切れるか自分でも把握しきれませんよ!」 とか。
「な、何の用です!私はこれでも忙しい・・」
「ディスト?教団最高責任者である、この、僕が、呼んだんです。 それを拒否できる立場だとでも?・・背任行為に横領・反逆その他諸々!あなた方六神将は揃いも揃って教団を潰したいようですね!」とか。
「な、何を言うか! マルクトは戦争を望んでおると、確かに……」
「モース。貴方が教団での職務を放棄してキムラスカで何をしているのか、この場では聞きません。 ですが、いつから貴方は国王であるインゴベルト陛下や、導師である僕に、許可もなく話しかけられる身分になったのです。いくら大詠士といえど、貴方も教団の一員で、僕は貴方の上司です。 貴方には僕に従う義務があります。
それでも反抗するつもりなら、後と言わず今すぐこの場で、何を企んでいるのか聞きだしてもいいんですよ。逃げようとすればどうなるか・・・わかっていますね?」 とか。
喉元すぎて熱さを忘れたのか、ちょっと時間を置くたびに失態を繰り返す同行者や、ダアト除く両国への宣戦布告といわれても弁解のしようのない不始末を重ね続ける六神将。己の部下も制御できてないどころか、あからさまに黒幕の匂いをプンプンさせている主席総長や、職分も忘れて傍若無人に振舞う大詠士。それらの愚か者達を、時にダアト式譜術に沈め、時に純黒な魔王の笑みで脅し、何が起ころうとひたすらルークを護ることを優先しつつ、たまった心労は純粋無垢なルークの笑顔で回復させながら道中を進んだイオン様。エンゲーブを発った早々に同行者達の実力その他への期待を捨てて自分で動くことに決めたらしい。レプリカ故に劣化している筈の体力は気力と根性でカバー。
(ふっ、僕のルークへの愛があれば奇跡の一つや二つ!)というちょっとアレな感じではあるがとにかく再開した旅路にて。
いつキムラスカとマルクトから宣戦布告されてしまうのかと、胃痛を抱えていたというのに、蓋を開ければキムラスカは預言を重用しすぎて生まれて二年間監禁されていたイオンですら気付いた事態の重さに全く気付かず罪人を免罪するわ。ならばと思えばマルクトも、外交センス0どころかマイマスのジェイドを使者に立てただけあって今一実情を把握できてない様子で、ダアトからの戦艦襲撃その他諸々の問題を総スルーという現実がまつとは、全く考えていなかったイオン様。
最早この世で信じられるのは自分とルークだけであると悟る。
被験者イオンは病死だと聞いていたが、もしや過労が原因ではと脳裏に過らせつつ、幸せな未来のために世界改編ための暗躍開始。
秘預言を探り、ヴァンらの反逆者どもを始末しつつ、預言に盲従する愚かさを実例(アクゼリュス崩落によるマルクト国民喪失とか、戦争の果ての惑星滅亡とか)付きで説明し、ユリアシティの存在を暴露し、限界を超えた外郭大地を降ろし、さっさと取り込んだディストに命じて疑似超振動発生装置を使って瘴気を中和し。被験者ルークであろうと実際に六神将であった事実を突き付けて手伝わせたアッシュと、被験者イオンの記憶を自分の物としたイオンによって教育され、どこに出しても恥ずかしくない公爵子息へと成長したルークによってローレライ解放がなされて。
そんなこんなで一年後。
「ルーク様。イオン、様。お茶が、はいりました、です。」
魔物に育てられ、ヴァンによる偏った教育で人間世界の常識に疎かったという事情を鑑み、イオン発案の作戦に護衛として従事することで罪が軽減され保護観察処分になったアリエッタと。
「ちょっと!なんで僕ばっかりこんなに荷物押し付けられるわけ?! アンタも持ちなよ死神!」
やはり実年齢と生まれた当初からの環境を鑑み、アリエッタ同様イオンらの護衛に従事することで罪を軽減され保護観察処分となったシンクと。
「無茶言わないでください!こっちだって手一杯なんですよ!
それに私は薔薇ですよ、薔薇!死神っていうなって何回言わせるんですか!」
実際に襲撃などの直接的な行為には関わらず、その技術を駆使して諸々の作戦に貢献したため特別に罪を軽減され保護観察処分となったディストと。
「あ、あの、私も手伝いますから!」
作戦中、町の私財を投じて作り上げた飛行機関アルビオールを提供してくれたシェリダンの技術者の一人で、アルビオール二号機の専属操縦士であるノエルと。
「大丈夫ですかシンクの旦那!オイラが半分持ちますよー!」
同じくアルビオールの操縦士としてノエルと二人で作戦中の移動を助けてくれたノエルの兄であるギンジと。
「もー!はやくー!僕お腹すいたー!」
作戦中に見つけたもう一人のレプリカイオンであるフローリアンと。
「ああ、待てって!すぐ行くからよ!・・・・イオン!」
怒涛の勢いで過ぎた一年の間に明かされた様々な事実に傷つき悩み、それでも友人たちの支えで乗り越えて成長したルークと。
「はい!待って下さい、ルーク!」
皆で一緒に笑い合えることが本当にうれしくて、黒さなど微塵も感じさせない満面の笑みでルークに駆け寄るイオンと。
世界を変える為の旅の中、苦楽を共にして絆を作っていった新しい友人たちと
一緒に生きていける今日の日に。
二千年前の姿を取り戻した本来の大地の上で、美しい青を取り戻した空の下で、
また明日を迎えることができる幸福に。
深く深く感謝して、彼らは笑って生きている。
「さて、では話を戻して宜しいですね?
皇帝陛下。・・・アクゼリュス崩落について、陛下のお考えをお聞かせください。」
「おい、キラ!!・・・確かにティアとアニスはもう仕方が無いかもしれない!
けど、だからルークの所為でアクゼリュスの人たちが死んだ事実は変わらないじゃないか!だったらルークにも罪を償わせるべきじゃないのか?!」
何故そこまで、頑なにルークを罪人に仕立て上げたがるのだろうかこの男は。
ガイが喚くさまを見て心底呆れた眼差しを凍らせるキラ。その傍らに庇われたルークは泣きそうに顔を俯かせる。
正直、今更ガイを親友だとは思えなかった。屋敷に軟禁されていたときも朗らかな笑みの下に時々冷たい視線を潜ませていたガイ。それでも数少ない年の近い気安い会話のできる友人だと思っていた。他の人間は皆等しく以前のルークを求める者ばかりで、肩の力を抜けるのは母とキラと、ガイの傍だけだったのだ。親善大使に任命された後知り合ったキラの兄弟や仲間も、今ではキラと同じくらい大好きだが、それでもガイのことも嫌いじゃなかった。ガイが、赤子同然だったルークを育ててくれた事実には変わらない。当時まだ少年だったガイが、身体は10歳の子供で赤ん坊と同じだったルークを育てるなんて生半可な労力では無かったはずだ。その思いが全部嘘だったとは思わない。・・・けれど、ガイは、ルークが初めて外に出て旅をすることになった数ヶ月間、一度もルークの心を優先してはくれなかった。別に一番でなくても良かったのだ。だけど、ほんの少しでよかった。少しだけでもいいから、魔物といえど命を奪うのは嫌だと、人を殺すのは怖いと、いつ敵が出るか分からない場所をずぅっと歩き続けるのは辛いのだと、そう思ってしまったルークに、少しでいいから優しい言葉を掛けてくれるだけでよかったのに。
・・・・少しでも口に出した弱音は全てわがままな子供の愚痴だといって聞き流した。自分を見てほしくて言ってみた要望は全部傲慢な貴族の子供の癇癪だと切り捨てた。ルークのやることなすこと否定して見下すティアやアニスやジェイドの言葉は全部受け入れるのに、ルークの言葉は全部投げ捨てたのだ。
そして、アクゼリュスだ。
ガイは、ルークがヴァンの甘い言葉に唆されてアクゼリュスを壊したのだと信じている。アクゼリュスの人たちをルークが殺してしまったのだと思っている。キラがいくら、ルークの意思でしたことではないと繰り返しても信じない。そのくせ、今まで散々自分達を殺そうとしていた鮮血のアッシュ---ルークの被験者---の言葉を鵜呑みにして、アクゼリュス崩落は、ヴァンの言葉に騙されたルークがやったのだと言ったのだ。
キラ達が町の人たちを保護してくれたことは知っている。だから死者は出ていない。そもそも止めるキラを説き伏せてヴァンの元へと向かったのは自分の意思だ。行動が怪しいからヴァンの真意を調べるというキラに、だったら話を聞く役目を譲ってほしいと言い張った。・・・その結果、ヴァンの本性を目の当たりにしてしまったが、あの時キラはちゃんと自分を守ってくれたのだ。暗示のことは知らなかったために超振動を暴走させてしまったが、その責任はルークのものだ。死者が居なくても町を丸ごと滅ぼした罪は消えない。だから、何らかの罰を受けるのは当然だ。
各国の意向を探るために直ぐには避難民の事を報告はしないといっていたから、虐殺の罪に問われても仕方ないと覚悟していた。ヴァンが何をたくらんでいるのか知ることや、国がそれについてどう動くのか見定めることは絶対に必要なことなのだ。だったら自分も協力したいと、自分の意思で決めたのだ。キラはルークを守れなかった自分こそが崩落の責任を取るつもりであることは分かっている。だがそこまで甘えるつもりは無かった。協力を申し出た以上、行動の過程で発生した負担は其々が担うべきだ。崩落の犯人の一人として、マルクトの人達に憎まれてもそれは自分の役目だと思っていた。だからピオニー陛下たちに罪人として扱われるのはかまわなかったのだ。・・・けれど。
「なあ、ガイ。・・・ガイは、さ、俺のことなんか何一つ信じて無いんだな。」
「何を言うんだ、ルーク。」
「だってさ、ガイは・・・俺が何を言っても仕方ないって苦笑して、ただ我侭言うなって切り捨てるのに。・・ティアやアニスやジェイドが言うことは全部正しいって信じるじゃないか。今まで俺を殺そうとしてたアッシュの事も。・・なあ、何でだよ?何でアッシュの言うことを信じるのに、俺が言うことは信じてくれないんだ?」
「・・だって、お前、アクゼリュスで、俺が悪いんじゃないなんて・・・」
「・・・ガイは、あの時あそこに居なかったのに、アッシュやジェイド達だってあそこに居なかったのに、そこに居なかったアッシュが言ったから、俺がアクゼリュスを崩落させたって信じたんだよな。俺がヴァン師匠に懐いてたから、師匠が言ったなら何も考えずに超振動を使って大地を支えるリングを壊すようなこともするって考えたんだよな。・・・俺が騙されてたんだって言いながら、師匠を信じた俺が全部悪いって言ったんだよな。・・・・俺が、アクゼリュスの人達を、俺の意思で殺したんだって言うんだよな?」
段々と俯くルークの足元に水滴が落ちる。朱金の髪に隠された顔は痛みを堪えるように顰められる。キラに、教えられた一つの秘密が、ルークの心を傷つける。・・その事実があっても、ガイがルークの友人であるという事実は変わらないと信じていたかったのだ。けど、もう無理だ。キラが握ってくれている手の感触だけを支えに震える声を絞り出した。
「・・それってさ、ガイは、ずぅっと俺がそういう人間だって思ってたって事だろ?
・・俺が、なぁんにも考えずに、ただ人に言われたからってパッセージリングを壊したりして、その癖自分は悪くないって言って言い逃れするような、本気であんな惨状を引き起こしても自分は悪くないって思い込むような、最低な人間だって。
・・・そんなの、どこが親友だよ?!友達だなんてうそじゃねーか!!ガイは、俺のことなんて、何にも見てなんかいなかったんだ!!ガイのいってたことなんて、全部嘘ばっかりだ!!」
叫んでから本格的に泣き出したルークを背中に隠して、キラが決定的な言葉を告げる。もしもガイが少しでもルークのことを慮って、せめてティアやアニスの事を黙って受け入れるなら秘密のままにしておこうとした事実を。
「気が済んだ?---- ガイラルディア・ガラン・ガルディオス
・・・・ホド戦争で滅ぼされたガルディオスの遺児。ファブレを憎む復讐者。
満足だろう?ルーク様を傷つけることができて。だけど、それ以上は許さないよ。」
「なに、をいって、・・はは、冗談きついぜキラ。俺がそんなお貴族様のわけ・・」
「これが証拠だ。君がファブレに雇われる前の足取りと、君の従者であるペールの前身。あれ程著名な騎士が、顔も変えずにのこのこと出歩いて誰にも正体がばれないと本気で信じてたのかい?ギルドは情報が命だ。実力者の動向なんて真っ先に確認しておくべきものだろう。調べれば直ぐにわかった。・・・で、反論は?」
「知って、たのか。ははは、手のひらの上だったって、?・・・ふざけるな!!」
ガッシャン
キラが再び突きつけた数枚の書類に視線を走らせたガイが絶望的なうめき声を上げた。空虚な笑いを響かせると一転、激昂して剣を抜こうとする。それを素早く衛兵が取り押さえる。謁見のまで武器を抜こうとするなど、それこそ大逆罪で首を落とされて仕方ない。ピオニーの視線も冷酷なものになる。只でさえアクゼリュス崩落からこっち次々明かされる問題の数々に食傷気味だというのに、これほどの大問題が残っていたなんて。
「もういい、そいつも連れて行け。・・・あーもう嫌だ。
・・・・・それで、キラ、といったか。お前の質問に答えよう。」
その声にキラとルークが居住まいを正す。泣き腫れた赤い目が痛々しいがそんな憐憫は押し隠してピオニーがルークとキラを真っ直ぐ見据えた。その姿に今まで呆然としていた周囲のものも姿勢を直して皇帝に注目した。未だに不満そうなジェイドには最早誰一人視線すら向けない。
「アクゼリュス崩落の事実についてのわが国の軍人の報告に多大な虚偽があったことを認めよう。
ルーク・フォン・ファブレ殿にはお詫び申し上げる。・・・すまなかった。」
言って頭を下げる。それにうろたえたのはルークだ。覚悟の上とはいえ辛くなかったといえば嘘になる。けれどまさか皇帝自らに謝罪されるとは思わずに動揺がそのまま声にでた。
「へ、陛下!そんな頭を上げてください!俺、いえ、私の力が原因でアクゼリュスを崩落させたのは事実なのですから、そんな、えっと、」
ルークの言葉に静かに顔を上げたピオニ-が表情を改めて告げた。
「---この度の不始末は必ず清算させていただく。それで宜しいだろうか。」
「は、はい!」
戸惑いつつも力強い声に押されて返事するルーク。キラは再び静かに控えている。そんなキラに意識を向けつつピオニーを見つめルーク。だが、ほんの少し穏やかさを取り戻した雰囲気を一人の発言がぶち壊した。
「----いい加減、話を進めませんか。今はそんなことよりセントビナーの事でしょう。全く無駄な時間を、」
「ジェイド。」
どこから来るのか知らないが、未だに自信満々な態度を変えないジェイドに座りきった眼差しを向けたピオニーが言葉を遮った。
「お前、いい加減にしろよ。何時まで自分のしたことをしらばくれるつもりだ。まさか無罪放免されるなんて思ってるんじゃないだろうな。お前は軍位剥奪。軍法会議まで自宅謹慎だ。外部との連絡は一切許さん。----連れて行け!」
命に従って衛兵がジェイドを拘束する。その力が先程の三名よりも強くなるのは当然だろう。同じ国の軍人として、誰よりも真っ先に捕らえたかったのはこの軍人の面汚しである。やっと許可が下りたと思いながら厳重に拘束する。
「なぜです!ピオニー!」
「何故、だと?お前本気でわかって無いのか?お前のしたことは最初から最後までどれもこれも問題だらけだ!お前みたいな常識知らずに名代なんて任せた自分の馬鹿さ加減に首でもくくりたい気分だよ!!差し迫った問題が無いなら今すぐ結論を出してもいいんだぞ!!---- 行け!!」
乱暴に振られた手にしたがってジェイドを引きずる衛兵達。そしてやっと謁見の間に静寂が戻る。ピオニーの大きく息をつくと話を進めようと向き直った。
「あー失礼した。話を進めても宜しいだろうか。
キラ殿も顔を上げてくれ、発言も許す。」
「はっ。」
キラがピオニーを真っ直ぐ見据える。その菫色の瞳の苛烈さに些か気圧されつつも、キラへの謝罪の言葉を告げる。
「キラ殿にも、改めてお詫びする。申し訳なかった。加えて有用な情報を提供してくれたことへは感謝している。」
「---いいえ、では、マルクトは、ルーク様の無実を認めて下さる、という解釈で宜しいんですね?」
「ああ、勿論だ。どう考えても主犯も実行犯もヴァン・グランツだろう。ならばその罪はヴァンに求めるべきだ、だが、そうだな・・・・申し訳ないが、導師イオン。」
悄然としたまま事態の推移を見守っていたイオンに、ピオニーが声をかける。その場の殆どの人間が半ば忘れかけていた小さな影が大げさなほど肩を揺らして返事をする。それを心配そうに見るルーク。
「ダアトの者が起こした事態が齎す問題は、一つ一つの影響が大きすぎる。失礼ではあるが、この度依頼した仲介は白紙に戻させていただく。即刻教団にお戻りになるようお願い申し上げる。」
「それは・・・」
