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・碇レンver
・今更ではありますが、時系列及び預言の在り方等諸々について、夥しい捏造が入ります。
特に創世歴時代の出来事や人物間の血縁関係や交友関係等は、公式設定とは全くの別物だと考えてください。
・本来お亡くなりになる方が生存してたり、マルクト・キムラスカ・ダアトへの批判・糾弾や、PTメンバーへの批判・糾弾・断罪表現が入ったりします
CP予定:
・・・キラ×ラクス(seed)
・・・カイト×ミク(ボカロ)
・・・クルーゼ(seed)×セシル(アビス)
・・・被験者イオン×アリエッタ(アビス)
・・・フリングス(アビス)×レン(碇レン)
です。上記設定がお好みにそぐわない、という方はお読みにならないようにお願いいたします。
セントビナーから和平の使者一行が出発した。
マルクト・導師一行を修羅場に叩き込んだ最悪の事態を解決する目処が、取り合えずであってもついたためである。マルクト国内にて、既に絶対的な権力を誇るラクスクライン公爵も、流石に心身共に疲れ果て、一行を見送った直後に脱力の余り割り当てられた客室に駆け込むと倒れ伏したという。
「・・・・ジェイド・カーティス・・!ピオニー陛下・・・!
この埋め合わせは、一生かけてしていただきますからね・・!!!」
・・・温厚なラクスでも思わず呪いの言葉を吐き捨ててしまうほどに、大変だったらしい。
「ああ、それに、ルーク様ともレン様ともあまりお話できなかったですし・・・
・・・これから先ずやらなければならないのは、アクゼリュスの救援方法を確保して避難民の受け入れ態勢を整えて、ダアトへの援助の下準備をして、・・・・・・・つくづくアスランは役得ですわね。・・・私の傍にも、癒しが欲しいです。」
これからも、更に大変らしい。・・・お疲れ様です、ラクス様。
一方の和平の使者一行は、ほぼ予定通りの日程で進んでいた。
貴人が乗る為につくられた質の良い大型の馬車に、ルーク、イオン、レン、アスランの四人が同乗する。その馬車の横には騎乗したカイトとガイとアリエッタ、マルクトの護衛兵士が囲み、旅の荷物などを積んだ荷馬車、最後尾に罪人ティア・グランツを乗せた護送用の馬車がひっそりと続く。本来なら別の使節団を用意するべきなのだろうが、一刻も早く罪人を引き渡してしまいたいイオンと、面倒ごとは早く済ませてしまいたいルークの利害の一致によってマルクト側が説得されてしまったのだ。まあ、ラクスとしても楽といえば楽なので言葉に甘えて一緒に送り出す。もちろん正式な謝罪文その他の書簡をアスランに預けた上で、である。
魔獣使いと名高いアリエッタであるが、これから和平の仲介に赴く導師の護衛に堂々と魔物を連れ歩くことは出来ないため、他のもの同様普通の移動用小型恐竜に乗っていた。師団長を務めるだけあって、アリエッタは体術や譜術にも堪能だ。ライガがいなければ戦えないわけではないため特に不便はなかった。許される限りルークの傍に居たがるカイトも、従者としての心得その他は叩き込まれている。公式の場に順ずるこの旅路の中で、不用意にルークに気安い態度をとって甘えたりする愚は犯さない。あまり正式な教育をされていないガイも、カイトの態度を見よう見まねで実践し俄か護衛兼従者として付き従っていた。
出来る限り人員を抑えてはあるがやはり目立つ一団。妨害の危険を考えれば余り目立つのは得策ではないが、これから和平を結ぼうとしている事実を完全に隠すのも後々の為に良くない。ということで、使者として最低限の用意ではあるが国民に周知する意味も込め、あえて街正門から出発し中心の街道を使用して進む一行。今まではそれなりに建前を使っていた和平妨害も、これからはあからさまな手で来る可能性も考慮して護衛の兵士達にはより一層の警戒を命じられていた。
そして、出発から数日たった今日。最優先で守られるべき馬車の中の貴人達は、何故かある意味護衛たち以上の緊張の中にいた。
「・・・・あの、レン?」
「はい!」
緊張感を発生させている原因である少女にそっと呼びかけるイオン。レンは姿勢良く返事を返す。その表情が、これ以上ないくらい、強張っている。困惑したイオンがルークに視線で問うが、ルークは苦笑して首を振る。
「どうかしましたか?何だか、
・・お疲れのよう、です、が。(疲れている、・・のとは違う気もしますけど・・)」
「いえ、お気遣いありがとうございます。ですが全く問題ありません。大丈夫です。」
「宜しければ窓を開けましょうか?気分転換にはなるかと思いますが」
アスランもレンを心配して提案してみる。出発当初はもっと自然な様子だった。精精十日未満とはいえ同じ屋敷で過ごしたのが良かったらしく、僅かではあってもアスランに対する緊張も解れてきていたはずである。だが、唯一の若い女性が馬車という狭い空間に他国の男二人も一緒に乗った状態で一日を過ごし続けるのがストレスなのかも、と思ってせめてもの気分転換はどうかと思ったのだ。
