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フランツ・グリルパルツァーの「接吻」をテーマに小話
今回はエヴァンゲリオンノ『閉じた目の上なら憧憬のキス』で「カヲル×シンジ」原作風味第17使徒襲来前夜のシリアスです。
閉じた目の上なら憧憬のキス。
明かりを落とした部屋に健やかな寝息が響く。
それをずっと聞きながら、膝を抱えて目を閉じた。
明日には全てが終わるのだと、そう考えるとても安らかな気持ちになった。
一つだけ、心残りがあるとすれば、彼ともう二度と言葉も交わせなくなることだけだ。
「・・・・・君も、僕と会えなくなるのは、寂しい、と、思ってくれるかな。・・・シンジ君」
銀色の髪が、僅かに揺れる。
真紅の瞳は、全くの暗闇でも昼日中と同じように全てが良く見えた。
安心しきった顔で眠る彼の姿も。彼と同じ少年の姿を模った、自分の手のひらも。
「僕が、君達の敵だと、知ったら、きっと傷つく、よね」
けれど、世界に生存を許されるのは、たった一種類の”ヒト”だけだ。18種類の”ヒト”の内、一つの種族だけが残されて、敗者は全て消えなければならない。今世界で起きている争いは、その勝者を決める為のものなのだ。そして、今までネルフが、・・・シンジ君たちチルドレンがエヴァンゲリオンと名づけられた最初の”ヒト”の写し身を駆って他種の”ヒト”を倒し続けてきたのも生存する権利を勝ち取るための戦いだった。優しいシンジが、敵であろうと
”生きている”ものを殺すことに傷つきながら、命がけの争いに怯えながらも戦い続けたのもその為だ。
「・・・本当なら、僕は君達と戦って勝敗をつけるべきなんだろう。
それが、第一使徒の分身であり、第17使徒である、僕の役目だ」
けれど、カヲルは、もう決めてしまった。
その決意が、結果的に自分を生み出し育てたゼーレの望みにも合致してしまうことが業腹ではあったが、それでも。
「僕は、シンジ君達に・・・・シンジ君に、生きて欲しいよ。今日も、明日も、ずっと先の未来まで。」
明日、いやもう今日か。カヲルは第17使徒としての力を解放する。そして、ネルフの最下層に守られている己の主である第一使徒アダムの器に会わなければならない。そこで、第18使徒であるリリン--人間達との最後の戦いが待っている。その勝者が、この世界の未来を生きる権利を与えられることになる。
勝者に与えられる繁栄とやらが、どのようなものか、カヲルには分からない。けれど、人間達が生き残るなら、繁栄してゆくことができるなら、その中で、シンジも幸せにいき続けることができるのだろう。だから、
「僕は、逝くよ。君達は、生きるべきだ。・・シンジ君が、生きるべきだ。」
そっと、黒髪に指を滑らせた。起こしてしまわないように静かに静かに。
シンジの傍らに膝をつく。空気すら揺らさぬように細心の注意を払って、密やかに身を屈める。
「どうか、君達が望みどおりの未来を生きていけるように。
シンジ君が、笑って生きていける未来が、残るように。」
安らかに眠るシンジの瞼に、唇を触れさせる。
「閉じた目の上へのキスは、憧憬、だったかな?・・・・僕も、君と共に生きることが出来るなら、」
言葉を飲み込む。最後まで音にしてしまえば、決心が鈍ってしまう確信があった。
だから、己の未練を苦笑で誤魔化して目を伏せた。
カヲルは、何も残せない。残しては、ならない。
別れが優しいものであったなら、シンジが傷ついてしまうから。
ただの敵として、討たれなければならないのだ。
「けれど、君はやっぱり傷ついてしまうのだろうね。とても、優しいから。
・・ああ、でもそのくらいの傷は残しても良いかなぁ。
・・いつか癒えてしまっても、僕が存在した証に、なるだろうか」
僅かな欲望が擡げる。最初から敵だった自分が、彼に存在の証を刻む権利など持ち合わせていないと知りながら、それでも寂しいと思ったカヲルの心が囁いた。
「・・・これじゃ、ファーストを責められないな。彼女は、目の前で消えることで、君の心を得た。」
くすり、と笑いが漏れた。少しだけ、二人目の綾波レイの気持ちが分かった。彼女は、シンジを純粋に守りたかっただけだ。けれど、最後に残した彼女の言葉は、確実にシンジの心を縛っている。それに、気づいているだろう三人目とやらが、無意識に視線でシンジを追いかける気持ちにも今なら同意できる。これは、嫉妬だ。この繊細な少年の心の一部を得た相手への。
「 ・・・・ごめんねシンジ君。・・・僕は逝くよ。
けれど、君が例え憎しみであっても僕を覚えていてくれるなら、」
静かに立ち上がる。約束の時が近い。
ゼーレの老人達が指定した、最後の使徒襲来の刻限だ。
「・・君に告げた言葉に、嘘はなかったよ。・・・君は、好意に値する。・・・好きって、ことさ。
さようなら 」
音を立てずに、部屋をでた。少しだけ俯いて背後の気配をかみ締める。
次の瞬間顔を上げたカヲルは、もうネルフのフィフスチルドレンではなかった。
常と変わらぬアルカイックスマイル。何気なく立つその姿は華奢な少年のもの。
けれど、その真紅の瞳に浮かぶ光は、
----第17使徒、襲来。
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