「今判明しているだけでも、ティア・グランツのキムラスカ王族への大逆・・まあこれを裁くのはキムラスカであるからおいておくとして、アニス・タトリンへの疑惑、六神将によるタルタロス襲撃、ヴァングランツのアクゼリュス崩落。どれをとってもわが国としては見過ごせないものばかりだ。・・・・教団にお戻りになって対処していただくが宜しかろう。・・・・導師を丁重にお送りしろ。此方から招待した客人だ。粗相があってはならない。・・・では、一時とはいえわが国の国策に協力していただいたことには感謝する。」
「そんな!、あの!」
慌てて口を開くイオンを、丁重だが有無を言わさずに連れ出す衛兵。反射的に駆け寄ろうとしたルークはさりげなくキラが止めた。一瞬睨みつけてくるが直ぐに感情を抑える。納得できなくても、理解はしているのだろう。イオンへの言葉を口にすることは無く、これからどうするのかを視線で問いかける。そんなルークに笑顔を返してからピオニーへと視線をむけたキラ。
「・・・・・(これならば、ぎりぎり及第、か。)・・・ピオニー陛下。
実はまだ秘されたままの事実を一部訂正させていただきたい。」
「なんだ?」
「・・・アクゼリュスの住民は、生きています。」
「な!」
「何故、秘密にしていたかはこれからご説明いたします。
・・・陛下は、”プラント”をご存知でしょうか。」
+++++++++++++
と、とりあえずここまで。
このネタでは、前編で述べたラクス様率いる預言撤廃運動を目的とした組織があるんですが、その組織所有の創世暦時代の遺産を流用した巨大コロニーが魔界に存在します。それをさしてプラントというんですが、同時にプラントに住んでる=運動参加者認識で組織をプラントとよんでる事もあります。で、こっからキラが、秘預言を暴露、星自体に迫っている危機、預言撤廃運動について諸々説明して、マルクトはどうするのか聞いていくと。
小話とか言いながらこの一場面だけですごい長くなってしまって、そこまで書いてると連載になってしまうので無理やり切りました。
まあ、設定でこういう流れもありました~ってかんじですね。
「-----何、とは?幾ら力の発現が暗示の所為でも、のこのことヴァンについてリングに近づいたのはルークの責任でしょう。そもそも超振動を使えばどうなるかなんて考えれば直ぐに分かることだ。ヴァンにどう言いくるめられたのか知りませんが---」
「----知らない、だと?お前の報告では、そこに居るルークが、ヴァンに唆されてリングを壊したとあったな。では、お前は何をどう判断してルークが唆されたと考えたんだ。ヴァンが何を言ったのか知らないなら、何を根拠にそう報告した!!」
「ですから、救援に参加もせずヴァンに言われるままリングの所まで行ったのが良い証拠でしょう。ああ、魔海で、超振動で瘴気を中和とか言ってましたか。そんな言葉を信じるなんて、どうかしている。」
激昂するピオニーの言葉に呆れた様子も隠さず答えるジェイド。だが、謁見の間に詰めている軍人も文官も一様に信じ難い表情でジェイドを注視した。
・・・・この男は、あれほどの災害の原因を、そんな穴だらけの状況証拠のみで結論付けたのだ。ジェイドの報告が正しかったとしても明らかに主犯の一人と目されるヴァンが、報告どおりなら騙されたにしろ崩落を実行したというルークに、どのような指示を与えたのかすら確認していないとは!!しかもその根拠が、親善大使であり王族であるルークが、救援の手伝いをせずリングまでヴァンについていったからだと?どんなこじ付けだ。実際は裏で何を画策していようと、表向きキムラスカからの先遣隊を任されていたダアトの主席総長に、救援の責任者であった親善大使が話を聞きに行って何がおかしいというのか。口頭だけでは報告しきれないから現場を見てくれとでも言われたらついていくに決まっている。崩落が起きるまで誰一人、ジェイドすらヴァンのことを疑いもしていなかった筈だろう。しかもルークはヴァンに七年もの間剣の指導を受けた師弟関係にあったという。ヴァンを信じない要素など傍から見れば何一つ無かったのだ。
そもそも人の上に立ち指揮する立場の王族に、直接看護や避難を手伝わせようという考え自体が信じられない。今はレプリカと判明しようともルークは王族だ。他国の人間であろうとも、王族の上に位置するのは国王のみである。絶対服従しろとまでは言えないが、本来たかが軍人の佐官如きが、まさかルークに命令して指示を与える側の立場だとでも考えていたのだろうか。・・・・・考えていたのだろう。今までの言動全てがそう物語っている。マルクト国軍に属するその場の全ての人間が、羞恥と怒りで思わず首を掻き切りたくなった。こんな男と同僚だなんて、これ以上の屈辱はない。
そんな周囲の葛藤を他所に幼馴染でもある主従の問答は続く。
「ルークが少しでもわれわれにヴァンのことを相談していれば起きなかった事故だ。責任はルークにあるでしょう。」
「お前は---!
「・・・へぇ?それを貴方が言うんですか、ジェイド・カーティス大佐。」
更に声を荒げかけたピオニーの言葉にかぶさる様に絶対零度の声が響いた。とりあえずはピオニーの様子を見ようと黙っていたキラである。嘲笑はますます冴え渡り、その美貌が凄みを増した。誰が見ても、今のキラの感情を読み取ることは容易い。----- これ以上無いくらい、激怒している。
「おかしなことを言いますね、カーティス大佐。貴方がルーク様の言葉に耳を傾けたこと等、只の一度も無かったというのに。それこそ----ルーク様が誘拐されてマルクトに飛ばされてから、アクゼリュスにたどり着くまで、只の、一度も。」
さらに知らされた事実に静まり返る一同。何を言って良いのか分からない。
・・・誘拐されてマルクトに、とはどういうことだ?!
「貴方は、そこに居るティア・グランツが、ファブレ公爵家に譜歌を用いて襲撃を行い、正式に招待されていた客人であるヴァンを襲撃した際に間に入ったルーク様と擬似超振動を起こしてマルクトまで飛ばされた事を知りながら、ルーク様を不法侵入者として拘束されたくないならば、和平に協力しろと脅迫しましたね。その際王族であるルーク様に向かって頭を下げることを安っぽいプライドと言い切って敬称もなしにルーク様を呼び、タルタロスが襲撃された時には剣を持っているのだから前衛を務めろと言い、人を殺すことを躊躇したルーク様をあからさまに嘲弄した。ルーク様が七年分の記憶しか持たず、公爵家以外の世間を知らないからと馬鹿な子供だと言いきったそうですね?・・・・それをルーク様が親善大使に任命された後も改めず、道中何から何まで事後承諾でしか報告せずルーク様の疑問には侮蔑の言葉しか返さなかった貴方が、・・・・どの面下げて相談しろといえるんです?ふざけるのも大概にしろ、このえせ軍人が。」
ノンブレスだ。立て板に水とばかりにつらつらとまくし立てられた内容を、理解したくなくても理解してしまった一同は既に顔面蒼白である。ピオニーすら顔色をなくしている。今の話が本当なら(本当なのだろう、信じたくないことに!)たとえルークが只の一市民であろうとジェイドの行動は一から十まで全てが違法行為だ。いや刑法で裁けないものであっても、人間として、曲がりなりにも十年単位で軍人をしている大人としてしてはならない物ばかりだ。
・・・・何故誘拐された被害者を不法侵入で連行する。軍人が王族に頭を下げるのが安っぽいプライドとはどういう意味だ。タルタロスの襲撃とは何のことだ。軍人でありながら訓練も受けていない年下の少年に守られなければ戦闘できない?和平の名代を任されながら相手国の王族を嘲弄?親善大使に事後報告とはどういうことだ?!
言葉にならない悲鳴が満ちる中、金切り声をあげたのはダアトの女軍人二人だ。
「キラ!貴方大佐に何てこと言うのよ!大体私は誘拐なんてして無いわ!言いがかりはよして!」
「そぉだよぉ。ティアはちゃんとシュザンヌ様に謝ってんでしょ?今更蒸し返すなんてホント最低ぇ~」
キャンキャンと吼える二人にも等しく冷酷な視線を向ける。そして続けた。
「何を、って何さ?全部事実じゃないか。大体どこの世界に他所様の家に押し入って刃物振り回した人間が謝罪のみで許される法律が存在するの?しかも、場所はファブレ公爵家---キムラスカの王位継承権を所有する方々が三人もいらっしゃるお屋敷だ。そんな場所で、正式に招待された客人に向けてナイフ振り上げておいて襲撃じゃないって?譜歌を使って警備してた騎士を眠らせておいて?冗談でしょう。擬似超振動が起きたのだってティアがファブレ家でヴァンを狙ったからじゃないか。ルーク様の意思を無視して不本意に連れ出したんだ。故意かどうかなんて関係ないよ。しかも君、木刀しかもっていらっしゃらなかったルーク様に、剣を持っているから後衛専門の自分を守って魔物を倒せといったらしいね。・・・・武器だなんて呼べない木刀しか持たない訓練を受けたことも無い人間を、魔物の前に押し出したんだ。これは立派な殺人未遂だ。不敬罪や侮辱罪なんて生ぬるい---王族ニ対シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ処ス---大逆罪が適応されてしかるべき犯罪者じゃないか。どこらへんが言いがかりなのか教えてほしいのはこっちだよ。」
わざとらしく肩を竦める。その仕草に顔を真っ赤にしたティアが言い募ろうとするが、それを遮ったのは激しい金属音だ。先程までキラに槍を突きつけていた衛兵が、ティアを拘束したのである。襲撃に譜歌を用いた、という言葉から素早く猿轡と譜術防止用の拘束具までつけられている。その行動に驚いているのは同行者達のみだ。慌てたガイとイオンが声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!ティアがルークを殺そうとしたなんて、そんな誤解だ!彼女は後衛専門なら守られて当然だろう!」
「まってください!彼女が犯罪を犯したというのならダアトで査問にかけますから!!」
うんざりとした表情を隠しもせずキラが二人を見据える。
「本気でいい加減にしてくれないかな。ガイ、君は本来ルーク様の護衛だろう。なんでルーク様の身の安全を脅かした人間を庇うんだ。イオン様、貴方もです。犯罪者なら?私は何回も奏上させていただきました。彼女はルーク様に危害しか加えていません。これは本来その場で首を落とされても文句の言えない行動です。今彼女が生かされているのは執行猶予を与えられているからに過ぎません。加害者を庇うのはおやめください。と----何を聞いてらしたんですか。」
「イオン様に失礼なことを言わないでよ!」
言葉に詰まるが険しい顔を崩さないガイには興味も失ったとばかりにイオンに告げた。キラの視線に身を竦ませたイオンを心配したルークが身を乗り出しかけるがそれは許さず睨みすえる。その視線からイオンを庇うように前に出たアニスには目線も向けずにはき捨てた。
「失礼って言葉を知っていたなんて驚きだよアニス・タトリン。君が今まで一度でもルーク様に礼を払ったことがあったかい?まともに仕事をこなしたことも無いくせに良くそんな大口を叩けるね。導師を守る事が唯一絶対の職務である導師守護役が、なんでルーク様に媚を売るのさ。なんで導師を見失うのさ?いつルーク様が君に呼び捨てる許可を出したの。馬鹿坊ちゃんって何語だよ。わがままってどっちがさ。しかも君、バチカルで出発準備をしていたルーク様に、朝起きたら誘拐されてた導師をついででいいから探してください、だって?へぇ、導師守護役って不寝番もせずのうのうと惰眠を貪っても許されるような緩いしごとなんだ?アクゼリュスの救援を国王陛下から命じられた親善大使様に、寄り道を強要できる立場なわけだ?誘拐された導師を見つけるのが、ついで、の仕事なんだ?たいした恥知らずだね。・・・・ねぇ、モースの子飼い。タルタロス襲撃の手引きをしたスパイ。裏切り者の犯罪者。」
「な!・・・・何のことよ!!」
とっさを返事を返せたのは上出来だが顔色を失くして声音が震えていては意味が無い。誰が見てもキラの言葉が真実であったとわかる。ティアを拘束していた衛兵がアニスにも殺到する。
「アニス!!・・・な、なあ、キラ、これはちょっとやりすぎじゃ・・」
「ルーク様」
今まで唯一自分の味方で有り続けてくれているキラのすることだからと、できるだけ口を挟まないようにしていたルークが、とうとう青ざめた顔でおずおずと制止する。だが、その言葉にもキラは肯かない。
「・・・ルーク様。貴方がお優しいことは存じておりますが、是ばかりは承諾いたしかねます。彼女達の行動はどこをどうとっても犯罪です。いままで何の罰も与えられなったほうがおかしいのです。たとえどれ程減刑されようと許されることは有り得ません。・・・どうかご理解ください。」
真摯に語るキラを見てじっと見据えて考え込むルーク。その表情はつらそうに顰められるが、ゆるゆると口を開いた。
「わかった。・・・・本当は、俺がティアやアニスに言うべきだったんだな。ごめんな」
「いいえ、これは貴方をお守りする役目を仰せつかった私の職務です。お気になさる必要はございません。」
二人のやり取りをみていたイオンは、力なく肩を落とした。
・・・彼女達を守りたいなら、自分が最初に諌めるべきだったのだと、今更思い知ったからだ。
だが未だに理解しないのがガイとジェイドだ。もはや絶望の溜息しか零せないピオニーすら認識せずにキラに矛先を向ける。
「・・・・やれやれ、本当に美しい主従愛ですねぇ?ですが、正直そこのお坊ちゃんの為に彼女達を落としいれようとするやり方はどうかと思いますけど?」
「キラ!お前いい加減にしろよ!見損なったぞ。早く彼女達の誤解をとくんだ!」
とうとう顔を覆って天を仰ぐピオニー。玉座の傍に控えているフリングス将軍や宰相であるゼーゼマンの憎悪の表情にも全く気づかない。そちらを一瞥したキラは、是が最後とばかりに語調を強めた。
「本気で言ってるの、それ。どこをどう聞いたら誤解だと思えるの?何をどう陥れたと?ティアのやったこともアニスのやったことも全部本当のことだよ。」
「そのアニスのスパイ行為とやらですが証拠は?・・冤罪じゃないといえる証拠はなんです。」
「・・・・それは俺も聞きたいな。(・・まずタルタロス襲撃の報告を知りたいが、・・・今更だなこれは。ジェイドを、甘やかしすぎた・・・いや、妄信しすぎたツケが、これか・・・・)」
ピオニーが疲れ果てた表情で、声だけは力強くキラに質した。ルークとイオンも気になるのかじっと待っている。
「証拠はこれです。・・・・・アニス・タトリン、ローレライ教団所属、階級は曹長。現在は導師イオンの守護役についている。任じられたのは2年前・・・・大詠士モースの推薦による。」
「それのどこが証拠だと・・」
「アニスタトリンの母パメラ父オリバーは、大した額の借金をしています。何でも根が善良で困った人々を見過ごせないとか。・・・・そのおかげで詐欺に合うこと数十回。本人は気づいていないようですが。・・・その借金が綺麗に清算されました。・・・・モースの善意、とやらで、ね。」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「で、タルタロスの襲撃は、モースに命じられた六神将の仕業でしたね。・・・・へぇ、隠密に動いていたはずのタルタロスのルートを、ピンポイントで狙えた理由は・・・・分かりませんか?」
「そ、それだけじゃあ、証拠とは・・・!」
キラが読み上げる書類を凝視して反論しようとするガイ。その目の前にもう一枚の紙を突きつける。
「・・・この筆跡に見覚えは?」
それはしわしわによれた手紙。内容はイオンの行動と移動予定のルート。まさしくルークたちが通った道程が事細かに記されている。
「これは、ケゼドニアの宿に一泊したときに飛ばされた鳩から回収したものです。飛ばしたのは勿論アニス。・・で、怪しいから詳しく調べてみたら、出てきたのが、この事実、と。・・・まさか、こんなあからさまな事実を前にタルタロスは関係ないとか言いますか?確証は無くても疑惑を抱くには十分でしょう。取調べはマルクトの方々にしていただくとしても、このまま放免は・・・できませんよね?」
にこり、と晴れやかな笑みを見せられて誰一人口を開けない。周囲からの猜疑の視線がアニスに集中するだけである。動くのも億劫そうに手を振ったピオニーの合図で、衛兵がアニスとティアを連行して行った。ガイは愕然、イオンは悄然と項垂れ、ジェイドは無言で眼鏡を直す。ルークの手に力が篭るのを感じてそっと手を握ると、少しだけ震えた手が強く握り返された。
お久しぶりです。
数ヶ月も更新を停止して、申し訳ございませんでした。
本当にすみませんお久しぶりす、暁です。
更新が止まっている間にも通ってきてくださっていた皆様ありがとうございます。
何の音沙汰もなく姿を消しておりました事を重々お詫びいたします。
すみません、以前のサイトの時同様またもやパソコンが壊れてしまいました。しかも今度はバックアップデータが入ったメモリーごとクラッシュするという二重の事態が重なりまして、・・・ちょっと本気で泣こうかと思いました。すみません。・・しかも拍手を押して下さった皆様申し訳ございません。 私生活の忙しさとあいまって故障データに構えないで居るうちに拍手管理ページのパスを紛失したのかデータが丸ごとバグッタのか拍手ログを見ることができなくなりました。メッセージを贈ってくださった方々には返信一つ返すこともできず本当にすみませんでした。