(やはり二人乗りの馬車で、一日交代で顔ぶれを代えたりしたほうが良かったでしょうか。ああ、でもそれはそれで不味いですかね。 これから共に旅をするわけですし、こちらの真意を知っていただくためになるべく交流を持とうと思っていたのですが・・)
「いえ、すみません。何でもないんです。ありがとうございます、アスラン様」
少しでも歩み寄ろうと名前で呼び合う事に決めたため、レンもアスランの名前を自然に呼ぶ。浮かぶ笑みも可愛らしいが、口元が強張っている。困り果てたアスランとイオンが目を合わせた。同時に自分に向けられた二人の視線に、溜息をついたルークが苦笑しながらフォローする。
「・・・・レンは、この後渡るフーブラス川が怖いんですよ。・・・泳げないので」
「ルーク様!」
「「はあ・・?」」
さらっとばらされたレンの秘密に、アスランとイオンが間抜けな相槌を打った。たちまち頬を染めたレンがルークを睨むが、笑ったままのルークは取り合わない。
「なんでも、昔から水が苦手だとかで。
キラ・・レンの兄と一緒に遠出するときなども、なるべく水辺は避けて歩く徹底振りなんです。」
「・・・ルーク様!!」
ルークからレンに視線を移すと、真っ赤な顔を隠すように俯く少女が恥ずかしげにぼそぼそと答えた。
「・・・・昔、少し水に関するもので嫌なものを見てしまいまして。
・・それから、ちょっとだけ水が苦手になったんです・・」
(・・・エヴァのLCLは不可抗力で我慢してたけど・・やっぱり水は、嫌、だなぁ。・・・母さんと、・・・カヲル君が、沈ん、だのは、赤い、)
答えるうちに、瞼の裏に忘れてはならない光景が甦りそうになる。
同時に初号機とシンクロしていた手のひらに残る、あの時の、感触、も。
慌てて強く瞼を閉じて気持ちを切り替え、明るい笑みを浮かべて見せた。
余計なことを思い出して迷惑をかけてはならない。
「すみません、大丈夫ですよ。
苦手なだけで触るのも駄目だということではありませんし。
ご迷惑をお掛けしたりしませんので。」
だが、三人は気づいていた。レンの顔色がすうっと青ざめて、瞳が暗く翳った瞬間に。
多分余程心を傷つけるような事件に、水が関係しているのだと推察する。
一瞬だけ瞳を見合わせると、何事も無かったかのように会話を再開した。
「大丈夫ですよレン殿。
川を渡る時には、皆様はボートに乗って頂いて、兵士に引かせますから。」
「僕も泳ぎはあまり得意じゃないんですよ。
ダアトのような水に囲まれた土地に住んでいてお恥ずかしいのですが。」
(イザナ様は兵士顔負けの泳ぎっぷりでしたけど。カナードやアリエッタも。
・・・まあ、向き不向きですよね)
まずアスランが笑顔で説明する。実際導師イオンや王族であるルークや公爵令嬢であるレンに、水に足を浸して歩けなどというつもりはない。小型の組み立て式ボートを用意してある。それに乗って、兵士数人に牽引させて渡るつもりだった。続けてイオンも言った。ダアトは海に囲まれた土地なので神託の盾騎士団の団員は水泳も基本技能として必須となっているが、まさか導師に水泳の特訓などさせる訳がないので不自然な言葉ではなかった。多少の練習はしたのだろうが、元々身体が丈夫ではないイオンであるし無理強いするものもいなかっただろう。
「心配ないよ、フーブラス川は確かに流れが速いけど、深さは余りないから。・・そうですよねアスラン殿。」
「はい、特に歩きやすい場所を選んでありますので、万が一でも皆様を水に濡らすことなく渡りきることが可能です。」
「だってよ、ほらほら元気出せって。大体今から緊張してても仕方ないだろう?」
「・・・はい、ありがとうございます。」
顔を覗き込むルークに、やっと強張りが解けた笑みを浮かべる。イオンが安心して二人を眺めた。アスランも勿論安堵したように笑う。だが少しだけ、薄氷の瞳に浮かんだ光があった。直ぐに消えたため誰も、本人も気づかなかったが。
「(やっぱり、ルーク殿には自然と笑うんですね。)
ご存知かもしれませんが、マルクトの首都であるグランコクマは、街の至るところに水路が通っておりまして、そこで育ったものは大抵子どもの時分に水遊びをして育つんですよ。例えばボートを浮かべて競争したり泳いだりですね。ですから、そういう作業にはある意味年季が入っていますから、」
「へえ、それは頼もしい。」
「では、皆様玄人ばかりなのですね。」
「ふふ、」
おどける様に言ったアスランに、ルークとイオンが声をあげて笑う。レンもそっと微笑んだ。
その瞳がアスランを真っ直ぐ見て、緩やかに細めれる。礼儀正しく穏やかな人当たりではあるが、実は人見知りの気があるレンの無防備な笑顔が向く瞬間は珍しい。それを、数日の間に察したアスランにとって、今の微笑んだ彼女の表情は貴重なものだった。柄にも無く、この空気を保たせようと緊張するほどに。