重ね重ね申し訳ないのですが、私生活が未だ落ち着かず、更新が遅いままになると思います。それでも一応(説得力がないですが)まだサイトは続ける気はあります。すみません、本当に遅々とした進みになるとは思いますが、宜しければお付き合いくだされば光栄です。
大変失礼いたしました。
で、ええと、ちょっと設定メモを見返していて見つけた没設定で書いてみた小話です。
『虹の麓の物語』で、こういう配置設定もありました~な inグランコクマ謁見一回目で、マルクト・キムラスカ・ダアトへ丸ごと厳し目です。
(本採用した設定ではキラやラクスは其々の国で貴族として動いてるんですが、こっちの没ネタでは、預言をなくすために戦うと決めた時に国をでて独自に組織を作って動いてました設定だったんです。表向きはケセドニアに本拠地を持ってる傭兵ギルドで裏では預言の犠牲者を保護しつつ準備を進めてました。で、キラは表で傭兵兼医者。腕のよさが評判になってシュザンヌ様の治療に呼ばれてルークと知り合った設定で。で、医療技術の研究の一環でレプリカについても知っていて、ルークの正体に気づきます。最初は被験者の影武者にでもするつもりか、だからキムラスカは嫌いなんだ。と思って様子見してたんですが(いざとなったらレプリカを保護するつもりで)どうも本気でレプリカだと気づいて無いようなのでシュザンヌ様にこっそり教えてみました。(勿論詳しくレプリカのことについても説明しつつ。その上でレプリカを排斥する様子ならやっぱりキラが保護しようと思って)シュザンヌ様驚愕。狼狽します。自分の子供も見分けることができていないなんて!と。で、落ち着いたら被験者はどうしたのか、という話になりキラに協力要請。レプリカについては、見た目が大きくても実際は赤子同然と教えられて、ならばこの子も被害者だと判断。身体の作りが同じなら兄弟のようなものだろうと被験者の弟と認識します。つまりこの子も私の息子だと。同時にキムラスカに不信を覚えてキラと共に調査開始。秘預言を知り大激怒。被験者である息子も、レプリカであるこの子も預言のために死なせてたまるか!!とキラ達の支援者の一人に。
・・・で、キラはルークが親善大使に選ばれた際に護衛として雇われた形で同行。ナタリアはラクスとレンに説得させて支援のための物資調達のため途中で一時離脱させます。ごねにごねたんですがラクス様に勝てるわけがありません。(でもキムラスカに帰すことはできませんでした。仕方ないのでアクゼリュスに入れないだけでもマシかと)
アクゼリュス崩落がルークの超振動なのは原作通り。ルークには事情を話してありました。悩んでいたルークが直接ヴァンに話を聞いてから決めたいというのでリングのところまで一緒に行ってました。勿論怪しい動きをしたら捕まえるつもりだったのに、隙をみて暗示を発動させたヴァンに出し抜かれた形で崩落。死ぬほど後悔してルークに
対する申し訳なさで一杯です。ルークも勿論気に病んでます。ですがまずは他の崩落その他への対処が先だと行動を優先。住民は保護してあるので一般人の被害者はいないんですが、町一つ壊してしまったんですから責任は取るつもりでいます。護衛として同道しておきながらルークを危険な目にあわせ、傷つけてしまったんですから当然首を差し出す覚悟もつけてます。ただし、預言をなくす計画を成功させて世界が平和になった後です。
勿論ギルドの組織力総動員でアクゼリュスの住民は保護済みです。でもマルクトにもキムラスカにも教えてません。キムラスカは言わずもがなですが、マルクトもジェイドの所業で信用皆無ですので。でも個人の行動で国一つ見捨てるのも忍びないのでこの謁見で判断するつもりで同行者達と一緒に来ました。
・・・崩落の責任はルークに無いと幾ら説明しても聞こうとしない同行者はもう見切りをつけてます。ただピオニーの反応を見るためだけに一緒に謁見。で、その場面の小話です。
「------恐れながら、申し上げます。
一介の護衛の身で不遜な事とは存じますが、発言の許可をいただけますでしょうか。」
その一言にマルクト宮殿の謁見の間が静まり返った。今まで静かにキムラスカの親善大使であるルーク・フォン・ファブレ(レプリカと判明しようとも、正式にインゴベルト陛下が任命したのは彼である)の後ろに控えていた大地色の髪の青年に視線が集まる。それは一様に訝しげなものだ。一見すればそれも当たり前だ。今まで話し合われていたのは、アクゼリュスが崩落した影響で続いて台地が崩れる危険があるセントビナー救援である。今まさにその救援に出発しようとしたところを遮られれば、苛立ちを覚えるものがいても仕方が無いかもしれない。
だが、青年は静かな態度を崩さず、ただ皇帝からの許可を待っている。そのとき初めて彼の態度と、今まで発言していたもの達の態度の違いに気づいた数人がはっとした。その数人に含まれなかったマルクト皇帝であるピオニー・ウパラ・マルクト9世陛下が口を開く。
「----あ、ああ、許可する。何か言いたいことがあるなら聞こう」
「ありがとうございます。----では、お言葉に甘えまして、
・・・・・何故、皆様は、アクゼリュスの崩落が、こちらのルーク様の罪であると決めつけてらっしゃるのでしょうか。」
その言葉に真っ先に反応したのは、栗色の髪のダアトの軍人---たかが最下級の!---ティア・グランツだった。
「何を言ってるの今更。何回同じ事を言わせるつもり?アクゼリュス崩落は兄に騙されたルークがパッセージリンクを壊した所為でおきたことだと説明したはずでしょう。・・・いい加減にして頂戴」
続いたのは黒髪の幼い少女・・彼女もダアト軍服を着ている。だがこちらも地位は高くない。曹長程度の地位では下から数えたほうが早い・・アニス・タトリンが喚く。
「そーだよ!アンタまだそのお坊ちゃんを庇うわけぇ?いくら護衛だっていってもさ~悪いのはルークなんだから何時までも甘やかすのはやめなよ!」
金髪の青年--ルークの使用人であるはずの---ガイ・セシルも呆れたまなざしで口を開く。
「キラ・・・君がルークを慕ってくれてるのは分かってるが、甘やかしすぎるのはどうかと思うぜ?悪いことは悪いとちゃんと教えてやらないと。」
最後にいったのはマルクト軍の軍人である青年---ジェイド・カーティスだ。階級章は大佐を示している。
「そうですよ。貴方がルークに忠実なのは良いことですが、・・・・・」
キラは、喧しいことこの上ない雑言を冷徹な空気で遮断して、凍った声音で続けた。今この場で庇われたルークの驚愕と怯えの眼差しにはこっそりと優しい目を向けて安心させてやりながら皇帝へと質問を繰り返す。
「どうか、お答えください皇帝陛下。何を根拠に、あの崩落がルーク様の仕業であると、断定されるのか。」
その声は酷く静かでありながら、周囲に紛れも無い激しい怒りを知らしめる。申し分の無い完璧な礼を保ちながら、皇帝を初めとするルーク以外の全ての者を責めている。それに気づいたピオニーが、訝しげな表情を崩さずに答えた。キラがルークを慕っているというのなら気持ちは分かるがと思いながらも、聊か八つ当たりを受けている気分で宥めるようにつげる。
「それは勿論そこにいるジェイドから、アクゼリュスの崩落はルークレプリカが超振動の力を使って引き起こしたものだと報告されたからだが。」
その言葉に、この場で初めてキラが表情を変えた。----紛れも無い、嘲笑に。
「成る程。つまり、陛下は、現場を直接見ても居ない、目撃者からの事情聴取もしていない、直前まで敵対していた人間から与えられた不十分な情報を元に推測しただけの報告を、そのまま真実であると受け入れたと。そして、和平を結ぼうとまでした相手国の王位継承者であり正式なキムラスカ国王陛下の名代である親善大使のルーク様に、アクゼリュス崩落という罪をおしつけたと、そういことですね。」
「な!無礼であろう!口を慎め!」
激昂して声を上げたのはピオニーの横に控えていたゼーゼマンだ。同時に衛兵が槍をキラに突きつける。自国の皇帝が侮辱されたのなら当然の態度では有るが、キラは表情を変えない。慌てるルークを視線で制して更に続ける。
「何を持って無礼と?先に礼を失したのは貴方方マルクトだ。」
「・・・こちらが悪いと言うのか?アクゼリュスの崩落の真実は違うと。」
「そうよ!キラ貴方いい加減にしなさい!」
「そこまでお坊ちゃんを庇うなんてばっかじゃないの?!」
「・・・キラ!!」
「おい!早く謝れよキラ!せっかくセントビナー救援で許してもらえそうだったのに」
「無謀ですねぇ。そこまでルークを守りたいんですか?やれやれ」
「キラ!もう良いよ!な?!」
流石に気分を害したように顔をしかめるピオニーを真っ直ぐ見据えてキラが宣言する。喧々囂々煩い面々は綺麗に無視して、ルークにだけ一瞬の笑みをむけて言った。
「アクゼリュスを壊したのは、ルーク様ではありません。」
「なら、誰がやったと---」
「キラ!」
とうとうピオニーの言葉まで遮って叫ぶティアを侮蔑の篭った視線で一瞥して吐き捨てる。
「---煩いよ。今僕はピオニー陛下と話してるんだ。横から口を挟まないでくれるかな。
王族殺人未遂の死刑囚ごときが。」
その内容に唖然としたのは謁見の間に詰めていた一部以外の全員だ。そんな反応に気づきもせずに騒ぎ続けるものたちへの視線が段々と侮蔑を猜疑を含んだものに変わることも気づかない。
「・・・な!何時までその事を繰り返すつもりよ!あれは誤解だと言ったでしょう?!」
「そぉだよ!そんな事を言ってルークの事を誤魔化するもりぃ?!アンタも最低だよ!」
「キラ!今はルークの問題じゃないか。過去のことを引っ張り出して話を摩り替えるのはやめろよ。」
「本当にどうしようもないですねぇ。幾らなんでも言って良いことと悪いことがありますよ?」
「・・・・キラ、な、なあ!どうしたんだよ?!」
このままではキラが殺されるかも知れないと思ったルークが服のすそを引っ張って何とか止めようとする。その手をやんわりと外して優しく笑いかけて続けた。
「ルーク様、大丈夫です。でも危ないから僕の後ろを離れちゃ駄目ですよ?
・・・さて、話の続きですが、アクゼリュスの崩落の犯人は、ダアト、ローレライ教団の主席総長、ヴァン・グランツ揺将です。」
「・・・証拠は?」
騒ぐ面々に流石に顔を顰めるが諌めることはしないピオニーがキラに視線を合わせて聞いた。その言葉に帰ったのは響き渡る笑い声だ。勿論発生源はキラである。
「あはははははは!それを聞くんですか?!先程はたいした証拠も無い、たかが口頭報告を信じて万単位の大量虐殺の罪を、ルーク様に背負わせた貴方が!・・・・たいした矛盾ですね。」
皇帝への侮辱に怒りを覚えながらもキラの発言の内容が気になって行動に移りきれない衛兵や側近を手で制すると姿勢を正したピオニーが真面目な表情で聞く。それは紛れもなく賢帝と讃えられた王の顔だ。気おされたティア達が不承不承口を噤むとキラが答えた。
「物的証拠はありません。・・・ですが証人はいます。そうですね?導師イオン。勿論僕も現場を見ています。血縁以外の第三者の証言は、証拠として扱うことが可能なはずです。」
「ああ、そうだな。ではきかせてもらおうか。その証言を。」
今までただおどおどと黙っているだけだったイオンに冷たい一瞥を向けながらキラは続けた。いくらイオンもレプリカでおそらく実年齢も数年程度だろうと分かっていても許せることと許せないことがある。しかも彼は刷り込みされたレプリカだ。つまり記憶と知識だけなら外見相応のレベルであるはずだ。経験不足ゆえの未熟さは仕方ないにしても、ただひたすら被害者面し続けた所業にはほとほと愛想が尽きている。大体今の彼は正式な一組織の長なのだ。それが必要も無いのに無理やり危険地帯について来たばかりか、本来必要の無い無駄な時間を浪費させるなど迷惑極まりない。悪意が無ければ良いという問題ではない。キラがギルドを使って住民を保護していなければ、遅れに遅れた数日間に一体何人が死んでいったと思っているのか。体力が無く経験も無い権力者が、今まさに救援される真っ最中の被災地に本人のみが向かって何になるというのだ。そのことを何回説明しても理解しない同行者達には本気で嫌悪と怒りしかわかなかった。
・・・しかもこの期に及んで尚、自分だけ安全な位置にいる。自身も崩落の責任の一端を担っていながら、あの場でキラ以外の唯一の目撃者でありながらルークの弁護一つしなかったイオンへの怒りを込めて、ひたすら冷淡に言い切った。
「あの時、確かにルーク様のお力がアクゼリュスのパッセージリングを破壊しました。」
「じゃあやっぱり!」
「静まれ!・・・つづけろ。」
「・・・ですが、それはルーク様の意思ではありませんでした。ルーク様の力が発動したのは、ヴァン・グランツがルーク様に掛けた暗示の所為です。」
「なに?!導師イオン!!今の証言に間違いはないのか?!」
キラの発言に顔色を変えたピオニーが確認する。周りの側近や衛兵も驚愕を隠せない。その勢いにおどおどと頷いたイオン。途端ピオニーが呻いた。
「・・・つまり、ルークには罪に問えない。むしろ彼は犯罪に無理やり巻き込まれた被害者だということか----どういうことだジェイド!!」
ピオニーの怒声に肩を竦めたジェイドは何故怒られるのか分からず眉を潜めた。
「なんですピオニー。結局はルークの力で崩落した事実に変わりは無いでしょう。」
「お前は何を考えているんだ!どこの世界に暗示を掛けられて無理やり利用された人間を主犯だと決め付ける法律が存在するんだ?!誰がどう考えてもそれが事実なら主犯も実行犯もヴァン・グランツだろうが!大体それが本当なら、お前の報告が只の推測でしかなったということも事実なんだな?!・・・・軍人の仕事を何だと思ってるんだ!!」
アビス分岐inタルタロス、でティアとジェイドと少しだけファブレ家に厳し目です。
PTがお好きな方はご覧にならないでください。
ネタはあったんですが尻切れトンボになってしまったので没ネタ行きで。
でも、この小話のルークの疑問って、タルタロスの場面ですっごく気になったことその1その2なんですよね。
と、いうわけで少しだけ書いてみました。
さて、此処に、とある不遇なきっかけによって敵国に吹っ飛ばされたひとりの青年が解けない疑問に頭を悩ませていた。
青年の名前はルーク・フォン・ファブレ。
キムラスカ・ランバルディア王国の、ファブレ公爵嫡子にして、第3位王位継承権をもった王族である。そんな国レベルの重要人物が、何故こんな所にいるかというと、有体にいえば誘拐されたのである。よりにも寄って、自分の記憶障害の原因でもある敵国・・マルクトに。
数日前ルークが、剣の師匠であるローレライ教団神託の盾騎士団主席総長をつとめるヴァン・グランツと庭で稽古をしていたら、突然自宅の警備を眠らせて押し入って来た女--隣で偉そうに見下してくるティア・グランツ--が師匠に斬りかかってきた。怪しい歌が聞こえた途端動きが鈍った師匠が危ないと咄嗟に前にでた自分にティアが切りかかってきて、ナイフが木刀に触れた瞬間まぶしい光に包まれた、と思ったらマルクトで目が覚めた、というわけだ。
で、色々面倒で腹立たしい騒動をへて、ルークは此処で疑問と不満を抱えている。
七年前、敵国に誘拐され、言葉すらわからぬ程の重度の記憶障害になってしまったため自分の知識量が他の人たちよりもすくないことは理解していた。以前からの家庭教師だというおっさん共や、幼馴染の王女、ほぼ専任で自分を育ててくれた幼馴染が事あるごとにそう零していたからだ。思い返しても苛立つが事実であるから仕方ないかもしれない。やっぱり考えると苛々するが。
少ない知識なりにどう考えても記憶喪失自体は俺の責任じゃねぇよ、とも思ったが口には出さない。「以前のルーク」を求められのは不愉快だが、自分に優しくしてくれたのも彼らである。そんな事を言えば傷つくかもと思うと何も言えない。そしてやっぱり苛立ちが募る。悪循環である。
しかし自分に出来るのは、いつか記憶も取り戻す、という希望に縋るか、すっぱりと諦めて未来に生きるかの二択しかない。そう考えて、じゃあ過去は諦めるか、と考え、とりあえず以前のルークを求める人間達に反抗してみたのだが、それもやっぱり不味かったか。家庭教師への反抗の一環で授業をさぼりまくったせいか、わからないことが多すぎる。
自宅ではわからないことを聞くと二言目には「以前のルーク様」と言われるため口を噤む癖ができているが、此処にいるのはほぼ初対面の人間ばかりである。苛立ちはするが誰かに馬鹿にされるのは慣れている。それよりも「以前のルーク」と言い出さない保証があるだけ自宅の人間よりもマシだ。いい機会だからわからないことは皆聞いてしまおう、と口を開いた。
「あー、カーティス、大佐?だっけ?