「(なんででしょうね?)ですから、レン殿も心配なさることはありません。その道の達人が責任をもってご案内したしますから。」
「はい、頼りにさせていただきますね?」
楽しげに肯く少女の黒髪が肩を滑る。細い指が口元を押さえて小さな笑みを隠した。ラクスが見立てた淡い青色のワンピースの胸元に揺れるリボンが、少女の華奢な鎖骨を際立たせる。
そこまで観察してしまってから、慌てて顔を少女から逸らすアスラン。僅かにリズムを乱した鼓動を悟られないようにイオンのほうに視線をずらした。何気なく新しい話題を口にして会話を弾ませながら、レンの気配を無意識に追っているアスランを、ルークが笑みに隠した鋭い視線で観察していた。
「(へぇ、これは、これは。・・・・まあ、レンだしな。
・・・けど、・・・・キラに知られたら・・・不味い、よな?)」
ちらりと空に視線を彷徨わせるルーク。妹至上のキラが、レンに好意を持つ男の存在に対してどう考えるか。・・・ちょっと想像したくない。しかも今回の別離は突然の事故の末のもの。今までだって長く会わない時間を過ごしたことはあるが、それは前もって予定されていたものだけだ。そんな時だってレン本人には隠した上で、影でストレスを抱えて暴れていたのに、・・・今頃キラはどうしているんだろうか。
(キラは誰よりレンの実力を知っている。
心配はしてるだろうが、命の危険とかの方面での危機感はそれほどではない筈。
・・・問題は、突然レンの傍から引き離されたという事実のほうだ。キラは表面を取り繕うのが上手いからただのシスコンだとでも思う人間が多いが・・あれは、そんなもんじゃねぇ)
知らない人間がみればレンがキラに甘えているように見えるのだろうが、実際は反対だと知っているルークには笑い事ではない。レンから引き離されたキラの不安定さを想像するだけで冷や汗が流れる。
今のレンにとってキラが何より安心できる場所だと知っているが、それ以上にキラが己の存在を確定させるために、レンの存在は不可欠なのだ。・・レンが、傍に居ない時のキラは、時々とても不安げな顔をする。まるで自分が此処にいても良いのかと思っているかのように、足元が揺らいでいる。常と変わらない笑顔で飄々と佇むくせに、その瞳に痛みを堪えるかのような辛そうな光を浮かべる。何かをするたびに、自分の答を他人に確認したがる子供の様に視線が彷徨うのだ。
気づいていても、ルークでは駄目だった。
シュザンヌは気づいているかもしれないが、手出しする気は無さそうだった。
シンクやフローリアンやディストは気づいていない。カイトも多分知らないだろう。
・・・レンの肯定だけが、キラを安心させるのだ。
(レンも、多分気づいちゃ居ない。・・だけど、だから、か?)
マルクトに飛ばされてからそろそろ一月が経つ。今まで最長でキラ達が会わなかった期間は三ヶ月。・・・・まだ、大丈夫だと、思うが・・・我慢が切れたキラが作り出すかもしれない恐ろしい情景がリアルに浮かび上がって表情が強張った。そんなルークに気づいたレンが声をかける。
視線を落として、別の意味で表情を顰めさせるルーク。先程までの緊張が消えている。瞳を翳らせた”何か”の傷も、取り合えずは隠されているらしい。・・・それを為したのが、目の前のマルクトの青年貴族である事実に、ルークは密かに呟いた。
「(タルタロスの時も、俺じゃ落ち着かせられなかったのに、・・・殆ど初対面のアスラン卿の言葉で此処まで緊張を解くなんて、)・・・・・俺じゃ無理だってのかよ」
「ルーク様?どうしたんですか?」
無防備に笑ってルークを見つめるレンを見返す。自分だけでは駄目だからキラの傍に早く戻したいと思ったのは事実だ。だが、今のレンを落ち着かせたのは自分でもキラでもない、他の人間だった。それが悔しいルークの視線が尖る。レンは、ルークの悔しさには気づかずにただ気分でも悪いのかというような表情で見上げてくる。
・・・悔しさは消えないが、今のところはこれで満足するべきなんだろう。多少親しくなっても、一行の中でレンが構えることなく素直な感情を見せる相手はルークとカイトにだけだ。だったら、今はこれで十分だと自分を納得させる。
昔ルークが幼いときに、酷い癇癪を起こして八つ当たりをしても、変わらない優しい笑顔で宥めてくれた少女を眺める。
ルークにとって数少ない味方であったキラに無条件で愛されているように見えたレンに嫉妬していた。シュザンヌの治療に必要な薬剤の調合とキラの助手を務める為に、ファブレを訪れたレンに詰まらない意地悪を繰り返した。それでもいつも笑っていた彼女に、どうせ内心では馬鹿にしているのだと疑心暗鬼になっていたルークが食って掛っても変わらずに優しかった。
その時己の不注意で負わせてしまったレンの傷を思った。自分の所為で流れた血に怯えて泣き喚いたルークが落ち着くまで、根気良くあやしてくれた少女の腕の温もりがルークの心に残したものを思った。
つまらない嫉妬で優しい少女を傷つけた時から七年たったのだ。
七年前に比べてルークも成長したはずだ。
幼いルークがまるで姉のようだと思ったレンの身長も追い抜いた。
17歳である被験者にだって負けないくらいに強くなったはずなのだ。
だから、今度は自分がレンを守るのだと決めていた。
「いいや、なんでもないよ。」
(まだキラみたいにレンを守り切れはしないけど、傍にいて安心してくれるなら、それで良い。 ・・・いつかこいつが誰かと一緒に生きると決めるまでは、俺達が守るんだ。)
身内にだけ見せる無防備な笑顔に、密かな優越と決意を抱いて、レンの髪を梳いて笑った。
マルクトからの使者の一行が、フーブラス川にたどり着くその頃、キラはカイツールに向かう船の上にいた。
ケセドニアからは定期便が出ているが、今回は事態が事態である為、使える伝手を駆使して無理矢理準備させた臨時便である。
「早く着かないかな~」
己のスピードで進めばよかった街道と違って船の速度にキラの能力は関係ない。ただ目的地に着くまで待つしかないため、キラは苛苛と甲板を歩き回って時間を潰していた。現在やらなければならない事は全部綺麗に片付けてしまったため、他に出来ることがないのだ。
ルークから来た連絡は、カイツールに勤務している幼馴染が機転を利かせてキラの進行予測地点に転送してくれた為手配その他はもう済んでいる。何やら気になる情報もあったが、それもアレックス(=アスラン)に調査を頼んだ。ルークからの連絡が来たということで、隠す必要がなくなった和平の使者についての情報も適度にばら撒く。せめてもの先触れ代わりだ。ケセドニアに届いていたシュザンヌからの手紙に返信して、国王以下側近連中に対する対応を暫定的に決める。ヴァンの取り扱いも同様に。ルーク達が連れてくるはずのティア・グランツの受け入れ態勢の指示書も送る。捜索が最優先とはいえ、本職の講師や研究所勤務の医師としてキラが裁可しなければならない書類が届いていたためついでに片付けて送り返す。さらにに道中吹っ飛ばした山賊や盗賊に関する報告書も出しておいた。
とにかく手当たり次第に仕事を片付けて苛立ちを紛らわそうとしていたキラ。・・しかし、ケセドニアに着いて出発準備が完了する頃には既に片付けれられる仕事がなくなってしまった。こういう時に有能すぎるキラの手腕が仇になる。この短時間でよく此処まで、というくらい大量の仕事を片付けてしまい、仕方なく手ぶらで船に乗るしかなかった。
もし現時点でなにか進展があっても船の上では身動きが取れないから、乗船してしまったキラにできるのは時間を潰すために苛苛と歩き回るくらいである。
最も、これまでキラに引きずられて瀕死状態でたどり着いた捜索隊の部下達はこれ幸いと船室で休んでいたが。
「ったく、あの程度のスピードについて来れないなんて、もうちょっと訓練メニュー見直そうかな?」
・・あの程度、というが、キラのスピードは桁外れのものだった。軍人でも本来一月かかる道程を、高笑いしながら半月で駆け抜けたのだ。その後ろに遅れず着いてこれただけで凄いことだが、キラは不満らしい。
「まあ、良いや。・・・それより、早くレンとルーク様に会いたいなあ。」
もう二言目どころか口を開けばこの台詞しか出ないキラ。
シュザンヌと話し合っていた時の余裕など、既に空どころか宇宙の彼方だ。
「あああああ、まだ着かないな~」
歩く。
「早く~~」
歩く歩く。
「ま~だかな~~~?」
歩く歩く歩く。
「は~や~く~~」
歩く歩く歩く歩く。
「あ~~~~~!!!レンーー!ルーク様ーー!待っててくださいねーー!!」
とうとう叫んだ。・・・・本気で色々限界らしい。
口調は変わらず、表情も笑顔のままだが、・・・その、瞳に浮かぶ光が、本気で怪しい代物になってきている。
後ろで作業中だった船員達は、そっと見ない振りをした。
今のキラに話しかけることがどういうことかを、不幸なことに知り尽くしていたので。
((((ルーク様、レン様、どうかご無事で!!・・・でないと、キラ様が本気で爆発します!!)))
戻って和平の使者一行。やっとたどり着いたフーブラス川である。
美しい川であるが、やはり流れが速く念のため調べるが馬車の通行は不可能であることを再確認する。仕方なく予定通りにボートを用意する兵士達。牽引するといってもそのままボートを引くだけでは流れに逆らう労力を保つのが大変なため、先ずは川にロープを渡してそれにボートを引っ掛けて進ませていくのだ。そんな準備を興味津々で見守るルーク達の後ろで、レンは只管深呼吸をしていた。
「(うううう~~なんか、昔より水が苦手になってる気がする。・・なんで、だろう?