どう考えてもわかんねぇことがいくつかあんだけどよ。
ちょっとこたえてくんねー?」
「おやおやお坊ちゃんは何がわからないんですかね?
私としてはとりあえず、和平の取次をすれば監禁を見逃して差し上げましょう、という事を理解しててくれれば構わないのですが?」
「ちょっとルーク!貴方さっきから黙って何考えてるのかとおもったら・・!
大佐に失礼でしょう!!早く謝りなさい!!」
とりあえず一番この場で偉そうで年上の軍人に聞いてみた。途端嫌味な口調とキンキンと響く声が降ってきて早速不快になる。が、これにも慣れた。不愉快だが、わからないことを放置する方が嫌なので無視して質問を続ける。
「まずさ、何で、こいつ---ティアが捕まってねえのに、俺が先に捕まるんだよ?」
「先ほども言ったでしょう、貴方がたを不法侵入の罪で---」
「てか、マルクトでは不法侵入ってそんな重い罪なのか?
問答無用で槍突き付けられて監禁されるくらい?
だったら、尚更ティアが捕まってねぇのっておかしくね?
・・・だってコイツ、俺ん家の騎士をなんか変な歌で眠らせた揚句に、剣の稽古してくれてた師匠に斬りかかったりしたんだぜ?不法侵入したうえに誰かに斬りかかるのって襲撃っていわねーの?それともマルクトじゃ、不法侵入は罪だけど、他人の家で人を襲うのは罪になんねーのかよ?」
「・・・はい?」
「ちょっと!人聞きの悪いこと言わないで!
あれは事情があったんだと言ったでしょう?!」
「うるねーなぁ。・・ティアが襲撃したのがキムラスカだから放っておくのか?
でも、軍人って罪人捕まえんのが仕事だよな?それって他の人達が安全に暮らせるためにそうするんじゃねぇの?罪人って一回犯罪したら他の国では大人しくなるもんなのか? だからキムラスカで犯罪した奴は、マルクトの中では放っておいても平気とか?
・・なあ、イオン。ダアトでもそうなのかよ?」
「え!!い、いえ。ダアトでは例え他国で罪を犯した者でも発見次第逮捕します。
その後罪を裁くのはそれぞれの国に任せてからになりますが・・」
間抜けな相槌を打ったジェイドから視線を外してその後ろに立つイオンにも聞いてみる。しどろもどろではあるが自分の知っているのと同じ事が返ってきた。だったらマルクトだけが違うのかとジェイドに視線を戻すと下がっても居ない眼鏡を直す姿が見えただけで返事は返ってこない。
「でさー。俺がここにいるのってそいつが襲撃した時に起きた”疑似超振動”で飛ばされたからなんだよね。 それって、俺の所為になんのかよ?俺は別に屋敷から出ようとも思ってなかったのに、そいつのせいでマルクトまで来ちゃったんだけど。 これ、普通誘拐っていわね?俺の意思を無視して無理やり遠くまで連れてきたんだから。それもマルクトじゃ犯罪ではないとか?
キムラスカだと誘拐犯って、理由に関係なく無期懲役か縛り首だって聞いたんだけど。
・・・なあ?どーなんだよ。」
「ルーク!いい加減にして!!貴方さっきから私がまるで犯罪者みたいに・・」
「みたいも何も事実だろ。
どうしてもって理由があんなら罰が軽くなるかもしんねぇけど、お前がしたことが犯罪だって事実にはかわりねぇっつの。 譲れない事情があったつーから理由を聞いてやったのに「関係ない」って突っぱねたのお前だろ。だったら俺にもお前の事情を鑑みてやる義理なんかねぇよ。
で、どうなんだよ?」
「・・・・」
やっぱり無言だ。上手く答えられなくて悩んでいるのだろうか。
だが横でうるさい女がいるので答えてくれるまで待つのも面倒だ。
聞きたいことだけ聞いて、後でまとめて答えてくれりゃいいや、と話を続けた。
「でさ、お前がいった見逃すってのは、俺が不法侵入者だってのを要求のめば無かった事にしてやるってことだよな? それって脅迫っていわねー?脅迫って犯罪だよな。マルクトの軍人って犯罪行為働いても裁かれたりしないとか? そーだよな、じゃなきゃ、なんか偉いっぽいお前がそんな堂々と言ったりしねぇもんな。
でもさ、キムラスカじゃ犯罪だぜ?なのに俺にそんな事言うのって不味くはねぇのか?
お前らこれからキムラスカに行くんだよな?」
「ルーク!!!」
「あー、もう本当にうるせぇなテメェはよ!!
俺は今カーティス大佐に質問してんだから黙ってるか外に出てろよ!!」
「貴方って本当に傲慢ね!!なんて言い草なの!」
ガッシャン
そこで堪らず動いたのは扉の前にいた見張りの兵士である。幾ら権力者に対しても遠慮のないカーティス大佐の行動には慣れていて多少の慇懃無礼は日常茶飯事とはいっても今目の前での出来事を無視はできなかった。また何時ものことか、彼らの会話を聞き流していたら耳に入ってきたのは前代未聞の大犯罪の事実であった、などと笑い話にもならない。今の今までただ見張りを続けるだけであった己を殺したいくらい後悔しつつティア・グランツを拘束する。同じ思いなのか同僚たちも素早く動いてあっという間に譜術師用の拘束具と縄で芋虫状にされたティアが床に転がる。
それを見て咄嗟にティアと庇おうとしたイオンは必死な表情のアニスに押さえつけられている。貴族と聞いて瞬間的にルークに媚を売ったり、エンゲーブでは何回もイオンを見失い、イオンよりジェイドの命令を聞く、などという常識外な行動を繰り返したなんちゃって軍人であるアニスも、流石にティアを庇うのが不味いことくらいは察したようだ。振りかえったイオンに何やら小声で言い募っている。困惑したイオンが、段々と顔色を白くしているのが気になるが、ルークはジェイドに視線を固定したまま質問を続けた。流石にティアにはうんざりしていたからか酷く冷淡に騒動を無視する。話が終わったら解放してやりゃいいだろむしろこれで少しは静かになるな、と安堵すらしていた。
「でさ、脅迫の内容の、和平の取次だけど。何で、取次がひつようなんだよ?」
「・・・それは、私たちだけではインゴベルト陛下への謁見が・・・」
流石に不味いと気づき始めたらしいジェイドが、僅かに動揺しながらゆるゆると答える。
だがルークが聞きたいのはその理由だ。語気を強めて繰り返した。
「だーかーら!!何で、偶然会っただけの俺が取り次がなきゃ陛下に会えないんだよ?
お前らマルクトの皇帝からの使者なんだろ?だったら陛下への謁見の予約くらい取れてる筈だろうが。 別に相手が陛下じゃなくても、誰かに会いに行くなら前もって約束しておくのって常識なんだろ? うちのメイドだって休みの日に友達に会いにいくって手紙で予定合わせてたぜ? 父上なんか他所の家に行く時は 態々使用人に知らせを届けさせてたし。陛下相手ならなおさらだ。緊急時でもなきゃ予定外の時間に城に行ったりしないっつーの。
それともマルクトの皇帝陛下ってキムラスカから俺とかがいきなり会いに行って会えたりできんのか?」
「は、え、いえ、それ、は・・・・」
しどろもどろな言いよどむジェイドを見上げて言い募る。
わからないことをちょっとは解消できるかと思ったのに、あまり答えが返ってこなくてイライラしていた。なんでも良いからさっさといえっつーの!!
「マルクトでは平気でも、キムラスカじゃ無理だぜ。
他の国の人間がいきなり行って陛下に会わせろとか、そりゃ無茶だろ。俺の取次云々の問題じゃねぇよ。
んで?実際どーなんだよ。何で、俺の取次が必要なんだ?」
ここまで。
このあと襲撃があって、やっぱり突っ込みどころが満載でルークに質問させてたんですが、上手くつながらなかったのでとりあえず。
・碇レンver
・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。
・本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします
CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)
です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。
「どうしたの?
・・気分でも悪いのかしら、フレイル!荷物からマントを取ってくれる?
先生、もう遅いし調査は明日で構いませんね?野営の準備をお願いします。」
「おい、ユリア・・」
「ああ、ありがとう。じゃあ、次は水を汲んできてね。早くお願いね。」
「・・・へーへー行ってきますよ」
ユリアの問いに答えられず表情を強張らせた自分を心配したのか慌てたように肩に手を添えて顔をのぞき込まれる。返事を返す間もなくてきぱきと後ろの二人に指示を出すユリア。殺気はないが僅かに疑うような視線でこちらをみるフレイルから庇うようにユリアが次の指示をだすと、仕方無い、というように肩をすくめて水筒を持つフレイルが歩き出す。サザンクロスは淡々と野営用のテントを張る場所を物色している。こんな開けた場所なら、敵の視認も容易だろうがこちらの身を隠す場所もない。寝場所を確保するなら多少なりとも木立なり岩陰なりを見つけるべきだ。幸い焦土から外れた部分--視界が広いから360度見渡せる。--約1km位の大人なら歩いて10分もかからない場所に森の端が見えた。フレイルもそちらを目指して歩いて行ったからちょうど良い。ユリアに一言残すと荷物を担いだサザンクロスは離れていった。
「では、あちらにでもテントを張りましょうか。きをつけてくださいねユリア」
「お願いします。」
三人のやり取りをただ見届けてしまったことに気づいて、ユリアの袖をそっと引く。気分が悪いわけではないのだから、自分につき合わせるわけにはいかない。
「あ、あの!大丈夫ですから、どうぞお二人と一緒に向かわれた方が・・
こんな所に女性が一人残るのは危ないですから、」
「何をいってるの!貴方も一緒に行くのよ。
そんなに青い顔をして、平気なわけないでしょう。
それに一人が危ないのは貴方もよ。
大丈夫よ!私はこう見えて強いんだから!貴方の事もちゃんと守るわ!」
「え、いえ、あの、・・・」
「さあ、これを着て。こんなに寒いところでそんな恰好でいるなんて。
女の子なんだから、きをつけないと!
もう、もっと早く着せてあげればよかったわ、あの二人も男なんだから・・」
何やら最後はよく聞き取れなかったが、彼女が自分を年下の少女として心配してくれていることは理解した。確かに身体が再生されたといっても来ていた物まで元に戻るわけがない。辛うじて裸になるのを免れたのは、碇ユイが特別に誂えた専用の防具を着ていたからだ。自分の認識が追い付いていなくても、幼児ではない女が裸体を晒すのは周囲にも迷惑だろう。申し訳なく思いつつもマントは有り難く拝借した。
「ええと、あら、それで貴方の事はなんて呼べばいいかしら?」
ユリアは、自分がなにか本名を名乗れない理由があると思ったようだ。
名前、ではなく、呼び名、と言い変えられた質問でそれに気づく。
本名を名乗りもせず、戦場で一人で立ち尽くす子供など怪しいの一言に尽きるだろうに、彼女の態度はただ目の前の子どもを気遣う大人のそれだ。彼女の微笑みを向けられると、自分には誰かの優しさを受け取る資格などないという事を忘れてしまいそうになる。足が竦んでしまいそうになるのを無理やり動かしてついて歩きながら、辛うじて浮かべた笑みでユリアに答える。必死に考えて考えて、やっと思いついた名前を名乗った。
(シンジ、は違う。
娘なら、レイ、かもしれないけど、それは”彼女”の名前だから、それも違う。
なら、・・・なら、・・・レ、ン、にしようか、な。
シンジとレイから、一文字ずつ貰って、レン。
それなら、今の自分の名前だって言えるかも。
そうだ、ね。そうしよう。)
「あの、私は、・・私の名前は、レン、です。
レンと呼んでください。ユリア、さん。」
おずおずと名乗る。
まだ馴染まない新しい名前をぎこちなく名乗ると、ユリアが突然しゃがみ込んだ。
驚いてユリアの傍に走り寄る。みれば肩が震えている。何かあったのだろうか。どうしたらいいのか分からずに
そっと背中に触れて呼びかけた。
「あの、ユリア、さん?どうしました?あの・・」
「(~~~~~可愛い可愛い可愛い可愛い!!
ユリアさん?!・・なんて良い響き!!
しかも上目づかいに桃色の頬のオプション付き!!
なんでここにキョウコが居ないのかしら!
いたらこの気持ちを分かち合えるのに!!)
・・・・~~~~~ああ、もう我慢できないわ!!
なにかしらこの可愛い生き物は!!」
「あぇぇぇぇと、あの?!」
顔を覗き込もうとすると再び唐突に起き上がったユリアに力いっぱい抱きしめられた。何やら叫んでいるが意味がわからない。顔は笑っているから気分が悪いわけではないらしい。痛くはないが若い女性に抱きしめられる経験などほぼ皆無の為どうしたらいいのか分からない。そのままの状態で数分が経過する。そろそろ離してくれないかな、と思っているとユリアの後ろから呆れたつぶやきが寄こされた。
「遅いと思って心配してれば、まさか年下の女を襲っているとはな・・・」
「あら、フレイル。失礼なこと言わないでちょうだい。
可愛い生き物を愛でて何が悪いのよ?
襲うだなんて・・ちょっとしたスキンシップじゃないの。」
「同姓だろうと本人の了承がなけりゃセクハラじゃねぇのかよ?
・・そろそろそいつ離してやれば?すげぇ真赤じゃねぇか。」
「えぇ~~~・・もう、わかったわよ。
うふふ、レンちゃん?後でゆっくりお話しましょうね♪
あ、それより野営の準備はできたんでしょうね?
勿論この子も一緒に泊まりますからね。」
「そーいうと思ったよ。」
ユリアが渋々と両手を離す。すると後ろに見えるのはやはりフレイルの呆れた表情だった。二人のテンポの良い会話について行けずに視線を行き来させていると何時の間にやら野営地についていた。ユリアの抱擁で断るタイミングを逃してしまった。今更暇を告げるのもユリアに失礼な気がするが本当に良いのだろうか。あからさまな敵意はないがやはり探る様に見てくるフレイルに視線を送るが一度舌打ちしただけであっさりと踵を返される。
「(ええと、・・・良くないよね、やっぱり・・)あの・・ユリアさん、私は・・・」
「あら、駄目よ。こんな暗くて寂しいところで別れるなんて!
大丈夫、貴方のことは私が責任持って護るから安心して!
明日ちょっと調べることがあるけど、その後どっか安全な所まで送っていくから!
もし行くところがないなら、私たちと一緒に行けばいいわ!
あら、なんて良い考えかしら!そうね、そうしましょう!」
「ええ、と、・・・初対面の方にそこまでお世話になるわけには・・
自分の身は自分で守れますし、・・お忙しそうですし・・・ええと・・」
なんとかやんわりと申し出を辞退する言葉を探すが上手く出てこない。ユリアの純粋な親切を撥ね退けるのは心が痛むが、自分はそんな風に優しくされていい人間ではない。落ちついて思い返せば自分が着ていた防具には国の紋章が刻まれていたはずだ。ならば自分はあの国の兵士だと思われていたんだろう。フレイルの警戒も当然である。軍が引いた戦場で何をするでもなく一人でいる兵士など、逃亡兵か人には言えない所業をしているか、のどちらかくらいだろう。実際には敵国の軍勢ごと焼き殺されたことになっているのだから、もう死亡リストにでも乗っているだろうけど(・・存在がなかった事にされてるかもしれないけど。・・)事情を知らない他人からみれば怪しいの一言に尽きる。自分は今更あの場所に戻る気はないし、ユリア達がもし敵国の人間でも何かをする気もないが、何も話さずそれを察しろというのは無理な相談だ。フレイルが自分を警戒するのが当たり前で、ユリアの態度の方がここの場ではおかしいのだ。・・・なんで疑うことなく優しくしてくれるんだろう?
「ええと、・・・それに、」
「・・・・レンちゃんは、私と一緒にいるの、嫌・・・?」
しどろもどろで言葉をつづけていたら、ユリアが突然ぼそりと呟いた。あちこちに泳がせていた視線を正面に戻してぎょっとする。華奢な肩をしょんぼりと落として、涙目のユリアが上目づかいでこちらを見ていたのだ。
「(えええええ!ど、どうしよう。迷惑がってると思われた?!)
あ!いえ!そうではなく、あの、私はユリアさん達にとって初対面の怪しい人物なわけですし、あまり信用したりするのは如何なものかと思いまして!! もし、私が夜中に突然襲いかかったりしたら取り返しがつきませんでしょう?!フレイルさんやサザンクロスさんも、ユリアさんを心配なさっている筈ですから、正体不明の人間を傍に置くのはおやめになった方がよろしいかと・・・!」
焦りに焦って言い募る。ユリアの優しさが嬉しかったのは事実だ。迷惑だなんて思っていないし、彼女と一緒にいるのが嫌なわけではない。けれど今現在自分の置かれている立場が確定しない以上、彼女達に自分の存在が害にしかならないのも事実だ。万が一ユイやゲンドウが自分を探しにきたり(ほぼ確実にこれはない。二人はあの時譜術の範囲に自分が居ることを知っていた。ならば普通に死んでいると思っている筈だ。再生能力はばらしていないのだから。)、自分を疎んで処分しにきたり(死んでると思ってるならこれもない。存在を消す為に遺体を確実に処分する可能性もあるが、今現在無事だったなら遺体も消滅したとでも思っているのだろう。ゲンドウがその手の処理にもたついて遅れたとは思わない。)、敵国の兵士が自分を覚えていて襲ってきたり(一番可能性が高いのはこれか。しかし他の二つも可能性だけなら捨てきれない。どの道他人にとって迷惑極まりない存在だという事実は変わらない)したらユリア達も巻き込んでしまう。
そんな厄介事に巻き込む前に離れなければと思ったのだが、言葉が下手なせいでユリアのことを傷つけたのだろうか。こんな時に過去の引きこもり気質を心底恨む。もっと対人関係のスキルを上げておくべきだった。
「あのですね、ですから、私は決して嫌とかではなくてですね、・・ええと~
(・・・それに、私が一番信じられないのは、私自身だ。
誰かに優しくされるとあっさりと依存して寄りかかってしまいたくなる弱さが、何よりも信用できない。
だから、優しくされちゃ、だめだ。・・早く離れなければ。)
・・ですから、私は此処でお暇を・・・・マント、ありがとうございまし、 ふきゃあああ!!」
「ああああああ~~~!!可愛い可愛い可愛い可愛い!!見なさいよフレイル!
こ~んなに可愛い子が困ってるのよ?!
放っておいたりしないわよね?!放っておけないわよね?!
私がこの子を保護しても構わないわね?!てか保護するわ!!
はい、決定!!反論は受け付けません!!」
申し訳なさと己の情けなさにだんだんと視線を下げつつユリアへと話す。目の前で涙目になって落ち込む彼女を見ると意思が挫けそうになる。だから、彼女が唐突に抱きついてきた時、不覚にも悲鳴を上げてしまった。ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめられて息が苦しい。満面の笑みで背後のフレイルへと宣言するユリアへ反論する暇もない。フレイルは何故か気不味そうな視線を泳がせてユリアに頷くと、こちらを何とも言えないような視線で見ている。その中に、猜疑と警戒が薄れているのを認めて首をかしげた。(・・・なんで?ユリアさんの勢いに押されてるのかな?ってそうじゃなく!!)
「あ、あの!ユリア、さん!私は--- 「レンちゃん!!」 はい!!」
必死に声を上げるがユリアに大きく名を呼ばれて背筋を正して返事をしてしまった。
そこで一転、ユリアは優しい笑みと静かな声音で労わる様に言葉を続けた。
まるで傷ついた小さな獣を宥めるような態度で、レンの背中をそうっと撫ぜた。
「大丈夫、怖がらないで。・・・私たちは、貴方を傷つけないわ。
だから、私と一緒に行きましょう?」
「っ--!」
言葉が出ない。そうだ、自分は怖いのだ。
誰かに優しい言葉を貰うとすぐに縋りついてしまいたくなる弱さも、
そうして縋った相手に捨てられるかもしれないと疑ってしまう弱さも、
その相手が望んだからと善悪の判別も付けずに諾々と従ってさらに罪を重ねた愚かさも。
全てが自業自得だと理解しているのに、相手を恨んでいる自身の醜さも、全てが怖い。
自分を消してしまいたくて堪らない。けれど、”二人”を解放しないうちは死んでしまうわけにはいかない。
・・けれど、もう、他人と関わるのは、怖い。
傷、つきたくない。痛いのは、もう、嫌だ。
怖い。傷つけたく、ない。殺すのは、もう、嫌だ。
戦えない自分に、価値なんかない、のに。
けれど、だから、
「つーか、そんなちっこい癖に何ができんだよ?
ガキはガキらしく大人に頼って甘えてればいいんじゃねーの?
ユリアはしつこいぜ~~?諦めてこいつの抱き枕にでもなってれば?」
「そうですね、大体本当に怪しい人間が、自分は怪しいから疑え、などと自己申告なんかしませんよ。 幼い少女を見捨てたりするのも後味が悪いですし、貴方は私達の自己満足に付き合ったという事で納得してくれませんかね?」
落ちかけた思考の闇を切り裂いたのは、一番自分を警戒している筈のフレイルと野営の準備で離れていたはずのサザンクロスだった。呆れた口調で敵意なく告げられたフレイルの言葉も、穏やかに笑いながら告げられたサザンクロスの言葉も、どちらもユリアの言葉と同じくらい優しくて、どうしようもなく泣きたくなった。
二人とも、自分が国の兵士として戦場に出ていた事に気づいている。サザンクロスに至っては、音なく唇の動きだけで言葉の最後にあの通り名を告げた。レンが、自国の兵士にすら畏怖された人間だと知っているのだ。それでもその笑みは崩れず、ユリアを引き離そうともしない。幼い少女、と称したレンを、本当にその通りに扱っている。本気で、レンがユリアに危害を加えることは無いと信じているようだ。
「どうして、・・・」
「あら、目の前にいる泣きそうな女の子を労わるのに、理由なんか必要かしら。
優しくしたいと思ってはいけないかしら。
・・・誰かに優しくされるのに、理由や資格なんか、必要かしら?」
「だって、私は!」
「貴方が、どこの誰でも。例え人殺しでも、敵国の兵士でも、犯罪者として追われていても。
私が、貴方に、優しくしたいと思ったの。
大体、ちょっと私が泣いたふりをしただけで慌てて自分も泣きそうになったり、寂れた場所に女性が一人残ったりするのは危ないと心配したりするような子が、 悪い人間なわけないでしょう!今まで何があったかなんてわからないけど、理由もなく貴方が他人を傷つけたりするわけないって事位すぐにわかるわよ!
・・・ね?だから、私と一緒に行きましょう? 私は、貴方を、絶対に傷つけないわ。」
その、言葉に、思わずユリアの手を取った。・・とってしまった。
また優しい言葉に縋るのかと自嘲しながら、それでも彼女の掌を撥ね退けることはできなかった。
それを、後悔したことなんか、一度もない。
彼女と一緒に行くと決めたことを悔やんだことは一度もなかった。
ほんの数年だったけど、彼女の傍に在れた事は自分にとって何よりも幸せだったと断言できた。
だから、この選択も、未来永劫後悔することはないと断言できる。これから先どれ程永い時間を過ごしても、もしも過去を何回繰り返したとしても、彼女の助けになるのならこの選択を選ぶのだとはっきり言える。
(だから、ねぇ、笑ってほしいな。
ユリアが笑って未来を生きてくれるなら、私にできることは何でもするから。
だから、どうか幸せになって。
それが私の望みだから、・・・だから、笑って。)
(・・・・けど、そうだね。本当はずっと一緒にいたかったよ。
いつか貴方が寿命を終えてしまうまで、その傍にいたかった。)
ふぅっと意識が浮かび上がる。
とても懐かしい夢を見た。優しい人と一緒に過ごした幸せな時間の夢を。
ぼんやりと視線を泳がせると薄暗い闇の中でキラキラと輝いて流れる粒子状の光が視界を埋めた。複雑な譜業と譜術を込めた譜陣が幾重にも取り囲む場所で目を覚ます。意識が覚めても動かせない身体で、唯一自由な視線を彷徨わせて周りを見渡した。相変わらず瘴気に覆われて薄暗い空の色に、微かな落胆と自然な諦観を同時に浮かべる。
大切な人の望みを叶える手伝いがしたくてこの役目を引き受けた。いつ解放されるかも分からないということも、意識だけしか動けないということも分かった上でここにいる。けれど後悔はなかった。あの時、彼女の願いを叶える為には、これが最も確実な方法なのだと理解していた。
自分を優しく慈しんでくれた人。彼女の助けになりたかった。
あたたかい優しさをくれた彼女に笑っていてほしかった。
彼女に幸せに生きていってほしかった。
だから、この役目を引き受けた。彼女を助けられると知って本当に嬉しかったのだ。
・・あんな風に、泣きそうな顔をさせるつもりじゃなかったのに。
懐かしい記憶を反芻して、同時に浮かんだ彼女の泣き顔に心が痛んだ。
その時、カチリ、と小さな音が鳴った。何かが意識の端に引っ掛かる。
なんだろうと思って思考を向けると、それは自分を大地に繋ぎとめる譜業から漏れ聞こえる音のようだった。
未完成で起動されてしまった外郭大地を保護する為に、吸い上げられる己の力を均等に分散させる為の中継地点の一つ。確か外郭大地の要所要所に刻まれた譜陣と譜業で保護のためのバリアを作り出す、そのエネルギー源に使われているのだったか。外郭大地の要になるのはパッセージリングとセフィロトだが、そこから網の目状に張り巡らされた仕掛けが大地を護ると言っていた。その中で確かイスパニア方面に造られたリングに通じるもの。いやキムラスカ帝国の辺りだったか?今もその国が残っているかは分からないが多分大陸の南側・・東寄りかな?その辺りの譜業から聞こえた気がする。点在する装置は何かに擬態させると聞いたから何も知らない後世の一般人がたまたま近くに集落でも作ったのだろうか。まさか遺跡か何かと勘違いされて発掘されるなどという事はないだろうな、と不安になる。聞こえたのは人の声のようだが。今まで目が覚めていた時間がそれほど長くはないから断言できないが、こんな事は知る限り無かった筈。まさか何か不調でもあるのかと不安になって、ローレライの存在を探そうとする。
そこで突然、意識が引き寄せられた。
まるで激流にのまれるように激しい勢いで引きずられる。地殻に残る身体から、意識だけが遠く離されて行く。せめてもの気晴らしにと、ローレライの助力で意識体を外に遊ばせた事はある。流動する第七音素の流れに意識体を乗せて世界を少しだけ眺めるだけだが、身体から精神だけを遠く離すのは初めてではない。だけど、これはその時とは全く違う感じがした。
視界を流れる景色が変わり続ける。地殻を流れる記憶粒子の光が遠ざかり、本来の大地が遠ざかり、瘴気に覆われた閉じた世界が遠ざかり、外郭大地と呼ばれる人工の地表が近づくまでに数秒もかからなかった。同時に引き離された身体の感覚までが薄く遠くなっていくのを知覚して殆ど恐慌状態に陥る。慌ててローレライを呼ぶが届かない。どうしてこんな事になったのか分からず動揺したまま引きずりだされたのは、やはり自分が繋がれていた譜業の一つのようだった。譜業の中心部に据えられた譜石と周りを半円形に覆う厚いガラスの筒の中に閉じ込められたところで、やっと移動が止まった。焦燥と疑問を抱えてあたりの様子を窺うと、硝子の筒の開いた部分から人影が見える。室内の様子はどこかの研究室のようで、もしやリングの調整の為に自分に確認が必要な事でもあったのかと考えるしかし漏れ聞こえる会話でそれは違うと気づいた。
人影をみて一瞬感じた安堵が、周囲深く聞き取った二人の会話に疑問に変わり、続けられた片方の言葉に怒りに転じる。
詳しい背景は知らないが、二人のうち青年の方の主張はまるで八あたりにしか聞こえない。どうやら激昂している青年が、この譜業に背をつけて硬直している少年の父親の研究実験に利用されて酷い目にあったらしいことは分かった。だが、どんな目にあったにしろ、それをしたのは少年ではない。しかも研究に利用されたのは少年も同じらしい。少年の場合は施された実験が成功して結果的に無事生存できたらしいが、それは少年の所為ではないだろう。確かに青年が加害者である少年の父を憎むのは、普通の感情だろうと思う。最も近しい血縁である少年も憎悪の対象になるのも、共感はしたくないが理解はできる。勝手だとは思うが、人間の感情はそんなものだ。
だが、何故、少年が罰を受けるべきだという結論に達するのかが分からない。
父親の罪は父親の罪だろう。少年自身も己の意思で研究に携わったというなら兎も角、ただ被験者として利用されただけである。近親者として共に責任を負うべきだという考えなのかもしれないが、だから青年の復讐を甘んじて受け入れろというのは余りにも理不尽過ぎる。しかも少年の生を否定するもう一つの根拠を聞いた時、怒りは頂点に達した。
今ここがどこで、自分の状態がどうなのかなんて思考は全て吹き飛んだ。
ただ、目の前の少年を助けなければと言うことだけに意識が支配された。
瞬間傍らに鎮座する譜石が反応し、譜業のプログラムが起動する。無音に近いため互いにしか意識がいってない二人は気付かない。身体から遥か遠く無理やり引き離されて、希薄になっていた感覚が唐突に戻り始める。怒りに突き動かされたレンは、それを単純に好機ととって、青年が放とうとした譜術を咄嗟に防いだ。少年を守ろうとすることに必死で、感覚が戻り身体が再構成される傍ら、少しずつ不鮮明になっていく部分があることには気付けない。ただ自由に動かない己に苛立ちながら少年を抱きしめる腕に力を込めて、青年を威嚇する。
激昂して青年に叩きつけた言葉が、硬直していた少年を刺激したらしい。今まで酷く虚ろな瞳で死を受け入れようとしていた少年が、突然力を取り戻し目の前の青年を返り討ちにする。少年を庇おうとした自分を後ろ手に制する彼に、先ほどまでの迷いはもう見られない。倒れ伏した青年への苦々しい思いと怒りは消えないが、とりあえず危機的状況は脱したことに安堵する。
そこで同じように脱力した少年が振り向いてこちらを見た。少年の菫色の瞳に映った己の姿を認識して、今更この状況への焦燥が蘇る。吹っ切れたように力強く笑って礼を言ってくる少年へと返事を返しながら、不安定な視線でうろうろと辺りを見渡すが現状は変わらない。笑顔が心配と疑問に変わった少年のことを気にかける余裕もなかった。とにかく意識を身体に戻さなければと、譜業の中に戻ってみる。
地殻の奥に埋められたリングの最奥部分からここまで引きずられてきたのだから、そのまま逆行すれば戻れるはずだ。なぜか身体が再構成されているが、これは譜石を作る技術から発展させた音素による物体構築の理論を流用した仮の肉体だろうと辺りをつける。たしか”XXX”が一番得意な分野の技術で-----
「(え、・・・・)」
そこまで考えて思考が停止する。
何とか元に戻ろうとして動かしていた手元も凍りついたように動かない。突然不可解な動きを始めた自分を心配そうにみて声を掛けていた少年の存在すら消えた。・・・・・自分は、誰を呼ぼうとしたのだろう?