水の音が、・・・耳の奥で響いて、・・・(水・・波の音?・・赤い、海の中で、・・・・母さん、が・・)・・)」
「レン殿?」
落ち着くために呼吸を整えているうちに、水の音に何かを思い出しかける。だがぼんやりと視線を彷徨わせるレンを心配してくれたらしいアスランの声に我に返った。慌てて表情を取り繕う。
「(駄目だ、本当に。しっかりしないと、ルーク様に気を使わせてばかりでいないで。
イオン様やフリングス侯爵にも呆れられてしまう)はい、もう出発でしょうか?」
にっこりと笑ってみる。これまでの交流で少しだけ仲良くなれたが、だからといって気を抜いて粗相があってはならない。既に一度失敗しているのだ。これ以上は本当に駄目だ。今の自分はキムラスカの公爵家の娘だ。
己の失態は、そのままキラやハルマ様やカリダ様の名誉にも関わる。自分なんかを保護してくれた優しい人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。それに幼馴染だからといつも自分を気遣ってくれるルークを守るのが今のレンのするべきことの筈だ。反対に守られるなど、許されることではない。
「いいえ、あと少しお待ちくださいね。それよりも、ご気分はいかがでしょうか?」
「大丈夫ですよ。申し訳ございません、本当に平気ですから、お気になさらず。」
アスランの顔を見上げて答える。何時見ても穏やかに笑う人だなと思う。ラクス様もとても綺麗に笑う人だったけど、アスランも同じくらい綺麗な人だ。
そこで、身近な知り合いの顔を思い浮かべてみるレン。・・キラもだが、ルークやシュザンヌやカイト。シンクやフローリアンにディストと、身近な人たちを浮かべても、正しく眉目秀麗とか容姿端麗とかいう言葉がこれほど似合う人はいないと思うほどに美人ばかりだ。そして皆頭が良くて強くて格好良くて優しい。
「(貴族階級の人って、やっぱり空気からして違うなあ。シンクたちは貴族ではないけど、やっぱり格好良いし。
・・・・・なんだろう、類は友を呼ぶ?ってこいうこと?神様って不公平だなぁ。・・・昔も思ったけど、私一人浮いてるんじゃないかな。・・)フリングス侯爵は、」
「おや、もう名前では呼んでくださらないのですか?」
「・・ええと、馬車の中ではお言葉に甘えてしまいましたが、外で私などが呼ばせていただくわけには、」
「そんなことはありません。私がレン殿に呼んで欲しいのですよ。」
「そう、ですか?でも、」
「ええ、折角ですから、是非。」
笑顔だ。優しくて穏やかな。・・けど、なんだかキラキラしい空気の他に、凄い威圧を感じる気がする。チーグルの森で、口調を崩して欲しいと言った時のイオンに通じるような・・・でも強引ではなくて・・・ああ、そうか。
「ええと・・・アスラン、様?」
「はい」
「その、宜しいんでしょうか?」
「勿論です。ありがとうございますレン殿。」
アスランの瞳が明るく輝いた。表情は変わらないのに、それだけで雰囲気が段違いに柔らかくなる。レンが緊張していたのと同様に、アスランも緊張していたのだろうか。それを悟ると同時に、レンがアスランに対して比較的自然に会話できる理由に気づいた。
「(フリングス侯爵は、キラ兄さんに似てるん、だ。今の表情は・・私が、初めて兄様って呼んだ時の、兄さんに、似てた、な。、・・・じゃあ、侯爵も私と仲良くしたいと思ってくれてた、って思っていいの、かな?そっか、)・・ふふ」
「どうかしましたか?」
「いいえ、すみません。ありがとうございます、アスラン様」
レンは思わず笑っていた。マルクトの侯爵様なのだから、キムラスカに帰ったらもう会う機会などないだろうけど、短い間だけでも親しくしようと思ってくれている事実が嬉しかったのだ。その気持ちに対してお礼を言いたくなって言葉を続けたレンに、やっぱり優しく笑い返してくれたアスランが、準備が終わるまで手持ち無沙汰にならないようにだろう、色々な話をしてくれた。マルクトの街の特色や季節の花やピオニー陛下が趣味で飼っているブウサギの事など。快い声が紡ぐ言葉はとても耳に心地よくて、いつの間にか間近にある川の音も気にならなくなっていた。
だから、そのままアスランと会話に夢中になったレンは気づかなかった。背後のルークとイオンの視線に。
「あの、・・ルーク?
少しくらい良いじゃありませんか。あれはまだ恋愛感情というほどではないようですし。」
「ええ、わかっています導師イオン。
和平の使者殿と交流を持つのは良いことですとも。」
言葉の内容と視線に込められた感情とが全く合致していないルーク。
イオンが苦笑しつつ宥めるが、今にも割って入りたそうにそわそわとしている。
「・・・でも、心配なんですね。(本当にレンが大切なんですねぇ。ふふふふ)」
ガイは、苛立っていた。
セントビナーでほんの少しルークと二人だけになれた時間を除いて、全く自由な時間が取れなかったからだ。今までファブレ公爵家に仕えるといっても、ガイは所詮下男である。騎士や執事のような使用人でも上級職についているわけではなかったので、比較的気楽な立場だったのだ。だから時間を見つけてはルークの元へとついでの用事を(お茶を運ぶとか、ヴァンの来訪を知らせるとか)作ってご機嫌伺いに向かうこともできた。そういった時間が、マルクトに着いてから、全く取れなくなったことに失望と忌々しさを感じて、酷く苛立つ。