「(綾波、カヲル君、”XXX”、”XXXXX”、・・・なんで、)」
「(・・・・”XXX””XXXXX””XXXX””XxXXX”?!うそでしょう?!
・・”XXXXXX”!”XXXXX”!”XxXX”!”XXX”!”XX”!!”XXX”!!!?・・・どうして?!)」
思い出せない。思い出せない。思い出せない!!
大切な人だったはずだ。
絶対に忘れたくない、忘れられる筈がない大事な。
消える筈だった自分を守ってくれた大切な二人の友人と、
絶望したまま新しい世界で生きることになった自分を救い上げてくれた大切な人たちと。
どちらもかけがえのない、大切な友人だったはずだ。
綾波とカヲル君のことはきちんとわかる。
自分を護ってこの魂の一部に溶け込んでしまった二人のことは覚えている。
・・・そして、二人がもう自分の中から解放されたことも、覚えている。
彼らをいつまでも自分に縛り付けるわけにはいかないからと、”XXX”と”XXXXX"の助力を得て無事にこの世界に転生させたのだ。そこまではっきり理解できるのに、その助けをしてくれた人たちの名前も顔も思い出せない。
彼らとの出会いも触れ合った記憶も、交わしあった感情も、何もかもが思い出せない!
ぼんやりした印象は覚えている。いつ頃出会ったのかもなんとなく覚えている。
だが、彼ら一人一人を思い出そうとすると、途端に記憶が不鮮明になる。
顔も、名前も、はっきりと思い出せない。
彼らがいたから、今の自分が生きているのだと知っているのに。
あの時、彼らに会えたから、生きたいと思う自分を受け入れられたのに。
・・・なのに、なんで分からない?!
「(うそだうそだうそだ。・・そうだ、身体に戻れば、・・・なんで戻らないの?!
なんで、どうして?!”XXX”! ”XXXXX”??!早く元に戻らなきゃ!!)」
焦燥が恐怖に変わり、強張った表情がほとんど泣き顔になる。焦って動かし続けた手が震える。幾ら操作を続けても譜業が起動することはない。形作った肉体が再び音素に溶けることもなく、身体に宿った精神が本体に戻る方法も分からない。唇がわななく。視界がぼやけて座り込んだ膝を濡らした。
・・やっぱり動かない。
どうしようもなくなって動きを止めた。ばたばたとみっともなく涙を落して肩を震わせる。
そこで突然今まで存在を忘れていた少年に抱きしめられた。どう頑張っても元に戻れない事に絶望的な恐怖を感じて、途方に暮れていたため抵抗しようという考えを浮かべる余裕もなかった。少年が優しい仕草で自分の体を譜業の外に下ろすのを感じても再び作業を再開する気力もない。これからどうしたいいのだろうと考えて立ち尽くすレンを、傍らの少年が抱きしめ直す。硬直して身動き一つできない自分に何か感じたのだろうか。強く抱きしめたまま優しく背中を撫でられた。そのぬくもりに、思い出せなくなってしまった大切な人たちの記憶が重なって、更に涙が溢れた。
「(どうしよう・・・どうしたらいい?私は、・・・・”XXX”----)」
+++
ぼんやりとしていた少女の輪郭が鮮明になるに従って不安定になる彼女の様子に、とうとう少年が行動を起こした。登場の仕方や少女の振るった力が不可解だったこともあり、安堵と感謝の他に僅かな警戒を抱いていたが、彼女の混乱と落胆がそれら全てを吹き飛ばす。少年--キラはとにかく彼女を落ちつかせようとして強く身体を引き寄せる。全身を震わせて必死に譜業を弄る姿も、唇を噛みしめて大粒の涙をこぼす姿も、少女の幼さだけを露呈してキラの庇護欲を刺激した。多少の問題なら片付ける自信も実力もある。キラ自身衝撃の事実を知ったばかりで動揺していたが、それよりも目の前の少女を守らなければ、という思いが凌駕して研究に夢中になっている時以上に冷静に思考が働く。
どんな事情があるにせよいつまでもこんな廃墟にいるわけには行かない。
それに曲がりなりにも自分はキムラスカ公爵家の嫡男で、手伝い程度だが軍務にも関わる身である。
不測の事態であるとはいえ、いつまでも帰らずにいていいわけがない。
今回の事で判明した事実が今後の自分にどう影響するかは分からないし、
今後の身の振り方もよく考えなければならない。
何はともあれ先ずは帰ってから相談なり調査なりして考えなければ。
同時に目の前で泣いている少女を放置もできない。
彼女は現れた時の状況といい青年の攻撃を防いだ時の術といい、何が厄介な事情を抱えている可能性はある。オールドラントで絶対と掲げられる預言をあっさり否定してみせた事も合わせると、彼女には関わらないでおくのが自分にとって一番安全だともわかっていた。
けれど、キラは既にこの少女を見捨てる気にはなれなくなっていたし、彼女を手放しがたく思い始めていた。彼女がいなければ、彼女の言葉がなかったら、今ここに立っている自分は存在しなかった。存在を丸ごと否定されて絶望しかけた自分を救い上げてくれたこの少女を、手放そうという考えなど微塵もなかった。
彼女が何やら酷く困っているのは一目瞭然だ。そして自分は彼女に傍にいてほしい。
だったら、自分が今度は彼女を助ければいいのだと思考を完結させて手を伸ばす。
一瞬抵抗するかと思った少女は予想に反してあっさりと腕の中に収まった。
連れ帰るのは確定事項とは言え、とりあえず簡単な事情位は聞いて置くべきかと少女の瞳を覗き込んだキラは言葉に詰まる。キラを守ろうとした時の苛烈な光など欠片も見えない。虚ろな瞳に涙を浮かばせて恐怖に震える小さな少女は、酷く頼りなくてまるで帰る家をなくした小さな子どものようだった。思わず強く抱きこんだキラに身体を強張らせた少女は、優しく背中を撫でるぬくもりに気づくと恐る恐る力を抜いた。そして声もなく泣きながら、キラの服を握りしめる。その痛々しい泣き方に、抱きしめるキラの心も締め付けられた。
泣いていた少女がいつの間に疲れて眠ってしまっても、少女の夢を護るように優しく抱きしめて撫で続ける。しばらくそのまま座り込み、薄暗かった周囲が完全な闇に沈んだ頃ようやっとキラ動いた。未だ深い眠りについたままの少女を静かに抱きあげて、しっかりした足取りで出口に向かう。外に出る際、一瞬だけ倒れたままの青年に視線を走らせるが何の感情も浮かべない硬い表情で夜空の下に進み出た。
星が瞬く。月の光が薄い、静かな夜だった。
二千年ぶりに空の下で呼吸した少女は、未だ深い眠りの中で、一時の安らぎを享受していた。
まだこの時は、世界中の誰ひとり少し先の未来で全ての人々が迫られる選択の存在すら知らなかった。
それでも、それぞれの場所で、幾つかの出会いと別れと決意がなされて、少しずつ歯車は動き始めた。
始まりは、そんな日だった。
分岐する未来の、始めの一歩は、そんな静かで穏やかな夜だったのだ。
それが、始まり。
ちょっとおまけ。
「とりあえず、この子の戸籍は・・・・僕の妹ってことで良いかな。うん。
ヒビキ博士の遺品を整理してて存在が知れた実妹ってことにしとこっと。」
吹っ切れたキラは、何処までも呑気な口調でつぶやく。
こちらも何処までも平穏に始まった。・・少なくともキラにとっては。
まだ眠っていたレンは知る由もないうちに、新しい関係の出来上がりである。
「この子が起きたらびっくりするかな~♪」
開き直ったキラに敵うものなど、当時のキムラスカには存在しなかった。
後に親友となる青年曰くの史上最強のシスコン誕生の瞬間であった。
合掌
・碇レンver
・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。
・本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします
CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)
です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。
+++
流れてきた大量の記憶が少年の形を壊すほどの勢いで流れていく。
それでも少年自身のカタチは無理やりに囚われたまま力だけが流れ込む。
そして、知る。
すべてが流れるのは鬼神に囚われた少年を媒介に世界と接する母の内
少年を濾過の為の装置に見立てて、純粋な力と知識だけを得ようとしている女
それこそが、女の立てた計画だったと
天才の名に相応しい優れた頭脳で、意識的無意識的に組み上げられた精緻で綿密な全ての道筋が、この計画の真髄だったと、理解する。
母が全ての原因である古文書を紐解いたのも
父が母に執着する心を知って態と希望を残して喪失を突きつけたのも
愚かな老人達の権力を利用するために煌びやかな計画を立てて見せたのも
あらゆる人を、愛情で嫉妬心で敵愾心で好意で憎悪で憧憬で嫌悪で縛りつけ
ただ、己の望みの為の駒へと仕立て上げた純粋で無邪気で狡猾な聖母
神殺しの槍に貫かれた鬼神と共に磔られた少年の犠牲の下に、世界を構成する全ての力がたった一人の内へと集まる
生み出されるのは永遠の命と 全ての生き物の知識を有した全知の カミサマ
そのための、女の計画
確かに彼女が人間を愛していたのも本当の事だったけど。
彼女が少年を夫を愛していたのも本当の事だったけど。
・・・それは、彼女が抱いた至上の望みに置き換えられるほどには、重いものではなかったというだけの、事。
そして、生み落とされたのは、たった一つに寄り合わされた数多の生命の合成体〈キメラ〉
”それ”の中心に己を据えて、全知と全能の、永遠の存在になることが 女の望み
+++
ユイにとって、人類の生きた証を作り上げるという事は、何よりも優先される悲願だった。
いつか消えてしまうかもしれない人間が、過去に確かに存在したのだとい証拠を残すという事が、行き詰った人類にとっての希望になるのだと本気で信じていた。いつか滅亡してしまうかもしれないという恐怖を打ち消すことができる光明になりえるのだと考えていた。いつか人類が消えるかもしれない予測があっても、今を生きる為の希望になるのだと本当に思っていたのだ。
だからこそ、残される”証”は、完璧なものでなければならなかった。
全ての生命が繋がりあって他者との境界がなくなって、存在する全ての生き物の記憶が一つの意識として存在できるなら、それはまさしく全知の存在になるのだろうと考えた。全ての生命が溶け合って世界全てを構成するエネルギーが一つの”イキモノ”として存在するのなら、それはまさしくあらゆる生命の能力を備えた全能の存在になるのだろうと考えた。全ての力を一つに合わせて生まれたいきものならば、それはまさしく永遠に生き続ける不変の存在になるのだろうと考えた。
ならば、その全知にして全能の、不変にして永遠の存在になる”カミサマの器に相応しいのは、人類で最も優れた者だと、考えた。誰よりも優れた者がその器に宿るからこそ、生まれおちる”人類の生きた証”である”カミサマの器”がより完璧なものになる、と考えた。
そして、碇ユイが知る限りで、最も優秀な人間は、まさしく己自身のことだったのだ。
誰よりも優れた頭脳をもって、誰にも優しい慈愛を持って、周り全てに愛された、己こそが誰よりも相応しい、と。
彼女には”人類の生きた証”を作り上げる過程で、終わりを知らされることもなく”カミサマ”の材料として溶かされてしまう一人一人が、自分と同じようにこの世界に生きている人間なのだという認識が欠けていた。彼らがそれぞれ家族や友人や恋人と生きることを望み、それぞれがぞれぞれに違う想いや夢や希望を抱いていることなど知ろうともしなかった。例え将来人類が滅ぶとしても、今ここで大切な人たちと一緒に生きることを望んでいるのだということを考えもしなかった。
・・・それがどれほど傲慢で、自分勝手で、他者の心を踏みにじる考えなのか、気づこうともしなかったのだ。
だから、作り上げられた”カミサマの器”に宿るのは自分であるのだと欠片の疑問を持つこともなかった。
世界全てを混ぜ合わせて産み落とされる”カミサマの器”は、自身のものであると当たり前に考えた。
そして実際に生れた”カミサマの器”は、碇ユイの為だけのものだった。
その事を、鏡を見るたびに、思い知る。
・・・なんて、忌々しい。
+++
パチリ、と目を開く。
映るのは薄暗い空の色。
感じるのは焼け焦げた土の匂い。
伸ばした手に触れるのはぐちゃぐちゃに踏みにじられた地面の感触。
どの位時間がたったのだろう。真昼であっても暗く霞む空では時間が測りづらくてしょうがない。多少は明暗がある為昼か夜かくらいは分かるし、夕暮れ時には西が赤黒く染まる為大凡の時刻位は推測ができる。けれど、自分がどの位ながく意識を失くしていたのかがわからない為、あれから数時間なのか数日なのか数か月なのかがわからない。・・・わからなくても別に大したことではないが、反射的に考えただけだ。多少の怪我ならともかく、この世界で実体を得てから全身を高熱の炎で焼かれる程の損傷を負ったのは初めてだったため治癒速度がどれほどだったのか判断できない。のろのろと身を起こすが痛みも違和感も全くないことを考えると其れなりに時間がたったのだろうと思う。周りに残されたあの譜術の痕跡が、焼けた大地だけであることを考えても、戦闘の後始末は当の昔に終わっているのだろう。自分がここで起きているなら、別段遺体を回収することもなかったようだが、あの術で形を残せたものなどそう多くなかったはずだ。ならば残りは焼き尽くされて炭化でもしたのか。
焦げくさい風に髪を揺らしながらぼんやりと空を眺めて考える。
これからどうしようとか、どこにいこうとか、先のことは考えない。
頑なに遠く霞む王城を視界から外す理由にも意識を向けない。
思考を巡るのはとりとめのないものばかりで、自分の状態を詳しく確認する気も起きなかった。
あの時、感じ取れなった二人の存在を己の内に探ることもしなかった。
もし、二人がいなかったなら?
もし、二人が自分のことを厭ったら?
そう思うと恐怖で身が竦んで視線を動かすことすら怖かった。
けど、視界に入る焦土は、自分が作ったも同然なのだ。
幻想でも良いからと、甘い言葉に縋りついて碇ユイの求めるままに協力した研究から生まれた譜術で焼き払われた一面の大地を見る。プラネットストームと呼ばれる音素の供給機関が損傷した現在、これ程大規模な譜術など早々発動させるのは難しい。そのため行き詰りかけた研究が再開できたのは自分に会えたからだとユイは言った。あの時戦場を焼き払った自分の力が、彼女に何かのヒントを与えたらしい。その研究で生まれるものが、戦争で使われるのだと知りながら、彼女に求められてみたくて諾々と従った結果がこれだ。
それだけではない。国を護る為に協力してほしいと言われて、戦場に出ることすらした。余り大規模なものではなく殆どユイの護衛のようなものではあったが、自分の意思で沢山の兵士を切った。敵だけでなくこの国の軍人達にも恐れられた。彼らが自分に付けた通り名も知っている。
・・・鮮紅の死天使、と呼ばれた瞬間の気持ちはどんなものだったのかはっきりと思い出せない。
大人しく優しげな風貌で、誰よりも多く鮮血を散らす。そのギャップを揶揄したものだ。言い得て妙だなと皮肉気に口元を引きつらす。天使、ときいて思い出すのは紫の鬼神が暴走した時に顕現させた緋色の羽根だ。成程、あれのパイロットであった自分には相応しいだろうと思ったものだ。
(ああ、本当に、救いのない。・・・二人に見放されても仕方ない、な。
・・・けど、自分を消すなら、あの二人を無事に解放してからじゃないと。
どうしよう、か・・・・)
+++
流れ込んだ母の記憶に壊れそうだった少年の心を、最後にまもったのは二つの魂。
女神と始祖のナカへと還った二人の想いが、消されそうだった彼を救った。
少女は、彼を本当に護りたかった。
彼が傷ついた自分を庇ってくれた初めての戦いで
彼が己の怪我を省みず助けてくれた月下の戦場で
彼が心を表す言葉を持たない自分を気遣ってくれた日常で
ぎこちなく差し伸べてくれた手のぬくもりと
はにかむように向けてくれた優しい笑顔と
拙く必死な彼の想いが
本当に大切で、失いたくないものだった
人間でありたい、と願いながら、絆を失うのが怖くて人形として生きていた。ぬくもりを渇望しながら、自分からは動こうとしなかった己の弱さを、教えてくれた人だった。自分が人間であるために、決して失くせない存在だった。本当に大切で、失いたくない人だった。 だから、彼を守る事だけを考えた。
・・けれど、その行動が少年を追い詰めてしまったのだと、今になって思い知る。
(だからこれは、私が今度こそあなたを護るために自分で決めたこと。
・・後悔なんてないから。 どうか泣かないで。 碇君 )
少年は、本当に彼のことが好きだった。
与えられた資料から窺える彼の臆病で不器用な在り様が
初めて会った時にくれたはにかむような純粋な笑顔が
実際に言葉を交わして知った、彼のぎこちない優しさが
どうしようもなく繊細な魂の美しさと
純粋で真直ぐな好意と
脆くて壊れやすそうに見えるのに決して壊れない彼の強さが
自分に齎した、快い感情の変化が本当に愛しくて大切なものだった。
自分は人間ではなかったけれど、一時であっても人間としての在り方を感じさせてくれた彼のことが、何よりも大切になっていた。 けれど己の本能に逆らう事は不可能だから、せめて彼の手で終わらせてもらえるならば、彼と同じ人間として死ぬ事ができるのだと、思ってしまっただけなのだ。そうすれば人間が滅ぶ事も無く、彼も死ぬ事もないと思っていたから、それを選ぶことを決めたのに。
・・・それが、何より彼を傷つけたのだと、今の自分は知ってしまった。
(ならば、今度こそ君を護るよ。 シンジ君。 ・・だから笑って。)
少年と少女の願いはそれだけだった。
ただ、この子どもが生きていること。
それさえ叶うならば、世界が幾つ消えようと、他人がどれ程死んでいこうと、関心すら抱かなかった。
子どもが無事なら、それでよかった。
もう、それだけで、よかったのだ。
+++
「ねぇ先生。ここがそうなの?一面見事に焦げてるわね~。
これじゃあ、譜術の痕跡を調べるのは難しいかしら。」
「そうですね、報告では地面に描いた譜陣と備えられた譜業を連動させるそうですから、完全にとはいきませんが・・・ とりあえず残った音素の構成だけでも知れればいいですよ。後はフランシスとナオコに任せましょう。キョウコとヴォルターが 何か新しい情報を持ってくればもう少し詳しくわかるでしょうし。」
「おいユリア、足元を見て歩けよ。こんな荒れた場所でよそ見すんなって!
お前昨日も薪拾いの途中ですっ転んだろーが!」
「うるさいわよフレイル!
そんなしょっちゅう転んでるみたいな言い方やめてくれる?!
まるで私が間抜けみたいじゃないの!」
「みたいもなにも、その通りじゃねぇか・・」
「何ですって?!」
「なんでもねーよ!!」
ぼんやりと佇んで空をみていたら、遠くから賑やかな話声が聞こえた。女性が一人と男性が二人。笑い声を交えて楽しそうな口論が少しずつ近づいてくる。こんな場所に何をしに来たんだろうとは思ったが視線は向けなかった。どうせ自分には関係ない。この戦場で死んだ者に関係がある人間ならば、自分に復讐でもするかもとは思ったが、彼らの和気藹々と楽しそうな会話にそんな負の感情は見いだせない。だったら彼らが通り過ぎるのを待てば良い。けれどそこで聞こえていた会話が止まる。次いで感じたのは殺気と警戒混じりの視線だ。まぁ、こんな場所で一人で佇む人影など怪しいことこの上ないかと思ったから特に何を思うでもなく身じろぎもしなかった。
「----おい!お前、こんなとこで何をしてるんだ?!」
「ちょっと、フレイル、」
「ユリアは下がってろ!おい!」
剣を突き付けられて詰問される。警戒しているから距離は開いているが、譜術でも使えば一瞬で無効化される程度の間合いである。本気で危ないと思うのならば問答無用で切り捨てにかかるか、譜術で昏倒でもさせれば良いのに、と他人事のように考えた。どうせ怪我をしたところですぐに癒える。実際全身が焼き爛れてもこうして五体満足で立っていられるならば、多少殺されかかっても大したことではないだろう。面倒だから、攻撃されたら死んだ振りでやり過ごそうか。埒もない事を無言で考えていたら馬鹿にされているとでも思ったのか、ますますいきり立つ青年が剣を構えた。後ろ手に庇う女性が止めようとするのを煩わしげに振り払っている。傍らの青年は無機質な視線でこちらを観察しているようだ。
「おい、お前!無視してんじゃねぇよ!---っこの、魔王絶炎こっ--」
「待ちなさいって言ってるのが聞こえないの!馬鹿フレイルーー!」
ドゴッ
凄まじい打撲音が響く。流石に驚いて視線を向けた先には、大きなこぶを押さえて蹲る青年が悶絶している。傍らの青年は何を考え居るのか分からない表情でそっと視線を明後日の方向に投げていた。そして蹲る青年の後ろには、振りおろした杖を構えたままの女性が輝かしい笑みで足もとの青年に絶対零度の視線をおとす。
「フレイル?私は前にも言わなかったかしら?見境なく周りに攻撃するのは止めなさいって。
あった人が皆味方とはかぎらないけど、同時に敵だと断定されたわけでもないのに戦闘を仕掛けるってどういうこと? そのせいで、どれだけ無駄な諍いが起きたか、忘れたとは言わせないわよ。」
「~~~~~~っ!!!でも、ユリア!
こんな戦場跡に立ってる奴なんか怪しいにきまって、」
「フレイル」
「いや!わかったごめん!悪かった、反省してる!」
「謝る相手が違うわね」
「~~っ、おい、あんた!すまなかった!」
反論する青年--フレイルというらしい--に、更に杖を構えた女性--ユリアと呼ばれている--が一段低くなった声音で名を呼ぶ。その声に慄いたフレイルが勢いよく頭を下げた。だがユリアは謝罪するのは自分にではないだろうと促す。その言葉に一瞬気まずげに視線を泳がせるが、勢いよく謝罪を吐き出し頭を下げるフレイル。真っ直ぐな謝罪に些かうろたえていると、ユリアも言葉を継ぐように話しかけてきた。
「本当にごめんなさいね。怪我はないかしら?
あったらすぐに治療するから言ってちょうだい。
いきなり剣を向けるなんて、本当にお詫びのしようもないわ。
大丈夫だったかしら?」
申し訳なさそうに眉尻を下げたユリアが優しく微笑みながらこちらの様子を見回している。どうやらフレイルの攻撃が本当に不発だったのか確認しているようだ。怪我がなくても殺気混じりに剣を向けられたなら怯えているだろうと心配しているのかもしれない。安心させるように柔らかな声で話しながら少しだけ歩み寄り、触れない程度の距離で立ち止まる。警戒していないことを教え、相手に逃げる隙を与える位の距離を保って話かけてくれる。優しい人なのだろう、と思った。
「私はユリア、頭を下げてるのはフレイル、この人はサザンクロス、というのよ。
ここには前回の戦闘で使用されたっていう譜術の調査に来たのだけど、
--ええと、名前を聞いてもいいかしら?」
自分達の自己紹介とここに来た目的を告げてからこちらの名を訪ねられる。快い声に柔らかく話しかけられると、するすると強張りが解けていくようだ。緊張はなかったが硬くなっていた表情が少しだけ緩んだのを自覚する。それも「戦闘で使用された譜術」の下りで再び強張ったが。それに気づいているだろうに見ない振りで優しく促されて恐る恐る口を開いた。
「大丈夫、です。怪我はありません。
暗い場所でいきなりあったんですから警戒するのは当然ですから気にしてません。
・・・私、は・・私の、名前、は・・・」
そこで、とまった。
名前、と聞かれて、言葉が詰まった。
なんて答えていいのか、本当にわからなかったのだ。
(名前?僕・・・私、は、)
シンジ、とは名乗れなかった。
この世界にいたシンジの名前を名乗るわけにはいかないという理由もあった。
それに、今の自分は”あの世界”に生きていた”碇シンジ”とは別のものに変質してしまっていることを嫌というほど理解していたからでもあった。けれど答えられなかったのはその二つとは全く別の理由だった。
・・”シンジ”は碇ユイとゲンドウの間に生まれた”息子”の名前だ。
ならば、今の自分はシンジとは名乗れない。
だって今の自分は、
(だって、もう自分はシンジじゃない。
・・・この器は、”碇ユイ”の為に用意されたものだったんだから。)
・・・・女、の姿をしているのだから。
だから、シンジではない、のだ。
+++
”過去の世界”から遠く離れたこの場所で、大切な存在が実体を得てから過ごした日々を見守っている二つの魂は悲しげに心を震わせた。”カミサマ”になった子どもが生きてさえすれば良いと考えた二人にとって、子どもが生きる為になら他の存在がどうなろうと関係なかった。少女と少年にとって、大切なのはこの子どもだけなのだ。子どもが選んだことならば、それがどんな道であろうと内側から見護るつもりであったのだ。
あの世界で確かに自分達はこの子どもに傷つけられた。
けれど、それ以上に自分達が子どもに追わせた傷が深いことを知っていた。
誰よりも優しくて臆病な子どもがどれほど戦いを厭っていたか知っている。それを、人類を護るという名目で追いたてたのは、あの世界に存在した全ての人間たちだった。自分達も、同様に子どもの心を追いつめた。子どもだけを選ぶこともできない癖に、中途半端な優しさで自分達の存在を刻みつけたことこそが、何より子どもを壊してしまった原因だと知っている。誰かに自分の存在を望まれたいと思うのは当たり前の感情だ。けれど”あの世界”で、周りにいた大人達はその想いを利用して子どもを戦場に追いたてた。少女も少年も、そんな大人達の仲間だったのだ。敵を殺すことが出来ないならば、お前の居場所はないのだと思い知らされた子どもが、どんな風に考えるかなんてわかりきったことだったのに、あの時の自分達はそんなことすら気付かなかった。
確かに最後の最後に子どもの存在を選んだけれど、それまで子どもにした仕打ちが清算されるわけじゃない。
今の子どもが何より恐れているのは、他者からの拒絶だ。それを知っている二人にとって、例え別の存在だと理解していても”碇ユイ”と同じであるユイの望みを拒めなかった事が罪であるとは思えなかった。何よりも、子どもがユイの言葉を撥ね退けられなかったのは、この世界のシンジの居場所に存在してしまった罪悪感だと知っている。ならば尚更、子どもの行為を責める気持ちなど起こらなかった。
けれど、恐怖に身を竦めて己の行為に怯えている今の子どもに、自分達の声が届いていないことも知っていた。それでも只管に魂を震わせて、子どもへの想いをさけんだ。
(碇君、悲しまないで。私はずっとそばにいるから。
貴方が生きているのなら、それだけでいいから。だから、どうか)
(シンジ君、泣かないで。僕はずっとそばにいるから。
君が何を選んでも、君が生きているならそれだけでいいんだ。だから、どうか)
+++
・碇レンver
・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。
・本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします
CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)
です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。
全ての力と知識を喰らって、うみおとされたカミサマの器が一つ。
内に宿るはずだった女は消されて、消えるはずだった少年が残った。
少年を護った二つの心は満足気に彼の中に溶け込んで、誕生したのは強大な力と優しくて臆病な心を抱えた子どもがひとり。
優しい願いに護られた子どもが世界を渡って新しい命を手に入れ
女の記憶に嘆いた彼の拒絶が、死に逝くだけの世界を消し去る
そうして、残ったのは、巨大な空ろの世界が一つ
それすらすぐに虚無へと変わり ---- 後には何も 残らなかった
+++
--大丈夫だよ、心配しないで?
ねぇ、大好きよ?だから笑って---
(けど、そうだね。本当はずっと一緒にいたかったよ。
いつか貴方が寿命を終えてしまうまで、その傍にいたかった。)
+++
世界の狭間を彷徨いながら、あの瞬間に流れ込んだ記憶を思考の隅で繰り返し思い返した。
痛みも絶望も楽しさも嬉しさも辛さも憎しみも快さも安らかさも悲しみも切なさも。
全て自分の意思と行為が選んだ結果でしかないことは、誰よりも知っていた。
それでも、知ってしまった母の記憶と、世界から読み取った過去の事情は、自分の怒りと憎悪を増すだけのものだった。
・・・もう二度と、他人と関わりたくないという恐怖から生まれる後ろ向きな思いが過り。
・・・もう一度、誰かと生きることができるなら、今度こそ大事だと思えた人を守れるような存在になりたいという願いがくるくると思考を巡る。
自分が望むのはどちらだろう、とほんの少し考えた。
もしかしたら、それが原因だったのだろうか。
+++
穏やかな光に満ちる産院の一室で、幸せそうに微笑みあった夫婦の会話を、覚えている。
「ふふ、もう名前は決めてくださいました?」
「ああ、・・・男ならシンジ、女の子ならレイ、というのはどうだ。」
「シンジ、レイ・・ 良い名前ですね。
ねぇ、あなたのお父さんが、素敵な名前をくれましたよ。
早く元気に生まれてきてね。」
夫の言葉に嬉しそうに微笑んで腹部を撫でた彼女の姿は、優しく美しい母親のものだった。
その時の彼らの幸せも愛情も、本心からのものだった。
真実、慈しみと優しさだけに、彩られたものだった。
・・何一つ偽りなど無く、それも事実だったのだけど。
+++
彷徨っていた世界の狭間で、まどろむ様に色んな世界を垣間見た。
知っている顔が生きている世界もあったし、”過去”によく似た過程を辿る世界もあったし、自分が知るどんな歴史とも全く違う文化を築く世界もあった。時折零れるように触れてくる色んな世界の住人達の感情が、時に快く、時に悲しく、時に苛立ちを、時に切なさを、柔らかな殻に籠った意識に波紋を投げて行く。その感触は決して嫌なものではなかった。他者の心をのぞき見るような後ろめたさもあったけれども、拒絶しているくせに心のどこかで望んでいるかもしれない触れ合いを間接的に思い出させてくれる感覚だった。だからその時も、特に深く考えもせず零れてきた感情の滴に触れた。瞬間、流れ込んだ深い深い絶望と何より強い渇望に、意識の全てが占領された。
そして、自分は世界に落ちた。
赤黒く染まった空と、燻ぶる炎に焦げ付く大地と、
濡れた剣を掲げる兵士と、無残に踏みにじられた人の破片と。
そこは、戦場だった。
残酷で、醜悪で、凄惨な。
呆然と辺りを見渡して、その視線を足もとに落とす。
視界に入ったのは、短い黒髪を血で汚し、手足を本来あり得ない方向に捻じ曲げられて、力なく肢体を大地に投げだす12・3歳くらいの小柄な少年。確かめるまでもなく、自分をここに引きずった感情が彼のものだと理解していた。そして、彼がこの世界では”過去”の自分と同じ立場に存在している、もう一人の自分であることも理解した。流れ込んだ感情と共に彼の記憶が自分の中に押し寄せた。それを見て、成程これが並行世界というものか、と呑気に考えた。
目の前で、倒れる彼が死んだからこそ、違う世界の存在である自分がこの世界に存在できている。その事実を理解するのを拒む様にひたすら平坦に感情を保とうとする。彼が世界の狭間にまで届く程の強さで絶望を抱いた、その理由を決して読み取ることがないように流れ込んだ記憶を厳重に封じるように違う事を考え続ける。彼の死によって空いた隙間に入り込んだというその意味を、決して意識に登らせないように我武者羅に思考を外す。
それが現実逃避であることは分かっていても、突然実態を持って存在してしまった現実に恐れ慄いている自分を宥める為にもようにつらつらと思考を巡らせた。
戦いが終わっていない戦場で、ぼんやりと佇む人間など絶好の獲物でしかない。
ほっそりと小さな影に気づいた兵士が殺気をみなぎらせて向かってくるのは当然の成り行きだった。
自分の思考に没頭して立ち尽くしていた事に気づいたのは、目の前で大きく剣を振り上げた兵士が当に自分の首を落そうと刃を閃かせた瞬間だった。その時殆ど何も考えなかった。怖いとか嫌だとか死にたくないとか、そんなはっきりとした思考など全く浮かんでは来なかった。
ただ、目の前の兵士は、自分の敵だと、それだけを理解して、そして、
+++
暖かな闇越しに聞いた、優しくて強くて、少し狂った、母の言葉を、覚えている。
「この、計画を成功させれば、人は、神により近い存在になれる。
--- 進化に行き詰った人類にとっての、明るい未来は もうこれしかないのだから。」
人気のない薄暗い研究室で、作りかけの神のレプリカを見詰めながら溢された、女の言葉を。
狂気を宿して尚美しく人を魅了する聖母の如き彼女の笑顔を。
それ、を見て、この身を焼きつくした激しい憎悪を、覚えている。
+++
碇ユイの想いに、悪意は一片も存在していなかった。
ただ彼女は確かに人間を深く愛して、これから先の未来を憂いていただけだった。
夫への愛情も、子供への愛情も、本心からのものだった。
友人や家族や同僚にむける優しさも本当に心からのものだった。
彼女は確かに優しくて愛情深く、誰よりも愛されて愛することができる人間だった。
だからあの世界を終りに導いた計画も、本当に真剣に、彼女にとって大切な人たちの未来を護る為に何をすればいいのか考え抜いて作り上げたものではあったのだ。彼女は本気であの計画を成功させさえすれば、人間の未来を希望で彩ることができるのだと信じていたのだ。希望こそが人間を救うことのできる唯一で、それを守ることが何より正しい道なのだと。
・・けれど同時に、彼女にとっての正しさが、他の誰かにとっては違うかもしれない、という事を理解しようともしなかった。
彼女は誰よりも優秀な己の頭脳を知っていた。
他者の思いを読み取る力にも長けていた。
実際に天才という賞賛が、彼女以上に相応しい人間は存在しなかった。
東洋の三賢者と呼ばれる後の二人も、彼女の能力には僅かながら及ばなかった。
それを、誰よりも冷静に受け止めて熟知していた彼女にとって、己の考えこそが最も優れたものである、という確信が間違えているなどという事は絶対にありえないことだったのだ。
・・だからこそ、あれほど自分本位で、他者の想いを全て踏みにじる様な計画を、至上のものであるように掲げることができたのだ。
+++
赤い世界を蹂躙する力の全てが収束し、記憶の螺旋に翻弄されていた少年が、巨大な力の中心に飲まれた瞬間の、こと。
上下も左右も光も闇も 何一つ確かなモノのない空間で
女神に還った少女と 始祖に還った少年と 鬼神に溶けた母親と 出会う
現とも夢とも判じきれぬ魂のみの邂逅の場で、少年は、確かな愛しさを伴う歓喜と、憎しみを伴った絶望を、知る。
柔らかく微笑んだ少女と少年の瞳が伝える真直ぐな好意と優しさと想いは、少年を癒し
美しい聖母の笑みで手を差し伸べる母の手を取った瞬間己の内に流れ込んできた彼女の記憶は、少年の絶望を深めた。
知ってしまった母の願いに、全てを拒絶した少年は世界からはじき出された。
力を手に入れた己の意思に従って、世界が一つ消えた事を感じ取っても、安堵しか感じなかった。
罪悪感はあったけど、”過去”の世界を惜しむ心はうまれなかった。
世界と世界の狭間を流されても不安はあまり覚えなかった。
ただ、あの瞬間に、自分を選んでくれた大切な二つの魂が、己の胸の奥深くで息づいているのを感じるだけで少年は安心していた。自身がどんな風に変質したのか、それさえもどうでもよかった。二つの魂を感じ取れる。それだけで、よかったのだ。
+++
気がついたら、目の前に存在していたはずの戦場は跡かたもなくなっていた。
兵士も武器も燻ぶる黒煙も大地を埋める遺体さえ。
ただ、広がっているのは草木すら存在しない広い焦土と、変わらずに赤いままの空。
その真ん中にぽつりと佇む自分の影を、虚ろな意識で見下ろして。
そこに、先ほどまで確かに見ていたはずの黒髪の少年が居なくなっていることを確認して。
それから?