記憶喪失によって言葉の読み書きから勉強をやり直したルークだが、あっという間に元の学力に追いついて、今では以前よりも優秀だと評判らしい。だが矢張り根強く残るルークへの蔑視を気にしてか、普段も公爵家の子息としての礼儀作法に殊更気をつけている。誘拐される前の様に、不用意に人前で使用人であるガイと親しく口を聞いたりしなくなった。幾ら同年代の人間との付き合いが少ないからといっても、それを強要すれば咎められるのはガイの方だと理解したらしい。こういうところも、以前のルークに比べて変わった点の一つだ。
前のルークはガイに友愛的な好意を抱いていたようで、事あるごとに普通に接しろと命令してきた。”命令”の時点で普通とも対等とも程遠いことに気づきもしない傲慢な”お坊ちゃま”だったのだ。・・・それが、今の様に思慮深い公爵子息として成長したのは、ガイにとって、嬉しいのか寂しいのか、分からない。変わったからこそ、復讐心が揺れるほどに好意が育ったのも事実だが。
けれど、今のルークも本当に気まぐれの様に礼儀を取り払った口調で他愛ない会話に興じる時間もあったのだ。
・・・・赤子のルークと接してから、どうしてもルークは庇護対象、というより実年齢以上に子ども扱いしたくなるガイにとってはまるで弟分と過ごすような感じがしていた。その時間を、未来永劫捨てても本懐を遂げるかどうかを、帰国するまでに決めることを己に課した。
(これ以上決断を引き伸ばす訳にはいかない。・・・・だが、今日も無理だろうな、これじゃ)
ファブレに侵入した神託の盾騎士団の兵士との間に起きた擬似超振動でマルクトに飛ばされたルークを迎えに来たのは、ファブレの外なら、ルーク個人への感情を冷静に決めることができると思ったからだ。けれど、公務がない分余裕があるように見えるルークと、二人で話す時間が取れていないのだ。
基本的に気さくなガイだが、流石に他国の使者と兵士の前で、今のルークにタメ口は叩けない。その程度の分別はあった。所詮見よう見まねの礼儀作法なため、何故それが許されないのかは理解できていなかったが。だから一見過不足ない従者としての態度を保ちながら、何処かガイの行動はぎこちなかった。それを目の端で確認するたびに、ルークが軽い叱責の視線を向けることに気づいてからは尚更苛立ちが募っていた。
(・・・周りの反応をみると、カイトの態度が正しいんだろうが。・・・流石お貴族様ってね)
苛立ち紛れに嘲笑を浮かべる。ルーク個人へは好意を(認めがたくても)持っているが、彼がファブレの嫡子だと思うだけで同じくらいの憎しみが湧き上がる。それが嘲笑や侮蔑といった負の感情となって現れるのだ。
(大層な身分だな。
大勢の兵士に傅かれて、この程度の川を渡るのにわざわざボートまで用意されるとは。)
人好きのする笑顔の下で冷たい哂いを浮かべるガイ。彼は、何年もの間に培った積りの”爽やかな好青年”という仮面を過信していた。だから、従者としては完璧に振舞えるカイトでも、普段の直情的な言動を知っているため絶対に己の本心を悟られることはないと思っていたのだ。だから、遠慮なくルークを、傍にいるレンを侮蔑できた。・・・それを見抜いていたカイトが、穏やかな瞳に怒りを走らせた瞬間に、全く気づくことはなく。
(・・・あっちの、レン、だったか。ヤマト家のお嬢様、ね。
・・・姉上も生きていれば、あんな風に幸せそうに笑っていられたのに。)
突然現れてルークの傍付きの立場を”奪った”カイトへの対抗心と嫉妬も相まって増幅される苛立ち。どんどん過去の傷が甦って、いっそこの場で本懐を遂げてしまおうかとすら思う。
(・・・だが、ルークの行動を見極めてから決める、とペールと約束した。
・・ならば此処で剣を抜くわけにはいかない。)
自分が優位な立場にいるのだと考えているからこその、傲慢な観察者の視線でルーク達を眺める。
・・・その一部始終の心の動きをずっと感じ取っていて、そっと視線をふせたルークの表情には、気づかなかった。
「ルーク様ありがとうございます。」
「気にするな。苦手な物位、誰にだってあるだろ。」
レンはフーブラス川を渡った岸辺で、隣に立つルークにお礼を言う。
水上で、レンの気を紛らわせるために他愛ない会話を続けてくれたのだ。
「---すみません皆様も、ありがとうございました。」
「ああ、たすかった。礼を言う」
「いえ!勿体無いお言葉です!」
ボートを支えてくれていた兵士さんたちにもお礼をいう。続けてルークも言葉を添えた。対する兵士さんは顔を真っ赤にして慌てている。見たところまだ若い人なので、ルーク様のような身分の高い方と言葉を交わすのに慣れていないのだろう。失礼がないように、と表情におおがきして必死だ。・・・・あまり話しかけたりしないほうが、気を使わせなくてすむだろうかとも思ったが、黙って親切を受けたままでは気が咎めて仕方ないのでなるべく感謝などは伝えることにしているのだが。ルークやキラも普段は身分の上下に拘らず、そういう謝辞を惜しまない
こともあってファブレやヤマトの使用人などには見られない反応だ。だから兵士さんの慌てようにこっちも困惑してしまった。
「(・・・自己満足だから、気にしないで良いんだけど・・・)・・では、失礼しますね。」
取り合えず邪魔にならないように下がる。小型のボートのため一回につき二人ずつで、まずはルークとレンが渡ってきたのだ。レンは最後で、と言ったのだがマルクトの賓客を後回しには出来ないと言いきられて先に乗せてもらったのだ。
全員が渡りきってから、少し先に待機させているという馬車に乗り換えて再び出発する。といっても、今日はもう日が傾きかける時間に近づいているので区切りが良いということでそろそろ野営の準備をするかもしれないが。
「(そういえばルーク様、・・・ティア、のことなんですが。)」
「(ああ、)」
「(あの、・・・マルクトの皆様に無理を言ってつれてきましたけど・・・陛下は、どう処分すると思いますか?)」
「(・・・・ああ。)」
実は出発直前まで、今回の旅路でティアの護送も済ませるということを知らなかったレンが今一番気がかりな事をルークに聞いてみる。知ったのが直前だったので、セントビナーでは二人で話が出来なかったのだ。今は丁度良くアスランとイオンが離れている状態なので内緒話を済ませてしまおうと思ったのだ。
「(・・・・イオン様はとても気にしてらっしゃしゃいましたけど・・・あの、正直、無理言って連れ帰っても、インゴベルト陛下と大臣の皆様が、公平な裁可をしてくださるとは、・・思えないのですが。)」
「(・・・・・・・・・そうだな・・・・あれも、正直”見ない振り”扱いしても、構わなかったんだが・・・)」
社交用の完璧な笑顔を浮かべて、レンとお喋りに興じる振りをしながら、ルークは深い溜息をついた。
「(ジェイド・カーティスみたいにですか?)」
相槌を打ちながら、表情に疑問が表れたらしい。ルークが軽い口調で説明をしてくれる。
「(ああ、・・俺達の目的果たすには、取り合えずヴァンの計画を成功させる直前まで持ってかなきゃならねぇよな?)」
「(そうですね。・・勿論アクゼリュスの方々は救出しますけど・・・万が一街の消滅が起こらないとも限りませんから。)」
「(防ぐつもりだが、絶対の保証はねぇからな・・とにかく、表向きは俺達も預言に従って鉱山の街に出向く必要がある。 ・・・多分キムラスカの預言について位クライン公爵とフリングス侯爵は知っていると見て良い。当然導師イオンも知ってるな。)」
「(はい。クライン公爵の場合は、万が一知らないとしても・・・和平がこの使者の派遣だけで受け入れられたりしたら、どっちにしろ怪訝に思いますよね。)」
「(だろうな。かの公爵殿は、・・・ありゃ、キラと同じくらい曲者だ。あんまり敵にはしたくねぇ。
・・・でだな、その怪しい和平受け入れの証に、アクゼリュス救援の使者に立つのは、俺だな?)」
「(はい。)」
「(・・・一応の元々用意してた筋書きとしては、預言を妄信した陛下たちの行動に不信を覚えた使者・・つまり、俺が密かに親しい人間に相談・・これはキラや母上だな・・に相談して、突拍子もない和平の受け入れや、今まで王命で軟禁していた公爵子息を、突然そんな大役に任じた陛下たちに不信を覚えて、調べた結果、その理由を探りあてる。
・・・それは自国の繁栄を詠んだ預言の通りにする為に、”何も知らない”公爵子息を武器に利用して、敵国とはいえ、突然の災害に見舞われている街をひとつを滅ぼそうとしていたのだと。救援を待ち望んでいた無力な民を、助けるふりで虐殺しようとしたのだと。その理由が、自国の繁栄を叶えるための企みだったのだと暴く
・・・で、幾ら預言に詠まれたからといって、手を差し伸べれば助かったはずの命を斬り捨ててまで、おのれ等の栄華のみを望むような非人道的な国王には従えぬ、と蜂起して陛下たちには退場していただく、って感じなわけだが)」
「(はい。)」
「(・・・いくら振りだろうとなんだろうと、その怪しすぎる和平受け入れに、俺達は賛同しなけりゃならねぇよな?)」
「(はい・・・ああ、成る程、分かりました)」
「(そういうことだ、・・・・今のうちに売れるだけ恩を売っておくに越したことはねぇんだよ。
後々絶対にやるだろうキムラスカ側の失態も含めて、互いの負債を相殺するためにはな・・
・・・しないはずがねぇからな。)」
「(否定できないのが辛いところですよねぇ・・・あ、なら、ティアも一緒に見逃しておけば宜しかったのでは?)」
忌々しげに吐き捨てたルークに、苦笑を浮かべたレンが同意する。だが、そこで最初の疑問に戻る。レンを誤魔化しきったかと思って一瞬安堵したルークが僅かに視線を泳がせるが、すぐにレンに向き直って続けた。
「(・・・ジェイド・カーティスの件は、マルクト国内での出来事だからな、俺達が知らない振りするだけで片付けられるが、ティアが最初に事を起こしたのはキムラスカだ。ファブレの家人を始め目撃者が多すぎる。取り合えずは一度バチカルまでつれてった方が片付けやすいかとおもってな。
どうせ、陛下がモース辺りと相談して内々にすませんだろ・・・かといって、俺達が知らないところで放免されても不安だろ?だったら一緒に行けば、どうするのか直接確認もできるからな。・・・キムラスカの恥を二国に晒すことにもなるわけだが・・・それはそれでもう構わん。陛下たちを引きずり降ろすときの理由に加えてやるだけだ。)」
「(はい、わかりました。ありがとうございます、
・・・不勉強で申し訳ありませんでした、ルーク様。)」
更に疲れきったルークに、申し訳なくなって謝る。だがルークは気を取り直したのかいつもの通りの笑みでレンの髪をかき混ぜた。
「(大したことじゃねぇよ。普通は疑問に思って当然だからな。実際クライン公爵にも導師イオンにもすげぇ遠慮されたし) ・・・ああ、そろそろ全員が此方に着くか」