+++
白い病室で、柔らかな月の光を浴びながら、優しげに微笑んだ母の表情を、覚えている。
「ふふ、私の可愛い息子。
あの人と、私の血を宿したこども。
--- そして、計画の成功のために不可欠の、子。
貴方に、人類の明るい未来を見せてあげる。 必ずかなえるわ。必ず。」
まるで至上の理想の具現のような慈母の如き微笑みで、決して子ども自身をを見る事はなかった母の眼差しを。溶け合った世界の記憶が見せた、過去の情景から拾った光景に、感じた虚しさを、覚えている。
+++
碇ユイにとって、己の息子は、計画を成功させる為の駒でしかなかった。
それは、息子へ向ける母親としての愛情と相反しながら並立して存在する明確な事実だった。
彼女にとってその矛盾は、決して無理なく存在する本心だった。
だから、息子が将来何をすることを義務付けられるのかを知っていながら、己の願いを貫けたのだ。
”碇ユイ”という存在は、そういう人間なのだと今の自分は知っていた。
だから、彼女の愛情をどれほど確信できても、決して信用も信頼もしてはいけないのだと知りぬいていたはずなのだ。少なくとも自分が望むような類の愛情は決して返って来ないことを思い知っていたはずなのに。
落ちた世界は、”過去”とは違う場所なのだから。
出会う人たちは、”過去”の知人とは同姓同名のよく似た他人であるのだから、
・・だから、大丈夫なのだと、そう思ってしまったのだろうか。
(本当に、目先の望みに眩んでは盲目的に他人に依存する癖は変わっていない、なんて。
・・・・何処までも自業自得、かな。・・・ 情けないっ・・・ )
+++
辺りを闇が覆う頃、物々しい一団が武器を構えたままやってきた。
多分自分が消した軍隊の消息でも探りにきたのだろうとぼんやりと考える。
焦土にかわった戦場で、一人きりで立つ自分がどれほど怪しい存在なのかなんて考えるまでもない。
自分を見つけた軍人が荒々しく槍を突き付けてきても何も感じはしなかった。
腕を折らんばかりに両手を縛りあげられても痛いとも思わなかった。
このまま首でも落とされればまた狭間に戻れるだろうかとは少しだけ考えた。
けれど、それがはっきり思考を占めることもなく、無感動に地面を見ながら兵士の後ろを歩く。
「シンジ?」
兵の向こうから聞こえた声にのろのろと視線を上げた。周りを囲む兵の隙間から柔らかな光と細い女性の影が見えた。その女性は常はきっちりと整えられているだろう服を僅かに乱れさせて息を弾ませて立っていた。少し後ろから地位の高そうな軍服を着た壮年の男性が追いかけてくる姿も見える。二人の視線が、こちらを見ているのを知って僅かに辺りを見回した。その自分にむかって、はっきりと意識を向けた女性がまろぶように駆け寄った。周りの兵士が僅かに動揺して身を引き、拘束はそのままに女性の行動を妨げず場を開ける。どうやら彼女は身分か地位が高く、兵士が無条件に従うような立場の人間なのだろうと考える。そんな思考を断ち切るように女性から力強い抱擁を受けた。驚愕する暇もあればこそ。勢いよくまくし立てられて、間の抜けた表情で女性を見上げた。
「シンジ!ああよかった。無事だったのね?
もう心配してたのよ。戦場が原因不明の爆発で吹き飛ばされたと聞いて生きた心地もしなかったわ!無事だったなら、どうしてすぐに帰ってこないの!ああ、それとも怪我でもしたの?!すぐに治療しなきゃ・・
・・あなた!この拘束を解きなさい!まったく何を考えているのかしら、・・」
「待ちなさい、ユイ」
「何ですか。シンジが無事だったんですよ。嬉しくないんですか?」
「待ちなさい」
かけられた言葉の半分も理解できないうちに女性は何やら兵士に抗議している。戸惑うように女性の後ろに視線を投げる兵などお構いなしに自分の拘束を解こうとする彼女に追いついた男性が静かに制止の声をかけた。間近に見て、反射的に叫んで仕舞わなかった自分の理性を珍しく褒めた。二人は、”両親”と同じ存在だったのだ。声も姿も話し方さえ、何から何までそっくりで、それでも”両親”とは違う存在だと、心が教えた。迸りそうになった激情を無理やり宥めて、再び世界に落ちた直後と同じ事を再認識する。・・・成程、これが、並行世界か。
そこで再びかけられた声に視線を上げた。見下ろす男性の視線を無感動に見返す。理解してしまえば感情を動かす必要もない。(動かしてしまえば、自分が保てなくなるのだと、無意識に理解していた。だから殊更感情を麻痺させているのだとは、気づかなかった。)
「君は、何者だ。あの戦場を潰したのは君か。」
「あなた!何を言ってるんです!この子は--っ」
「ユイ。現実逃避は止めなさい。
シンジは、死んだ。あの場所で生きていたのはこの子だけだ。
そして、この子どもは、シンジではない。・・・わかっているだろう。」
「嘘です!シンジは帰ってくるわ!あの子が、死ぬわけありません!
この子は、-----シンジでしょう?!」
女性の声が不自然に罅割れる。無理やり浮かべられた笑みは酷く引きつり、瞳の奥には不安定な炎が揺れた。彼女は、自分の子供の喪失を認めたくないのだ。それを見返す男性の視線に苦味が混じる。それに痛みを感じ取れぬ程に鈍くはなかった己の洞察力に忌々しい思いを抱いた。・・・どうして、この二人が子どもを失って悲しむ姿など今更見なければならないのだろう?彼らは---”彼ら”ではないのに!!!
二人を見つめる自分はそんなにひどい表情だったのだろうか。
詰問する口調を隠しもせず冷徹な声で続けられた言葉が、突然ほのかな熱を帯びた。”過去”の父にもかけられたことのない温かみを感じてしまった自分に動揺する。女性が揺れる体を男性に抱えられたまま浮かべられた痛んだ笑みに交る気遣いにも心が揺れた。続けられた二人の言葉を拒絶する力は、湧かなかった。
「この子は、私達が預かる。構わんね?
・・・君、事情は後で聞こう。よければ来なさい。酷い格好をしている。」
「そう、そうね。ねぇあなた、家にいらっしゃい。顔が真っ黒だし服も泥だらけじゃない。
お風呂に入って着替えをしなきゃね。」
女性が見ているのは死んだ息子だ。彼女は自分が返ってきた息子だという幻想を捨てきれていない。名前こそ呼ばないがそれがわかってしまう。それでも、”過去”で自分は、母に、こんな風に話しかけられてみたかったのだと、思ってしまった。怪しい人物を解放することに渋る兵士に圧力をかける男性に、まるで”父さん”に庇われているみたいだと考える自分の弱さに自嘲する。それでも縋ってしまった。幻想でも良い、と思ってしまった。
・・・・何度、同じ間違いを繰り返したんだろう。あの戦いで散々思い知ったはずなのに。
遠く仰いだ王城を見つめて自嘲の笑みを零す。
ゲンドウが自分に優しかったのは、戦場を一人で叩き潰してしまえる程の自分の力に目をつけたからだとわかっていた。ユイが、自分を傍に置いたのは亡くしてしまった息子を投影する者が欲しかったからであると知っていた。
そして、この状況が、シンジが死んだ時と同じものなのだということも、知っていた。
見たくないからと厳重に封じたはずのシンジの記憶が鮮やかに再生される。
彼が事実を知った瞬間の驚愕と怒りと憎しみと諦めと、・・・何より大きな絶望も。
自分が錯覚で良いから、とユイの手をとった感情は、シンジが抱いていた感情でもあった。
驚くほどに自分と重なる気持ちが、成程自分を引きこんだ理由の一つかなと考える。
だって、この世界のシンジはまだ12歳だった。
そんな幼い少年を戦場に出したユイの姿が、”過去の世界の碇ユイ”に重なる。
あの時息子の喪失を拒絶して嘆いた彼女の想いは確かに本物だったけど。
面影を見出して自分を生きて帰ってきた息子だと言い張った彼女の混乱は本当だったけど。
・・彼女は、まだ12歳でしかないシンジを、国を護るためだからと言って戦場に放り込んだのだ。
その矛盾する彼女の想いが。
愛情を望んで、振り向いて欲しくて必死に望まれた立場に身を置いて、
それでも自分の望むものは返ってこないと思い知った瞬間の失望が。
人類の為だと嘯き、子供達の未来の為にと微笑み、生きてさえいればどこでも天国になると囁き。
そして彼女の作り上げた計画が自分に強要した痛みと辛さと喪失が。
世界の為だと嘯き、貴方達が生きる未来を残す為だと微笑み、国民を護りさえすればこの国は生きていけるのだと囁き。彼女のつくった譜業と譜術で、敵兵ごと殺されると悟った瞬間の絶望が。
ぴったりと寸部の狂いもなく重なって、彼と自分が、確かに同じ存在なのだとわかってしまう。
そして、本来彼が居る場所なのだと理解しながら、代わりでもひと時の幻でも良いからと、ユイとゲンドウの優しい言葉に縋りついた自分の愚かさも。彼の居場所を勝手に借りているのだと知りながら、ありえない夢にしがみつく為に、与えられた大義名分を翳していたのも
”あの世界”でチルドレンとして呼ばれた時に、ミサトさんがくれた「家族」という言葉に縋ったのも。父さんの「よくやった」という言葉に浮かれて、12番目の使徒戦で闇の中にのみ込まれたのも。この世界で、あの夜貰ったぬくもりに縋りついたのも。
全部同じ理由だった。
そして、”それ”に縋って、”あの瞬間”に、空で神殺しの槍に貫かれたように、
此処で、敵ごと味方の筈の軍が放った大規模な譜術で殺されそうになっている。
あきれる程に進歩がない。
結局自分は、与えられた存在理由に固執して、初めて好きだと言ってくれた友人を殺した弱い子どものままなのだと思い知る。最後まで自分を守ってくれた二人が、今の自分を見たらどう思うのだろうと考えて、弱弱しく頭を振った。
+++
あの魂の邂逅の場で、四人で一部を溶け合わせた一瞬の交流を、覚えている。
女神と始祖に還った二人が、少年の願いは何かと聞いた。
鬼神に溶けた母親は、美しい笑みを浮かべて少年がこたえた願いを”見せた”
そして見た。
赤い空と赤い海。
血の匂いに満ちた無音の世界には少年と少女が二人きり。
全ての人が溶けた海の傍らで、決して還らぬ人々を待つ絶望を。
もう二度と取り戻せない過去の日常を直視する痛みを。
決して自分を見ない赤い少女の首を締め上げた時の激情を。
少女が唯一つ残した拒絶の言葉に、我に帰った瞬間の恐慌を。
これが補完の外にいると言う事ならば、もう自分も溶けてしまおうと決めた時の、虚しさを。
赤い海に沈んだ少年を抱きしめたの母の腕の温もりを。
暖かい腕の中で、ただ消えようとした少年に流れ込んできたのは、大量の記憶と力
そして、母の、記憶
+++
(ああ、けど。こんなところで死んだりするのは、無責任すぎる、ね。)
迫る膨大な第5音素が、地面に着弾した時に起こす反応も、連鎖して発動する地面に仕込まれた譜陣の効果も、此処にいる誰よりも熟知している。だってこれは、自分が協力していた研究を利用して碇ユイの作り上げた攻撃譜術だ。譜陣と譜術と味方の軍に配備されている筈の譜業と、三つが連動して初めて戦場を根こそぎ焼き尽くすほどの効果を生み出すものだ。三つの内どれが欠けても効果が半減するが、捨て駒を厭わないなら少数の犠牲で敵国の軍勢を一掃できるほどの効果があった。
だから、発動を止めるのはもう間に合わないが、どれか一つを欠けさせてしまえば少なくともここで死ぬ犠牲を半分には抑えられるのだ。せめてその位はするべきだろうと考えて、迷わず足元に刻まれた譜陣に剣を突き立てる。音素と呼ばれる世界の力の一片を、譜陣に込められた力を相殺するような形で流し込む。途端輝きを失った譜陣を確認して、隠しもったナイフを、配備されていた譜業の動力源に向かって投げる。過たず刺さったナイフを視認した瞬間に、飛来した第五音素が、爆ぜた。
炎が跳ねる。熱が広がり戦場で切り結ぶ兵士を燃やした。
地面が沸騰して、散らばっていた遺体ごと武器すら溶かす。
それをやっぱり他人事のように遠い意識で見渡す自分も、足元から這い上げる熱に焙られて全身が焼け爛れる。
痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い!!!
言葉を成す思考はそこで途切れた。後はただひたすらに炎と熱と爆風にかき混ぜられながら、戦場が消し飛ばされる光景を視界に映しながら闇に沈む。
それでも、自分はきっと死ぬ事はないのだろうな、とそれだけを理解した。
良いとも悪いとも嫌だとも嬉しいとも感じずに、ただ、その事実だけを思考に浮かべて、
・・・胸の奥にいてくれるはずの、二人の存在はわからなかった。
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書きたい物を書ける時に好きに書き散らしてます。文頭には注意書きをつける積りですので、好きじゃない、と思われた方はこのHPを存在ごとお忘れになってください。(批判とかは本当勘弁してください。図太い割には打たれ弱いので素で泣きます)
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