ルークの言葉に促されて川のほうを見る。確かにアスランとイオンが乗ったボートが、接岸しようとしている。後は残りの荷物と、ティアを護送する一団が着くのを待つだけか。
「(まあ、罪人護送の一団を待って出発を遅らせるわけはないから、)・ルーク様、行きましょう?」
アスランとイオンの方へと足を踏み出してルークを誘う。先に川を渡らせてくれたお礼を兼ねて二人を出迎えようと思ったのだ。ルークも居住まいを正してレンの横を歩き出した。その表情が普通どおりのものだったので、今一番気になっていた疑問が解消されたレンは気づかなかった。・・・ルークが、こっそりと呟いたティアを同行させている本当の理由に。
「ああ、そうだな。 ・・・(・・・ぶちきれてるかもしれないキラの怒りの矛先に丁度いいから、とは言えねぇよな))」
そっとルークは溜息をついた。レンと突然引き離されたキラのストレス具合を想像するだけで恐ろしいというのに、その原因を無罪放免で逃がしたなどと知られたら矛先が何処に向くか分からない。説明しなくても事情は察するだろうが、理性と感情は別物である。特にレンの関係する事柄でキラが普段どおりの判断能力を保てるか、と考えるとルークのほうが不安で胃に穴が開きそうだ。ならば後から護送させれば良いという意見も却下だ。・・・レンと再会すれば安定するだろうが、それだけでキラの怒りが治まるわけがない。怒りに任せてダアトやマルクトに圧力をかける・・程、短絡にはならないと信じているが、安全材料は多いに越したことはないのだ。
「(どうせ、真っ当に裁けば首を百回落としても足りん犯罪者だ。
・・・精精キラの暴挙を防ぐ安全弁代わりになりやがれ)」
レンには聞かせられない本音を小さく吐き捨てながら、そっと視線を後方に流す。カ出発準備するマルクト兵士達の邪魔にならぬよう控えながらルーク達に何かあれば前に出られる距離を保って控えているガイを見た。表情は、いつもと同じ笑みを口元にたたえている。けれど、その瞳が酷く冷たい光を宿して、ルークとレンを射抜こうかというほどに強い視線で此方を見ている。・・・これもいつもと同じ、憎しみと殺意の視線で。
「(言うのか、言わないのか。・・・信じるか、信じないか。
・・・決めなければならないのは、お前だけじゃないんだ、ガイ。)」
そっと目を伏せた。もしも、ガイを切り捨てると決めたとしても、直ぐに身柄そのものを引き離すわけではない。いや、斬り捨てると決めたのなら、今まで以上にガイをファブレに引き止めておく必要がある。
「(もしも、俺がガイを切り捨てると決めたなら・・・多分キラと母上は、ガイの出自を、マルクトへのカードとして使うお積りだろうな。それを今していないのは、俺の気持ちを汲んでくれているからだ。)」
それを使えば、ガイは今まで以上にファブレを、ルークを憎むのだろう。
「(だけど、ガイ。・・・お前の感情を否定はしないけど、
・・・俺の感情だってお前に否定される謂れはないんだと、お前も気づけ)」
きっと、自分だって家族や友人が殺されたら、仇を憎む。そいつを殺してやると考えるかもしれない。だから、ガイの憎しみを否定する気はないのだ。
けれど、ルークは、王族だ。本当ならば、私情など捨て去ってガイを利用する事を最初に提案するべき立場だったのだ。キムラスカのことを考えるならば。その結果受ける憎しみの覚悟など、つけて置いた積りだったのだけど。
「(・・・誰もが、俺を蔑視したファブレで、一番最初に俺を受け入れたのはお前なんだ、ガイ。
・・・カイトよりも、キラよりも、母上よりも。)」
たとえ、殺意を隠したままでも、ルークの世話をしてくれたガイの手は優しかった。
苛立たしそうに舌打ちしながらも、ルークを呼ぶ声は暖かだったのだ。
誰もが、”記憶喪失のルーク様”を忌々しげに見る中で、ガイは一人でルークの面倒を見てくれたのだ。
ルークにとっての最初の記憶。ルークを、”ルーク”にしたのはガイなのだ。
だからこそ、まだ、迷っている。
「(・・・・未練だ、な。もう選ぶと決めたはずだ。・・・・バチカルに着く前に、話を、しなければ。)」
それでも、ガイがあくまで復讐を諦め切れないというのなら、ルークはガイを捨てなければならない。
「(お前が復讐を果たしてしまえば、俺だけじゃない色んな人が傷つく。
お前だって、俺一人を殺すだけで満足なんかしないだろう?
・・・それだけは許してはいけないんだ。だから、)」
ルークだって、ガイの立場になる可能性がある。今までもこれからも。それは、どんな立場の人間でも同じことだ。大事な人を失う可能性は、何時だって誰にだってあるのだ。特に王族の一員ともなれば、あらゆる理由から生まれる憎しみや怒りや殺意の対象になりやすい。だから、ガイの感情は否定はできない。想像してしまえば、完全でなくても共感が可能だからだ。けれど、ガイの行為を受け入れるわけにはいかないのだ。
アスランとイオンとレンが、和やかに会話をしている声を聞きながら、強く拳を握り締めた。
そっと後方に流した視線が、ガイと合わさることは、なかった。
*すみません。文中のアスランの敬称ですが、代々爵位を継ぐ家系の出の場合は名前に卿をつける(一代の実の場合は性につけても良い)、という決まりに従ってレンに呼ばせてたんですが、書いてるうちに慣れないせいか違和感があって仕方がないので、無難に様付けに戻しました。
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